17発目 正しく生きたくば、義を尽くせ!
ここは熊堂会の本拠地ビルから南の3km地点の住宅街。
ALIVEの人員はまだまだ増え続けている。だが人数自体は能力者集団を抑えられるほどあるわけではない。今回の騒動なんかが良い例だ。この半径3km以内の区域から犯罪を犯した能力者を一人も逃がさないようにするなんてことは彼らだけでは無理だ。
だからこの俺、八代信司と青木正士、そして榊千恵の三人がギラからのLUMEを介してのメッセージを読んで、ここから逃げ出した能力者のヤクザたちを狙撃している。
「蘭丸、バレットM82を32丁を展開。1丁は俺が使うから俺の手元に。標的は虫の羽を生やした能力者たちだ。もちろん不殺で頼む、一人も逃がすなよ」
『御意』
何故俺が生前の部下であった蘭丸の名前を呼びながら火の玉から武器を展開させているのか。その答えは俺の能力にある。
俺の能力者としての力は装備に分類される。武器は刀。1582年の本能寺にて部下の明智光秀の裏切りにあった際に持っていた刀だ。この刀はただ敵を斬る為のものだけではなく、あの本能寺で俺と運命を共にした部下31名の魂を呼び出し、その数だけ火の玉を出現させ、その中から俺が見て覚えてきた銃火器類を展開させて撃たせることができる。ただ完全に操作できるわけでもないのだ。31もの魂の中で唯一話しかけることができるのが森成利、通称:蘭丸の魂だけなのである。そのため何の武器を展開させるかを蘭丸に指示して彼に操作させているのだ。
ついでに俺と一緒にいる二人のことも少し話そう。俺の右隣で狙撃している正士の能力は俺と同じアクセサリーで、武器は第一次、第二次世界大戦でアメリカ軍に使用されていたスプリングフィールドM1903である。
なぜ彼の前世で起きていた南北戦争の装備が武器じゃないのか。ここだけの話、作者がマスケット銃よりもボルトアクション式の方が好みだからだ。
最後に俺の左隣にいてレミントンM700で狙撃している千恵。彼女実は能力者じゃない。
以上。
杉田宅にて。
リビングでは非戦闘員だから保護という形で置いてけぼりを食らってしまった渡辺実央がソファーにいる。
保護しているのはこの家の住人である杉田君の妹、愛羅ちゃんと枝折ちゃんだ。初対面だった為、先に挨拶は済ませてある。
「ねえ、杉田君はさっき私を非戦闘員って呼んでたけど。あれどういう意味かな?私、なんかのチームに入ってたっけ?」
「あー・・・、多分LUMEのグループにもう入ってるって無意識に考えてたんじゃないかな?ほら、今一緒に行ってるメンバー、みんな同じグループに入ってるから」
「そんなものかな・・・。ところで、アイラちゃんはさっきから外で何してるの?」
シオリちゃんは私と向かい合ってソファーに座っているが、アイラちゃんは庭で何やら遠くを見ている。黄色い静電気をバチバチさせながら。
「実はさっきLUMEでお兄ちゃんからメッセージがあったの。敵がとんでもないデータを隠し持ってるから、ネットを介してそのデータが外に移されないよう妨害電波を出しておいてくれって」
「・・・・・・」
私は少し考えた。正直まだ理解できていなかった。
「どうしたの?渡辺さん」
「二人とも良いの?なんかすごいことを買い出しのように杉田君に頼まれてて。私は見ててちょっと怖いよ?」
「別に大変なことでも無いよ?むしろお兄ちゃんが今やってることの方が危険だし。それにね、私たちにも関係してることみたいだから」
「どんな関係?」
聞くとシオリちゃんは少し悲しげな表情で私を見てきた。
「何?」
「別に、何でも。そのうちお兄ちゃんの方から渡辺さんに教えてくれるよ」
私が尋ねると取り繕った笑顔で答えたシオリちゃん。何か深い理由があるみたいだ。でも今は聞くべきでは無いと悟って、私は出る寸前だった質問を心の奥にしまい込んだ。
「そう・・・・。あ、話変わるけど、私のこと実央って呼んでくれないかな?」
「・・・良いの?」
「もちろん!杉田君はともかく、二人とは私、友達になりたいし!」
「じゃあ・・・、改めてよろしく!実央さん!」
楽しげに会話しているシオリと渡辺さんを背にチラ見していたアイラは、シオリと同じ悲しげな表情をしつつも気を取り直して、ビルへの妨害電波に集中した。
