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BULLETS(ブレッツ)  作者: 砂川 武
51/63

47発目 “背中”と“かけっこ”と“遠慮”、そして“選定”。



 箱根のとある旅館。山茶花高校1年生が林間学校宿泊として利用している場所だ。

 今は夕食もカラオケも終えて宿泊最後の入浴中~。ほらほら皆さ~ん、お風呂回ですよ~。お風呂と言えば露天風呂!露天風呂と言えば~?

「「「覗き!!」」」

「「「混浴!!」」」

「おい、混浴はないぞ?この旅館」

「でも定番だろ?」

「頭の中と将来だけにしてくれよ。とりあえず覗きだ。この壁の向こうには女子たちがあられもない姿でキャッキャしてるんだ」

「しかも俺達1年はラッキーだ。なんせあのスタイルも良く出るところも出てるあのペトラ・ロマーノさんが入浴中のところを覗けるんだからな!」

「忘れるなよ、古賀流留さんだって素晴らしい!運動できる系とは思えないほんわか系で少々ムチムチなボディも拝められるのだ!」

 もはやこの学校で男女との隔たりがなくなった今、新しい世代である男子たちが壁一枚向こうの話をわいわいと語り合っている。だが、やろうしている行為のせいで別の隔たりができてしまいそうだが。

「問題は、この壁をどうやって超えて女子たちを拝むかだ」

「誰か梯子とか持ってきてないのか?」

「んなことできるわけないだろ」

「じゃあ椅子を重ねて踏み台に」

「安定性がなくて天国を見る前に落ちて地獄行きだよ」

「それじゃあいっそのこと壁を一気に壊すってのは?」

「そんなことできる奴、ここにいるわけない」

「それじゃあBULLETSの誰かを呼ぼうか」

「ああパワーで言えばリヨンだな。リヨン~助けて~ってこら。覗きの為に駆けつけてくれるスーパーヒーローがいたら炎上するだろ」

「アイアンマンならやってくれそうだけど?」

「トニー・スタークを見くびるなよ。絶対来やしない、倫理的にも著作権的にも」

「お前覗きを言い出した割りにそこはそう主張すんのな」

「おいおいおい待て待て待てって!ヒーロー談義に移行しないで、とっととどう覗きをするのかちゃんと決めようぜ」

「「お前そんなに覗きたいのか!この変態め!!」」

「面倒くせぇっ!!」

 話し合いの結果、人間ピラミッドで手を打つ山茶花高校1年生男子たち。誰が最初に見るかで少々口論になったが最終的にジャンケンで決めて、言い出しっぺでペトラ推しなおでこ剥きだしな髪型男子が生き残った。だが彼は、同志たちによる人間ピラミッドが完成する前にノックダウンされるのであった。

「さてと、ありがとう☆」

 そう、彼の足にわざと石鹸を置いて転ばしたのが、そこで名乗り出た学園の王子こと御影久志だった。

「ああ!御影てめぇ!変に大人しいと思ったらこれを狙ってたのか!王子っぽい癖に小ズルいことをを!」

「人生したたかにやらなきゃ上手くいかないものさ☆さあ、マイプリンセス!君の全てを僕に見せてくry」

 ドンッべちゃっ。

「うぎゃっ!?」

 彼の視界は女子たちどころか隣の露天風呂の景色を捉える前に遮られてしまった。

「はいはい、あなたがお望みの私の裸婦画は未来永劫見れないから。あと悪巧みはもっと静かにやること、頭にメモっておいて」

 ペトラが持ち込んだショットガンから発射された暴動鎮圧用のスライム弾によって。

「そんなああああああああああああああああ☆」

 そして反動で、後ろの露天風呂にドボーンと落ちていく御影。

「さっすが姐さん!」

「ゲスな男子をタオル一枚も纏わないで堂々と撃退する姿勢!」

「素敵素敵!」

「あとで私たちとサウナで熱くならな~い♥」

「・・・・・あの、あなたたちも変な気は起こさないでよ?頼むから」

 身の危険を感じてシャコっとショットガンを構えるペトラ。


 そんな一部始終を見ていた俺と秋山君。

「本当に男女間で喧嘩することで有名だった高校なのか?」

「大野先輩の話だと、去年まではもっとギスギスした恨み混じりな感じで覗きをやっていたそうなんです。それも仲が悪い一因だったらしいんですけど・・・・」

「それ、絶対1割恨みで9割は性欲でやってるに決まってるだろ。やっぱ男の性は抑えられないもんなんだって」

「あなたは抑えることに成功してるじゃないですか。何年もペトラさんのお誘いを断ってるんですから」

「秋山君。人生の鉄則を二つ教えよう。一つ、『性欲は発散すべき』やっぱ溜め込んじゃいけないんだよ、そうやってみんな病気になるんだ。二つ、『我慢はすれど恋は逃すな!』恋愛には失敗もあるが・・・ああごめん、君の恋邪魔したの俺だった。とにかく相手を大事にしたいって思う君の気持ちはこの上なく良き人間の誇りだ。絶対忘れるなよ?」

