43発目 “心理”と“確認”と“憧れ”、そして“罪の意識”。
「お前とこうして生身で一緒に歩くのも5年半前以来だな」
「お互い変わったと言えば、私はシュワーペンを改良して着脱に苦労しなくなったな。ギラは“白髪”と“癖”ができたってところかな?」
「う~ん、色々と濃すぎる16年を過ごしたからっ、(急降下中)だいぶ変わってても良いとは思うんだがな」
「ギラの場合は“一周回って戻った”と言うべきじゃないか?」
「たしかに」
奈々とのデート(決闘)を終えて、今度はクレアとのデートだ。
今は好華とも乗ったドロップタワーのブルーフォールに搭乗中である。
ただ、くノ一っ娘たちとは違って、どうやらクレアは俺と同様平気だったみたいだ。マシンが上下を物凄い勢いで移動していて他の一般客はキャーキャー騒いでるのに対し、俺とクレアは淡々と会話しているのだった。
「絶叫系は失敗だったな。写真撮っても絵にならん」
「降下してる時に髪が逆立ってるのにそこら辺で何気ない会話してる感の表情が逆に恐怖を読んでるな」
自撮りした写真を二人で鑑賞してみてこれはないわ~な感想を語り合ってみた。
「お前の聖鎧が絶叫系アトラクションを味わせてるようなモンだからじゃねーか?だってあれ、当人を安全レバーという名の鎧で体を抑えつけて飛んでるんだし」
「それを言うと“私の戦闘は毎回絶叫系アトラクション体験なのだー!”になってしまうんじゃないか?」
「つまりクレアの騎士道は単なる遊びだったということに」
つい哀れみの目で言ってしまう俺。
「認めない!私は認めない!!」
と、全力で否定するクレア。
「しかし参ったな~。もう少し考えてれば最初っからアトラクションじゃなく水族館に行ってたのにな。今からじゃとても入れないし」
いくら夕方に入ってるとはいえ、アトラクション巡りを終えた生徒たちも今ぞと水族館に集中し始めている時に残り30分では中身の完全堪能は無理だ。
「じゃあ小規模アトラクション巡りは?」
「あいや、それだと巴の内容と被っちゃうし・・・・・」
『他の女の子と同じ内容ってことは私は特別じゃないの!?』っとか、女性はそういうのを気にするものだ。そういうところを適当にしてしまうのが男性だから注意しなければいけない。それもできてこそのデートだ。
「じゃあ小規模アトラクション巡りをしながら心理テストやるなんてのはどうだ?」
「え゛!!?」
俺は、戦慄した。
「何でするの!!?」
「いやだって、飛んだり剣振り回すしか能がないお前の口から理系の“り”の字すら出ないと思ってたんだもの。何がお前を変えたんだ?」
「今!デートするきっかけになった恋がそうに決まってるじゃないか!!」
「なるほど!たしかに!!」
「なんでみんなそうやって失礼な態度取るのかなぁ!!?」
「?みんなって?」
「あ・・・と、とにかく巡りながらお互いにテストを出し合おうじゃないか!!」
顔を赤くしながら俺の手を引くクレア。
はは~ん。これは唯たちにも同じ反応をされたクチだな?
