54発目 人生の落とし穴が発生する条件、それは“驕り”である。
アイスドリルで開けた穴を広げて、絶縁体でできた壁の前にスキャン装置を用意してボニータに成分解析を行わせ、更にはその間に雷龍の電気熱を使って壁に穴をゆっくりと静かに開け始めていた。
『パラゴムノキ、ブチルゴム、ラテックス、スチレン・ブタジエンゴム、ウレタンゴム、チオコール、世界中のあらゆる分野で使用されているゴムの成分が含まれています』
「タイヤから作ってると思ったが、実は少し違うんだな。それに使われてない成分もあるし、これはもうただの人工物じゃないな」
「敵の索敵レーダーから逃れる為だから当然なんじゃない?」と、俺の真後ろで待機中のロザリアが意見を言う。
「いや、それにしてはコイツは徹底的過ぎだ。多分キュアリスの能力を恐れての対策だろうな」
「・・・・・3年前の“インドラの憤怒”で?」
「おっと、知ってたか。その通りです~よだっ!」
喋りの途中ちょうど穴も開き、ゴムの壁を押しのけて中に入るとジャガイモ、玉ねぎ、缶詰、その他保存食がぎっしり積められていた。俺はすぐに部屋の出入口である奥のドアを開けて廊下を確認した。
「食糧庫ね。部屋の外はどう?フォース」とロザリアに続いて部屋に入る巴が聞く。
「・・・・・外には誰もいない。とりあえずは敵の懐に入るのに成功したな。にしても中身も奇怪なこった。ほとんどプラスチックでできてやがる」
そう。食糧そのものは本物だが、よくよく見ると積まれた物以外は一片の鉄が無く少々不気味に感じる。ドアもまたそう、完全なプラスチック製であった。つまりこの施設はプラスチックの壁の上にゴムの壁で覆っているということになる。
「逆にこれをどうやって作ったのかが気になるわね、継ぎ目も全くないし。おかげで私の義眼じゃここでの敵察知はできなさそう」と義眼をキョロキョロさせてぼやくペティ。
「本当にそうだとしたら、昔ながらに自分たちの五感を信じるしかないでしょうね」と巴。
「そうだな。よしいいか?みんな。ここからはステルスで行く。派手な行動は厳禁だ」
そう聞くと、一同はあるメンバーの存在を懸念して当人をじっと見た。奈々だ。
「・・・何だよ、あたしでもそれくらい分かるっての」
全員に自分が“大物へと変貌する”疑いの目を向けられて憤慨する奈々。
「それでも注意は必要だ、奈々。それにお前は今回、例の“仮面”の使用は禁止だ」
「ええ!?・・・・・分かったよ。でもよフォース、もし普段のパワーでも倒せない敵と遭遇でもしたら・・・」
「もしもでもダメだ。よく考えろ、ここは氷河であり観光地だ。派手な爆発や衝撃があれば氷河はたちまち融解を起こし、すぐ近くの洞窟・北の観光スポットは壊滅、一般人の巻き込みは不可避だ。さらにメール・ド・グラース氷河の下流アルヴェロン川も影響されて氾濫し、シャモニーの洪水被害にまで発展しちまう。これがどういう意味か、分かるよな?」
一同が説明を受けて個々の頭でそうなった場合の光景を想像したらしく険しい表情をしていた。
「とにかく、今回はSMASHはなしだ。下駄も脱いどけ、足音が目立つ。他のみんなもなるべく発砲禁止だ。あとさっき廊下の確認で分かったんだが、ここ以外は暖房が効いているらしい。だから防寒具はもう今すぐ全員脱ぐように」
「「「「「「了解」」」」」」
本当なら俺が一瞬でここにいるメンバーが着ている防寒具を消すことができるのだが、彼女たちもコートに何か入れてたりするだろうし何よりもそれではいつかの強制脱衣によるエロハプニングになりかねないのでそこはやめた。
ただし!俺は結局どっちにしろエッチな展開になることに気づくのが遅かった。目の前で美少女たちが自ら脱ぐというシチュエーションにドギマギしてしまっていた。先月のエリの水着選びによく似ている。みんなコートの中は夏用に薄着になっていたもんだから雰囲気だけでもドキッとしてしまうものだ。それに俺は昨夜、ここにる彼女ら全員と・・・・・い、いかんいかん!任務に集中しなければ。
しかし!ここで自身でさえもそう考えるならばその逆もまた然り!彼女らも
「「「「「「・・・・・三回目ヤッちゃう?」」」」」」
「お止め!」
任務中に盛ってはダメ!ブーメランだが、そんな彼女たちを俺は叱るのだった。声は抑えてだけど。
さて、準備も整えて食糧庫を出た俺達は一つ先の通路まで進み、俺がハンドサインの“動くな”そして“しゃがめ”を指示してさっそく施設の状況を感知能力を使って確認した。通路は楕円形の中に八卦の形で整っていた。しかし妙なことに、どこの壁にもドアが見つからないのだ。それどころか、さっきまで俺達が入っていたはずの食糧庫と思われた部屋のドアもなくなっていた。
それだけじゃない。誰もいないのだ。見張りどころか人っ子一人も。
そして、チームの後方を守っているペティも義眼を使っての索敵で自分たちが術中にはまっていることに気づいてぼやいた。
「もうこれ、罠よね」
「某提督が叫ぶまでもない程にな」
俺もあの有名な水陸両用異星人を思い出しながらぼやいた時、突然床が真横方向に俺ごと移動したのだ。
ガコッとな。
「およっ!!?」
「「「「「「フォース!!?」」」」」」
ギラが右の部屋に放り込まれた。みんなが慌てて彼を追って開いた穴を通ろうとしたが、その穴が塞がれてしまい通れなかった。すると次に床が動き出した。まるで平行エスカレーターのように前へと進み・・・・・いや、部屋の方が後ろへ動いている?前後ろどこもただ真っ白なデザインじゃどっちなのかわからない。ただ言えるのは、誰もまともに立っていられないまま一人ずつギラのように部屋の中へガコッガコッと放り込まれていったということだ。そして当然語り手である私、広子も・・・・・あらっ!!?