「はい・・・どうも。あの別にいいですよ、ペトラさんのことはもう僕気にしてませんし」

「お~気持ちの切り替えが早いな。俺は前の想い人のことを引きずってばっかで、ある意味面倒くさい人間だったな。それに比べて君はすごいな~、新しい恋でも見つけた?」

「あ・・・・・その・・・・・」

 おやぁ?妙な反応だな、顔を赤らめてるし。こいつは面白そうだ。

「秋山君。たしか以前やったサバゲの後に今川愛沙に酒じゃない一杯のお誘いを受けてたよな?失恋による悲しみを埋める為に。まさかそのまま送り狼でもしちゃった?」

「そ、そんなことまでしてませんよ!」

 慌てて彼は否定するが、その反応が狙いだったぜ。

「はい、引っかかりました~。“まで”って言ったってことは、今川とイイことでもあったんだな。人間は弱気になってるところを異性に優しくされるとコロッと堕ちちゃうからな。最低でも彼女に惚れたんだろ?」

「・・・・・ご明察です」

「ビンゴ。彼女も美少女だ、逃すなよ?絶対ハートをもぎ取れ!」

「ところでずっと気になってたんですが、杉田さん何でここにいるんですか?」

「君、今更そこ聞くのかよ」

「だってさっき聞こうとしたら遮ったじゃないですか」

「そういうのはな、聞かずに察するのができる人間なんだ。大人の必須スキルだ、覚えとけ」

「杉田さんも大人じゃないでしょ?」

「ああそうだったな。それと俺が複数の女性に言い寄られてることも知ってるよな?」

「・・・ええまあ。それが何か?」

「実はよ・・・・・」

≪ただいま説明中≫

 俺の一部事実を隠した説明を聞いた秋山君の反応とは、

 これだ。➀、➁、➂。


「クズ!色魔!そのあなたを僕が懲らしめ・・・・・って何するんですか!?」

「君を信じていたよ、秋山君!」

 やっとまともな反応が返ってきたことで感動し、俺は思わず彼を抱き締めていた。あらあら同人誌生まれちゃう~。

「なんだお前ら、ホモか?」

「違います!」

 そこまで否定しなくても~。



 ところ変わって、女子側の露天風呂。

「正式な彼女を決める為のデート大作戦って何それ?」と愛沙。

「すご~い、それ今からでも私参加できる~?」

「なんか知らないけど向こうの臨海学校での話し合いの結果そうなったらしいの。あと流留、あんたはちょっと落ち着いて。悪いことは言わないからギラはやめといた方が良いから」

「なんで~?たしかに私のお尻にBB弾を撃ち込んできたのはビックリしたけど、後ろから攻められるのって結構ドキドキするもんで良かったよ~♥」

 風呂の温度以上に体を火照らせ始める流留。

「うん、この際あんたの性癖はどうでも良いけど、とにかくギラは選ばない方が身の為だと思うよ」

 だってギラに近づくことはつまり、異世界行きが必然的に決まることを意味するようなものだから自ら危険に飛び込むも同じなのだ。そんなことを折角できた学校友達に歩ませるなんてこと、阻止するに決まっている。でも自分が言っても客観的には好きな相手を取られたくない一心で止めてるようにしか見えないのも分かっている。

「それで?この後その1時間とちょっとの間デートに行くんでしょ?肝心の杉田君はいつ来るの?」

「いや、もう来てるから。今も向こうの露天風呂で・・・・・」

「気持ちよ~く入浴中だからね」

 突然私の言葉を続けるように会話に入ってきたのは、体を洗い終わって同じ露天風呂にも入ってきた巴だった。

「あ、やっぱり来たんだ」

「当然よ」

 そして彼女だけじゃなく、菫楼高校女子に元マフィアボス、義手持ちのシスター、そして中学3年の杉田シスターズまでもが来ていた。愛沙と流留は最初は巴以外はどちら様?な表情だったが、数秒経っただけで理解してしまった。

