22発目 指輪物語なくしてファンタジーは語れない。
さて、前回の話を読んでれば分かるとおり、イギリスのペナイン山脈の下に地下都市があるって公表されたよな。みんなだったら地下都市って言われたら映画では真っ先に何を考えるかな?人類を存続させる事が可能な地下都市を建設したっていう『エンバー 失われた光の物語』とか?俺だったらもっとファンタジー感があるものが良いな。
“エレボール”、別名“はなれ山”。
1937年、J・R・R・トールキンによって執筆されたファンタジー小説『ホビットの冒険』で、物語上争奪の的となったドワーフの王国である。山腹を深く抉って作られた城塞で、中身は城の中というよりまさに地下都市であった。その国には古代のドワーフが一番深くにこしらえた金脈、大きな地下倉には床を覆いつくさんばかりに貴金属や宝石、細工した黄金、未加工の金塊、珠玉の数々が、無数の山をなしていた。
とは言ってもこれは俺が爺になってから本を読んだ感想なんだけどな。もちろん2012年から2014年にかけて3部作の映画として公開されてからの影響だからな。どうしても劇場で観たあの冒頭シーンが忘れられなくって、っはは。
だが2105年に、俺は『ホビット』の映画鑑賞の時以上の衝撃を受けることになった。
“エスペランサブリテン”。
ペナイン山脈の下に空間魔法の通り道が繋がってから12年、異種族たちは地表へのトンネルを堀り、そこから地球を調査しながら地下都市の建築に取り掛かったのだ。地下であるため、建物は全て地層を削って作られた石造りでできている。今では何億人もの異種族たちがそれぞれの居場所を作り、そこで生活をしている。一つの都市に一つの世界が詰まっているように。例えば、人間や亜人の場所は大理石っぽい建物が中心、エルフはより幻想的なデザイン(裂け谷のような)の建物、ドワーフは整ってはいるがゴテゴテしたいかにも頑固そうなイメージのデザイン造りになっている。
1900年から1902年までの2年間、あの『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』で有名な小説家:夏目漱石はロンドンに留学していた。この折に彼はロンドン塔へ足を運んだが、とても感動したのと同時に、もう二度と来ることは無いだろうとも言ったそうだ。理由は、もしもう一度ここに来ればこの時に受けた感動が薄れてしまうからだと。
今なら、俺でも漱石の気持ちがはっきりと理解できるな。
俺はあの“異種族公表”の翌日、まだ一般公開されていないエスペランサブリテンを一足先に見せてやろうと唯たちをアシュボーンに連れてきて、巨門を通り地表から約5kmの地点までウィリスで地下道を通り抜けた今、地下都市の遠くからの光景を見ているところだ。
この大都市に詰められたたくさんの種族の生活感が漂う数々の建物に夜景のような無数の灯り、久々とは言え俺にとっては若干迫力が薄れてしまった感じがするな。
だが初めて見る唯と奈々、広子は予想通りの反応だった。
「・・・すごい・・・!」と唯。
「カッパドキアのカイマクル地下都市の何十倍の規模ね・・・」と知識豊富な広子。
「こんなすげぇもんが地下に・・・」
おい待て奈々。そのセリフはパクりになってしまうぞ。
巴はというと、戦時中に都市の存在は教えて昨日まで秘密を共有していたのだ。だから驚くのは覚悟の上だったらしいが、地下都市を見てからはもう目をキラキラ輝かせっぱなしだ。
「百年生きたギラでも、こんな光景は初めてだったの?」と唯が初めて俺の正体を知った上で口を聞いてきた。
「・・・ああ、世界遺産図鑑を読み漁った俺でも、あの時の感動を超えるものはまだ無いな」