北東チームが放り込まれた部屋の左右の壁と床からはそれぞれ一面を埋めるように水から顔を出すアザラシの如く3枚の金網が現れた。
次の瞬間、その金網は光を放ち、
バズズッ!!!
その少し前、ギラが放り込まれた部屋にて。
「いたた・・・・・何なんだ?この施設。からくり屋敷か?」
俺が呟くのが早いか部屋の床が濡れているのに気付くのが早かったか分からない。だがそんなことは問題じゃない。部屋の床にシャワーのような小さな穴が一面にできていて、そこからすごい勢いで水が噴き出していたのだ。この部屋には床の穴以外排気口もない。部屋を見回して敵の狙いは大体想像がつく。
「なるほど、俺には“溺死が一番!”ときたか」
ここの施設は、ギラが感知能力で感じた通り、通路と部屋が“八卦の形”を成している。
ここからは施設を運営している組織側の認識だが、部屋は8つあって楕円形を横にし西側から時計回りにA~Hの順番に割り振っているのだ。ちなみにメンバーが放り込まれた部屋は次の通りだ。
A:広子、B:巴、C:ペティ、D:奈々、F:シオリ、G:ロザリア、H:ギラ。
付け加えると食糧庫はEの部屋である。
とにかく各部屋には中で電流を流されて気絶してるであろうBLLETSを最後に確実に仕留めようと色んな迷彩柄の覆面の手下たちがナイフを構えて壁と壁の間に潜んでいる。
『部屋に入れるぞ、今だ。奴らを殺せ』
水攻めに遭っているギラのいる部屋以外では、各無線で指揮官の声と同時に部屋への穴が開き手下たちは見事着地する。しかし、お目当てのターゲットとなる人間が誰もいなかったのだ。そしてもしかしたらと上を見上げると、
「「「「「な、何で気絶してな・・・・・!」」」」」
バゴォッ、ドサッ。
A、B、C、F、Gの部屋から鈍い音と何かが倒れる音が合わせて10個も鳴ったのだった。
さて、巴たちが何故電流が流れた部屋にいても無事で天井にいたのか。それは次の二つの出来事があったからである。
まずは、7月の化かし作戦開始前のミーティング時のこと。
「とりあえず説明するとだな、今度の敵には妖怪『雷獣』がいる。電気を操る妖怪だ。従って、みんなが着用する戦闘服にも改良の必要が出た。そこでお国の技術開発部に頼んで耐電素材を織り込んだ戦闘服を用意させた。それがこれらだ。例え50万ボルト以上のスタンガン攻撃を喰らっても耐えられる素材だ。流石に落雷級は無理だったけど。まあ幸い、俺達BLLETSには最強のエレクトロマスターである俺の自慢の妹がメンバーにいるわけだから当分はその心配はない・・・」
「やめれ」
途中、おだてられたアイラが照れ隠しに自前の鉄:フライパンバージョンで後ろからバンと叩かれたが、それでも俺は説明を続けた。
「現代じゃ身を守る手段として最低でもスタンガンは簡単に手に入る時代だ。犯罪者たちも仲間の一人を拉致する際にだってそういった装置を用いるだろう。だから今回の作戦に限らず今後はその戦闘服及びこの俺が創造した超集電装置を全員腰に常備していて欲しいんだ。特に“イタリアのケツへそ”ちゃん、分かってるな?」
「はいはい、了解」
へそ出しルックなペティがうんざりしながらも返事をする。
「でもギラ。避雷針役のメンバーがいるんだったらそもそも用意する必要はないんじゃ」と五十嵐。
「俺だってベストを尽くすさ。だからって石橋を叩きもせずに渡って良いってことでもないからな。まあ俺としちゃあ、電気椅子を使っての訓練でスタンガンを何度も受けても尚戦い続けられるスーパーソルジャー、もしくは相棒のポ●モンに電気を受けてもヘッチャラなスーパー●サラ人を目指せ!な~んてことも考えてたんだがな。時間もないしやめとくことにした」
「「「「「「「何のプレイさせる気だったんだ!!!?」」」」」」」
ただ一人、実央だけは「殺す気・・・・・え?そっち!?」と正しい反応をしていたが。
電気椅子とは本来、大昔の死刑執行具の一つなのである。
ただ一つ昔のバラエティ番組では罰ゲーム程度に扱われていたこともあった。さらに言えばちょっとアブない番組でも。剛たちが今のような反応するのはその名残だと言えよう。
そしてもう一つ、侵入する前にアイラにメッセージを送った直後のこと。
「もしかするとだが、中には罠があるかもしれない。竹槍の落とし穴とか竹槍の振り子、竹槍のカタパルト、壁から突然出てくる竹槍・・・」
「「「「「全部竹槍ばっかじゃん」」」」」
「そうだな。いつもなら四次元ポケットの持ち主であるヒナが配ってくれるだろうが今回はいない」
「誰かさんが作ったエロアニメDVDのせいでね」
「ありがと、巴。だから今回は俺が支給しておく」
そう言った後にギラは、チーム全員にバキュームリフター、グラップリングフックなどのいざって時の為の道具をいくつか渡していった。
―これらのことがあったので、チームの電撃対策はとうの昔にバッチリで、不意打ちも完璧だったのである。
「「「「「戦闘服改良してて良かったぁっ!!!」」」」」
そして天井の角に気絶していると思ってすっかり油断して踏み込んだ覆面たちを、トンファー、飛び蹴り、如意棒、膝蹴り、バイオニック・アームで返り討ちにしていた。
ただ、例外もあった。
服の材質云々以前に、奈々自身は電撃はあまり効かないと自負している。実際、彼女の服には耐電素材が無ければ超集電装置も取り付けていない。にも関わらず電撃を受けつつもピンピンしてはいた。
さて、では何故奈々は部屋のど真ん中で尻餅をついているのか。答えは、彼女の始末を任されたエッジ6の能力にあった。
奈々も他のメンバー同様バキュームリフターを使って天井にへばりついてた後、入ってきた敵の頭を殴ってノックダウンさせるつもりでいた。だが敵であるエッジ6は油断はしておらず、襲われる瞬間一足先に天井にいたターゲットの気配を感じ取って右横にぐるんと一回転して回避したのだ。奈々も回避されたらされたで着地してすぐさま殴ろうと思ったが、着地した瞬間にすっ転んでしまった。
ズリン!バン!