「・・・・・もしかして、この人たちがそうなの~?」

「・・・・・杉田君って、ホントに何者?」

「だから言ったでしょ。あいつは天然の女たらしだから」

 でもまあ、自分たちが世間で社会現象を引き起こしているBULLETS本人たちだなんて言えるわけがないけどね。お互いの紹介やら学校の話をしたりで露天風呂を楽しむ私たち。その中で愛沙はあることに気づくと巴の傍に近寄って行った。

「細川さん、こんな乳お化けたちの中で張り合ってるの?」

「分かる?これが格差社会ってヤツなのよ。今まさにこのカオスの中で私は戦い続けてるの」

「うん、頑張って!応援するから!」

 どうやら“持たざる者”同士で通じ合ったらしく話が弾んだみたいだ。仲良くするのは良いけど負の感情は生まないでよ?あと殺気も。

 のぼせるかないか辺りでみんな揃って上がり脱衣所で浴衣を着てロビーに出た。すると、

「ぐぼあっ!」

「たわらばっ!」

「うごげっ!」

「どぅわっどぅわっどぅわっ!(段々わざと小さくして)」

「っあ゛あっ!」

 男子たちが私たちの浴衣姿を見るなりオーバーリアクションで次々と倒れて行く。しかもなんかこの前ギラが紹介してくれたレトロなゲームでよく聞いた声まで混じっていたし。そこまで?

「山茶花高校の1年っていつもこんな感じなのか?」と奈々。

「いや全然。でもペトラの浴衣姿ときたら絶対注目するだろうな~とは思ってたけど、まさかこんなにスンゴイのが揃うとは予想してなかったし」と愛沙。

「それにしても、あたいらを見てドギマギするなんてそこいらの日本男子ってやっぱ草食系だねぇ」とラスティ。

「そもそも外人が5人いる時点ですごい面子だけどな」と好華。

 みんなは引いてるが、私にとっては別で気がかりなことがあるのだ。それはウザ王子の反応だ。おっと噂をすれば後ろに、

「っこ、これは!?オランダのキューケンホフ公園☆☆☆」

 言い切ったね。三ツ星付けちゃってるし。

「でも僕にとっては中でも一際美しいのは白のチューリップである君だよ。マドモアゼル☆☆☆☆☆」

「あーはいはい、ありがとね。星もいくら貰っても嬉しくないから・・・・・あ」

 私の反応を見て御影は、自分の後ろに誰かいるのかと振り向いた。そこには、風呂から出てきたばかりの浴衣なギラと秋山君がいたのだ。

「おや?君誰だい?」

「えっと、どなた?青山優雅?」

 やばい、面倒くさい組み合わせが成立してしまった。

「秋山君☆この人知り合い?どう見てもうちの学校の者じゃないよね☆」

「ああ、うんそうだよ御影君。杉田さん、紹介します。彼は御影久志君、うちでは学園の王子様って呼ばれてるんだ」

「わーお、少女漫画に出てそうな肩書きですな。ではこちらからも。初めまして、菫楼高校1年杉田義羅です」

「ちなみに彼がペトラさんに好かれてる人ですよ」

 秋山君、言っちゃらめええええええ!!

 公然と宣言したおかげで、周りの男子たちがざわつき始めた。

「?それ言う必要ないだろ」

「御影君には必要なんで」

「はい?」

 こうなると後のお決まりの展開が簡単に予想できるね。

「僕と勝負だ!杉田義羅!!」と叫びながら木造レイピアを構える。

 やっぱり。

「俺が言うのもなんだけど、その訓練用の木造レイピアどっから出した?」

 言わなくていいのに。

「いやあのさ、悪いこと言わないから勝負を持ち込むのはやめといた方が良いよ?経験の差があり過ぎるし。それにさ、俺が主人公なんだから勝ち目ゼロじゃん」

「「「「「「「「「「「「主人公言うなー」」」」」」」」」」」」

「あーはいはい。だからさぁそんな物騒なものしまって、仲良くやろ?な?さもないとこのサイコガンが君及びこの旅館の半分を焦土と化すど」といつの間にか左手に装着させたサイコガンを構えるギラ。

