23発目 誰にだって選択を迫られることはある。肝心なのは他者のではなく、自分の意思に沿った選択をできるかだ。
杉田宅前にて。
俺、鈴村剛は今、
気まずい状況になっている。
約束の時間の30分前に来たのが間違いだったのだろうか。来てみると見たことがない同学年っぽい男女が先にギラの家の前に来ていたのだ。しかも喪服姿で。
男性陣から見ると、まず褐色肌を持った黒髪の外国人男子に、俺と同等な大柄な金髪の外国人男子、そしてどう見ても小学生にしか見えない背丈で茶髪の男の子3人。次に女性陣は銀髪ロングヘアで緑と黄色のオッドアイのクールビューティそうな外国人女子に、ロングヘアを斜め下へ二つにまとめた女子、そして黒髪ショートヘアの女子の3人だ。
(は・・・話し掛けづらい・・・・・・)
今はギラの家に近づかずに、電柱の影に隠れている俺だが。いや、きっとギラの昔の知り合いかなんかに違いない。今から仲良くしても損は無いはずだ。ここは勇気を振り絞って!
「あの~・・・」
「よ~!剛!おはよう!!」とそこへ何故か車に乗った剣が窓から手を振りながらご挨拶ときた。
この野郎!俺の勇気を今すぐ返せ!!
「お前、誰に送って貰ってるんだよ?」
操縦席の方を見ると、なんと俺とそう歳が変わらなそうなやつが車の運転をしていたのだ。
「どうも、熊堂会騒動ではお疲れさん、剛君!」
その喋り声に俺は聞き覚えがあった。
「あ、あんたあの時の電話の人か。確か名前は・・・」
「ブラッキーこと荒船茂雄、刑事だ。よろしく」
ブラッキー・・・。確か能力持ちのヤクザにやられたって言ってた刑事だ。何であだ名が“ブラッキー”なのかが気になるところだが。まさか、ポケ・・・。
「さっき偶然会ってよ。どうせなら送ってくれるって誘われて克江と一緒にな」
「え?刑事さんもギラにか?」
「ああ。これはギラだけの用事じゃない、俺たちみんなの用事だからな」と一緒に乗っていた大道さんがそう言った。
・・・・・・それって・・・。
それが何なのか考える俺だが、そこで思考は中断することになる。
知らない男女たちが突然絡んできたからだ。
「君か!ギラが言っていた“ヘビーの剛”って!」と金髪の男。
「能力を打ち消すんだってね!」と褐色男。
「ど、どうも・・・」
あいつ、あのあだ名、言いふらしてんのかよ・・・。
だが、悪い気もしない自分がいるのも事実だ。
「ところで、肝心のギラはまだなの?ブラッキー」と銀髪ロングの女子が冷静な口調で聞いてきた。
「もう日本には着いてるってよ。そろそろバスで来るはず・・・お、来た来た!」
荒船刑事が住宅道の奥から来たバスに手を降り始めた。バスの後には四つの何かが飛んできた。目を凝らして見るとそれらが何なのかが分かった。まずはジェットパックを付けたアーマースーツ姿のギラに、炎の能力で飛行中の唯、そして今世間を騒がしている“異種族公表”、その中継に姿を現していた(それを言ったらギラもだが)二人の甲冑戦士だ。確か中身は人間とドワーフだと・・・。
俺が4人の正体を認識した頃にはバスも4人も家の前に到着していた。
「「「ギラ!!」」」
待っていた外国人男女たちが喜んでスーツとヘルメットを解いたギラに駆け寄っていった。
「リーク!デニー!ペティ!お前らも久しぶり!」
やっぱりみんなギラの知り合いだったようだ。女性陣は・・・銀髪以外はギラに飛びつきベタベタしている。メスの顔してやがる・・・。唯や甲冑戦士一人にバスの中にいるらしき女子の何人かがそれを察知して禍々しいオーラを出していた。
「ま、再会の喜びは後だ」と駆け寄ってきた連中を落ち着かせるギラ。
「そういやギラ。神社の人とは連絡取れたのか?」と荒船刑事。
「それなんだが、さっきから電話しても応答しねぇんだ。今日行くって伝えたんだけどな~」
ギラはそう言って自分の携帯を取り出して電話を掛けた。
「誰と電話が繋がらないんだ?」
気になった俺はギラに聞いてみるが、ちょうど電話の相手が応答したようでギラに遮られた。
「あ、もしもし!やっと出たか・・・、え?俊さん!?何故あなたが渡辺の携帯に?」
何かトラブルが起きたようだ。電話の相手の“俊さん”とやらが何かを説明してくれているようで、ギラはその内容を聞く途端、顔を真っ青にした。
「俊さん!!少々お待ちを!!今すぐそっちに行きます!!」
ギラはそう叫ぶと、携帯を切ってすぐさまアーマースーツとヘルメットをガチャガチャと被って、その場にいる連中に指示しだしたのだ。
「全員!バスに乗って翔蓮神社に向かってくれ!!俺は先に飛んで行く!!」
ヘルメット越しでもわかる。ギラは焦っている。何をだ?