ピーターパンにて。
「まずは、『あなたは独立起業してカフェを経営しようとしています。それはどんなものだと思いますか?』
1. おにぎりカフェ
2. ダーツカフェ
3. マカロンカフェ
4. 点滴カフェ
どれにする?」
「う~ん、3のマカロンカフェだな。やっぱり万人受けが良い店じゃないとダメだからな」
「3を選んだあなたは、『美的で理想的な空間を作り出す、生活に潤いをもたらすようなライフスタイルを提案できる創造力を持っている』だそうだ」
「俺が美的ぃ?全然合わないな」
訝しく思うギラを見て、
〈多分殿下を含めこの男に惚れている女性たちは納得するんだろうな・・・〉
と考え、自分も答えに納得するクレア。
「じゃあ今度は俺だ。『一件のアパートにしばらく住むことになりました。家賃はタダですが同居人は妖怪です。誰となら一緒に住めますか?』」
「私寂しい人扱いなのか!!?」
「実際そうだろ?名目上エリというでっかい看板お忍び女王の付き添いってのがなかったらお前今頃エスペランサの地下で足踏みしてるだけのブリキの兵隊扱いされてたぞ。主人公に気がある素振りをしておきながら結局あまり絡むことなくヒロインルートから抹消される忘れられキャラだな。挙句の果てにアンナさん以上の腐りきったオタク女子にもなりかねなかったかも・・・・・」
「私の存在ってそんななのか!!?」
少々不安な気持ちになっている私をギラは無視する。
「まとにかく選択肢はこう、
1. 雪女
2. のっぺらぼう
3. カッパ
4. ろくろ首
さあどれだ?」
「え、ええっと~、じゃあろくろ首で!」
「4を選んだあなたは、『他人と一緒にいたい人・知らない世界へも何のためらいもなく飛び込んでいける・冒険が過ぎて周りから心配されることも多い』だとよ。おうおう~、お前寂しがりやだったのかよ~、それでエリについてまで日本に来たってことか~」
「や、やめろベタベタするな!!」
〈やはり、お前は照れる顔が一番かわいい・・・!〉
と内心思うギラ。
所変わってドランケン・バレルにて。
「それじゃあ『あなたが一人旅に行くならどんな旅を・・・」
「ストップ。“一人旅”ならもうやったからそのテストはやるまでもない」
「ああそっか、“あの事件”の前に地球を回ってたって聞いたね。このテストの答え通りだとやっぱり『人生の目的探し』をしていたのか?」
「あの頃は何の目的もなくぶらぶらしていた時期だったからな~。無意識のうちでならもしかしたら探してたのかもしれないな、実際最終的には目的思いついてたし。んじゃ俺から、『手のひらを広げた一枚の写真があります。あなたはそれを見たとき何のサインだと感じますか?』
1. ちょうだい
2. じゃあね
3. やめて
4. 待って!
さあ決めろ・・・」
「ダンジョンのボスみたいな言い回しはやめて欲しいんだが・・・・・待って!で」
「『他人に一歩譲ってしたいことを我慢してしまう不満が渦巻く暗黒面を抱えている・非常に自分に厳しく、他人に甘えてはいけないと思っている』。・・・・・遠慮しなくても一歩も譲らないで全てをさらけ出しても良いんだぞ?無人島に流れ着いたりで孤独になっても、普通の鎧だけじゃなく心の鎧も捨てて世界と一つになったって誰も責めたりはしな・・・」
「私はそこまで卑屈になった覚えはない!!」
「なら俺とでその島でのアダムとイブになるか?」
「そんな独り占め=殿下を裏切る行為だけは・・・・絶対しない」
無人島生活を想像したのか、間をあけて赤らめて強きの口調を緩めてしまうクレア。
「見たぞクレア。貴様がたった今出したダークサイドを」
「だから悪役口調はやめろ!」
まあ俺が関係している以上、遭難は即解決するだろうけど。『遭難ですか?いいえ、すぐ日常に戻るでしょう』だから。
バイキングにて。
「ここからは選択肢無しでのテストで行こうと思う。答えも一緒に見るっていうのはどうかな?」
「それ良いな。よしそれで行こっか」