「和やかに治めるのかと思ったらまさかの脅迫!?っていうか杉田さんの方が何倍も物騒じゃないですか!!」と秋山君。

「おお~君ツッコミの才能あるね~。今度ツッコミの師匠紹介するぜ」

「断固拒否します」

「問答無用!」

 ギラの宥めにも応じず斬りかかる御影。

「話聞いてた?俺も冗談で言ったんだけどっんな!」

 激しくぶつかり合うレイピアとサイコガン。サイコガンを撃ちもせず振り回すのはギラの御影君に対する優しさなのだろうか。

 とは言ってもこれは私絡みで発生してる案件。一見何の関係もなさそうな巴たちは早速うちの男子たちに隙あらばとナンパされていた。

「あいつらの決闘なんか放っておいて俺達の部屋に来ない?トランプでもしながらよ~」

「人狼ゲーやろうぜ~」

「カードバトルしようよ!ね!」

「君たち、うちの学校の子じゃないね。ってことは今夜フリー?良かったら俺達と一緒に夜を過ごさない?」

 六本木でのこともあって、いいですいいですとドライに断っていくみんな。でも中でもアタックがキツかったのが実央に対してだった。ほんのちょっと押され気味だった彼女を見かねた愛沙がフォローしようと割って入っていった。

「はいはいあんたたち~、そろそろやめよっか。私たちも彼女たちもお誘いは御免なんだから・・・」


「は?なんでお前が同じ枠だと思ってんの?まさか自意識過剰ってやつか?」

「・・・・・へ?」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

 この時、私は気づかなかったけどバトってた二人も手を止めて、発言元の男子を睨んでいた。

「綱田、お前何を・・・・・?」

 一緒につるんでるっぽい男子もさすがに彼の発言に対して質問をしていた。

「だってこいつ彼女たちと同等だと思ってるんだぜ?身の程を知れってんだよ、お前なんか興味ないっての」

 綱田という男子の発言で気を落としてしまった愛沙。そんな状況に真っ先に動いた二つの人影があった。一人は御影。ウザい人間だが、やっぱり根は真人間でちゃんと憤りを感じたらしい。だが彼は空気を読んだギラに止められていた。そしてもう一人は、

 バギャッ。

 最も異性に対して失礼な発言をした綱田にスカッとする顔面パンチを全力で叩き込んだ秋山君だった。でも普通の男子高校生は人を殴るなんてことに慣れてるはずもなく、痛かったようで自分の拳を抑えてた。ギラ以外の注目してたみんなは呆気に取られて彼を見る。痛みに耐えてようやく周りからの視線に気づいた秋山君は何か言うべきだと少し考えると、KOされてのびている綱田を指してこう言った。

「こいつは男の恥です!」

 彼の言葉に全員が賛同して拍手を送る。

「よく言った!秋山君、君こそ漢だ!」

 そう言って彼の手を取って、治癒能力を使ってしれっと痛みを癒すギラ。

「・・・・・秋山君、ありがとね」

「い、いえいえ!当然のことをしただけですから!こいつがおかしいんですよ、愛沙さんは十分可愛いのに」

 自分の為に怒ってくれた彼に感謝する愛沙に、最近新しく好きになった相手に感謝されてつい本音を漏らしてしまう秋山君。そして二人もじもじしちゃう。あらあら、お熱いこと~。

「あらあら、お熱いこと~。お前らの学校、この後自由時間あるだろ?温泉巡り言って来いよ。ヒナ、連れてってやってくれ。ささっ行った行った!」

 ギラの計らいで、ヒナと共に二人はロビーを後にした。

「さあて、勝負の途中だったけどまだやるか?」

「・・・・・いいや、もう興醒めだよ。うちの生徒がお見苦しいところを見せてしまったからね☆この続きはいずれまたね☆」

「見た目に反して、あんたできる奴だな」

 お互いに認められる部分を確認して握手し合う。

「それでギラ、このクズ男どうする?」と私が聞くと彼はキメ顔で言った。

「俺に良い考えがある」

 青い司令官でも入った?車?それともアーマーを着た人間?



