19発目 面倒くさいと思っても、やっぱりテストは人生の内の試練の一つだからやるべきことなのである。
さあて、眼鏡かけてぇ、白衣着てぇ、はいあの呼びかけいってみよー!
「あ、もういいの?じゃあ、1年B組~ぐぼぉあ!」
「何やってんだお前ぇぇぇぇぇぇ!!」
キメようと思ったのに剛のツッコミと跳び蹴りに邪魔されちゃった。
「開始早々何やらかしてんだよ!? 何で伝説的学園ドラマシリーズのパクりをやってんの!?」
「何ってお前・・・そりゃお前らの為だから?」
話をまとめるにはそう、今から約17時間前に戻る必要がある。
学校の昼休みにて、
「すっぎたく~ん!一緒にお弁当食べよー!」
と、授業が終わってすぐ1年生エリアに突入してくる乱場先輩。
「嫌です。先輩は自分一人で食べて下さい。鶏小屋で」
「ふおお・・、予想を上回る返しぃ!この体の芯に響く快感!たまらなぁ~い!!」
と、可愛い見た目と声に似合わず、悶える先輩をよそに、俺たちは机を囲み始めた。
「すっかりベッタベタになったよな・・・。あの先輩」と、呆れ気味に言う剛。
「あんな激しい調教をすればね~」と、俺の方を少し睨みながら言う唯。
「なあ、この前も言ったけど、そんな良いモンじゃないぞ?SMプレイって。あれは乱場先輩の調教があまりにも中途半端だったことにイラッときただけで」
「でも、そのおかげで自分の本性が剥き出しにできたんだから良いんじゃない?」
と、流れるように俺たちの昼飯スペースに奈々と一緒に入ってくる巴。
「こんな本性、誰が喜ぶってんだ?あの先輩以外に! 主人公でスケベな漫画家に、色んな属性を揃えたメイドカフェを経営する店長? 主人公の親友で生徒会副会長兼M人英雄? お嬢様で攻撃が当たらない妄想ノンストップな女騎士? 数が限られ過ぎるんだよ。それにお前らだって、他人がそうだったら引くだろ?」
「「「でもギラは他人じゃないからOK!むしろ今は興味津々!!」」」
と、ドキドキワクワクな表情を見せる女性陣。
「ヤだこの娘たち!将来が危険!!」
「教えてやれば良いんじゃね?あの乱場先輩を堕とした調教ってやつをさー」
とからかう剛。
「仕事しろやツッコミ」
「じゃあツッコむけど、いつまで先輩を放っておくつもりなんだ?」
「・・・・そうだな」
俺はそう言って、床で悶えている先輩、じゃなく、教室の入口で隠れている影に近づいた。華麗にスルーされた先輩はさらに悶える。
「一緒に食べたいのなら大歓迎だぞ、渡辺」
「バレてた!?」と、ドキッとする渡辺。
そりゃ感知能力があるからなぁ。
「・・・いいの?入って・・」
「いつでも良いから・・さあ」
遠慮がちな渡辺を昼飯に誘う俺。
「じゃあ私もそろそろ良いかな?」と再度聞く先輩。
「許可する」
「ありがとうございまぁす!やったー!!」
というわけで変態一人が加わった。
「ところでみんな、中間テスト大丈夫か?」
びくっ!!
一同の中で俺の何気ない一言に良くない反応を見せた人物が4名ほどいた。
・・・おいおい。
「私は生徒会員として、成績は上位をとって当然にしないといけないから、ちょっと難しいかな・・・」
確かに。渡辺はつまりそれなりの成績は取れるのは確実なんだな。
「私は余裕よ!学年の成績トップで1年を過ごしたもの!財閥の娘として当然の教養を受けてるからね!」
その時、俺と渡辺を抜いた唯たち4人が、乱場先輩の発言に衝撃の顔を露にした。
多分、みんなこう考えたのは明白だ。
(・・・・変態に、負けた・・・だと・・・・?)
声には出さないが、唯と奈々に対してはこう言いたい。
(お前らいう?)