「『赤いバラと白いバラがあります。両方合わせて10本になるように、選んでください。1色10本でも構いません。』私だったら白バラがある方が良いから、白6本・赤4本だな」
「俺は赤一色だな。クローン・ショックトルーパーの赤白マーキングは好きなんだけどな~」
「え~と答えは・・・・・」
クレアの携帯画面の内容はこうだった。
『あなたのSM度がわかります。赤はS、白はMを表します。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・今度、三角木馬やってみる?」
「私は広子とは違う!違うからぁ!!」
必死に否定するクレアだが、悪いな。もう2回目の時のお前へのプレゼントコース内容は確定しちゃったから。
「次は俺だな。『あなたは、階段を昇っています。しかし、急に進めなくなってしまいました。それは何段目でしたか?』俺は一気に全段昇り上げたいな」
「私は3段目で止まっちゃうかな。鎧着てると足って階段じゃ特に動かしづらいからな」
「いや、別に鎧仕込みで考えなくても・・・・・まあいっか。答えはっと」
俺の携帯画面の内容はこうだった。
『何段目かは、あなたの精神年齢をあらわしています。』
俺はともかく、これって・・・・・。
「・・・・・幼児プレイも追加?」
「いちいちアップデートするなぁ!!」
レッドバロンにて。
「『あなたは、長い行列に並び、やっと超有名店のケーキを手に入れることができました。その瞬間、あなたは何て言いますか?』私は・・・・・・“やっと食べられる~”だ」
「“この時を待っていたんだ。さあ一緒の時を過ごそう!”だな!」
「ポエムテイストだな。それじゃあ答えは・・・・・すまない、今のは無しで次に・・・」
「はぁ?何でだ?また自分に都合が悪いテストだったのか?」
「理由は・・・言えない」
「?」
これはデートの後で俺自身が調べて分かった答えだが。
『あなたが告白して成功した時の言葉がわかります。』だと。
・・・・・ありがとな、クレア。
アトラクション巡りも終わってアクアミュージアムへ向かうシートレインに乗車中。
「『あなたは、公園で雑誌を読み終わりました。読み終わった雑誌をどうしますか?』持ち帰るわな」
「私も同じだ」
で答えはこうだ。
『老後の両親に対する行動がわかります。』
これには俺達も表情を緩めざるを得なかった。
「お互い、良い親孝行をしたいもんだな」
「ああ。それではそろそろ時間だから、私からのテストで幕引きにするか。『森の中に家があります。その家の食卓の椅子は、何脚ありましたか?』たくさんあっても損はないだろうな」
「同意見だ。俺もたくさんの方が良い。で答えは?」
彼女の携帯画面はこうだ。
『椅子の数で将来、家族が何人欲しいかがわかります。』
この時、俺とクレアはちょっとした“心理”テストで世界の“真理”を垣間見、そして悟った。
“人類皆、異世界の枠を超えてもエロい”
ということを。
「悟った上で考察した結果、人類が最も幸福と感じられるのは子孫繁栄であって交尾を増やすことが大事であるとの結論に達した」
「壊れちゃった!?」
クレアとのデートを終え、今度は実央とのデート・・・なのだが、水族館のチケット売り場前の列に並んでいる中、俺の周りの客が俺に注目しているのだった。中には蔑んだ目で見る学校の生徒も。
「つきましては水族館鑑賞の後にサービスデートとしてラブホテルへ直行という計画もありますがいかがでしょうか渡辺様」
「えっと~、雰囲気ぶち壊しになっちゃうからとりあえず無しのプランでお願いね。あとその袈裟姿はすぐやめて」
「齋服の方がよろしかったですか?それとも浄衣が・・・・・」
「いいからその他人行儀をやめてってば!!」
ドンッ!!
実央が技仕込みの押し出し張り手を俺の胸板に一発打ち込んだと思ったら、なんと俺は自分の目で鏡も使わずに倒れる自分の背中を見ている!そう!見ていた!!
あ、これって訓練の時に実央が言ってた技?