 ・・・・・あれ?体が動かない、金縛りか?いや、俺はたしかさっきひょろ男子に殴られてそれで・・・・・。

 目を開けるとそこはロビーで、俺を見上げる男子や女子に、さらには一般客まで見上げたり写真を撮っている。

〈どうなってるんだ?俺は別に身長が高いわけでもないのに何故みんなを見下ろしているんだ?首も回らない、これは一体・・・・・!?〉

 自分がどうなっているのかが理解できた。布団程の大きさと厚さが25cmもある鉄板に体全体が埋め込まれていたのだ、顔以外が。

「お~お目覚めか、クズ男」と目の前に覚えがある男が。たしか御影と女を懸けて勝負していた奴だ。

「誰がクズ男だ!何なんだよ、これは!」

「君は日本人どころか男として最低なことをした。なので明日の朝まで君はこのロビーで一夜を過ごすことになった」

「はあ!?何だそれ!?フザけんじゃねぇぞてめぇ!!こっちはトイレも行ってないんだぞ!!」

「ああ丁度良いじゃねえか、漏らしとけよ。異性に酷いこと言って制裁を受けた記憶と一緒に一生忘れなくなるだろうぜ。んじゃっ」

「あの女子に自意識過剰って言ったことの何がいけないんだよ!俺からすればあんなの可愛いくも何ともねえのに」

 ドンドンッカカカカカカンッ。

 突然そいつは止まるなり振り向いて、懐から出した本物の拳銃でとんでもないスピードで俺を拘束してる顔の周りの鉄板に銃弾を当ててきたのだ。俺の周りにいた見物たちはすぐ逃げ出した。

「うあああっ、何てことしやがる!耳に響いたじゃねえか!鼓膜が破れたらどうす・・・むごっ!?」

 男は撃ったばかりでまだ熱い銃口を俺の口に突っ込んできた。

〈い、イカレてやがる!こいつ!〉

 俺はもう、涙目になっていた。


「一度しか言わないからよーく聞いて、覚えて、地獄の底まで持って行けよ?お前さん好みの女が高い条件付きなのはこの際どうでも良い。だがな、一人の女の子の心傷つけたらそれだけで大罪だ。いつまでもそのデカくも腐り切った態度を取れると思うなよ?」


 するとそいつは拳銃の撃鉄を下して、引き金に指をかけた。嘘だろ・・・!?

「ん゛―――!!」

 口に銃口を突っ込まれてて何も喋れないし、恐怖で何も分からなくなってきた。殺される!


 カチンッ。


 粋がり16歳男子が白目を剥いて気絶したのを確認すると、俺は既に弾切れ済みのマグナムの銃口を引き抜いた。

「他人の心を理解しようともしない奴なんか、本当の人生の喜びだって一生分かることもできないっての」

 


 箱根湯本の温泉街を歩く二人の男女の影が二つ。


 その影の話声は次の通りだ。


「良いカップル成立の瞬間だったね。私たちも早く普通のカップルみたくイチャつきたいな~」

「じゃあお前が大好きな兄から言わせてもらうぞ、俺達には普通ってのは似合わないからな?」

「似合うかどうかなんて、やってから決めれば良いでしょ?」

 そう言って俺の腕に絡みついてくるアイラ。

「ま、デートだからな」

 俺は彼女を、振り払ったりしない。妹とデートすることにしたのだからって、とんでもないワードだけどな。

「それで~♪私には何をくれるのかな~?」

 LUMEで他のデート内容がどんなだったのかを知っていたみたいで上機嫌なアイラには悪いが、俺は今悩んでいるんだよな~これが。

「・・・・・正直何も考えてない」

「へ?嘘!?ノープランってどゆこと!?」

「行き当たりばったりだ」

「それはちょっと女の子に対して良くないんじゃないの?」

「無茶言うなって。そもそも年頃の妹と過ごすデートなんかあり得ないんだから」

「混浴でいざ!兄妹で愛の確かめ合いを!!」

「アイラのお馬鹿ちゃん、エロアニメ知識は持ち込むなよ。それにさっ、温泉街で食べ歩きしながらってのも良いだろ?ほらっ、夏の箱根湯本で食べると言ったら、杉養蜂園のはちみつ入りソフトクリーム!みつです!みつです!」

「それで許されるとでも思ってるの?全くっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああでもやっぱり旨い」

 よっしゃぁっ!

 しばらくは二人で射的やら弓的、懐かしのモグラ叩き&ワニワニパニックと色々と温泉街を楽しみながら時間が過ぎていく。

「楽しいけど・・・・・やっぱりなんか特別感がないから唯さんたちみたいに何か頂戴っお兄ちゃん♪」

 ちっ、誤魔化せるかなと思ったがそう上手くいかないか。

「無茶苦茶じゃねーか。んな軽いノリであいつらに贈り物を用意したんじゃないんだぞ」

「お願いお兄ちゃん♥」と、わざと潤んだ瞳と共にお願いする妹。

「シスコンじゃないと言いつつそのお願いのされ方で喜んじゃう自分がいるけどやっぱりダメ、諦めなさい。お前も来年は高校生だろ?それくらい我慢しなって」

「ちぇ~、わかったよ。じゃあ物じゃなくて体でのお願いってことで」

「おい、振り出しに戻ってるじゃねえか。そういうのはNGだって・・・・・」

「はい引っかかりました~。お兄ちゃんもエロい方向で考えすぎ、私そんなつもりで言ったわけじゃないから」

「・・・・・くそっ、ハメやがったな。まあいいそれで?お前の言うエロじゃない体でのお願いってなんだ?」

 すると、アイラは両手を広げて次のことを頼んできた。

 