ビルの20階の組長の部屋にて。窓から外の様子を覗っているのは冷泉組長と、獅子男のイサナと連れてこられた囚われの五十嵐克也、そして白衣姿の男:ドクター・上田卓だ。
「組長、あとはあの“ウルフルズ”に任せるしかありません。データも妨害電波のせいで他の支部へ送信することも不可能。Bee部隊の何名かで空中での脱出を試みましたが成功せず。バリアは壊され、下にはもうALIVEが到着しています」とドクター上田は組長に提案する。
彼は元々とある病院に勤めていた外科医だったが、4年前家族を熊堂会によって人質に取られ、ある研究の“再現”を依頼されてここにいるのだ。今、組長に最善の策を提案しているのはあくまで彼の家族を守るための行動である。
「わかっていますよ!!この際ALIVEも皆殺しです。こうなったら地上ルートで強引にでも突破するしかありませ、・・・ん?」
組長はビルの1階から飛び出ている何かに気づき、持っていた望遠鏡で覗いた。
「あれは・・・!ちくしょう!!商品まで解放したか!あのガキ共!!」
組長の丁寧な言葉遣いが汚くなるほどの事態はビルの入口だけではなく、10階あたりでも起きつつあったのだ。
時間は約20分前に戻る。
「酷いな、これ・・・・・・」
俺が細川たちと合流して、クローン・アーマーから戦闘スーツに戻してバリアの発生源である装置がある10階を目指して、各階の部屋を確認しながら進んでいくなか、拐われて捕まっていたヤクザの人身売買用の商品、少年少女たちにそれなりにスタイルが良い女性たち、さらに能力持ちらしき人間たちが老若男女区別なく牢屋に入れられ、捕まっていた。その光景を見て、言葉を失っていた剛がようやく口を開いたところだった。
「この有り様を絶対に忘れるなよ、3人共。人類は数十年前からこれ以上にイカれたことをやらかしてるからな」
と、俺は人類に対しての皮肉を交えながら喋った。
「と、とにかく助けないと!」
「そうだな剛。ジェイク聞こえるか!?今すぐALIVEを送ってくれ!捕まってた被害者を解放する!!ビルの一階まで行くよう伝えるからそこで保護してくれ!!」
『Sir!Yes,Sir!!』
「剛。お前は捕まっている人達の鎖をこれで切り続けろ。邪魔者のヤクザは俺達がやる」
と、俺は少し大きめのワイヤーカッターを剛に渡して、階段の方からヤクザたちがマシンガンやらハンドガン、木刀などの武器を各々手にして下りてくる音を聞きながら愛刀の雷龍を鞘から引き抜いて構えた。
「奈々、ビシャ。二人ともここから先、敵に会ったら全員倒せ。俺と柳田はバリアの発生装置の破壊と五十嵐の救出だけを優先する。途中例のモノがあったら見つけ次第破壊してくれ。頼むぞ!」
「「Yes,Sir!!」」
「よし、柳田!突っ込むぞ!!付いて来い!!」
「お、おう!」
俺は柳田と一緒に牢屋をあとにして、「くたばれ!ガキ共!!」と叫びながらヤクザたちがダダダダッ!!っとマシンガンを撃ちながら部屋に入ってきたところを、雷龍で弾丸を跳ね返しながら柳田の盾になり、左手でマグナムをドンッドンッドンッ!!と撃ってヤクザ一人一人を戦闘不能にして進んでいった。ヤクザたちが怯んだその瞬間を柳田は逃さずに、薙刀を握りしめて敵をなぎ払った。
「この調子で行くぞ!あと答えるときはYes,Sir!で頼む。わかったな?」
「Yes,sir!!」
柳田もだんだん調子を上げてきたようだ。
5階に到着。
奥からはまだまだ出てくるヤクザ軍団。粘り強さとしつこさは紙一重と言うが、この場合はどっちもあって欲しくないな。
「なあ。さっき気になったんだけど何で細川のことを"ビシャ"って呼んだんだ?」
「さりげなく呼んだつもりだったのによく聞いてたな。ていうか今それ聞く?あいつの昔のコード名さ」
と、デスクの影に隠れて銃弾の雨をしのいでる最中にこんなやり取りをしつつも、俺達は飛び出して弾丸風雨の中を駆けてヤクザを斬っては撃ち、弾丸を跳ね返しては飛んで、そして時には創造能力で出したスーパーボールをうまく跳ねさせて目潰しに使ったり、殴っては蹴り飛ばして倒し、先に進んでいく。
ここでストップ。
やあ、どうも。何で俺が当然の如く軍刀を使って銃弾を跳ね返すことができてるのか。
説明しよう!