「少し冷静になりなさい」
『・・・・・はい』
強制幽体離脱させられた。
アクアミュージアム入口にて。
「あの~お客様。たしかにチケットは2枚ありますが、彼氏さんは大丈夫なのですか?」
魂が抜けてしまった俺の体を、マントのように背負ってる。不自然に見えないようにしてるのだろうが結局係員に心配されてしまった。そんな様子をフワフワと浮かびながら見る俺。
「大丈夫です~、入ったらすぐ魂を戻しますので」
「魂!?戻す!!?」
『そこは包み隠さず教えちゃ駄目なとこだろ・・・・・』
その後、無事に魂を体に戻してもらい、水族館鑑賞を楽しみ出した俺たち。
『LABO3:海で進化した動物たち』
ここはアザラシが見れるコーナー。
「実は俺、大人のアザラシには昔は別にって思ってたんだがある日を境に今ではちょっと抵抗感があるんだよな~」
「あれ?意外ね。私は子供でも大人でも可愛いって思えるけど。どうして?」
「ピン〇ーのとある夢オチのせいで」
「?」
最近では実央もそうだし唯や剛とも作品を一緒に見たりで共有できてたりしていたが、やはり世代の壁はまだまだ壊し切れていないな・・・・・。
『LABO4:氷の海にくらす動物たち』にて。
ここではホッキョクグマ・セイウチ・5種類のペンギンたちが展示されている。
「地球温暖化が止まったのって、あなたの仕業?」
水に飛び込むホッキョクグマを見て、かつて地球温暖化が進み北極・南極の氷がなくなっていきそこらに住む動物たちが困っていたという“歴史”を思い出したのか、実央は突然俺に質問をしてきた。
確かに、温暖化の直接的な理由になっている温室効果ガスに対しての酸素の割合と、北極と南極の両方での氷山は世界的にもここ13年間増え続けていることが観測されている。最初に増えたことが観測された時期と俺がこの創造能力に目覚めた時期は重なっている。それもそのはず、俺が酸素と氷山を勝手に増やし始めていたからだ。
「何も消費することなく生み出せる能力。これが発現して俺が真っ先に思いついたのが、“飛んでどこかへ行くこと”だった。初めは能力に際限がついていて今のようにジェットパックも簡単操作で飛ばせる勝手な改造を施した飛行機も創造できなかった。創造できたとしても、お気に入りの大昔の戦闘機を3分の2サイズで出せるだけ。古いマニュアルを頼りに操縦に慣れるしかなかった。でも俺には十分な時間がある、それだけで良かった。完璧な操縦とまでは言えなかったが、半年で一人で海外を行き来できるまでにもなった。その間でどこへ行きたいのかを考えた先が、北極だった。氷山をこの目で見てみたい。その思いで俺は零の翼を北へと運ばせた」
13年前のことを展示場の動物たちを見ながら歩いて、彼女に説明した。
「もう何を聞いても驚かないから。それで、初めての北極の感想は?」
「残念ながら俺の勝手な想像とはかけ離れていて、あんなに画像写真では絶景だった氷山が減り過ぎていてショックだったな。そこで思いついたんだ。“あの絶景だった頃の氷山を復活させよう”ってな」
「3歳児の頃からそれを戦争の間にもずっと?」
「酸素の創造は俺のライフワークの一部、氷山の創造は俺の年に一度のスペシャル・ワークだからな」
「・・・・・夏休みにまた行くの?」
「一緒に行きたいのか?」
「違う。“みんなで”行きたい。ギラ君が13年かけて作った北極の氷山がどんななのか私もみんなも見てみたいだろうし・・・・!?」
ペンギンの展示室に落ち着いたところで、俺は実央の肩を引いて抱き寄せた。
「お前のもっともらしい願いだな。わかったよ」
指切りげんまんをした。
「・・・・・うん」
『LABO2:海の宝石 シェルリウム』にて。
ウミウシや貝の仲間を展示されているコーナー。ここはそれだけじゃなく、
「良いの?本当にするの?」
「ああ、実央とのデートなら最後はここにしようって決めてたからな」
その場でアコヤガイの『真珠取出し体験』ができるのだ。
取り出すのにそれほど時間は擁さない。
でもこの間に、俺は色々と振り返ってみた。
今日一日ですでに7人とのデートを終えている。
こうして今も“彼女”らしいことをしてくれている女性が俺の目の前にいる。
色んなエスコートを考えておいて何というか、内心はやっぱり恥ずかしい。
俺は前世では常に“見ている側の人間”である立ち位置をずっと経験していた。
同僚の結婚だとか先輩の結婚だとか、色々あった。
時には他人の恋に口を挟んじゃったりなんてこともあったっけか?