人ん家で、既成事実やろうとしてたくせに。
「フツーはそうだろ」
と、剣が五十嵐を連れて自然に入ってきた。
「心の中を読んでんじゃねえよ剣!」と、剛は正論をぶつけられて涙目になりながらもツッコミ返した。
「あ、出た、真のリア充たち」
「「真のリア充たち!?」」
だって、付き合ってるじゃん。腕組んでるし。
「二人はテスト平気なのか?」
「俺は一応自信あるけど・・・」
「ぼ、私も・・・」
彼女はまだ一人称の改善できてないみたいだな。
「それで?剛たちはどうなんだ?前の学力テスト、俺の成績の話で持ちきりだったけど、並み以上?以下?」
「「「以下です・・・」」」
「私は以上・・・え?」
と、巴だけがまだ自信があるようで、残りの3人は"自分はイカ"宣言をしてしまった。
このままいけば唯、剛、奈々は間違いなくGWが補習で埋まることになるだろう。
「どうする?杉田君」
と3人が心配になってきた渡辺が聞いてきた。
「しゃあねえ、いっちょ勉強会といきますかぁ!!」
そして翌日の杉田宅の"ガレージ"にて。
はい、ここー。
「つーわけでお前らに授業で教わったことをもう一回復習させようとしてるんじゃねえか。何が不満なんだよ?」
「それと武田鉄矢のパクりをする必要性は関係ないだろ!」
「あるだろー、教えると言ったら教師!教師といえば金八先生!だから今から俺はお前らに勉強をさせる教師役、"杉田義四先生"としてやっていくから、そこんところ夜露死苦〜」
「いや、名前も原型留めてないし! そもそもヤンキー語使ってる時点で教師じゃなくなってるし!」
「わーったよ。じゃあこうすれば良いのか?」
と、俺は白衣を翻して、名乗りを上げた。
「我が名は杉田義四!!この勉強会の教師役にして、『3年Z組銀八先生』のネタを引き継ぎし者!!」
「1作品どころか3作品同時に怒られるじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジェットストリームアタック!!」
「まさかの追撃!!」
パァァン!!
「ぶべらっ!・・・何でハリセン持ってんだよ!」
「じゃかましいわぁ!!勉強はもうとっくに始まっとるんやぁ!!無駄なツッコミしとらんと、さっさと席について問題解けやぁ!」
「なんかキャラ違くね!? もはやそれ金八先生じゃなくて、のだめのハリセン教師じゃん! 別のドラマだし! しかも大学の教師だし!」
ボケツッコミ合戦はここでひとまず置いといて。
そう、俺はみんなを集めて勉強会を開くことにした。
教わる側は唯、剛、奈々、巴、そしてどうせならと剣と五十嵐も加わったからこれで5人だ。教える側は俺と渡辺、そして今俺の椅子となっている乱場先輩だ。
「ああっ、これ最高っ!他の子を教えるのみならず、教師役なはずの私でさえも同時に調教してくれるなんて・・・エクセレント!!」
「こらこら〜、最後のはちゃんとアルファベットで言って下さいよ〜。学年トップでも常に上位をキープできるようにしないとー。はい、Excellent!!」
と、ハリセンで乱場先輩の尻をパァァンッ!と叩きながら叫ぶ俺。
「あはぁんっ!Excellent!!」
と、悶えながらも答える先輩。
唯さんは現代国語が苦手のようだ。
「えっと・・・老婆の答えを聞いてどう思ったのかって、なんだろ?」
「唯さん、いい? 老婆が答えた後を読むんじゃなくて老婆の答え自体も読まないと。下人本人が聞いた感想を自分で感じて読み解いていかないと、話全体を理解することはできないよ。大事なのはお話のテーマを知ること」
時々こうして私は、みんなが疑問に思うところを見つけて、アドバイスをして回っている。
杉田君は相変わらず、教科書を読んでいる乱場先輩の上に座って、自分の教科書を読んで勉強をしている。 当人が了解しているから何も言えないけど。 この前の調教騒動からもうずっとこの調子だ。
「もう隠す気ゼロなのね、杉田君」
そして、この光景に慣れてしまった自分も、普通に話しかけてしまっている。
「元々Sっ気があるのは自覚してたからなぁー。それに、意外とみんな受け入れてくれたし」
「嫌いになんかならないよ。唯さんや、奈々さんも。そして、私も」
「・・・ありがとう」
・・・・まただ。
「義四先生ー。あたしが解いた因数分解、なんか解答と違うんだけど、見てくれないかー?」
「良いぞー。それ途中式ちゃんと書いてるかー?」