俺は笑みを浮かべて答えながら都市に向かって歩き始め、唯たちもそれに続いた。
異種族たちは地球を調査して、自分たちのような存在が架空であること以外に地球上の環境、歴史、科学、社会がどうなっているのかまでも全て調べ上げている。その後、まずは各種族たちの代表を集め、ブリテン王国に倣って議会政治のように都市を政事をみんなで仕切っている。もちろん地球の歴史を踏まえて独裁者が現れないように注意しながら。
物資のやり取りはグレートブリテン王国が復活してから始まり、6年間彼らはずっと地球の生活必需品に助けられていた。しかも日本製のモノばっか!終いには大きな書店とDVDまでできちゃって今じゃここに住んでるやつらラノベや漫画、ドラマ、映画を見るのが当たり前の毎日になっちゃってる。復活する以前でも映画はなんとか手に入れられたらしく、映画館のように種族で集まって鑑賞していたんだ。当時はMCUとスター・ウォーズが特に流行っていたらしい。おかげで、種族どころか次元を越えてのオタクも誕生しちゃったんだ。街中を通ってると、時々だがコスプイヤーがいる。聖オークの。
「オークがコスプレしてる・・・すごい光景だね」と異種族のコスプレを目の当たりにして、驚きを隠せない唯。
「そのうち慣れる」と冷静を保つ巴。
「オークって言えば普通頭が豚なんじゃないのか?」
奈々の何気ない質問に俺は、
「はっ!出たよ!オークを豚の頭だって考えているやつ!!」
大人げなくキレちゃった。
「・・・・・・ギラ?」と奈々。
俺が突然キレたことに一同がびっくりした。
「いいか!オークってのはそもそも1516年のルドヴィーコ・アリオストの叙事詩『狂えるオルランド』に登場して、作中で乙女アンジェリカを捕らえた海の怪物に与えられた名前からが始まりなんだ。その特徴は巨大で鱗があって、牙と剛毛が生えていて、そして“豚のような鼻”を持っているんだ!豚の頭じゃねえ!それなのに最近のゲームときたら!豚ばっかじゃねえか!そんなに豚に悪役やらせたいなら、オークだなんて名乗らせるんじゃねえよ!ただの“豚もどき”で良いだろがぁ!!」
そして俺はいつの間にか町中に響く程の大声で怒鳴っていた。
「・・・わ、わかったからギラ。少し落ち着こう、ね?」
俺のものスンゴイ勢いに押され、涙目になっていた奈々がなんとか気を取り直して俺をなだめた。
「ねえギラ。なんか昨日見た異種族以外にもまだいるってフィアが言ってたけど、どのくらいいるの?」と唯。
「さあてな、正直俺も全部は把握してないんだ。昨日紹介された人間、エルフ、ドワーフ、ケンタウロス、ミノタウロス、聖オーク、サウルス。他には喋る動物、翼竜、フォーン、グリフォン、亜人とは言ってもさらに種類があってキリがない。まあ言っちゃえば『中つ国』と『ナルニア』の住人を合わせた感じだ」
「長々と説明しといて結局映画に押し付けかよ・・・」
「良いんだよ。『ナルニア』シリーズだって漫画っぽい挿し絵を使って、児童にわかりやすい文庫になってるやつだってあるんだから。このくらいどうってこともないって」
すると、ドドドドドッとたくさんの蹄の音が遠くから聞こえてきた。
「あの音は?」と広子。
「ケンタウロスと喋る馬たちの"時刻知らせ"だな。丁度十時だし」
「何それ?」
「ほら、四足歩行する種族とかよく動き回る生き物って動いてないと筋肉が訛っちゃうだろ?こんな地下だとなおさらだ。だから、ああやって種族別に大勢で特定の場所でブリテンの時刻に合わせて一定時間走ることで、運動神経が低下するのを防いでるってワケだ。ついでにその騒音で時刻を知らせることができて一石二鳥だ」