「おんぶして♪」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジで?」


 なんとアイラは、久々のおんぶを要求してきたのだ。実はこの子、幼い頃はよく俺におんぶをねだってたんだ。もちろん、あの『ブリテンの奇跡』事件の頃にも既にできあがってた。だから俺が世界一の頭脳持ちスーパーヒーローの如く体がボロボロなせいで車椅子が手放せなかった間は何度もねだられて大変だった。アイラにとってはおんぶが一番俺の存在を一番近しく感じられるから好きっていつだったか言ってたけど、年頃になってもやって欲しいと考えるのには驚いたな。

「さっきは我がまま言ったけど、私にとっての一生モノの宝物と言ったらこれだと思うよ。この世で一番カッコイイと思える男の人の背中に私の何もかもを預けれるんだから」

 温泉街の道中でおんぶされながらされてもらうことの意味を説くアイラ。感知能力で相手がどんな顔をしているのかを確認なんて野暮なことはしないが、自慢の妹が可愛い顔をしているのだけは分かる。そして俺も思わずにこやかに笑ってしまう。

「でさ、この特等席だけは他の誰にも譲っちゃだめだからね?」

「それ言ったら俺既に浮気しちゃってるな。エリを背負ったことあるし」

「え~っとじゃあ過去は全部免除、これから先!この背中は私だけのものだから!」

「っはは、善処するよ」





 お次はなんだ?シオリとのデート!なのだが・・・・・この子からはちょっとマニアックなお願いがでてきたのだ。

『太閤石風呂』。

 それは、1589年から1590年にかけて小田原征伐をやっていたエンが部下たちをねぎらうために作ったっつう岩風呂のことだ。

「蛇骨川の滝の音を聞いて大自然を感じながら岩風呂を楽しむ。昔はそれができたのに今はもうできないなんて残念だね」

「たしかにな、でも滝近くの地面に寝そべって感じ取るってのも案外悪くないな~」

「うん、このまま一緒に土になるってのもいいかも~」

「そうだな、そうすれば妹との既成事実をもみ消せるかも」と土を掘り始める俺。

「自虐行為はやめて。冗談のつもりだったのに」

「悪ぃ悪ぃ、俺の方も冗談だよ」

「お兄ちゃんのはギリギリ冗談にならないよ」

「そういや、二人共受験勉強頑張ってるか?妹にあれこれ言うタイプじゃないけど、しっかりやってるか?」

「問題なくできてるよ。お兄ちゃんたちと一緒に登校する日が楽しみなんだから」

「そっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なあ、本当にただこうやって寝そべってるだけで良いのか?」

「?これが私のやりたかったことだけど?」

「いややりたかったことなら別に良いんだけど、せっかくのデートじゃん?さすがにロマンチックの一片もないのはよくないと思うぞ?」

「えっとじゃあ、山で遭難ごっこでもして人気のない山小屋で二人で体を温め合・・・」

「OK.今度お前たちが隠し持ってるエッチな本全部売るぞ」

「むう、お兄ちゃんが何も考えてないらしいからここを選んだのに・・・」

「チョイスには難ありだと思うが?」

 するとシオリは起き上がって俺の手を握ってこう言った。

「じゃあお願いをもう一つ追加。早川に沿って一緒にかけっこしよ!」

「ふむ、久々の競走か。それなら、望むところだ!」



 さて、流れる川の如く岩と木々を飛び乗ったりぶら下がったりして走っていく俺達をバックに、彼女の秘密を少しバラそうか。この作品を読み込んでる読者のみんなは知ってるよな、シオリの正体が実は俺が創造した唯一の生物:本人曰く“妹ろいど”だってことは。それも親父たちの軽い談義が切っ掛けで。知らない人がいたらネタバレでごめんな?

 やったのは2103年の杉田宅『ガレージ』でだ。発案者である両親はもちろん、当時俺ん家に滞在してたエリも、呼び出されたトラ、猪之助、ブラッキー、そしておやっさんの7人が立ち会っていた。あ、ボニータもいたぞ?