少し前に俺が感知能力を持っているって話はしたよな?その秘密、実はこの軍刀にあるんだ。
この軍刀:雷龍には創造能力とは違う別の能力が宿っている。その正体は名前の通り"雷"の力だ。簡単に言えばこの刀が持ち主とリンクしていると、その持ち主は雷、つまり電気を操ることができるんだ。要するに妹のアイラと同じことができるってワケ。でもこの能力に目覚めたのはつい数ヶ月前のことなんだ。だから成長も発展途上で能力自体もまだ完全じゃない。だから感知能力も範囲に限界があるし、電気もあのビリビリ中学生の少女みたいに攻撃できるほど使えるわけじゃないんだよ。
だから今は、その感知能力を応用して敵が持っているマシンガンとかの銃口の先に、あの銃のバーチャルゲームを舞台にした小説に出てきた予測線みたいなのを俺の電波で形成して、それを見ながらタイミングよく弾丸を雷龍で切ったり跳ね返してるってわけだ。
この感知能力は俺が銃を撃つ時にも応用はできる。まあ普段は元からの腕だけで命中させてるけど。
はい、説明おわり。
柳田と連携して戦いながら各階のヤクザたちの足止めを突破すること15分経過。
ようやく発生装置がある10階にたどり着いたところだ。だが一つ問題があった。
「あいつら・・・!拐った子供を盾に!!」
窓のそばでいかにもバリアを放っているって感じな装置を背に、何名かのヤクザたちによく見るとあの蜂人間も子供たちの頬にトカレフの銃口を突き付けて「こいつらの命が惜しけりゃ武器を捨ててこっち来いやぁ!!」と部屋の入口まで来た俺と柳田に脅しをかけてきた。
よくある卑劣な行為だが、やはり真っ当な人間からして、目の前で実際されると腸煮えくり返るもんだ。
「こういう時は、これだな」と、俺はあるモノを創造して手に取った。
「っておい!子供ごと吹き飛ばす気か!?」
俺が出したモノを爆弾だと勘違いした柳田は俺を止めようとするが心配ない。
「これはスモークグレネードだ。人は傷付けない」
喉は少々傷付けるが。
安全ピンを外して部屋にいるヤクザたちのところめがけてグレネードを投げ入れた。部屋はたちまち煙だらけになり、激しい咳が聞こえてくる中、俺は柳田にガスマスクを付けさせて、感知能力でヤクザたちの位置を確認しながら一人ずつ子供を助けて、ヤクザたちをノックダウンさせていった。
「お前、何でガスマスクつけなくて平気なんだ・・・」と、素朴な疑問をふっかけてくる柳田を無視して、子供たちの安全を確認してから俺は目的を果たす。
「は〜いこれでうざいバリアちゃんともおさらばだな!!」
俺はセリフを良い終えると同時に、雷龍を装置に突き立てて強制停止させた。電子音が消えていくのを確認して俺は雷龍を引き抜き、鞘に戻した。
「お前・・・・。それが爆発しないかとか考えないのか・・・?」と呆れながらじーっと俺を見てくる柳田。
「この手の装置は何度も潰してきたからな。これはその中でも粗悪品だ。物が良いほど爆発が起きやすいからこれは大丈夫だ」
「・・・・ギラ。本当に何者なんだ?お前・・・・」
「その質問はもっともだ。だけどな柳田。俺が1階フロアで言ったことを思い出せ」
指摘された柳田は、はっ!と思い出したように表情を変えた。
「大事な友達の救出が先だ。急ごう・・・・・!?」
すると、荷物用のエレベーターが止まる音が俺達がいる10階全体に響きわたった。
柳田にはわからないだろうが、俺は感知能力ですでに何が乗ってるのかはわかっていた。だからこそ次のセリフを俺は放った。
「Wooo〜あのクズ組長、ここで本命を使うとはな・・・」
「え?」
その正体は、さっきみんなと合流した時に細川から見せてもらった書類に書かれていた培養器を使って熊堂会が作っていたモノだ。
いや、モノはモノでも"生き物"だ。
設計図の見立てで作った生き物の大きさはおおよそ見当がついていたが、まさか頭が狼だとは思わなかった。
ズンッズンッ!と重い足音を立てながら3体の狼男が少々小さい部屋の入口を無理矢理広げながら入ってきた。
俺は真っ先にマグナムをドンドンドンッ!!と早撃ちヘッドショットを決めた。だがそれだけでは終わらなかった。