新しい人生が始まって何も考えずに5年を過ごした。
家でも両親の仲の良さを見るばかりだった。
しかし、そんな立ち位置は11年前からとっくに消えていた。
そうさせてくれたのがエリを始め、出会ってきた女性たちだった。
だが、泉に惚れアプローチをかけていた間・例の暗黒物質が体を蝕んで短い生涯だと思っていた間・泉を自分の手で殺して引きずっていた間はずっとみんなからのアプローチを拒んでいた。
話は現実に戻る。
別途料金が発生するが客の注文次第でアクセサリーへの加工も頼める。自分たちの真珠を取り出すと俺は、スタッフに頼み込みながら実央に聞いた。
「何のアクセサリーが良い?金は俺が払っとくから」
「ええ!?いいよ、自分で払うから」
「ここは俺の男を立ててくれよ」
「・・・・・財布状況は大丈夫?」
「傷どころかシミにもならないさ」
「じゃあ、ブレスレットで」
スタッフに二個の真珠をそれぞれブレスレットへ加工を施してもらいしてもらい、会計を終わらせてコーナーを出た後、俺が自分のブレスレットを左手首に付けようとしていたら。
「ちょっと待ってギラ君。私が付けてあげる」
そう言って実央は、やはり“彼女”らしいことを進んでしてきてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「はいでき・・・・え!?な、何?どうしたの!!?」
気づいたら、俺は実央を抱き締めていた。
あまりにも突然の行動に彼女も戸惑っていた。
俺も戸惑い、慌てて離れた。
「・・・・・悪ぃ、今一瞬意識がなかった。抱き付いてすまない」
「いやいいよ?悪くなんかないし嬉しいし・・・・」
俺が少々暗くなってたのが原因でデート終了間際で変な空気になってしまった。
突飛な行動をしたのは俺だ。
なんとかしなければ。
「・・・・・なあ実央。今でもバラは好きか?」
俺の質問に彼女はにっこり微笑み、こう返事してくれた。
「ええ、バラもだし、スターチスも等しく好きよ」
「そうか。いつまでも実央でいてくれよ、その真珠のように」
花言葉は一つだけでも色々。
バラは、『幸』もあれば『愛』もある。
スターチスも、『記憶』もあれば『永遠に変わらない』もある。
そして、真珠にも意味が色々ある。ギラが彼女に贈った意味は『純粋』だ。
実央とのデートが終わってアクアミュージアム出口から急いで唯と待ち合わせ場所の入口へ直行した。
ジェットパック付きアーマースタイルで。
と、思ったら感知能力でもう一人見慣れた人物が待ち合わせ場所に向かって飛んでくるのが分かった。
唯だ。
彼女もファイア・ジェットで飛んできたのだ。
そして二人同時に入口前で、スーパーヒーロー着地!
「遅れるような用事でも?キャプテン」
「ガールズトークが盛り上がっちゃったもんだから。チケットはある?トルーパー」
彼女の質問に対し、アーマーを解除して二枚のチケットをちらつかせながら答える。
「抜かりなく。行こっか、唯」
「こんな日をずっと待ってたんだからね」
そう言って唯は俺の腕に絡みついて来た。
『LABO11:フォレストリウム』にて。
樹上のいきものコーナー。
レッサーパンダがいる場所。
「あ、立ち上がった」
「あれ威嚇のポーズだからな」
そして、看板の説明書きによるとこのレッサーパンダは雄らしく、見たところ他の4匹のレッサーパンダは2組のカップルみたいだ。その中で手をつないでいる俺と唯を見て威嚇するということは、『リア充死ね』ということなのだろう。
・・・・・頑張れ。
森のこみちコーナー。
フラミンゴやカピバラがいて、間近で体験できる場所。
唯は今、カピバラに夢中だ。
「大人しい動物といるとなんだか和やかな気分になることってあるよね~」
「・・・・・唯、聞いても良いか?カピバラが何の種類かお前知ってるのか?」