「ふ〜ん。でこれからどこ行くの?」と唯。
「評議会の連中に会いに行く。ほら昨日、フィアに紹介されてたろ?あいつらさ」
「あ〜。あっでもクレアさんとスターリンさんもいるかな?」と唯
「あいつらは評議員じゃねえから難しいかな。いや、今こっちに来てるな」
評議会があるドーム状の大理石の建物は都市の中心に位置している。その建物から飛び出した二つの影が見えてきた。噂をすればクレアとスターリンだ。二人とも甲冑で飛んできて、俺たちの前にガチャンッと着地した。
「おはようギラ、評議会に用か?」と、ガチャガチャと兜を収納させて聞くスターリンとクレア。
「ああ、唯たちにも正式に会わせておこうと思ってな」
俺は続けて評議会の連中はどうだ?と聞くつもりだったが、話は続かなかった。重みのある声がその場の面子の頭に直接響いたからだ。
『おや、ギラ。しばらくだな』
後ろを振り向くと、その声の主が唯たちの後ろに立っていた。唯たちはその重めの声に少しビクビクしながら後ろに何かがいるのを察知して恐る恐る振り向いた。
まあ、びっくりしても仕方ないと思うけどな。
だって昨日テレビで騒がせたあのT-レックスにスピノサウルス、バリオニクス、タルボサウルス、アロサウルス、アルバートサウルス、ゴルゴサウルス、ダスプレトサウルス、とにかく大型の肉食恐竜の怱々たるメンバーが揃ってるんだから。
そんな面子を前にした唯たちの反応とは、
これだ。➀、➁、➂。
「「「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
唯、奈々、広子は揃って叫び、揃って後ろにバタンと倒れた。
『金魚草のマネか?』
「ベルダン、あんたあのアニメ見たのか?」
『ああ、君の薦めで見させてもらったよ。あれはおもしろかった。ところで大丈夫かい?その娘たち』
「あれま、失禁までしちゃってるな」
3人の下半身から出ちゃいけない液体が出ちゃってた。
巴はなんとか乗り切ったみたいだが・・・、いや、乗り切れなかったようだ。彼女涙目で顔を赤くしてスカートを押さえてうずくまってる。
『やっぱり俺たちってあんまり受けが良くないな。ベルダンだって昨日の式典、最初は逃げられてたしな』とアルバートサウルスのマルヌ・アインがそう呟いた。
『そうだな。あの後は地面に伏せっぱなしでようやく子どもたちの興味を引くことができたぐらいだしな。俺たちを怖がらなかった地球の人間ってギラだけだしな。あのフィア王女も初対面では"化け物〜!"って騒いでたし』
あいつが生きてた時代は恐竜自体がまだ存在すら確認されてなかったもんな〜。
俺は前世であのパークな映画を見た影響で恐竜図鑑を読み漁った結果、一時はクラスで有名になる程恐竜が大好きになったのだ。だからベルダンとの初対面は本当に感動しちゃったよ。グラント博士みたいに。
「それで?これから時刻知らせか?ベルダン」
『その通りだ。いくらやっと地上で公表できても、まだ上で目一杯走れるワケじゃないからな。早く地上に出て走り回りたいよ。フィア王女はどうした?』
「フィアは国の作業に引っ張り凧だ。今日は多分宮殿で缶詰めだよ。それじゃ、俺これからこいつらに評議会に会わせようと思う」
ところで、ずっと気になってただろ?この恐竜たち何で普通に人間と会話ができてるのかって。実は向こうの世界での恐竜は思念魔法が使えて、相手の脳に直接言葉を送って意志疎通ができるんだ。さらに言えばここの住民は基本が英語だから他の義務教育で日本語を学ぶようにしている。狙いはもちろん日本のアニメだ。
「どうするんだ?ギラ。その娘たちの服」とクレア。