「ギラ!相手の“俊さん”って誰だよ!何があったんだよ!!」
「説明は後だ後!」
そう言ってさっさと飛び立とうとするギラだが、俺は待っていられなかった。今日呼ばれた理由もわからないままだってのに!
「後で絶対説明するからぁぁぁぁぁ!!」
大声で飛び立つギラ。
だが。
「って」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」
体にかかる重力を無効化して、ギラの足元をギリギリ掴んで一緒に飛んだ俺。風圧により顔が大変なことに。
「こらこらこらこらーぁぁぁぁ!!剛!お前別に無理矢理来なくても!後から来れば良いだろ!?」
「い゛い゛い゛い゛ま゛い゛がな゛い゛どぉ!い゛げな゛い゛ぎがずる゛がら゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ヒロアカから学習しろ!目と口閉じろ、早く!!」
言われてやっとその両方を閉じた俺。
「良いじゃんギラ。何を急いでるのか私たちもだし」
「「そうそう」」
「ハァ、お前らも飛べるってこと、一瞬でも忘れてたよ・・・」
「そんなに焦っているのは・・・Ms.渡辺に何かあったのか?」
目を閉じていても、会話に入ってきた3人がさっきギラと一緒に飛んできた3人なのはすぐに分かった。
「・・・・・・彼女が高熱を出して倒れてたらしい・・・!」
全く予測不可能な展開だ。
・・・なーんてフザけている場合じゃない。俺と唯、クレア、スターリン、付属品の5人は急いで渡辺の神社へ直行した。実家の玄関の前で降り立って、黒の喪服に着替えて後の4人に玄関で待つように言い残して家に上がり、彼女が寝込んでいる床の間へ向かった。
「俊さん!真理さん!今参りました!娘さんの容態は!」
「あ、杉田君!この子、とんでもない高熱を出していて、水につけたタオルでも全く治まらないの!」
床の間に入ると、渡辺が巫女姿で息を荒くして布団に入っていて、布団の左脇に俊さんと真理さんが渡辺を心配して座っていた。俺は"他のこと"は気にせず、すぐに渡辺の右脇に
「何が原因ですか?」
「分からないの。主人が部屋で倒れているのを見つけて!!」
「渡辺!渡辺!聞こえるか!俺が分かるか!」
声は押さえてだが、渡辺に聞こえるようにはきはきと尋ねてみたが、彼女はハァハァ言うだけで何も答えられなかった。
・・・・・・・何が原因だ?
すると、敷居の外の廊下から、声がしてきた。
「おい・・・あれ・・・あれ・・・おい・・・」
剛だ。しかも唯やクレアとスターリンも甲冑を脱いで喪服姿で勝手に上がっていた。だが剛だけ様子が変だ。緊張した表情にとんでもない量の汗があいつの肌から出ていたのだ。
「どうしたの剛君?」と剛の様子がおかしいことに気づいた唯が本人に聞いた。
「いや、あれぇぇぇぇ!!おいぃぃぃぃぃ!!あれぇぇぇぇ!!」
剛はある場所を指で差して大声で騒ぎ始めた。
「ちょっと!渡辺が病気みたいなんだよ!何かその態度不謹慎だって!」
「いやいやいやいやいやあれぇぇぇぇぇぇ!」
・・・剛のヤツ、まさか・・・見えるのか?