「?こんな大きさなんだから鹿とかの仲間なんでしょ?」
「・・・・・ネズミだよ」
その時、真実を知って固まった唯の指に熱が高まり、愛でられていたカピバラは彼女から逃げ出した。
水辺の生きものコーナー。
コツメカワウソがいる場所。
「なんだかこの前の獺を思い出すね・・・・ギラ?」
俺は囲いの中のカワウソで妙に人間みたいにくつろいでいる二匹がいたもんで試しに塩を撒いてみた。すると、
「「おっち!うちっ!?」」
ふりかかった塩が少々体を焼いたみたいで怪しんだ二匹は悶えた。完璧じゃない人間語を発して。
当たり。やはり妖怪の獺が紛れていた。
「したたかな奴らだな~、妖怪は」
「・・・・・だね」
唯も少々呆れていた。
『LABO8:夜の海に潜む魅惑の魚たち』にて。
キンメモドキなどの小型魚が身を寄せ合って泳いでいる中、ここで特に目立っているのがシュモクザメとシロワニだ。
「シロワニの生態って知ってるか?」
「全然。何か特徴あるの?」
「あのサメの雌って子宮が二つあってな、それぞれでたくさんの卵ができているのに最終的にはニ匹しか生まれないんだ。何故だと思う?」
「?えっと・・・・・卵が、育たない確率が高いとか?」
「違う。これは母親のお腹の中で起きていることだが、一つの子宮の中で一番最初に孵化した赤ちゃんシロワニは周りにいる未受精卵や孵化していない兄弟を食べちまうんだ。いわゆる共食い型ってヤツさ」
「ええ!?兄弟を食べちゃうの?」
「そうさ。もし人間にもこういう凶暴性があったらと思うと今までの歴史がひっくり返ると思わないか?」
「でもそれ双子か三つ子とかじゃないと成立しないんじゃ・・・・・」
この時、一卵性の話をした時点で俺達は、全く同じことを考えてしまった。
〈〈“あの六つ子”、今の設定を組み込んだら絶対五男だけが生き残りそうだな・・・・・〉〉
『LABO5:大海原に生きる群れと輝きの魚たち』
「ギラって、人間以外でなりたかったものってある?」
「・・・・・前世では晩年の時以外でならゾウガメだったな。俺、長生きしたいって思ってたからな。唯は?」
「私は~、イルカかな?今じゃ能力のおかげで空を飛べるようになってるけど、水蒸気爆発の関係で水の中は水遊び以外では遠い存在になっちゃってるから。もし人間以外ならイルカになって世界中の海を泳ぎたいな~なんて」
それは知ってるのかよ・・・・・。
唯の場合、水蒸気爆発すら知らなくて今度教えようと思ってはいたが、本人もちゃんと気にしていたらしい。
「ところで“今”は何に憧れてるの?前世での憧れがゾウガメなのは分かったけど」
普段は結構天然お馬鹿なところがあるくせして、なんか妙な所には鋭い唯が質問をしてきた。
「・・・・・憧れなあ・・・・・。まず100年以上も長生きし、予期もしなかった同じ人間への生まれ変わりを果たしちまったから、ゾウガメへの憧れもなくなるどころかこの世への未練もないって言い切れてたからな、16年前は。1年半前には心も体もボロボロで未練たらたらな対象だった泉と一緒に死ぬ!もうこの世とおさらばしたいって考えてたのに、今度は彼女によって今も生き続けている。二度も死に損なっておいて何かに憧れを抱いて良いものか?って時々思うよ」
俺は昔のことを思い返し、唯に語りながら展示されている魚たちを鑑賞し歩く。
過去のことでちょっと寂しげになった俺を見て元気づける為か、何かを言おうと捻る唯。
「・・・・・ならジンベエザメはどう?」
「ジンベエザメ?何でだ?」
「ジンベエザメって大口を開ける割にはプランクトンさえ食べれば生きていけるでしょ?ギラも大きい口=大きい心を持ってプランクトン=大事な仲間を生きるために取り込むって考えれば良いんじゃない?」
「何て言うホラー映画なのそれ!?本日二度目に聞いた猟奇的発想だな!」
「ほら!元気になった!」