「その辺の店で部屋を借りて着替えさせよっか。服は俺が創造する。お前も着替えろよ、お漏らし巴」
ジャギゴッ。
「次言ったらマジで銃乱射事件起こすから・・・!」
とスカートを抑えながらUZIを向ける巴。
「ソノハズカシガル顔、カワイイ」と余計なことを言う俺。
だが、一周回って呆れたため巴はハァとため息をつきながら銃を下ろした。
「さて、3人を連れていくか」
俺はよっこら庄一っと3人を俵担ぎで運び始めた。
「さあ行こう、3人がさらし者になる前に」
「「「いや、もうこれ既にさらしモンじゃん!現在進行形で!!」」」
・・・・・・二人は日本語上達したな~。
彼女たちの服を着せた後、俺は奈々を、クレアは唯を、スターリンは広子をそれぞれ背負って評議会へと向かっている。しばらく歩くと、奈々が最初に目を覚ました。
「・・・う~ん、あれ・・・?」
「お!起きたか、奈々。お前恐竜以上にもっと怖い存在を倒してたはずなのに情けねーぞ?」
「あんな怪物が勢揃いしてたら、普通気絶するだろ!」
「お漏らしするほどに?」と巴が付け加えた。
「・・・マジ?」とだんだん顔を赤くする奈々。
「「マジマジ」」、俺と巴。
「・・・誰が着替えさせてくれたんだ?」
「俺だ」とあっけらかんと答えると、
「みっみみみみ!見たのか!あたしの!」
もはやゆでだこ状態の奈々であった。ちなみに唯と広子も既に目を覚ましていて、今の話を聞いてクレアとスターリンの背中でそれぞれ赤面した顔を隠していた。
ああ、もちろん見たさ。意外と手入れが行き届いてたな。
そんなやりとりをしているうちに、評議会の建物に辿り着いた。唯たちはもう歩けるからとクレアたちに下ろして貰っていった。
みんなは評議会って言われたらどんなイメージを持つかな。厳格なおっさんたちが威圧するイメージ?肥えすぎた豚人間たちが適当な政ばかりする醜悪な場所なイメージ?色んな宇宙人のマスターたちが頭堅すぎて“選ばれし者”の少年の運命をねじれさせちゃうイメージ?
エスペランサブリテン評議会のイメージとは。
これだ。➀、➁、➂。
中に入ると、会場は円形状の議席が設置されていて、中心には4つのホログラムプロジェクターが用意されており、画面には『おそ松さん』が映されていてそれを見ながらポテチを食いながらぎゃはははと笑う評議会メンバーの姿があった。
「・・・ねえ杉田君。評議会のメンバーさんたちは今出払ってるのよね?」と広子が目の前でだらけている連中がメンバーだと認めず聞いてきた。
「目の前のだらけてる連中がそうなんだけど・・・」
「あっはっは〜。ギラったら冗談がキツいんだから〜」と広子は夢でしょ?と訴えるばりに俺の頬を笑顔でバッシーんっ!と思いっきり引っ叩いた。
俺は夢じゃないぞとお返しに広子のパンツを下着ごとずらし、ネギを創造してケツ穴にぶっ刺した。
「ああ〜ん♥️」と喘ぐ広子。
「紛れもなくこれが現実だ。他に評議会について文句が言いたい奴は前に出な。俺がブスリと現実を教えてやる」と四つん這いになっている広子のケツを踏みつけてネギを片手に唯たちを脅す俺。
「「「「現実じゃなくて新世界でしょそれ・・・・」」」」
「てゆーか病気でもないのになんで民間療法を?」と唯。
「病気だろ?変態という名の」
「先輩は体の芯から変態でしょ」
「あれれー?何気にお前の方が酷いこと言ってなくね?」
すると俺たちの存在に評議会メンバーたちがようやく気付いた。
「お、ようギラ。昨日は格好いい登場、見事だったぞ〜!」と聖オークのヘムキンがストローでズズズとジュースを飲んでいた。
「それは良いけどよ、お前ら昨日のテレビの前でのイメージ、今じゃ見る影が全くのゼロだぞ・・・だらけ過ぎだ」と俺は呆れ気味に注意した。
