第11話 シュタイン宅へ
「あなたがドラクル・シュタイン殿でしょうか……?」
ライルもドラクルに合わせて初対面を装って言う。
「うむ、いかにも私はドラクル・シュタインだが。近くに馬車を止めているので、そこの中で詳しい話をしよう。しかし礼儀はわきまえてそうなので安心したよ」
ドラクルが目上の者が目下の者にするような態度で答える。
「わかりました」
その態度があまりに露骨だったので少し面食らいながら、ライルは答える。
「長い船旅だったので、色々大変だっただろう?」
「はじめてのことなので、多少の苦労はありますね」
二人は当たり障りのない会話をしながら、御者と思われる使用人を伴い馬車が止めてあるという場所へ向かった。
「これが私の馬車だ。さあ乗ってくれ」
馬車が止めてある場所にすぐに着いた。
シュタナートが使っていたほどではないが、それなりの貴族が使うような立派な箱型の馬車だ。
そして使用人に扉を開けさせて、ドラクルが乗り込み、ライルも続けて乗り込み、そして使用人が扉を閉めた。
「この馬車には《防音》の魔術が掛けられているので、例え窓を開けても外に会話が漏れる事はない。しかしハウゼン師等から話は聞いてはいたが、以前とは比べれん程、魔力が落ちてしまったな。私の目標であったのに。今の君をシュタナート・ジオールとして扱う事は出来んな」
二人は馬車に腰かけて、ドラクルは《防音》が掛かっていることを説明をした後、そう言った。
どうやらドラクルはライルをヴェルデで世話になった4人と違ってシュタナートのようには扱ってくれ無い様だ。
「私の現状では致し方ないことだな」
ライルは自分でも分かっていたことではあるが、面と向かって言われると少し辛いものだと思った。
「まあ君の魔力のことだけではなく、今の私にとってはシュタナート・ジオールには居て欲しくないのだ。まあ家に来ればわかる。とりあえず今日は家に泊っていくといい」
ライルにとって少し気になる発言であるが、これから世話になる身であるで、問い詰めはしなかった。
そして二人を乗せた馬車がガイゼル港を後にする。
「どうだなかなか良い街だろう?」
「ああ、確かにそうだな」
ドラクルの問いにライルは窓の外を興味深そうに眺めながら、世辞では無く本心で答える。
眺めるガイゼルの街は活気があり、先進的で、ライルが最も重視する清潔さもあった。
そして街は魔術による恩恵が様々なものにもたらされている事にも気付いた。
ライルはシュタナートであった頃のヴェルデの街を思い起こしたのだった。
ガイゼル港からドラクル邸まで距離があり、時間が掛かるで、ドラクルから街の説明を受けるとともに帝国在住の元魔術師団の者の話もする。
大導師であったノイマンは高度な研究及び効率の良い教育の仕組みの構築で帝国の魔術に大幅に貢献し、同じく大導師であったクラウディスは軍事分野における魔術の活用で戦闘教義にまで影響を与え、元々精強で先進的であった帝国軍を更に強固なものとした。
ドラクルを含む3人は帝国でも最上位の位階である大導師に上りつめ、ノイマンとクラウディスは健在ではあるが高齢なので、引退状態にあるとのことだ。
また魔術師団の財務官を務めていたウォルトンは拠点を商業が発展しているここ帝国に移して、旧拠点であったヴェルゼなどでも手広く商売をして、相当な財を築いたらしい。
ドラクル本人はというと、帝国で最も魔術の能力が高い魔術師であるということだが、ノイマンとクラウディス程の成果は残しておらず、外様というこで少々微妙な立場ということだ。
あまり人付き合いが得意では無かったので、それも理由かもしれない。
「ん? あの建物は何だ?」
帝国は大きな建造物が多いが、一際巨大な建造物を目にして尋ねる。
近くには魔術師と思われる若い連中が多くいた。
「ああ、あれは魔術学院で魔術師の卵たちが通う学び舎だ。君くらいの年頃の子たちが学んでいるが、君にはあまり必要あるとは思えんな。魔術の知識や経験は十分にあるだろうし」
まあ必要なのは魔力だな、とライルはそう思いながらドラクルの説明を聞く。
しかし何故か魔術学院に気掛かりを感じた。
そしていると馬車は富裕層が住むような邸宅街に入る。
「もうすぐ自宅に着く。《通話》で連絡させてもらうぞ」
「わかった」
返事を聞くとドラクルはすぐに詠唱を始める。
『私だが、例の客を連れていくので、出迎えを頼む。もう間もなく着く』
そう《通話》で連絡した後、ほどなくして馬車は門をくぐり、ドラクル邸の玄関先に到着した。
華美な装飾等は無いが、広くて、それなりの富裕層が住むような屋敷であった。