それも任務中だというのに情けない感じに。彼女はすぐに気づいた、部屋の床に足の摩擦をなくす何かがあるのを。
「これって・・・・・油か!?」
「大まかに言えばそうだが少し違うよ。直で言えばグリースだ」
「それ・・・・・って!?」
ズリン!そしてガン!
今度は前倒しで滑り、顔をぶつけた。
「同じ・・・・・ようっ!?」
ズリン!そしてバン!
再び尻餅。
「な、もん・・・・・じゃっ!?」
ズリン!そしてガン!
なんとか喋ろうとしている内に滑って転んで尻餅を付くか顔をぶつけるを繰り返していき、体中がグリースまみれになってしまいもうメチャクチャなのであった。
「・・・・・ぶふっ、カッコ悪いねぇ番長。今のを映像に撮ってたら世界中の笑いものになっただろうに。タイトルは『粘液まみれの謎の生命体』っはは」
「笑う・・・んなぁっ!!?」
笑われたことに腹を立てまた立とうとするがやはり、ズリン!そしてバン!であった。
「ちょうどアンタを殺すのに用意されてた熱帯切断剣に困ってたところだよ。やっぱ慣れない武器は好きじゃないね。だけどまあ能力の併用も効果覿面のようで当たりだね。さあ、大人しく真っ二つにでもなりな!」
床に仰向けで倒れて何かを思い出したような顔つきの奈々の腹に起動させておいた熱帯切断剣を振り下ろそうとしたタイミングで相手が消えてしまって床に叩きつけただけだった。いや、彼女は消えたのではなく目にも止まらない速さで部屋の角に移動しただけだ。
「このヌルヌルで身動きが取れない状況。そんな時はスケート場を考えてみろってフォースに言われてたな。あたしでもスケートは一応やったことがある。あの摩擦がほぼない感覚をイメージしながらなら、グリースを床に塗られようがうまく移動できるさ」
奈々は立つことをやめ、全身が床にへばりつくような姿勢を取っていた。動物に例えるならウミガメに近そうな雰囲気だ。
「・・・・・様になってないね」と呆れるエッジ6。
「うるさいっての!!!」
時は遡り、北東チームが氷の穴に入って施設に侵入しようとしていた頃のこと。
司令室では対侵入者用作戦の打ち合わせが行われていた。
「侵入者はフォース・トルーパー、番長、サマーソルジャー、オールサイン、クイックシグレ、ショットシルバー、クローバー8、この7人だ。他のメンバーが何故いないのかはわからないが我々にとっては好都合だ。特に、キャプテン・ベイカーやキュアリスが不在であるのがだ。奴らを分断し、孤立させて一人ずつ始末するのだ。まずは、どの部屋にも金網を用意することだ」
「リーダー、奴ら爆弾を各自で持っていてそれで気絶させられる前に部屋を脱出するっていう可能性は?特に番長のパワーには彼女らでも耐えられない」
手下の一人が指摘する“彼女ら”とは、白覆面の後ろで座り込んでゴム・プラスチック製の施設の構造を維持している双子姉妹のことだ。
「その心配はない。奴らもこの氷河近くで派手に暴れたらどうなるかも百も承知のはず。ここに我々が居座っている限り奴らは普段大っぴらに使っているパワーをここで100%引き出すことは絶対にない。部屋に閉じ込めれば大体は無力化ができるだろう。危険なのはおそらく番長だ。彼女には電撃が効くかどうかが分からない、言わば“大物さん”枠だからな。そこでお前の出番だ、エッジ6」
「ああ?あたしがやるっての?」
「お前のグリースを出しての摩擦をなくす能力には期待してるぞ」
だが知っての通りその数十分後、彼らの作戦は出だしからコケてしまっていた。そのことを白覆面は司令室に留まり5人からの無線交信が途絶えたことで確認した。
「5人はやられたか。仕方ない、“エヴルー・アーム”を送れ」
部下に指示して、ある装置を起動し電波を発信させた。その“エヴルー・アーム”に侵入者排除の信号を出す為に。
その頃、ペティが気絶した手下を連れて出た部屋:Cの北側の通路では、A、B、G、Fの部屋から同じく手下たちを連れてきた巴、広子、シオリ、ロザリアが彼女の下に集まっていた。
「この人たち覆面なんか付けて、一体何者?」
「さあね。とりあえずフラッグ・スマッシャーズじゃないってことは確かね」
シオリの疑問にギラ風の皮肉でぼやく巴。
覆面を剥がしてみると全員男だった。
「白人にネイティブアメリカン、中国人、黒人、アフリカ人といったところね。でも・・・・・5人共私たちとそう変わらない年齢ね」
「・・・・・もしかしたら私やシグレ、クローバー8みたいな境遇の子たちかも・・・・・」
広子が見た目で人種を言い当てていく隣でペティが推察していると、しーっと人差し指を立ててロザリアが話を遮った。
「みんな静かに。何か聞こえない?」
ペティたちが耳を澄ましながら通路の先をよ~く見ると、ゆっくりと歩いてくる“何か”との目がちょうど合ってしまった。見つかったのだ、敵に。
「Intruder alert!(侵入者アラート!)」
その“何か”たちはマドセンM1950やMAT49などの武器を持って頭にVRみたいな装置を付けているが、それ以外は典型的な姿なのではっきりと分かった。
「出た!ゴブリンよ!!迎撃開始!!」
ダダダダダダダダッ。
広子のミニミと巴のUZIが火を噴く。ゴブリンたちも撃ってくるが、そこはシオリのトンファーとロザリアのバイオニック・アームで防がれていく。
「フォース、こちらショットシルバー。番長がまだ合流してないわ!そっちの状況は?」