「だってよギラ。このカラ松のところがメッチャ面白くてよ。カラ松ガールズだなんて!この人本当にキャプテンの吹替やってたのかって思うぜ!はっはっは!!」とミノタウロスのカムジュが大声で声優いじりをして笑っている。
「あんた、それ絶対地上では言うなよ?」と一応釘は刺しておく。
「その娘たち、例の同級生なの?」とエルフのアンナがちょっと色っぽい仕草で聞いてきた。
「そうだ。せっかくロンドンに来てるんだからエスペランサを少し案内しようと思ってな。んでお前らにも会わせようと来たワケだ」
「それで?どうだ、わしらの都市は。ん?」
とドワーフのカーリンが唯たちに感想を聞いた。
「「「「想像してたファンタジーと違ってた」」」」
と率直な感想を述べる唯たちだった。
その感想を言い渡された評議会たちの反応はというと。
「まずはその幻想をぶち殺す〜。そげぶ〜」とだらけきった決めゼリフで返した。
「腐ってやがる、早すぎたんだ・・・」と奈々。
「いや、この場合は手遅れなんじゃ・・・?」と唯。
「オタクを相手にしてるのと変わらないわね・・・」と巴。
「あの〜、そろそろこのネギ抜いてくれないかな〜んんっ♥️」とまだお仕置きを受けていたケツ出し広子がエロボイスで頼んでいた。
「まあ俺の選りすぐりのアニメをここに贈った結果がこれだからな」
「「「元凶、あんたかいぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」
「あれは何?」
評議会メンバーたちとの挨拶が一段落ついたところで、巴が都市の北側に位置している締め切られた巨門を指さして聞いてきた。その質問にはアンドリューが答えてくれた。
「あれが、我々が元々住んでいた世界に通じている門だ。種族を全員移動したのを確認して以来、現在はずっと締め切っているんだ」
「?それってまだ異世界には通じているってことですか?」と話を聞いていた唯が疑問を投げた。
「その通り、我らはまだ、あの世界の再建を諦めていないからな」
その言葉を放った彼の表情は信念を秘めた顔だった。同時に、その場にいた評議会メンバー、そしてクレアとスターリンも同じ表情になった。
そう、エスペランサの異種族たちは繁栄こそしているが、ここにいる以上は難民なのだ。彼らもいつまでもこの世界の世話になるつもりは毛頭ない。一度留まることを諦めたあの世界を取り戻すことが目標なのだ。そのためにも、この地球の文化を知り尽くし、自分たちの力を蓄える必要がある。
地球を知り尽くした上で彼らは技術の進歩に力を入れ始めた。車、飛行機、ヘリコプターの開発。各種族たちによる軍事教練が一新され、アメリカのグリーンベレーの訓練を参考に進められている。武器も従来の剣・槍・斧・弓・矢はもちろんだが、ドワーフたちが巧みな加工技術を振るって、地球上の装備に近づけた彼らだけの武器も開発し、来たるべき戦いに備えての準備を進めている。
自分たちが元々いた世界を取り戻すために。
地下都市見物を終わらせて地上までウィリスで戻ってきた俺たち。丁度そこへアイラがバリバリと音を立てながら稲光と共に姿を現した。あのメタルなスーツ姿で。
『見物は終わった?』
「終わった。これからみんなで日本に戻ろうと思う」
「ねえアイラちゃん、ずっと気になってたけどそのスーツどうやって着てるの?」
ウィリスに乗っていた唯がアイラに質問をした。唯の質問にそういえばと奈々と広子も揃って妹に注目した。
「説明より見せた方が早いよね」
アイラはそう言って自分のメタルスーツを変化させて、一つの鉄のボールにした。