奈々さんの呼び掛けに答えて傍についてあげる杉田君。 教えるのは得意みたいで、妙に手慣れてる感がある。教科書を読みながらでもみんなの顔を見て、動きが止まっているのを発見するとすぐその子の近くに行ったりするし。
まあ、その度に乱場先輩の背中に重みがかかっているのだが・・。
実は唯と奈々は、今回のテストは赤点回避を目指そうと心の中では必死に頑張っている。補習によるGW潰れを免れるために。理由はもちろん、GW中に義四先生ことギラを誘うことだ。 ちなみに唯はこの前偶然当てた海外旅行券、奈々は国内旅行に。
そして、午後4時を過ぎた頃。
「よし、勉強会はこれでお開きにするか。剛、号令!」
「そこまですんの!? 大体なんて言えばいいんだよ!」
「あるだろ、『きりーつ!気をつけ!礼!ツッコミ!』ってのが」
「先生ー、最後にツッコミを入れるのが理解できませーん!」
「わーったよ。じゃあ代わりに・・・乱場先輩、おなしゃーす」
はい、先生。と指名された四つん這いの乱場先輩は、当然のように快く号令をした。
「きりーつ!気をつけ!礼!肉便器!」
とんでもない言葉を添えて。
「うん、今のは衝撃的でおもしろかったな。ご褒美に一発だ」
と、またハリセンで先輩の尻をパァァンッ!と叩くギラに、それに悦ぶ先輩。
「おもしろさで判断するなぁぁぁぁぁっ!!」と全力でツッコむ剛。
杉田君は、今だ謎が多い。
勉強会からの帰り道、私は杉田義羅のことを一人で考えながら歩いていた。
学力テストの結果詳細データで確認した時に知った情報上での彼は、中学はほとんど不登校で成績は最悪中の最悪。さらに小学校も最初の1年生だけ軒並み登校していただけで2年生以降からは全く姿を見せなくなったという。 しかし、当時の学校側はそれを問題にしないどころか彼を普通に卒業させた。 親からの意見も無いところを見ると、家族も認知しているようだ。
唯さんたちに杉田君の過去のことをさりげなく聞いた時があったが、
『ごめん・・・何でかわからないけど、渡辺さんには言わないで欲しいんだって』
と、本人に口止めされていたのだ。
そして、彼もだが、彼の妹さんたちも何だか私に対して、
「よそよそしいよね、渡辺さんに対してのギラって」
別の場所では、唯たち“6人”が帰り道に杉田義羅と渡辺実央のことについて、論議しながら歩いていた。
「確かにあの二人、なんか微妙な雰囲気があるよな。あたしは見てないけど、学力テストの後に初めて会いに来たんだっけ?どんな感じだったんだ?」
「えっと、渡辺さんたしかギラに会うなりいきなり涙を流したんだっけ」
奈々の問いかけに答えたのは克江さんだった。
「そうなのか?」と聞く剣君。
「うん、みんな杉田君が女の子を泣かしたって噂しちゃってたし・・・」
「そういえばあいつ、渡辺が泣いた理由を知ってるようなこと言ってたのに、伏せてるんだよなぁ。しかもあいつ、俺たちに自分が昔戦争に行ってたこととか、あのクローン・アーマー・スーツ着て戦っていることを渡辺に言わないでくれって言うし」
その通り。剛君の言ったようにこの場にいる全員がギラにそう頼まれている。
「この場にいない巴が一番知ってそうなんだけどなぁー。あいつあたしたちよりギラと付き合い長いし」
多分だが、例えここにいたとしてもダンマリを決め込みそうだ、彼女なら。
「女は秘密を持って美しくなるって言うけど、杉田君の場合は秘密を持って渋く感じるわね」
乱場先輩の言う通り、ギラは秘密を抱えている。私の勝手な考えだが、彼の持つ渋さは正に何か大事なことを守ろうとしている"侍"だ。
ギラは彼女と何かがあることを隠している。そしてその理由を巴さんも知っている。でもあの時もそうだが、二人とも渡辺さんのことになると、
どことなく寂しい顔になる。いつもそうだ。
唯さん達と話す時は、もっと感情がダダ漏れな感じが多いのに対して、私の時は少し優しく落ち着いた口調で話すのが多く元気がないのだ。 そして、そんな反応をする杉田君を見ていると落ち込む自分がいる。
・・・もう少しフレンドリーに接してくれたら良いのに・・・。
何故だか“彼には元気でいて欲しい、彼ともっと仲良くなりたい”と、今ではそう考えることばかりだ。初期の頃はそうでもなかったのに。この前、このことを倉田会長に相談してみると、
「なるほどなるほど、ついに君にも来たんだね~、“あれ”が」
“あれ”とは一体何なのだろう?