「おい君!どういうつもりなんだ!娘の容態が悪化したらどうするんだ!」
「す、すみません。私たち渡辺さんと同級生で・・・、ほら!剛君も謝って!」
「いや!お前あれ見えないのか!?」
「待て剛!ちょっとこっちへ来てくれ」
俺は剛を引っ張って玄関のところまで連れていって、あることを聞いた。
「剛、今一度聞くぞ。何を見た?」
「え・・・えーと、あ、飛行服!飛行服を着た青年っぽい人だ!」
・・・やっぱりか。
幽霊。
それは、人間の肉体が死んでも魂が死なずに現世でうろついたり、家宝を守ったり、現世への未練から現世にとどまったりする存在のことである。
その存在を新世紀になった今でも、未だに証明することはできていない。
何せ感じ取れる者、つまり霊感が強い人間しか見ることができないからだ。
この場合では霊感がある俺と剛だけが見えるということだ。多分この神社の山の斜面にある墓地の魂の一つなのだろう。
「良かった〜、俺だけ頭がどうにかなったのかと思ったよ・・・」
「俺も気づいていたが、渡辺の方が大事だったからな」
「つまり、今日みんなを集めたのは元々渡辺が関係してたのか?」
「説明はあの戦場行きになった人の霊に聞いてからだ。唯たちを遠ざけといてくれよ。端から見たら俺、ただのイタい人だ」
「・・・・・わかった」
唯たちは剛に任せて、俺は廊下に立っていた、いや浮いていた飛行服姿の日本人の幽霊に話をかけた。
「どうもこんにちわ。私は杉田義羅です。あなたの名前は?」
『・・・こんにちわ。私は第721海軍航空隊所属、矢島花三郎です。あなたも私が見えるんですね・・・』
渡辺の両親には幽霊の言葉は届かず、俺が何をやっているのかと不思議に思っている。だが構うものか。
そして思った通り、1945年に出撃した神風特別攻撃隊の一つだ。
「どうか教えて下さい!あなたは見ていたんですよね?渡辺実央の身に何があったんですか!!」
矢島さんは何やら言いにくそうな表情をしながら俊さんの方を見ていたが、意を決したように俺を見て説明した。説明し終わると俺は俊さんを無理矢理つれて廊下に出た。
「・・・何を隠しているのですか?」
「・・・・・・何のことだ・・・」
「とぼけないで下さい!!彼女が倒れていたのは部屋じゃなくて蔵だったんでしょ?蔵に何を隠しているのですか!!」
俺は勢いで俊さんの胸ぐらを掴んで問い詰めていた。渡辺が苦しんでいるのに彼はなぜウソをついたのか、少し怒りも混じっていたのかもしれない。俺と俊さんのやり取りを見てちょっと心配する唯たち。
俊さんは目を逸らして少し考えて、俺の方を向き直すと口を開き始めた。
「・・・・・・11年前の5月4日だ、明日と同じ日付で娘の誕生日。その日の朝、休日だからどこかに連れて行ってやろうと早起きして娘を起こしに部屋に近づいたんだ。だが、よく見ると部屋からは何かが青白い光を放っていたんだ。中に入ると娘が寝ていた布団の脇に、鞘に入った柄の長い刀が一本あって、それが光を放っていた正体だったんだ。私は理解してしまったんだ。“この娘も”、世間で噂になっている能力者なのだと。私は娘にそんな重荷を背負わせたくない、そう考えてなんとかしてその刀を持ち運び、娘に気づかれないよう今までずっと蔵に隠し続けてきたんだ!!」
「ですが、それを本人に秘密で隠したことで、今娘さんを苦しめているのですよ?」
「・・・・・ぐ・・・・」
なるほど、原因はわかった。
「ギラ、自分の能力で自分を苦しめることってあるのか?」と剛。
「聞いた話だが、似たようなことがあるヤツもいたんだ。渡辺の場合は長年主人に放置されていたことから、何かの拍子に主人と触れたことで拒絶反応を起こしたんだ。あの高熱はそれによる負荷だろう」
「どうすれば治るんだ!?」と俊さん。
「もう一度その刀と触れることです。蔵への案内をお願いします」
「いや、ダメだ!あの刀は誰も受け入れようとしないんだ!触れようとしても1cm手前で遮られてしまうんだ!」
急いで蔵に行こうとする俺を俊さんはそう言って止めてきた。
『彼の言うとおりです。あの刀は美央さんから生み出されたもの。彼女以外扱うことはできません』
と近くで浮いていた矢島さんの幽霊も彼を擁護した。
だが一人、意外な能力者がいることに俺は気づいた。
「なあそれ、俺ならなんとかできるんじゃないか?」
剛本人も、自分の可能性を考えていたらしく、自ら前に出た。
この男は無効化人間。他者の能力を打ち消すことができる。
「・・・急ごう、渡辺を助けないと」
蔵に行くと大きな錠が掛かっていて、それを俊さんが持っていた鍵でガチャっと外して蔵の扉を開けた。
中は木箱がごちゃごちゃして、巻物がバラバラに散乱していてもうメチャクチャだった。
「・・・・・・娘を発見した時にはもう、こうなっていてな・・・」
おそらく、渡辺がその刀に触れた時に起きた拒絶反応の影響なのだろう。蔵の中を見渡すと、山積みになっていた木箱の中から青白い光を放っている箱を見つけた。