妹のこのスーツは原子レベルまで削った無数の鉄を本人が発する電気で操って、体を保護するスーツを構成しているのだ。
まあ、要するにあのマーク50や85のようなナノテクと同じだ。
「ギラ、もう日本に戻るって本当?」と唯。
「そうだ。ああ、もちろん唯たちも一緒に連れてくぞ」
「そうじゃなくて!あたしと唯はどうせ今日が最終日だったから良いけど、乱場先輩が・・・」
当の本人は俺から受けたお仕置きのダメージがまだケツに残ってるようでまだお尻を押さえて悶えていた。
「ああ、今までにない感触!杉田君ったら!あ、じゃあ私から伝えて・・・」と広子は自分の携帯を取り出すが、それを俺は取り上げた。
「いや。俺が直接伝える。後々対応が面倒臭くなるのは困る」
そう言って俺は広子の携帯の電話帳を調べ、父親の携帯にコールした。
『はい、もしもし。どうした広子』
「あ、すいません乱場繁様。私、乱場広子お嬢様が通われている高校の後輩に当たります、杉田義羅と申す者でございます〜。すいません〜ご勝手ながらお嬢様が先に日本にお帰りになるとのことで、自分が責任を持ってお連れいたします。では!」
『おお〜それはご丁寧に。え?ちょ、ま』
ブツっ。
「はい、んじゃ行こっか」と電話を切って車を降りた俺。
「すげーなお前・・・」と俺の切り替えの早さに驚く奈々。
「じゃあ空港に行くの?」と唯。
「いやここから飛び立つ。でも親父たちとアンドリューたちがまだだ」
「ここから?アンドリューさんたちも?何で?」
「日本で大事な用事があるからな。詳しくは親父に聞いてくれ」
俺はそう言って自家用機の一つを創造した。
川西 H8K 二式飛行艇。通称"二式大艇"。
1942年に旧日本海軍に正式採用されたこの大型飛行艇は長大な航続距離と高速性能を誇り、現代では"空飛ぶ戦艦"とも呼ばれている。戦後、二式大艇の調査に同乗したアメリカ海軍のシルバー中尉はその高性能に対して「日本は戦争に負けたが、飛行艇では世界に勝った!」と賞賛の言葉を送るほど驚嘆していた。
「ギラってホントこういう古いのが好きだな。生まれた百年前でも戦時中じゃなかったのに・・・」と呟く奈々。
確かに。俺の前世は1990年代生まれだ。戦争は経験していない。だが飛行艇図鑑でこれを乗りこなしたい!と目に止まっちゃったのが二式大艇だったんだ。
俺は戦時中、色んな国にすぐ渡れるようにこの飛行艇に特別な改造をして創造し、今日まで海外への移動手段のほとんどがこの二式大艇になっている。
"特別な改造"はというと、まず飛行艇の胴体を翼ごと作って継ぎ目を無くす。機体の強度を"絶対に壊れない"って念じながら創造し、エンジンはガソリンから完全に電動式に変え、第2エンジンと第3エンジンを外す代わりに左右の主翼に穴を開けて方向自在のタービンエンジンを、胴体にも垂直ロケットエンジンと着陸装置を取り付けることで地球上の海でもどこへでも垂直着陸が可能なのだ。
さらに内部の構造にも少し手を加えている。外見こそオリジナルとほぼ変わらないが防音設備も兼ね備え、無線も機内のシステム全部を最新のものにし、中でもホログラムプロジェクターで地球上の状況を瞬時に把握できるようにしてある。日の丸と方向舵の塗装は無しにしている。
ここの説明を読んだミリタリー、または飛行艇マニアの方に申し上げます。
「二式大艇を勝手に改造しちゃってます!すいませんでしたぁ〜!!」
「「突然、何!?」」と、俺のいきなりの土下座に驚く唯と奈々。