と、考えにふけり過ぎて、自分が今歩いている場所がどこなのか一瞬迷ってしまった。
そこへ、聞くはずのない人物の声が聞こえてきた。
「おーい渡辺!」
後ろを振り返ると、ドドドドッと激しいエンジン音を鳴らしながら近づいてくるハーレーダビッドソン:ファットボーイに乗っているのが、
「杉田君!?」
であった。
私が驚いてしまったのは、杉田君がこっちに来たからでもなく、自分と同い年であるはずの彼がバイクを乗りこなしているからでもない。その前に彼が特別免許を持っていて車もバイクも乗ることができるのはもう知っていたのだ。驚いたのは杉田君の格好の方だったのだ、
黒のTシャツに革ジャン、革製のパンツ、ブーツ、さらにサングラスまでと、ヘルメット以外は明らかに“あのサイボーグ戦士”を意識した服装になっていた。
「なんというか・・・徹底してるね」
「あの映画好きだからな。特に玄田哲章と浪川大輔の吹替コンビ版が。にしてもちょうど良かった。渡辺、後ろに乗りなよ。これからお前の神社に行くところだったからよ」
と、ヘルメットを渡してくる杉田君。
って、あれ・・・?今、何て?
「う、うちに!?何で?」
いきなりの発言に驚きを隠せない私だったが、杉田君は真剣な顔つきではっきりと言った。
「お前の親父さんに会いに行く為だ」
・・・・・・・・・。
「へ!?」
私の神社は住宅街の中心に位置する小山の頂上に建てられている。 小山の斜面には墓が並んでいて、その管理を代々うちが管理しているのだ。
さて、渡辺家の翔蓮神社の説明は置いといて、私は今、杉田君が運転しているハーレーの後ろに乗ってドキドキしています。 何故彼が私の実家である神社に向かっているのか。しかもその目的が私の父に会うためと言ってから、私の心臓はおさまりそうになかった。
・・・親に挨拶? でも杉田君は誰とも付き合わないと公言しているのに・・・。 でも彼の顔つきからして、絶対に冗談ではないのは間違いない。 ということは本当に・・・私と・・・。
頭の中がパニック状態になっていても、ちゃんとハーレーから落ちないよう杉田君に抱きついているから、さらにドキドキが止まらない。
そうこうしている内に、神社と実家に続く長い階段の手前まで来てしまった。
杉田君はハーレーを駐めると、例の創造能力で服装を和服に変えた。
「よし、行くか」
(覚悟決めまくりじゃん!!どうしよう・・・まだ心の準備が!!)
もう自分でも今どんな顔をしているのかわからないくらいニヤつき、赤面してくねくねしている私だが、真面目な杉田君は長い階段を先に登り始めていた。
「お初に御目にかかります。お二方。自分はこちらの娘さんである実央さんと同じ高校に通っています、杉田義羅と申す者です」
(誰かこの状況を説明してー!!)
すでに神社の横にある実家に上がって、ある和室で机を挟んで両親と向き合っている私と杉田君。そして極めつけは彼の普段からは想像できない何もかも徹底した態度。何もかもが結婚挨拶のソレにしか思えない。
突然来た訪問者に驚きを隠せない両親、それに娘と一緒に来たのが男というのがまた動揺の起爆剤になっていた。
「・・・実央、この人は・・・あなたのいい人なの?」
と体をガタガタと震わせながら聞いてくる母。
ですよねぇ!普通そう考えちゃいますよね!!
「た、確かに杉田君はいい人かなーとは思ってるけど、別にそういう感情を抱いているワケじゃないし・・・」
何とか誤解を解こうと必死に話すも、客観的に見れば照れ隠しで言い訳しているようにしか見えないだろう。
そんな私をよそに杉田君は話を続けた。
「渡辺俊さん。あなたはこの言葉を覚えていますか?」
私は杉田君が口にしたことに違和感を感じ、すぐに気付いた。
・・・・・何で、お父さんの名前を・・・?