「あれだ!あの箱だ!」
「よし、剛!お前さんの出番だ!」
「お前さん?」
俺の呼び方に疑問を持ちつつも、剛は自分の重力を無効化して浮き、木箱の山まで行って目的の箱の中身を覗き、中にあった柄の長い刀を問題なく掴み上げ、出入口まで戻ってきた。
「さあ、渡辺の所へ!」
床の間に戻ると丁度、バス組が到着して渡辺宅に上がっていた。
「ギラ!渡辺は一体どうしたんだ!?」と来たばかりで状況が呑み込めてない奈々が聞いてきた。
「説明は後にしてくれ!これを持たせればきっと治る!」
俺たちは急いで彼女の傍に駆け寄った。
「渡辺、起きろ!お前の刀だ!さあほら!!」
しかし、彼女は過呼吸で衰弱していて、とても起き上がれる状態ではなかった。
「ああくそっ!剛!刀を近づけてくれ。俺が渡辺を支える!」
「おう!」
渡辺の首と背中に手をまわして支えながらゆっくりと起こし、彼女の右手首を掴んで刀に触れさせようとした。
「渡辺!さあ触るんだ!ほら!」
渡辺の指が刀に触れた瞬間、青白い煙みたいなものが光り、そして流れるような動きで刀と彼女を繋いでいた。そしていつの間にか、呼吸が整って高熱も下がっていて、容態も治まり苦しい表情から穏やかな表情に変わった渡辺だった。
ここからは、彼女の頭の中で起きた出来事だ。
・・・・ここは?
私は確か、蔵で偶然刀を見つけて、それに触れた途端、意識がもやもやして体が熱くなって呼吸がし辛くなった。何時間もの間、周りで何が起きているのかさっぱりだった。だが両親が自分を呼ぶ声は聞こえていた。そして、彼の声も。
すると、何かと繋がったような不思議な感覚が起きた。その瞬間、体を襲っていた熱も苦しみも無くなっていた。
目が覚めると何故か私は、ただただ白い着物を着て、真っ白な世界に横たわっていた。わからない。感覚もふわふわしていて現実なのかどうかもわからない。
「ようやくお目覚めか・・・、渡辺実央よ」
突然の呼び掛けに驚いた私は、後ろを振り向くとそこに、平安時代の貴族が着ていた服装:狩衣を着た一人の男性がいた。
「・・・ここはどこ?」
私は起き上がってまず場所を聞いてみた。だが少し察しはついていたが、確信がなかった。故にこの男性に聞いてみたのだ。
「これは君の頭の中で起きていることだ」
やはりそうだった。私は次の質問へと進めた。
「あなたは誰ですか?」
「私は安倍晴明、とは言っても君の能力で体現された作り物の存在だけどね」
安倍晴明。
平安時代の921年から1002年に生きた、有名な天文博士であり陰陽師。
彼については超常的な逸話が多々ある。例えば、狐の母を持つ人間と狐のハーフだとか、百鬼夜行の存在に気づいたとか、ムキになった貴族たちの命令で仕方なく呪文を込めた草の葉でヒキガエルを殺したなど。
そんな歴史上の人物が何故私の頭の中に現れるんだろうか?
だが彼は言った、自分は私の能力によって体現された存在だと。
それが本当なら、私、渡辺実央は能力者だということだ。
「君はね、実央くん。これから"霊気"というこの世に生ける生命全てを繋ぐものを具現化する霊能力を持つことになる。君が触れた刀と君自身の体にはそういった力を発揮することが可能になっているのだ。時にはこの世に未練を残して彷徨っている魂を鎮魂すると、褒美としてその魂を体現する新たな力を授かることもできる。まずは彼から鎮魂してみるといい」
安倍晴明はそう言って手を振った先を示した。その方向を見ると、そこには私が8年前から気づいていた矢島花三郎の霊だ。何でも1945年の太平洋戦争で出撃した神風特別攻撃隊の一員で敵に体当たりして亡くなったそうだ。その後、日本に残した家族も空襲で亡くなってしまったらしく、鎮魂してくれる者がこの世にいないとのこと。
「君の力を以てすれば、彼を鎮魂してあの世に送り出すことができる。さあ」
安倍晴明は、私が触れたあの柄が長い刀を出現させて渡しにきた。
「一つ、聞いて宜しいですか?」
「何かな?」
私は少し恐れていた。この先、安倍晴明が言った通りの力が扱えるとしたら、私も杉田君が赴いていた戦いに巻き込まれるのかと。
「私はこの力を、何かに役立てなきゃいけないのですか?」
「それは君自身が決めることだ。私は君に能力の使い方を教えるだけのガイドのような存在だ。それに、目が覚めたら最後、私と君はもう二度と会うことはないからね」
「実央ちゃん。長年、私に付き添ってくれてありがとう。君の力で鎮魂してくれるなら本望だよ。さあ、やってくれ・・・」
矢島さんの霊も待っている。
私は意を決して、安倍晴明から刀を、受け取った。
目を覚ますとそこには、たまに見る床の間の天井があった。
「お、気がついたか、渡辺?」
そこへ顔を覗いてくる杉田君。
って、顔近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!!