しばらくすると、南から親父と母さん、シオリ、エリ、猪之助、エン、ブレンダ、ジリアン、『TEISHOKU』のメンバーたちが乗ったバスと、地下道からはアンドリュー、アンナ、カムジュ、カーリン、ヘムキンが乗ったドワーフ製のトラックと、自力で来たケンタウロスのトルードと甲冑で飛んで来たクレアとスターリンがそれぞれ到着した。
「それではギラ。頼む」
「ああ、任せろ」
俺はトルードが持ってきた木箱を大事に受け取って、機体に乗り込んだ。みんなも後に続いて乗り込み始めた。トルードとカムジュとヘムキンは人目をしのぐには無理があるため見送りのみだ。
同時刻の日本、とは言ってもブリテンとは時差が8時間もある。俺がLUMEで連絡する今、ブリテンでは昼の1時で日本じゃ夜の9時だ。
夜の呟きと行きますか。
鈴村宅にて。
「GW、すごいことが起きたな、イギリス・・・」
先日の"異種族公表"を受けて日本では大騒ぎだ。
やった!ファンタジーは本当にあったんだ!フォース・トルーパーなう!!マジイギリス行きてぇ!俺、金貯めてイギリス行くんだ・・・!などと、ネット上でもこんなコメントだらけでイギリスに関するサイトへのアクセス数がとんでもないことになっている。
リビングでそんな特集番組をテレビで観ていた俺の携帯にLUMEのメッセージが届いた。
「ギラからだ・・・何だって?」
今やLUMEのBULLETSグループのメンバーはギラ、俺、唯、奈々、細川、剣、五十嵐の7人になっている。そのトーク欄にはこうコメントされていたのだ。
"明日朝7時に、みんな俺んちに集合してくれ"
ジェット旅客機ではイギリスと日本を行き来するのに12時間程度掛かる。だがそれは通常の旅行をする場合で、プライベートジェット機を使えばもっと早くなる。ただし、現実でその方法はとんでもない費用が懸かる。
俺の二式大艇の場合は世界中で許可が下りているため、簡単にパスできるんだ。だから離着陸に面倒な手続きは一切無し、飛び立つだけ。
あれ?二式大艇ってプロペラ機じゃって思ってるだろ?方向自在のタービンエンジンのおかげで問題解決さ。この機体なら9時間で付いちゃう。空気抵抗は?そんなもん俺の創造の"絶対壊れない"強度で無視しちゃう☆。
とにかく、操縦中の俺とアイラを除いて、他のみんなはお眠の時間になる前に話をしていた。
「ええ!?じゃあ・・・総理もエン長官にトラさんたちも、みんなギラと同じ生まれ変わりなんですか?」と声を上げて驚く唯たち。
その通り。エスペランサの住人たちを除いたここにいる俺の昔の仲間はほとんどが生まれ変わりなのだ。
内匠栄介の前世は1837年から1919年。
幕末の明治維新に大活躍し、明治時代に入ってからは自由民権運動を起こし、言論の時代を切り開いた政治家。
板垣退助。
エン・ノーリッシュの前世は1537年から1598年。
農民の生まれで、織田信長の下で次々と手柄を立てて出世し、ついには武将に。信長の亡き後は自ら引き継ぎ、最後には戦国乱世を治めた太閤殿下。
豊臣秀吉。
ブレンダ・リッチーの前世は1516年から1558年。
当時ヨーロッパで起きていた宗教対立で、カトリック教会を支持し、イングランド国教会に連なるプロテスタントに対して過酷な迫害を行っていたことから人々には“血まみれのメアリー”と恐れられていたテューダー朝第4代イングランド女王。
メアリー一世。
ジリアン・イーストンの前世は1542年から1587年。
イングランドのエリザベス女王と対立し、国を追われ、最後は刑死になった悲劇のスコットランド女王。
メアリー・スチュアート。
唯たちは一人一人の正体を知る度に驚きの声を上げていった。
だが、
この後、彼女たちは声どころか笑顔を失うほどの話を、親父の口から聞くことになる。
これから日本へ行く目的と、
俺の苦い過去を。