「・・・“二つの瓜”、お分かりいただけますか?」
その"言葉"が何を意味しているのかは私にはわからなかった。
多分、母もそうだったのだろう。私と同じように首を傾げていたから。
だが父はそうじゃなかった。杉田君が放った言葉に反応して目を見開いていたのだ。
「君・・・、何でその言葉を!?」
「どうかお願いします。あなたとだけで話がしたいんです」
真っ直ぐに父を見ていた。今の杉田君の存在自体が真剣そのものになっていた。
「・・・わかった、付いてきなさい。私の書斎で話そう」
「ありがとうございます」
「え!?どういうこと?お父さん!」
「二人はここにいて。話の内容は絶対に聞かないように」
「だから何で」と、私は聞き返そうとするが、
「いいね!?」と、きつめに言われてしまい、
「・・・わかった」と答えるしかなかった。
いつ以来だろう、父に怒鳴られたのは。小さい頃に勝手に外に行って帰ってきた時だったか。しかも巫女姿で。
父と杉田君が一緒に書斎に入っていくのを確認すると、今度は母の質問攻めにあうのだった。
「ねえ、あの子この前言ってた妙に頭が良くて学力テストで全国一位を取ったっていう子!?しかもあなた、その子がズルしたんじゃないかって疑って再テストして結局満点を叩き出したんだっけ?」
あー、あの時悔しさもあって両親にも愚痴ってたっけ・・・。
「そう、彼がその杉田君。それにしてもお父さんだけと話なんて。何だろう?」
「雰囲気からして、娘さんを俺に下さい!ってワケじゃなさそうだけどねぇ」
おのれ、下世話な母親め・・・。
「違うから! 杉田君とはただの同級生! そもそも本人も誰とも付き合わないって学校で公言してるし!」
「それじゃあ頑張ってアプローチすれば? 私は気に入ったよ。いつでも婿にって感じ!」
さすが意中の人にアプローチをかけて愛を勝ち取った人の言うことは説得力あるな。
「だから違うってばぁ!!」
書斎にて、
父親と少年、いや、二人の大人は真剣な顔で向き合い、そして多くを語り合った。
二人が書斎に入ること30分経過。
「・・・遅いね、二人とも」
「・・・うん。あ、出てきた」
ようやく出てきた二人だが、どっちも顔色が良くない。それどころか、
「あれ?どうしたの、杉田君!その顔!」
なんと杉田君の頬が腫れていたのだ。間違いない、これは。
「あなた!杉田君になんてことを!」
父が杉田君にしたことにさっそく気付いた母は、父を咎めようとするが、
「真里さん!良いんです、これで!!」
それを止めたのが杉田君本人だったため、すぐに思いとどまった。
「では俊さん。後日また改めて」
「・・・ああ・・」
杉田君は挨拶をすると部屋を後にした。私は彼を追いかけて玄関まで行った。
「杉田君!階段下まで送るから・・・」
「別に良いさ。一人で帰れるよ」
「良くないわよ!だってお父さんに殴られてそのまま帰すなんてことできないし。それにその顔いい加減にして欲しいのよ!! 何でいつも私の前ではそんな寂しそうにするの!? こっちだって悲しくなっちゃうよ・・・」
私が抱えていたものを思いっきりぶつけられて、杉田君もようやく気持ちが通じたようだ。
「・・・わーったよ。下までだからな」
「お父さんと何を話してたの?」
「秘密だ。まだ教えることはできないんだ。まだな・・・」
「何で私のお父さんに殴られなきゃいけなかったの?」
「これは必要な傷なんだ」
長い階段を降りている間に色々と聞き出そうと試みるが、杉田君は中々話してくれない。
「じゃあせめて、杉田君がクローン・アーマー・スーツを着込んでまで私がバイトしてるメイド喫茶店に通っていたのかを説明して!」
「・・・いつから気付いたんだ?」
「巴さんが杉田君が昔アーマースーツを着てたって言った時から。それに、あとであなたが大のスター・ウォーズファンだって唯さんから聞いて確信したわ」
「・・・そっか・・」
「ほら、またその顔!」
「あ、悪い悪い・・・」
気を抜くと杉田君はいつも寂しい顔をする。全く。
「・・・あの店を選んだのは本当に偶然だよ。あのアーマースーツを着てればいくらか気は晴れたからな。誰が目的でとか、そんなことは全然考えていなかった」
確かに、当時の先輩が指名無しの客がいるからと接客を頼んできたのが切っ掛けだった。 最初は戸惑ったが、杉田君はあの格好で緑茶を頼んできたものだから思わず吹いてしまった。当然あとで先輩に注意されたが、杉田君はその時、むしろ喜んでいた、私の笑った顔が良いと。
「何であの格好で大人ぶっていたの?私、気付くまでてっきりあのアーマースーツの中身は大人の人だと思ってたのに・・・」
「・・・なあ渡辺。お前は生まれ変わりがあるって言われたら信じるか?」
「生まれ変わりを? う〜ん、難しいけど、今は"進化の世紀"だから可能性が無いなんて断言はできないと思うけど。それがどうかしたの?」
「・・・いや、何でもない。それじゃあな」
階段も登り終わって、また和服から革ジャンスタイルに戻してハーレーに跨がって帰ろうとする杉田君。
「あ、また学校でね!」
「おう、学校でな」
そう返事してグラサンとヘルメットを付けて、走り去っていった。
実家に戻ると、両親が少し意味深な話をしていた。 私はそれをバレないように、襖の影に隠れて聞き耳を立てた。
「あなた、あの子なら"例の刀"について相談に乗ってくれるんじゃないの?」
「それはまた今度だ。今は彼が話していた"ケジメ"を待つだけだ」
「あの子と何の話をしてたの? 教えてくれたっていいじゃない」
「もちろん話すさ! でも待ってくれ。どうしてもすぐは言えないんだ」
「・・・わかったわ」
話が落ち着き、二人とも各々の部屋へ行った。
父は何かを隠している、そして杉田君が話したことでその隠し事を私たちに打ち明けようとしている。
一体何をだろう?