「お、おい実央大丈夫か!?また顔が赤くなっているぞ!まだ熱があるんじゃないか?」
「いいえ!俊さん。彼女はもう大丈夫です。赤くなっているのは別の理由からです」
何もかもお見通しな杉田君が父を落ち着かせている。
あーびっくりしたー。こんなにドキドキするなんて・・・。
「では、実央。昨日話していた件だが、お前はそのままでいいから始めても良いか?」
私は上体をおこしながら聞いた。話していた件、そういえば昨夜、父は明日大事な用事があるから家にいるようにと言っていた。念を押してまで言っていたからとても大事なことなのだろうと感じていた。
ただ、予想外だったのは、その大事なことにたくさんの人たちが来ていることだった。
え・・・・何これ・・・・・誰?この人たち・・・・。
広かったはずの床の間は喪服を着て正座で座り込んでいる人たちですっかり埋め尽くされていた。唯や剛君などの学校の級友たちは少し離れて座っている。大体が知らない人ばかりだ。だが良く見ると、大道さんと、二日前のテレビで世間を騒がせた異種族の方々に、イギリス王女フィア(何故かショートヘア)、内匠総理までいる。こんな大物まで来て一体何なのだろう。
父は改まって
「実央。以前お前には双子の姉がいて、出産時に羊水を喉につまらせて死んでしまったと伝えたな」
「・・・・うん、確かにそう聞いたけど・・・・」
「あなた、何で今更あの娘のことを・・・?」
母が聞くと、
父はその場で私と母に向かって、土下座をしたのだ。
「・・・・・真理、実央。・・・すまない、それは嘘だ。もう一人の娘の泉は生きてたんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あ・・・・あなた、それってどういう・・・?あの子は死んだはずじゃ・・・・」
突然の話に母は困惑状態に陥りながらも聞き返した。
「16年前、実央と泉が生まれた夜。私は病院である槍をもった老人に襲われた。これは杉田君から聞いてわかったことだが、その老人の名前は柳田昴。そこにいる柳田剣君の祖父だ」
祖父と自分の名前が出た瞬間、柳田君も反応していた。私の父とそんな接点があったなんて。
「彼はもう故人だが、生前事情があって世界中で傭兵活動をしていたんだ。そして原因の黒幕からある仕事を依頼された。
日本の病院から、ある双子の赤ん坊の姉を殺せ、と」
・・・・・・・それが私の姉・・・。
「その黒幕は予知能力を持っていて、妻が生んだ双子の姉はやがて自分を滅ぼす存在になると予知し、始末すべきだと。だが命令を受けた昴殿は容認したものの、殺すつもりはなかった。彼は主に暗殺を請け負っていたが赤ん坊を殺せとの命令を遂行できるほど心は捨てていなかった。彼は私に提案をしに病院に現れたのだった『子供は私が預かり、そして守る。代わりにこの子が死んだという偽装に協力してくれ』と。私は提案を受け入れて、後のことは妻や病院の関係者たちでも欺ける作り物の赤ん坊の遺体を代わりに置いて、彼と別れ際に合言葉を作ったんだ。そしてあの子はその後の6年間あの老人の元で育てられた」
・・・・・・・6年間だけ・・・?
「あなた・・・・・どういうこと?・・・何で6年だけなの?」
私と同じく疑問に思ったことを、母は声に出して父に聞いた。
「真理さん。ここからは自分がご説明致します」
と、そこへ私の布団の傍にいた杉田君が父の話を継いだ。
杉田君は両手をついて真っ直ぐ私と母を見て口を開いた。
「まずは改めまして、渡辺真理さん、渡辺実央さん。自分の本当の生まれは実央さんと同じ2096年ではなく1993年の生まれなんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・?