ドンッシャコッドンッ。
施設の壁を利用して通路の奥にいるゴブリンを跳弾で倒していくペティが無線でギラに呼びかける、だが返事がない。
「ダメね、反応なし。外にいるキャプテンたちとは?」
「こっちも、通信を遮断されてるわ。罠のことも踏まえるとさっき私たちが侵入した時に開けた穴も塞がれてるのかも」
巴が考えた通り、実のところ食糧庫の穴は塞がれていた。
その頃、ギラがいる部屋:Hの壁と壁の間では。
〈ふふふ・・・・・そろそろかな?〉
部屋が完全に水でいっぱいになるのをエッジ4が酸素吸入ホース付き水中ヘルメットを被りながら待機していた。侵入者であるフォース・トルーパーを仕留めるに当たって次のプランが立てられている。
『フォース・トルーパーは、調べた限り何もないところから物質を生み出す能力を持っているものと推測する。有機物・無機物に関係あるかまではわからないがとりあえず何でもと考えよう。となると部屋の環境から対応するべきだ。まずは水攻めだ。部屋を水でいっぱいにし水槽のように奴を閉じ込める。間違いなく酸素ボンベか何かを出して呼吸の確保をするだろう。そこへさっき俺が言った金網で感電、気絶させる。エッジ4が中に入って奴のアイテムを壊して呼吸困難に陥れ窒息させる。場合によってはそこで目を覚ますかもしれないがその時は奴が生み出しても酸素の取り入れができないよう口を押さえ両手を拘束して相手の意識が遠のくのを待つ。そして最終的には止めに奴の頸動脈をナイフで切る、これで行け』
で、今ここだ。
『エッジ4、水がいっぱいになった。そこにも水を送り次第、入口を開ける』
「了解」
無線指示後、水中ヘルメットの上から水が流れ出し、あっという間に隙間を水でいっぱいにした。次に穴が開き、俺は警戒しながらゆっくりと部屋に入った。だが中の様子を見て俺の緊張はすぐ切れてしまった。
「リーダー、間違いありだ。フォース・トルーパーの奴、酸素ボンベも出さずに浮いてるぞ」
『うむ、取り越し苦労だったか。いや、でもあのヘルメットが酸素ボンベの役割を果たしているかもしれない。改めて警戒しながらヘルメットを脱がせて確認しろ』
「了解」
指示通りに俺はターゲットにゆっくりと近づき、ヘルメットを脱がせてみた。すると中の空気と共に上向きな目をした素顔が露わになった。一応確認の為顔を叩いてみたが反応なしだった。
「反応なし」
『ようし、なら遠慮はいらない。念の為に首を切れ』
「了か・・・!!!?」
その時だった。俺が腰に装備していたナイフを取ろうと手を後ろに回した瞬間、フォース・トルーパーは意識を取り戻したのかそれとも死んだ振りをしていたのか、とにかく奴はまるでゾンビのように襲い掛かってきたのだった。
ギラ率いる北東チームがいるフロアより上にある司令室にて。
『な、何だ!?コイツ・・・・・うおっ!?』
「おい、エッジ4!何があった!?エッジ4応答しろ!」
リーダーである白覆面がエッジ4の異変に気づき無線で呼びかけるが返事がなく、代わりに大量の雑音がスピーカーから流れてくるだけだった。しかし数秒後、
『ザザッ、司令室、こちらエッジ4・・・ゲホッゲホッ』
「フォース・トルーパーは仕留めたか?」
『ええ・・・なんとか。奴まだ生きていましたよ。最後の最後に意識を取り戻して自分に襲い掛かってきやがりましたよ。ですがちゃんと首を切ってやりました』
「そうか、よくやった」
『早く水を抜いてここから出してくださいよ。奴の汚ぇ血がそこら中に溢れ返ってるからよ』
「・・・・・わかった、Hルームを出るならそのアーマー野郎の死体を持って来いよ。螺旋階段を下すからそれでこっちに上るんだ。フェイズ2へ移行する」
『・・・・・了解』
また戻り部屋:H。
アーマー野郎を担いだエッジ4が水を抜かれた後に開いた穴で部屋を出ると、左の通路先の上から現れた螺旋階段から武器を持った多数のゴブリンたちが出てきた。他の侵入者排除の為の増援だろう。そう考えながらエッジ4はゴブリンたちとすれ違って螺旋階段を上っていった。
また司令室。
白覆面は増援の指示をした後、無線で今度は番長の始末を任せたエッジ6の確認をしていた。
『あ、あ~こちらエッジ6?先ほど番長を倒し・・・ました。任務は完了であります・・・・・ラジャラジャ?』
「・・・・・この俺にエッジ6のなりすまし詐欺は効かないぞ?番長。そもそもそんな“進歩なし”の芝居なんかじゃ誰も騙すことはできやしない」
『あ!?バレた!?』
「今のでバレないと思ってたなら、貴様も相当な楽観主義者だな」
そう言い残して白覆面は無線を切った。するとちょうど後ろの螺旋階段を上ってきたエッジ4が現れ、
「リーダー、ご命令通りに運んできましたよ」
背負っていたアーマー野郎を司令室の床に下ろす。
「ああご苦労様。そしてご足労様でもある・・・な!!」
突然白覆面は何もないところから氷で作った歪なつららを手にするなりエッジ4目掛けて投げてきたのだ。エッジ4はなんとかその氷攻撃を覆面に掠めながらも避けた。
「お・・・お・・・・・リーダー、突然何を?」
「どさくさに紛れて化け敵の懐に入りやり過ごそうとはやるな。正直のところ、さっきの無線は騙されかけてた。だが残念ながらお前はエッジ4のことを知らなかったが故にボロを出してしまった。あいつは相手の血を見て快感を得る性格だからな」