それに母も妙なことを言っていた。"例の刀"とは一体何だ?
ここだけの話だが、この家の裏には古い蔵がある。中には主に年末年始の行事で使う物が積まれている。その奥に渡辺真里が口にしていた"例の刀"である柄が長い真剣が収められているのだ。
そして、自分の書斎に戻った俊は、ギラとの会話の最中、彼から貰った一枚の写真を見つめていた。
それからテスト期間中はお互い何も聞かずに、受験をしていった。
そしてテスト結果が発表されると。
「ギラー!!赤点回避成功だ、ありがとな! お礼としちゃなんだけど、GWであたしと国内旅行デートしようぜ!!」
「ちょっとズルいよ奈々!ギラ、私も赤点回避できたから、私と海外旅行デートしようよ!」
二人とも下心満載で誘ってきた。男としてはどっちかを選ぶべきなのだろうが、悪いが俺は恋愛シミュレーションゲームのルートを選んでいるゲーマーではない。
「俺はGW中大事な用事があるからどっちとも無理だ、じゃあな」
「「そんなぁ~!」」
二人をおいて帰路につく俺。
悔しいだろうが唯、奈々、そういったイベントは夏までお預けだ。
大事な仕事があるからな。大事な仕事が。
「“大事な用事”って何だろう?」
「さあな、とにかくGW中どうする?」
本当にどうしよう。海外旅行なら奈々にも勝てると踏んでいたのに、まさかの両方断るとは思わなんだ。
「私の海外旅行券が残っちゃうけど、これ一人だと使えないし・・・」
「親はダメなのか?」
「二人とも私に気を遣って断るから・・・」
「・・・じゃあよ、どうせならあたしと行こうぜ。良いだろ?」
「え?まあ、良いけど・・・」
「よっしゃ! で、行き先はどこなんだ?」
「フランス・イギリス・ドイツ・イタリアのどれかだけど・・・、どれにする?」
「う〜んそれじゃあ、社会勉強も兼ねてイギリスにしないか?総理もあそこに訪問するし」
「OK!決まりだね!!すぐにパスポート申請しなきゃ!!」
私と奈々のGWはイギリスで過ごすことに決まりだ。
校門を出てしばらく歩いた俺は、遅れて付いてきた巴に聞いた。
「テストはどうだった? 巴」
「おかげさまで、問題なし」
「そりゃ良かった。・・・濃さん、そっちも大丈夫だったか?」
俺たちが歩いている通りにある塀の上に、トラこと信司たちと同じ高校に通っている女子、斉賀深美が立っていた。
「もちろんです。既にお館様たちも今日中に店を閉めて、荷造り済ませて発つところですよ」
彼女もまた、"生まれ変わり"の人間である。ちなみに『TEISHOKU』のメンバーである。
彼女の前世は1535年から1612年。
"マムシ"こと斎藤道三の娘にして、信司の前世である織田信長の正妻。
濃姫。
「んじゃ、俺たちも行くか。懐かしのブリテンへ」
ちなみに、
柳田、五十嵐、乱場も成績アップで通過。
剛は、
英語のみ赤点、補習あり。
「ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」