ってことはつまり、今、2112年だから・・・・。
「・・・・・・・119歳ッ!?」
ようやく頭を整理して計算して出した答えに、よっぽどの衝撃だったので思わず声に出してしまった。
杉田君は私の反応にニコッと笑うだけで、話を続けた。
「自分は1993年に生まれ、生き、そして2096年に天寿を全うして終わるはずだった。しかし私自身の魂は新しい命に宿り、今こうして二度目の人生を送ることになったのです」
すると杉田君は左手をバッと上げて、私たちに奥にいる人たちを見るように促した。
「この場にいる、実央さんと同じ学校に通っている学生と異種族の方々を除いた大体の人が!自分と同じ生まれ変わりなのです。そして、柳田昴氏もそうでした」
そして、再び私たちの方に顔を向け直して説明を続けた。
「2101年のブリテンの奇跡事件。昴氏を操っていた黒幕がその事件に深く関わっていた上、昴氏にも参戦するよう指示しました。知っての通りこの事件でフィア王女はサムライキッドによって生き延びました」
杉田君の話を聞いていて、段々想像がついてきた。
「そのサムライキッドの正体が、当時偶然ブリテンにいた自分で、その時に昴氏とも対峙しました。事件収束後、彼の方から『これ以上悪事に染めた私が育てるワケにはいかない。どうかこの娘を頼む』と言い、彼女の保護を求めてきました。当然引き取り、杉田家で育てることになりました」
その後も彼の説明は続いた。姉の泉は私と同じ剣術を駆使して杉田君を含めた仲間たちと共に、あの“ブリテン復活の戦い”にもオーク戦争にも参戦していたとのこと。
当時の集合写真を父がこの前杉田君が尋ねてきた時に貰っていて、今この場で見せて貰った。写真にはこの場にいる人たちどころか、テレビ中継で広場に現れた聖オーク、ケンタウロス、ミノタウロス、さらにあの恐竜までもが写っていた。全員が笑顔だった。その中には姉とおぼしき人も。
「・・・・・・私がいるみたい・・・・」
父が言っていた通り、その双子である姉は私と瓜二つだった。まるで自分がそこにいたことを忘れているのかと思うほど。
母はその写真を見届けると、ついに本題を聞き出そうとした。
「それで・・・、あの娘は、泉は・・・どんな最期を・・・・・?」
姉がもう亡くなっているということは、彼らの服装で分かっていた。肝心なのは、彼女の死に何があったのか。
すると、後ろにいた金髪の男子が木箱を大切に持ちながらゆっくりと前に出てきて、両親の前で丁寧に置いた。
「渡辺泉さんの、骨壺です」
と金髪男子が答えた。
「1年半前、昴氏を・・・いえ、生物兵器のオークたちを影で操っていた黒幕が立てた策略に嵌まり、彼女は精神だけを破壊され、一時は生ける殺戮兵器にされました」
フィア王女が言葉を継いで説明を始めた。
「しかし、居合わせていた我々で黒幕の支配からはなんとか解放できたのですが、結果彼女の精神は戻ることはなく、“コロンビアの殺戮”を許すことになってしまいました」
“コロンビアの殺戮”事件。
22世紀に入って、前代未聞の事件は数多くあるが、コロンビアで起きたその事件は中でも指折りの件だ。
内容は、ある黒い長髪の少女が刀を手にして町に突然現れ、近づいた人々を次々に斬り殺していった。駆けつけた警察官も返り討ちにされ、手の打ちようが無かったという。
床の間にいる人たち全員が暗い表情になっていた。アイラちゃんとシオリちゃんは涙を必死に堪えていた。
「つまり・・・、泉は・・・大罪を犯して、死んだというのですか・・・・・・?」
母は衝撃の事実のあまり、話すのが途切れ途切れになっていた。
だけど私は、話の先を想像した上で“ある結末”と“ある可能性”が出たために、頭が真っ白になっていた。
杉田君は頭を床に押しつけて、重々しい口調で話した。
「・・・・・・・・私が、彼女を殺しました・・・」
彼はこの上ない土下座をずっとやめなかった。