「ありゃりゃ、即興劇が効かないとは。随分と用心深いんだな、氷使いの月光仮面おじさんよ」
“随分と”のところからいつものように電流と共に変装を解いて“フォース・トルーパー”に戻り、ブラスターを構えた。そして司令室内にいる部下たちと眼鏡白衣の男が銃を構えてきた。ここで気になったことがあるが、眼鏡白衣の男がいるすぐ傍に二つのカプセル容器に入って座り込んでいる覆面を付けた女性二人を見つけた。この施設を外敵から守るために覆っていたゴムがただの人工物じゃなく能力できた物であること、侵入して俺達を強制的に部屋へ放り込んだのも施設の元々のからくりではなく能力者が動かしていること、プラスチックの壁に突然穴が開いたりで敵が出入りできていること。これらの理由を踏まえるとおそらくこの施設の構造を支配しているのはあの覆面二人なのだろうと俺は瞬時に理解した。
「・・・・・貴様が何のことを言っているのかさっぱりだが、とりあえず私を馬鹿にしているということだけは分かるな」と、拳をペキポキと鳴らし、冷気を漂わせる白覆面男。
うむ、とりあえず冗談が通じない相手なのは分かったな。
「しかし一体どんな方法を使ってあの部屋を息継ぎなしで平気だったのだ?」
「マジシャンや手品師がよ、自分のショーを見せた後種明かしをすぐにするか?それよりそっちこそ、馬鹿にしてるんじゃないか?世界を。どんなルーツを使ってあんな生物兵器を完成させたのかは知らないが、単刀直入に言わせてもらおうか。今すぐ生物兵器を破棄して降伏しろ、戦争屋の真似事なんかやめろ」
「真似事なんかではない。これは新たな時代へ進ませる為の下準備に過ぎないのだ」
「お前は分かっていない。生物兵器がもたらす悲劇がどれ程の規模かを」
「ほほう、“約100万人が実験台の末に死に、さらに仕掛けられた戦争で死んでいった”程度がか?確かに俺には分かるまい、それがどの程度のモノか。オーク戦争とやらに直接関わったワケではないからな。だがそれは人類が進化の段階に入る以前に起きてしまったが故の結果だろう?今は違う、受け入れるべきなのだ地球人は!根底が変わり始めていることを!それには身を守るという生き物の本能を思い出させる必要がある。エヴルー・アームはその為に必要なのだ!!」
「・・・・・何を経験してそんな考えになったか今すぐにでも知りたいが、続きは刑務所で聞くことにするさ」
「っは、馬鹿馬鹿しい。貴様らBLLETSは刑務所送りどころか我々や俺の正体すら掴めない」
「そいつはどうかな?今の会話だけでも何となくは分かるぜ。たしかにこの組織の親玉らしいお前が少しは頭の切れる奴なのは認めるさ。しかしな小童、お前の口調は大人っぽく重々しくもあれば仰々しいが内容はスッカスカ、声もまた覆面に取り付けてる変声機で変えてるようだが実際まだまだ青二才な匂いがプンプンするぞ。体型も、背も、足も、何もかもがただの見せかけだな」
白覆面は癇癪を起こしてデカいつららを何本も出現させて俺を狙って飛ばしてきた。普通なら避けるだけだが、後ろで気絶してる本物のエッジ4(まだアーマーを着せてる)に当たりかねなかったので、アーマーとブラスターを利用してつららをいなすか弾くかはたき落とすなどで全て防いだのだ。
「本当のことを言われて怒った・・・・・・・か!?」
次にゴゴゴゴゴゴゴッと床が揺れてちょっと態勢が崩れた。白覆面の怒りによってではなく施設そのものが揺れ始めたのだ。
「この俺を・・・怒らせたことを・・・後悔させてやる・・・・・!」
「俺がお前を怒らせようがしまいが、どの道何かをする予定だったんだろ?例の“フェイズ2へ移行”ってヤツで」
すると部屋の窓に張り付いていた氷がどんどん崩れていき、外の頭上が同じように崩れて空が露わになっているのが見えてきた。
〈“氷が崩れている”?・・・・・っ!まさか!?〉
あることに気づいて目の前にいる氷結能力者に再び視線を戻した。
「ほらどうした?制御圏を離れた氷は俺にもどうすることもできない。放っておいていいのか?」
〈この野郎、そういう過程か・・・・・!〉
AN M18、つまり煙幕弾を創造し蔓延させて俺は煙の中に隠れた。銃を構えてた連中は慌てて発砲してくる。そいつらはなんてことはない、弾道は分かってるし、防げる。厄介なのは白覆面の男だ。正直言ってこの場で倒したいが、奴の氷結能力が危険過ぎる為できない。今の今までは氷結を起こしても回避できるであろう距離を保っていたから大丈夫だったが接近することはできないのだ。そして外のこともあってこの場を抜け出すしかなかった。だからせめてその前にあの顔スキャンを逃れる為に付けているゴム製の覆面を外して俺の感知能力を併用しての顔認証をする、その為に煙幕を張ったのだ。
チョンッチョンッ。
ブラスターを撃ってみるものの白覆面は顔をカンカンッと氷で覆いガードしてきた、予想通りに。
ドドオォンッパキイィンッ。
ブラスターだけじゃなくマグナムも手にして実弾2発を撃ち込んだ、全く同じところだけを。そして集中砲火を浴びた奴は呻き声と共に右目を保護していたゴーグルレンズが氷ごと破壊された。俺は数秒間だけ奴の目を見た後、弾丸が飛び交う中を素早く移動して窓を突き破ってブリッジから脱出した。
部下の一人が壊された窓に近づいて外に出て行った侵入者を確認した。
「奴が逃げた!追いますか?」