 俺は二つの手術台を、一つはアイラを寝かせる為、もう一つには新たな妹を創造して寝かせる為に用意した。この頃にはもう俺の創造能力に制限はなく、何でも思い通りの物を生み出せていた。だが生物を創造する際にそんな疎かな考えで作るわけにはいかないと思い、アイラの体をボニータが徹底的に分析したデータを元に双子の妹として創造することにしたんだ。骨格・脳・DNA・細胞・各内臓の造り・筋肉・皮膚全てを同じにした。だが双子とは言っても同じにしてはいけない部分もある、静脈に指紋、眼球、そこは違うように創造しなければ。そしてここが重要、これから生まれ生きていく妹にどんな風に人生を送って欲しいか、それを念じてこそ生物を創造するに大事なことだと当時は思ってた。でもそれをやった結果、予想の斜め上なことが起きたんだよな、これが。

 俺は次の通りに念じて創造した『この子の一生がいつ如何なる時でも健康でいるように』と。

 一見ただのお参りでお願いする時の定番的なフレーズに思えるけど、この『いつ如何なる』が結構キーになってるんだ。

 37発目でシオリが普通に戦えることと兄妹と同様電気を操れることも知ってるよな?ほとんどアイラと同じ体で構成されているから電気を操る能力が備わるのも必然的だ。操れる電気が小規模なのは、創造する過程でアイラとは違う部分があるからだ。じゃあ戦闘能力に関しては?実のところシオリは見様見真似でやっているだけで別に特殊な訓練は受けてないんだ。なら何でこんなにも素早く動けるのかって?

 シオリの体はどんな時でも健康であり正常。そうつまり、どんなに運動しても“疲れる”ことがない、言わば“小規模の電流を操る能力”と“疲労することなく活動できる能力”の二つをシオリは有していることになる。今こうして俺とかけっこしてるけど、ほんのちょっとだけど俺の方にだけ疲れがある。つまりあれだ、シオリに持久走で勝負を挑むのは自殺行為も同じことってワケだ。

 話は現実に戻って、かけっこの最終地点にした湯本で俺だけが休んでいた。

「うおお、お・・・・・流石に5km以上もぬかるんだところをぴょんぴょんし続けるのは少々キツかったかもしれないな」

「衛生兵でも呼ぶ?」

「今の俺に衛生兵はいらねぇよ、年寄りな部分を治癒能力で補えるんだからな。かと言って今能力使用は負けた感じがするからしないけど」

「年寄りは頑固だね」

「かもな。そんなに余裕があるなら、一周して来いよ。・・・・・・・・行ってきた?もう一周してきた?クイックシルバーみたいに」

 するとシオリは右手で俺の喋りを制し、腰を低くしてこう言った。

「私は“オールサイン”、音速移動能力は持ち合わせていないから」

「“オールサイン”?何だそりゃ?」

「“すべての道標”って意味を込めた私のヒーロー名、どうせ名乗るならこれかな~?って最近考えたの。お兄ちゃんとお姉ちゃんならいつだって見つけてくれるから」

 たしかに、シオリには俺とアイラのように電波を経由しての意思疎通ができる程の操作力は無いが、この子がいる場所は感知できる俺達にならすぐ分かるんだ。

「いざって時には私がチームの道標になるようにってね」

「・・・・・その時が来たら、絶対無茶はするなよ」

「分かってるって。お兄ちゃんがくれた命なんだから、粗末になんかしないって」



 次は最後のデート、ペティとの時間だ。

 何度も言うが、彼女はやっぱり大人びてる。俺がかけっこ疲れてるであろうと温泉街をただ散歩するだけで良いって気配りも上手だ。こういう部分には本当に惚れ惚れしちゃう。そして、この後の態度にもだ。