俺がツッコミをすると彼女は指摘し、喜んで笑った。
「それにさ!私も生まれ変わったらイルカなんだから、その時は一緒に色んな海を泳ごうよ!!」
『それ決定事項なのか?』と続けようかと思ったが、彼女の純粋な笑顔を見ていたらそんな気は失せていった。
「っはは、もう一度寿命を終えるのに何十年もあるんだ。生まれ変わってからと言わずこれからこの地球上の海・異世界での海も泳ぎまくろうじゃねえか!!」
「そうそうその息!そして何だったらみんなで一緒にぃっ!」
「あの~お客様。盛り上がっちゃってるところ悪いんですが、もう少しお静かに。他のお客様のご迷惑になるので」
スタッフに声を掛けられはっとする俺達。
気づいたら、周りは魚ではなく俺と唯に注目していた。
「「・・・・・・すいません」」
勝手に盛り上がってて、すいませんでした。
注意を受けて以降はちゃんと水族館鑑賞をし、そして出口の外に辿り着いた。
「さっきの話をしてて気になったことがあるんだけど。変わったって言ったらギラ、最近すんごく笑うようになったよね。正直最初の印象ってだらけててあんまり笑わないのかなって思ってたよ」
ふと思い出したかのように唯が俺への評価を話してきた。
「まあ自分で言うのはなんだけど、元々すんごく笑う方が俺なんだけどな。唯から見てそういう風に見えたんなら、それは失恋もしくは今までの失敗で亡くした仲間のことで引きずっていたから。だが本当のことを付け加えるとすれば、初めて話しかけてきたお前や剛を、最初は“心を許していなかったから”だ」
「え?でも、好きな映画や雑誌の話をしたりとかしてたのに・・・・・」
「許してたら相手の過去を掘り返すようなことをする必要があるか?」
そう返すと唯は黙ってしまった。
以前、二人で訓練途中に唯の能力の発現時のことを話し合っていた。俺はその時、唯の覚悟を聞き出す為にお爺さんのことを知りながら隠しつつ鎌をかけていたことを明かしたから彼女も理解した上での反応なのだろう。
「俺は11年間戦いを重ねるうちに人を疑り深くなった。剛と同様に話しかけてきたその日に唯の素性を調べてた。調べる前から無害そうなのは分かってたが、まあそもそも平和の国:日本に住んでいる二人の何を疑うんだって話だけどな」
「・・・・・ギラは、誰かに裏切られたことがあるの?」
俺が疑り深くなった原因を考えたのか、そんな疑問を発する唯。
「・・・・・いいや。裏切られる以前に嫌な奴ばかりの戦場にいたからこうなったんだ。けど忘れるな?俺だって唯が思ってるほど良い奴じゃない。今この開拓し尽くされた地球で戦争を許すことこそが人類の間違いであり文明人の罪なんだ。引き起こすのが文明人である以上はな。誰が勝とうがそれを肯定しても絶対に罪だ。つまり、特別な力を持って生まれておきながらオークの存在に気づかず開戦を許した俺やトラたちも罪人と言われてもおかしくない。いつか、俺達の素性を知ってそう説く学者が現れても何ら不思議じゃない」
そろそろ臨海学校の自由時間が終わる。俺は集合場所に行こうと唯に促して歩き出そうとすると、
「なら、あの戦争以上に良いことをやり続ければ良いと思う」
背後にいる唯の一言で立ち止まり、振り向いた。
「一説だとか理論だとか、そんな難しいことを跳ね除けられるくらいたくさんの人を助けていけば、地球の人だって、異世界の人にだって分かると思う!!」
単純明快、純真無垢、まさにその通りだった。
平和の国で生きた人間にしか出せない言葉が俺の心に響いたのを、たしかに感じ取った。
「こういうのを何て言うんだっけ・・・・・21世紀初頭で流行った『10倍返しだ!』とか『100倍・・・・・』」
「キャプテン」
「は、はい・・・・・」
唯の顔を抑えてお互いの顔を近づける俺。そして、
「俺達はどこまでも行く“弾丸”だろ?何事も数を付けちゃ制限になっちまう。俺達がやるんだったら?」