白覆面は壊された右目のゴーグルを氷で覆う事で隠しながら指示した。
「放っておけ。どうせこの施設キャリアから離れるつもりは奴自身にもない。それよりもエンジニア共に伝えろ、すぐにブリッジポッドに集まれとな。それと“エヴルー・アーム”をビーストモードに切り替えてやれ」
「分かりました」
中間フロアでは、
「・・・・・?撃ってこなくなったぞ、何でだ!?」
散々撃ってきてたゴブリンたちが突然射撃をやめ、全員が銃を腰に下げて代わりにナイフを手にして襲い掛かってきたのだ。それも今まで一般兵士のように戦っていたのがモンスター的な口を開けよだれを垂れ流しがむしゃらに突進してくるようになった。
「これどうなってるの!?」
と叫びながらミニミで迎撃するもカバーしきれず、弾丸を避けて飛び掛かってきたゴブリンをナイフで刺し殺す広子。
「頭に付けてる機械が青ランプから赤ランプに変わってるわ!それと関係ありそう!」
広子と同じようにUZIで仕留めきれなかったゴブリンの接近にサバイバルナイフで応戦する巴。
「モードが元々二つあって、切り替わったって感じだな!オラァッ!!」
途中でみんなと合流できた奈々とシオリはやり方に変更はない。壁を蹴ったりで縦横無尽に動きそのまま素手とトンファーで殴っていき、たまに既に倒し済みのゴブリンを掴むのと頭の装置を電磁波で引き寄せることで向かってくるゴブリンに投げていったりしている。
「狭い場所じゃすばしっこい相手は結構難しい・・・っね!!」
「みんな!移動しながら応戦よ!!」
ロザリアはバイオニック・アームと装備していた木刀で、ペティはまだ再装填していないショットガンと如意棒で壁にはめて鉄棒したりで移動しながら薙ぎ払っていた。
「ボニータ!ご当地スタッフに洞窟・展望デッキにいる観光客をすぐに避難させるよう言え!総局にも通報だ!!」
『了解です』
パニックを引き起こしかねないと踏んで、通報をためらっていたがやむを得ない。とそこへ唯からの無線通信が入ってきた。
『フォース!?良かった、やっと繋がった!でもこれどうなってるの!?番長がやり過ぎたとか・・・』
「番長じゃねぇ!奴さんの仕業だ!!敵の親玉が氷結能力持ちだったんだ!そいつが今まで支えていた氷を施設の浮上と同時に解きやがった!!そのせいで施設を隠してた氷が融解と一緒になだれを起こしてる!!あれを止めなきゃ観光地が壊滅する!!」
『どうする気!?』
「せき止める!ダムを作って!!」
氷河を挟んでいる山と山の間の距離・地表の形・氷河の形をよく見て、
〈横の長さは2000m~3000m、高さ1000m、厚さは100m~200m・・・・・よし、これだ!!〉
それら全てに合わせた氷のダムを創造し、観光地に向かってなだれていく氷の大群を受け止めさせた。
ゴゴゴゴゴゴゴオオオォォォン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ズ・・・・・ズズズズズズズズガガガガガガガガッ。
だが氷のダムも氷の大群の量には耐えられなかったようで、滑り始めてしまった。
「ああくそっ、面倒だな!」
氷のダムは“俺が創造した物”、だから引き寄せることができる。今現在俺自身も能力で引っ張ることで何とか止めることができた。しかしこのままうまくいかないのが世の常というもの、デッキのあちこちにあるハッチが開いて数多のゴブリンが湧いて出てきたのだった。狙いはもちろん俺だろう。
「奴ら、どんだけ作ったんだよ・・・・・。キャプテン!!今すぐ氷のダムの支えに行ってくれ!!俺の制御がいつ途切れるか分からねぇっ!!」
『どうして“鉄のダム”にしなかったの!?そうすれば私が簡単に操れるのに!』
「最終的に俺が創造した氷のダムと結合させて移動させてから氷を破壊つもりだったんだが、当てが外れた!!」
『要するに、フォースにしては考えが甘かったってことか?それ』と吞気に言うスターリン。
「頼むから早くしてくれ!空騎士たち!!もうゴブリン共が引っ付いてナイフで俺の体をあちこち刺しまくってんだよ!!」
『ええ!?それ大丈夫なの!?』
「どうせ治すから大したことはないが、絶対に見ないことをおすすめ・・・・・あ、一人見ちゃったか」
俺とアイラが感知能力を使える者同士である以上、お互いの状況を把握できてしまうのは仕方がない。故に、妹からすれば自分の兄が抵抗できず集団殺人されている光景を見てしまい、俺からすれば一瞬吐き気を催してしまいながら飛ぶ妹の姿を見てしまうという複雑な心境になるのも当然だ。
「とにかく俺は大丈夫だから早くダムを支えに行ってくれ!一瞬の緩みで一般人に被害が及ぶ!!」
『Sir,yes,sir!みんな行くよ!!』
全速力で飛ぶ南西チーム。
「各自最大出力で氷のダムを押し返すように!キュアリス!ボディに使ってる鉄で全員分のネズミとおせんぼをダムに!」
氷を素手や軍手、籠手ではいつまでも接触できない。そのことを考慮しての指示を仰ぐ唯。
“ネズミとおせんぼ”とは、防錆表面処理鋼板に鋭い複数のトゲができてる忌避具のことで、本来はその名の通り一般自宅で穀物などの食糧をねずみの被害から守るために使われる道具である。いわゆる現代における『ねずみ返し』のような物だ。
「了解キャプテン!!」