「それで、ぶっちゃけ誰を正式な彼女にするか決めてあるの?」

「・・・・・選んで欲しいのか?」

「私は選ばなくて良いよ」

 ありゃ?意外も意外な返事が来たな。

「私も遅れてギラに惚れた女の一人なんだから、一番にはなれないのは分かってる。たまにこうしてあなたの傍で寄り添うだけで十分幸せだし」

 そう言って彼女は繋いでいた俺の手を両手で包み込むよう大事に優しく重ねてきた。

「・・・・・・・まあ、俺も好きだよ。こういう単純なのもな」

「!?」

 返しとしてはなんだが、俺もペティの手をゆっくり引いて大事に優しく抱いた。

「・・・・・ラブホ行く?」

「台無しじゃねーか」



 その後、デート終了間際で俺達はある温泉旅館に辿り着いた。

「最後に行きたい場所ってここ?」

「ああそうだ。多分みんな中で待ってるぞ」

「みんな?」

 建物に入ると、唯・奈々・実央・巴・広子・エリ・アイラ・シオリ・ヒナ・好華・クレア・ラスティ・ロザリア、そして古賀さんが玄関内で待っていた。

「抜け駆けしてないよね?」

 真っ先にする確認がそれなのかよ。

「大丈夫、してないから」と落ち着いて返事するペティ。

「それはそうと、古賀さんまで連れてきてるけど本当に良いのか?」

「私は良いよ~。むしろ杉田君の体に興味津々~♥あと古賀さんじゃなくて流留でいいよ~♥」

「あそう?じゃあ俺も杉田君じゃなくてギラ君でオナシャス」

〈流れるように呼び名決めちゃってる・・・・・〉

 俺と流留以外全員が今こう思っただろうな。

「そういうギラだって・・・・・ここの温泉『混浴あり』って書いてるけど、良いの?」と唯。

「・・・・・裸の付き合いはお嫌い?」

「「「「「「「「「「「「「「「いえ、全く!!」」」」」」」」」」」」」」」

「じゃあ入ろう。その乱れ切った思考、少しは湯と一緒に洗い流せよ」

「乱れ切ってるのはこの作品だと思うけどな~」

 奈々の発言に俺以外の全員が頷いた。

「そのマジな意見、やめてもらえる?」



 混浴は大らかで牧歌的な雰囲気が漂い男女の垣根を越えることができる場所である。最近ではどうしてもピンクなイメージもチラホラしてしまったりするが、本来性別など気にせず人類皆家族!っと考えてただ風呂を楽しむ為のものだと分かっていれば、誤解なんぞ無くなるというのに。では、混浴風呂に入った途端彼女たちが取った行動がどんなか想像できる?こんなだ。


「「「「「「「「「「「「「どうぞおおぉぉぉぉ!!!お好きな杉ガールをををっ!!!」」」」」」」」」」」」」

 ペティと流留を除いた、直角90度に我こそにと手を差し出す一糸纏わぬ姿の女性たち。

「昨夜と同じであって人数も格好も違うだけでヤッバーい絵面ってどゆこと!?良い意味でだけど!」

「ホントにあんた動じないねぇ。こんな姿のあたいらなのに自分に魅力が無いんじゃないかって薄々疑っちゃうよ」とラスティ。

「長生きで培ったノウハウだ。覚えとけ金髪verジェシカ。選定は風呂を楽しんでからでも良いだろ?ほら、茶だって用意できるんだからよ、飲め飲め~!」

「絡み方が完全におっさんじゃない・・・・・」とロザリア。

「中身おっさんですが、何か?」

「まあギラの言う通り、せっかくだしみんな飲もうよ」

 みんな取りまとめてくれるエリ、ナイス!

「そんじゃ、続けてみんなで一曲歌いますか。これは多分みんな初めてだと思うから歌詞を配るぞ

~」

「あ、『与作』だ~。私大好き~」

「お!良い趣味してんじゃねぇか~。なら最初一緒に歌うか?流留」

「もっちろん♥」



 これらが集まると何になる?

 『初めての贈り物キッス』『ハートロマンスな決闘』『王子様と一緒に馬乗り』『ゲシュタルト崩壊から羞恥プレイ』『暖かい抱擁』『愛を確かめ合うガチンコデート』『人類の真理への到達』『指切りげんまん』『勝利の念にお返しのキッス』『スプラトゥーンな肝試しデート』『詰まらせちゃった太陽のホース』『背中大好きっ子』『どこにいても見つけることができるランニングマン』『たまにでも構わず寄り添えて幸せ者』。

 答えは、やっぱりハーレム作品だ。

 そんじゃあ、ヘイヘイな彼女たちと声を揃えて、ホーホー平和な歌を箱根に響かせ、トントンと幸せな時間を過ごしましょうか~。




















 歌い終わった後もみんながお茶を飲んで盛り上がっている中、俺はある女性の傍に近寄り相手の目を見て自分の願いを打ち明けた。

「実央、正式な彼女として俺と付き合って下さい」

「ッ!・・・・・はい、喜んで」







 はい!というワケで遂に主人公も腹をくくることを決めました!『とんでもデート大作戦編』いかがだったでしょうか!

 実はこの話を年内には投稿しようとちょっと必死になっちゃってました。

 それでは皆さん!まだまだ厳しい時期ではありますが、2021年もうがい・手洗いを忘れずにまだまだ執筆し続けます!弾丸の如く!!よいお年を!!



 

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