唯は俺のフリにようやく気づくと、俺の手を離し笑顔付きで俺と声を揃えて言った。
「「『“無限倍返し”!!』」」
「よくできました~。それとありがとな元気づけてくれて」
頭を撫でられて微笑む唯。
「うん!」
この唯の純粋さには救われるもんだ。これがあってこそキャプテンを任せられるのだ。
「そうだ、弾丸のネックレスをちょっと貸してくれ」
「え?良いけど、何するの?」
「まあ見てなって」
俺は貸してくれたネックレスの弾丸の弾頭部分を創造したペンチでペキっと取り外した。
「え!?何で!?」
何故こうするかって?代わりの物を付けるからさ。
「さあできたぞ。どうだ?」
唯は受け取るとその変わった弾頭部分を見て驚愕した。
「ギ、ギラ。この赤いのって、まさか・・・・?」
「ああ、ルビーだ。実央とのデートでも真珠のブレスレットを贈ったんだけどな、唯には?ってデート中ずっと考えてたんだ。そしてたった今思いついた」
「そうじゃなくて!!あ、いやもちろん贈ってくれたのは素直に嬉しいけど、宝石も創造できたの!?今日一番の驚きなんだけど!!?」
「・・・・・・考えたこともなかったのか?」
「普通考えないよ!!それにこのことが回りに知られたら玉の輿!って欲に目がくらんだ女子たちが狙ってくるじゃん!そんなライバル女子たち、私絶対認めたくないよ!!」
普通ライバル女子の存在すら認めないはずなのに、エリの提案ですっかり存在を認めちゃってるからなあ、唯たちは。
「まあ、たしかにな。でもその時はその時だし、それよりも俺はこのルビーに込めた意味を知っていて欲しいんだ」
「・・・・・何の意味を込めたの?」
「ルビーは基本的に『情熱・熱情・純愛・勇気・自由』の意味が活用されているんだが、俺は古代よりあらゆる危険や災難から持ち主の身を守り、困難を打破して、勝利へと導くパワーがあると語られることで『勝利を呼ぶ石』って言われている部分を優先的に込めて創造した。“キャプテン・ベイカーがいるところ勝利あり”ってな」
「・・・・・じゃあ最後に、これを私にかけてくれるかな?」
「ああ、喜んで」
俺は彼女の願いを受け入れ一旦ネックレスを手にし、顔を前倒しにして捧げてくる彼女の首に『王座の間』でのあの姫様がやったようにネックレスをかけた。かけ終わると唯は感謝しようと顔を上げる。
「ありがとう。そろそろ行かなきゃ・・・・・んむっ!?」
この1年で、俺との口付けが大安売りしていて全くもって遺憾だ。それもこれもあの日のカラオケで巴がしでかしてくれたせいだ。デートの時は思いつかなかったが、今度の時はこっちからくれてやる。まずはその時流れに乗ってキスしてきた唯に“俺からのキス”をくれてやったぜ。
唇を離し、午前の時にラスティとのキスを羨んでいたであろう唯の照れ顔に向かってこう言った。
「サービスに、いつかのお返しもな。にひっ」
・・・・・・・・・・・・・でもやっぱり、キスは良いもんだ。
・・・・・・・・・みんなもそうだろ?
シーパラダイス正面入口にて
「よ~し全員揃ったな~。それじゃあ一旦ホテルに戻るぞ~」と集合した一年生をまとめる宮田先生。
あの教師、やっと普通の恰好に戻ったか。いや、待てよ?
感知能力を使って彼の懐を探ってみたら、懐にゴムナイフが隠されている。何故に?それで俺を攻撃する気なのか?心大丈夫ですか?
「ねえギラ。このあとどうやってエリとデートするの?くじ引きでペアを組むって聞いたけど」
「それに関しては問題はないさ。だがその前にやることができたんでな」
「やること?」
とんでも10人分デート大作戦はまだまだ続きます!
スピンオフ作品『暁のブリテン ~ The First Bullet~』のPart2を近日中に投稿いたします!気になる方はどうか読んで下さい!