アイラは指示通りに自身を纏っている大量の微小鉄を外して“ネズミとおせんぼ”を5つ作成し、五輪マークの要領で上3つを唯・実央・クレアで配置に付き、下2つをスターリンと自分で配置に付いた。
スターリンはサバトン(足の鎧)とグリーブ(すね当ての鎧)に埋め込まれている魔石にさらに強い刺激を与え、クレアは背中に刻まれている魔法陣の文字の書き換えで飛行魔法強度を上げる、唯は炎噴射による推進力で、実央は霊気による推進力で、そしてアイラは体に纏っている残った微小鉄の磁場制御を強めに、各自がそれぞれのやり方で押し返し始めた。
「フォース、もういいよ!制御を解除して!!」
ギラの制御がなくなったようで、氷ダムの重みが一気に南東チームの肩にかかってきた。最初は抑えきれず数メートル程後ろに動いてしまい、展望デッキでスタッフに誘導されている観光客たちが少し不安になるものの、何とか押し留まった。
「ゼロ!私たちが踏ん張ってる間に氷河以外の氷を細切れにして!キュアリスは微小鉄で彼女の代わりを!」
「「了解“キャッピー”!!」」
「・・・・・え!?何その呼び方!!?」
突然親しみを込めてのあだ名で呼ばれた唯が実央とアイラに聞くが、二人は答えずにそれぞれの役割を果たしていく。
同じ頃、デッキで長らくゴブリンの一方的な攻撃を受けていた俺は無線でキャプテンのOKサインを聞いてから氷ダムの制御を解除し、餌に集まるアリ以上に群がるゴブリンの大群を振り払うのに手間取っていた。
「こんのっ、早くどきやがれぇっ!!!」
“創造した物”であるアーマーとヘルメットをバンッと飛ばすことでやっとゴブリン共を振り払うことに成功した。
狙い撃ちでは対処しきれないと考えた俺は、雷龍を構えてゴブリンを斬り伏せていくことにした。
『施設の中心は大量のガスを収めているタンクがあり、そこから抽出・噴射させ施設を浮かせる為に対象の周りは機関部となっています』
「ガスの量はどの位だ?」
『すでに1000m以上は上昇しています。なので推測ですが、タンクの大きさからして上昇した分を引いただけでも高度5000mまで上昇できる量が十分にあります』
「どこへ行く気だ?」
『どこへも向かっておりません。真っ直ぐに垂直に飛ぶよう誤差を修正しながら上昇しています』
「・・・・・・・・・狙いは“メール・ド・グラース氷河の崩壊”か」
そして、デッキ上の近くにいるゴブリンに雷龍一刺しにしてから一息ついたところで無線交信が入ってきた。
『こちらクローバー8。まだ中間フロアだけどやっと片付いた。でもどこかで誰かが戦ってる音が聞こえるけど、誰だか分かる?フォース』
「・・・・・そっちは気にしなくていい。こっちはまだ片付いていない。北東チームは俺がいる上のデッキまで上がってくるんだ。そのうちまた第二の布陣が来る。そいつらをここで迎撃する」
『『『『『『Sir,yes,sir!』』』』』』
次にまだいるゴブリンの一団が俺目掛けて突進し、ちょうどデッキの中央部分に差し掛かったところで、
バババシュッ。
ゴブリンの一団が一瞬で胴体を斬られて血を噴いて倒れていったのだ。俺はそれによく似た光景を昔何度も見てきたため驚くどころかむしろ懐かしく思えた。誰の仕業か分かっていたからだ。
倒れていくゴブリンの一団の中心に一人だけ立つ者がいた。小柄で忍び装束を着用、肌の色もオーラ的にも黒く禍々しいイメージを持つ黒に染まっているが所々白く光る筋も持つ少女だ。目も虹彩まで白くなってむしろ輝いてるように見える程だ。右手にはゴブリンを屠った剣が握られている。日本の大昔に使われていた剣だ。
少女は俺に気づいて静かに視線を送ってくる。俺はマグナムの弾込めをしながら彼女に声をかけた。
「仕事を片付けに来たのか?爪」
彼女は口角を上げて頷く。
「なら言う事はないな。っ!」
そこへ予想した通り第二の布陣がやってきた。今度はブリッジ付近で複数のハッチが開いてまた新たなゴブリンたちが湧いて出てきたのだ。そいつらの中にはナイフだけじゃなく棍棒、かなり大きめの剣、斧、槍、鎌などを持つ奴もいた。さっそく真っ黒少女はゴブリンたちに斬りかかっていく。小柄な体とは裏腹に腕力にものを言わせて、首ちょんぱ・アジの開き・縦の真っ二つなどの斬殺や剣の峰を使っての撲殺を繰り返した。まさに凄惨な光景だ。デッキ上がどんどんゴブリンの血に染まっていく。最終的には一面全部が染まりそうだ。
そんな中、ブリッジ付近の新たなハッチが開いてゴブリン這い出たところを背後から大型ナイフで貫く者がいた。そいつはフード付きのボロボロなマントを全身に纏い、顔には黒い鷲をかたどったゴーグルマスクを付けている。
他のゴブリンも俺や真っ黒少女と同じように黒マントを敵と認識したようでそいつにも襲い掛かっていく。黒マントも当然のようにゴブリンを体術で吹っ飛ばし、大型ナイフで斬っていく。そして俺も黒マントが戦っている方向へ進みながらゴブリンを雷龍とマグナムで倒していく。
同じ頃、ブリッジが建つ場所とは反対のデッキエリアでは中間フロアからようやく到達した北東チームがハッチを開いて現れていた。俺はチームのことには構わずにそのまま黒マントに向かっていき、相手が腰に付けていたホルスターから拳銃:ワルサーP38を右手で抜くのに合わせてS&WM19を持つ左手を前に出し銃口を合わせた。そしてほぼ同時に、お互いの拳銃から火を噴かせた。
ドォンッ!!
ダァンッ!!