母は、事実を聞いて泣き出した。それを見たアイラちゃんとシオリちゃんもとうとう泣いてしまった。
しばらくした後、前に出た人がいた。大道さんだ。
「ご両親、そして実央ちゃん。確かに彼女に止めを刺したのはギラです。しかし、彼女を救えなかったのは我々全員です」
そして、全員が大道さんと揃って、杉田君と同じように土下座をしたのだった。
「彼だけを責めるのは筋違いです」とフィア王女も続いた。
「我らも如何様な償いもする覚悟はできております!」と、あの異種族代表の一人、アンドリュー・シェリフさんまでもが真剣な口調で話した。
「・・・・なら、皆さんには一つだけ、約束を守って下さい」
「っ!!真理・・・!!」
ようやく泣き止み、涙を拭き取った母が提案するのを、父が止めかけたが母は構わずに続けた。
「たとえどんな困難な時があっても死なずにちゃんと生きて下さい!そして・・・」
そう続けて母は杉田君の方に行き、彼の肩を掴んで土下座から無理矢理起こした。彼は頭を押しつけ過ぎておでこには畳の線があった。
「杉田義羅君にはもう一つ約束!私のもう一人の娘である実央を絶対に悲しませないこと!いいですね!!」
その約束に杉田君は真っ直ぐ母を見て答えた。
「約束します!!」
その後、
姉の墓石を、家の中庭に作って欲しいとの父の頼みに応えて、姉の仲間たちみんな協力して作っている。
杉田君はというと、父に今は休むようにと言われて、廊下の縁側に座って作業を眺めていた。
そんな杉田君に私は白の着物姿でゆっくりと近づいていった。杉田君も気づいて振り向いたけどすぐさま
庭に視線を戻した。私はそれに構わず聞いた。
「・・・・・・姉さんだったの?・・・・・・杉田君の好きな人って」
「・・・・・・・・あぁ・・・・・」
杉田君が私に対してよそよそしい態度を取っていた理由が昨日まで全く見当がついていなかった。だが今日知った双子の姉の存在が全てを解決に導いた。杉田君は引き取った姉に惚れてアプローチをかけたが、見向きもされず諦めたが、さっき言っていた敵の策略に嵌まって自我を失い、姉の殺人を止めるために好きだった相手を殺した。
そんな大事な想いがなければ、この話で杉田君はこんな沈んだ顔にはならなかっただろう。
「杉田君は、どんな思いだったの?その・・・・姉さんに止めを刺した時」
「・・・・・・死ぬつもりだった、俺も」
予想外の返答に私や後ろで聞いていた唯たちは目を見開いた。
「俺はどっちにしろ当時、もう長生きできない体になっていたんだ。原因は・・・5年前の東シナ海戦での狙撃を受けて・・・」
「・・・おいギラ。あれ、なんともなかったんじゃなかったのか!?お前言ったよな!?」
当事者だった奈々はその話に激しく反応した。
「お前のせいじゃないのは本当だ奈々!!・・・・油断した俺は狙撃手を相打ちで倒したんだ。だが奴の弾丸には暗黒物質が含まれていて、長い時間をかけて俺の体を蝕んで泉が暴走した頃には俺の心臓はもう止まりかけていた」
すると杉田君は、懐に入れていた一枚の写真を取り出した。おそらく杉田君が小学生・・・いや、6歳児の体だった頃の写真だろう。写っているのは杉田君、姉、トラこと八代さん、フィア王女、未来の総理こと内匠さん、荒船さん、そして大道さん。
「あいつと無理心中するつもりだった・・・。だが俺は生き残った」
ある夜の嵐の中、ある湖に注ぐ川の河口付近で、お互いの体を刀で突き刺している男女の影があった。両者は共に黒い服を身につけていた。白髪の男は自分が握っていた軍刀をもう未練がないかのように女に刺したまま離し、力尽き、倒れた。女は自分の刀を手放さなかった。男が倒れると、刀はそのまま引き抜かれた。女も自分の胸に軍刀を刺したまま力尽きて倒れた。自分の刀は手から離れてしまった。
それが運命の分かれ目だったのかどうかは、今でも分からない。
一筋の稲妻が近くにあったヤシの木に、
ピカッドン!バリバリィッ!!