「FT、随分と輝かしい舞台ばかりお披露目しているようだな、私には暗い道を薦めておきながら。極最近ではお前のあの白いアーマーもテレビで簡単に見かけるようになったぞ。少々世間が変わり過ぎてこの私でも困惑してしまっているよ」
「変わる部分もあれば変わらない部分もある、それが俺達生き物であるのだよアディ君。少なくとも武器は3年前と変わってて良かったと感じるさ。でなきゃブラスター使ってて今頃、跳弾失敗してお互いくたばってるからな」
そんな話をする俺達の背後から飛び掛かろうとしていた二匹のゴブリンが、それぞれマグナム弾とバラべラム弾によって頭を撃ち抜かれ崩れていた。
「でもその場合、アーマーで跳ね返してるから一方が死ぬだけかもね」
「そして元ヨーロッパの毒虫は永遠に消えちゃう~」
「毒虫?それってどういうこと?」
爪とチームが集合する中、かつての賞金稼ぎ時代を懐かしみながらペティと巴が皮肉るがアディの素性を全部知らないロザリアはちょっと出遅れた。広子とシオリは何のことだろうと気になりながらも周りに集中していた。
「なあお前ら。なんか感動の再会っぽくて水を差したくないんだけどよ、周り見ろよ!!」
たしかに奈々の言う通り、俺達はすっかりデッキ上でゴブリンに囲まれてしまっていた。
「また装置が青のランプに変わってる・・・・・襲ってこないけどどうして?」とシオリ。
「そいつは、奴さんの話を聞けば分かる」
感知能力でもう分かっていたが、ブリッジの外に設置されているスピーカーからキイイィィンと耳をつんざく音が鳴った後、演説が始まったのだった。
『BLLETSよ、お前たちの存在は疎ましい。エスペランサブリテンの存在が公表されるのと同時に貴様らは現れた。本来ならばあの異種族共を利用しない手はない。あの地下都市がもたらす富がどれほどの規模か計り知れん、もしかすれば進化途中の我々地球人でも手にできない究極のパワーを得られるかもれない。それなのにお前たちは緑色の戦闘服に身を包み、難民状態な異種族への歓迎ムードを作っている!俺達は未来を見据えている、異種族たちは進化を遂げるであろう地球人によって支配されるべきなのだ!』
何の恥ずかしげもなく喋るのは、声の調子からしてあの白覆面だろう。要するに奴さんは俺達がやっていることにケチをつけているらしい。仰々しい言葉を使っているが、俺からすれば、せっかくの親からのプレゼントにこれじゃない!って喚くガキに等しいと感じる。はい、俺もそんな時あったわ。他のみんなの反応も一応見てみよう。
「あの男の演説を聞いて元アーリア人な奴はどんな顔してるんだろうねぇ~」
「さあてね~。今すぐにでもそいつのゴーグルマスクを剝ぎ取って確認するのはどう?」
「茶化すのはやめろ、任務中だろう」
特に緊張することもなく、昔馴染み同士の会話をするだけだった。
「なあ、ところであいつが緑色の戦闘服に身を包みってところ誰か訂正してくんない?俺アーマーを使ってるバージョンもあるのに・・・・・」
「「「「引っ込んでろ、Mr,クローン・ウォーズマン」」」」
「あーはいはい」
俺だけは突っぱねられた。白覆面は構わず言いたいことを続けた。
『どうやら俺が解き放った氷のなだれは噂の“零”にキャプテンらが止められてしまったようだが、それでも最後は俺達の勝ちは決まっている。もうじきこの施設もあと数十分で燃料切れとなり、下の氷河へ落下する。そうなれば融解は免れない』
「あいつ・・・・・AOF知らないのか?それとも知っててパクってる?」
「「「「「それは言いがかりだ」」」」」
俺達のぼやきを他所に、白覆面は最後にヒーローにとって痛い言葉を投げてきた。
『事が済めばお前たちもこれで考えを改めるだろう。世界にとって自分たちが訝しく見られる存在だということを』
俺の言い分はともかく、これは多分唯たちの助けが必要になってくると考えたのか、ペティが南東チームに呼び掛けていた。
「あ~キャプテン。そっちの進捗状況はどう?急いでこっちに戻って来てくれないととんでもないことになりそうよ」
『アイラから聞いて敵が何を企んでるのかは理解してるけど、こっちも今はすぐ手が離せないの』
「アトミック斬!ってやれば一瞬じゃない?」と広子。
『あのですね先輩、私アトミック侍じゃないんですよ!?ベストは尽くしてますけどそんなすぐに全部の氷をみじん切りにするなんてできません!!』
空を自力で飛べるメンバーは氷ダムにかかりっきり。他は俺がジェットパックを用意したとしてもこんな大きな施設の落下を防げる人数ではない。これってもう決断するしかないのではとそんな雰囲気に呑まれかけてたみんなだった。
「・・・・・こうなったらプランBに変更するのか?昔みたいに」
アディが何かあるんだろ?と言わんばかりなことを聞いてくるが、俺の答えはこうだ。
「あ?ねぇよんなもん」
「「「「は?」」」」
賞金稼ぎ時代を共にしたメンバー全員が、俺の答えに素っ頓狂な反応をした。
たしかに昔だとよくこういう場面では“プランBに変更!”なんて言うことが多かったもんだ。だが今回は変えない。いやいや、別に有名なゲームのパクリとかじゃないよ?本当に“変更する必要がない”からだ。
「待て、どう考えても作戦変更が必要なはずだが・・・・・」
アディの反論は、言い終える前に拡声器を通して出したある人物の声が遮り、そのままこのメール・ド・グラース氷河の上空に響き渡っていた。
『なるほど、つまり先日の音声記録データもわざと残していたわけだな。俺達が生物兵器を消そうと躍起になって何が何でも見つ出す。その執念を利用し、誘い出したっつーワケか。だが残念だったな、お前らが望む“BLLETSの大失態”は今日起こることはない!!』
俺達から見て、ブリッジの左下空からコウモリの羽で飛ぶ濃さんに背負われながら拡声器を構えたトラが率いる“かくし玉チーム”が現れた。
メンバーはこう、二人を含め翼で飛ぶ千恵と背負われている五十嵐、それと翼で飛ぶ誰かに背負われている剣。
そして、彼らだけではない。空飛ぶ施設デッキの周りを囲むように千恵と濃さんが持つ二種類の翼と同じ翼を持つたくさんの存在が垂直飛行をしていたのだ。
俺はそれらの存在の中から懐かしい顔を持った者を見つけ、無線で呼びかけた。
「前の貸しは残ってるか?ジュリア―ノ」
彼も返事を返してくれる。
「これくらいでもまだ足りませんよ、トルーパー殿」
実はかなり執筆が遅れていたのですが、せっかくの大事な日なのでなんとか合わせようとまた数日間急ピッチで仕上げてました!なのでちょっと出来としてはもしかしたら誤字が結構あるかも。あったら随時修正します。
そして評価ポイントが28から32にアップ!!本当にありがとうございます!!感謝の意を込めて、まだまだ執筆を続けます!!
では皆さん!ご一緒に~、May the Force be with you!(フォースと共にあらんことを!)