落ちた。
その時、二人は既に息絶えていたのだが、女の方は軍刀が胸に刺さってはいたが心臓には逸れて触れていただけだった為、偶然にもある現象が起きて心臓が再び動き始めたのだ。
『電気けいれん療法』
いったん機能が停止した心臓に電気ショックを加えて心臓の機能を回復させるこの療法が、ヤシの木に落ちた稲妻から漏れた微弱な電気が女に刺さっていた軍刀に吸い寄せられ、刀を通って女の心臓に流れたことで偶然にも完成されたのだ。
弱い鼓動ながらも、彼女が意識を取り戻すには十分だった。
そう、“消されたはずの彼女の意識”が。
彼女は目を覚まし、辺りの状況を確認して仰向けに倒れている男を見つけ、濡れた地べたを這いずりながらも近づき、最後の力を振り絞って男の唇と自分の唇を重ねた。
「泉もまた能力者だったんだ。内容は『他者とキスすることで相手の能力を一つだけ目覚めさせる』。泉は最期の能力使用で俺を生き延びさせてくれた。そして彼女は・・・・・息を引き取った」
「・・・・黒幕は姉さんの能力が狙いだったの?」
「そうだ・・・・。俺はその企みに気づけなかった」
語っている杉田君の目からは、普段からは感じない"たくさんの犠牲を背負った人間"を、私は感じた。
「トロッコ問題で『ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるのか?』ってよく言うだろ?・・・・・俺はどっちも助けたいと思った。前世でも、今生きてる人生でも。・・・・・そう考えていたのに、泉を救う方法が見当たらなかったことで、結果彼女を、殺すことになった・・・・・・。・・・・・・今でも時々考える。もっと考えを捻り出せば、彼女の意識を戻すことができたんじゃないかってな・・・・・・・」
杉田君はそう言って立ち上がり、姉の墓を建てる手伝いを無理矢理しに行った。すると私の隣にはフィア王女がやってきた。
「初めまして、実央ちゃん」
「あ、ど、どうもこんにちわ!姫様!」
「敬語は使わなくていいよ。もう唯たちとも打ち解けちゃったし」
「は、はぁ・・・」
姉は、この一国の姫様と共に一緒に戦っていた。今でも信じられない話だ。話を聞いた限り、この人も杉田君に命を助けられた内の一人だそうだ。
「ギラが言った通り、あなたの姉:泉が好きな相手だったのは本当よ。でもね、惚れた切っ掛けは泉じゃない、
実央ちゃん、あなただったのよ」
「「「「・・・・・・・え・・・・?」」」」
また驚きの事実を聞かされ、私に唯、奈々、そして乱場先輩が戸惑った。
「ギラから聞いた話だけど・・・、あの奇跡事件が起きる前、日本で散歩していた時に、巫女姿の女の子が迷子になっていたのを見つけたらしいの」
王女に内容を聞かされた私は思い出した。
そうだ!思い出した!私が小さい頃に初めての巫女装束を着たことで喜びのあまり外へ出て、迷子になったんだ!そこへ同じ年頃の男の子に連れられてやっと家に帰ることができたんだった!
「それがギラにとって、初めての恋だったの。だから私が彼に惚れた頃にはもう手遅れだったワケ」
「でも姫っ・・・・・フィア。何でギラは姉を?」
確か、あの柳田昴氏から姉の家族のことは聞いたはず。なのに何故、私を選ばなかった。
「何でかって?私もギラに同じことを昔聞いたわ。彼の返答はこう
『俺がこれからやろうとしていることに、あの子をわざわざ巻き込ませるのは絶対にしたくない。自ら戦いを志願した泉とならうまくいけそうな気がするんだ。好きだよ、俺は一緒になりたい』
ってね」
そう語ったフィアは、墓作りを手伝って汗を流している杉田君に目をやった。つられて私も唯も、奈々も、巴ちゃんも、乱場先輩もみんな杉田君・・・・いや、ギラに視線を送った。
今までの話を聞いて、私たちには感想をまとめれそうにはない。ただ、言えることは全員一つだけだった。
「「「「「侍」」」」」
みなさん、こんにちわ!!
しばらく後書きを書くのがご無沙汰になっていましたが、今回の投稿で久々に書こうと思い、筆を取らせて頂きました!(パソコン上なのにw)
さて、本編ですがここのところファンタジー要素を投入するのに、展開をどうやって文章で表すかに四苦八苦していましたが、何とか書き続けています!
本編では多数の映画ネタも盛り込んでいるのですが、その内の『指輪物語』と『ホビットの冒険』の文庫版が最近普通の書店に置かれてないことがわかってしまいました。
まずい・・・・『指輪物語』と『ホビットの冒険』の知名度が下がってしまっている・・・・だと・・・。
ファンタジーの原点が忘れ去られるなんて大事件ですよ!
ブレッツを読んで下さっている皆さん!もし映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと『ホビット』シリーズを知らない方がいましたらぜひそのシリーズを観てみて下さい!!きっと面白いですよ!!さらには文庫版とてらし合わせて観るのもまた一興です!
それでは皆さん!少し長くなりましたが、また次の後書きで!
まだまだ、書き続けます!弾丸の如く!!