どの弾丸もカンカンカンッ!!と音を立てながら跳ねて狼男たちの足元にキンキンキンッ!!と落ちてしまったのだ。おそらく遺伝子操作で強化された剛毛なのだろう。
「Shit!(くそ!)マグナム弾通さないってどんだけ剛毛!?」
「お前、変なテンションになってないか?」
「黙れ、ランサー!今は戦うことだけに集中しろ。無駄なツッコミしてると死ぬぞ!」
狼男たちは俺の怒鳴りを気にもせず、ウオォォォ!!とまさに獣の如く突進してきた。
「子供たちを先に逃がせ!!」と、俺は鉄の壁を創造して狼男たちめがけて投げ、一旦のけ反らせた。
その隙に柳田は子供たちを連れて猛ダッシュで部屋を出ていった。
もちろん狼男たちはそれに気づいて後を追おうとするが、俺がそうはさせない。
「コッチヲ見ロォォォォ〜!!」と、俺は叫びながら水風船を狼男たちに命中させた。そして狙い通り3体共、子供から俺に標的を変えた。
「お前らってマグナム弾はへっちゃらだったけど、これはどうかな?」
俺が水風船の他にもう一つ用意していたのは、MGLリボリング・グレネード・ランチャーだ。
ポンッ!と俺がランチャーで撃つと、ドーンッ!!と爆発音とともに火に飲まれた狼男たち。
2体は仕留めたみたいだが1体は運良くまだ生きていて、火だるまになりながらもヨロヨロと起き上がろうとしていた。
「じゃあもう一発・・・・・!」
ランチャーの引き金を引く直前に俺は窓の外からすっ飛んで来る誰かに気づいて避けるために右へと滑り込んだ。
ガシャーンッ!!
窓ガラスが割れると同時に、日本のケツの持ち主が蜂人間を連れたまま飛び込んで、そのまま起き上がった狼男に頭突きをかまして壁に打ち付けた。
「唯。中のこと考えろよ!気づかなかったら俺も巻き添え食らってたぞ?」
「でも気づいたでしょ?」
「あ〜もういいや!」と、投げやりになりつつも俺は焼けた狼男の頭を念のため雷龍で刺していった。
「ギラー!大丈夫か!?戻ったぞ・・・って!!」
「あ〜柳田見ない方が良いぞってもう見ちゃったか・・・。あ、唯も?」
実は狼男の1体がグレネード弾をもろに食らったため、脳ミソやら内臓やらが露になってしまっていたのだ。当然それを見てしまった二人は揃ってオロロロォォォォッとゲロを吐いてしまった。モザイクの上にさらにモザイク。とんでもない絵面の出来上がりだ。
「ゲロインの誕生だな・・・・ところで唯。外の蜂軍団はどうした?」
「・・・・なんとか、全部倒した。こいつが最後の一人。あとはみんな下のALIVEの人達に連れていかれている途中」
あれだけの数を全部撃ち落としながらも、一人も殺さなかったとはすごい。ここにいる蜂人間も気絶しているだけみたいだ。しかも気分が悪くてもちゃんと報告してくれる唯、ナイスファイト。
『ジガ!報告を!』
「ん!?」
無線越しの声が聞こえてきた。俺達が付けている方じゃない。唯が連れてきたこの蜂人間が付けている無線からだった。
『報告しろ!ジガ!!』
おそらくこの声の主はあのクズ組長だろう。
俺は無線を取り上げて、
「残念〜ジガはくたばったよ〜。繰り返す!ジガはくたばった!まあ本当に死んだわけじゃないけど。あっはっはっはっ!」
煽りに煽って答えてやった。
『・・・・・君ですか。1階フロアのカメラの前で堂々と宣戦布告していたあの生意気なガキ。しかしそんな調子でいられるのも今の内です。もうそこにわたしたちの傑作品:ウルフルズが到着する頃です。その時にはあなたのその軽口も叩けないでs』
「あ~、あいつらウルフルズって呼んでんのか。そのネーミング怒られない?俺だったらウルフ・パックって呼ぶけど・・・あ~これも怒られるか・・・。とにかく!あれがあんたの傑作品だって言うのなら、今すぐ投降することをおすすめする。潔く降伏してくれれば手荒なマネはしないさ。優しく接してやる。それどころか!妹みたいに可愛がっちゃう」
バキッザザッザー。
「あ、コワシチャッタ。あいつ」
「今の聞いてたら俺だって壊すよ」と、クズ組長の心中を察する柳田。
フーッフーッ。
ギラとの会話で怒り心頭に発した冷泉組長は、付けていた小型無線を外し怒りに任せて握り潰してしまった。
「終わりだ・・・。ウルフルズが無理ならもう手は・・・」ともう諦めかけていたドクターだが、そのつぶやきに触発されてか、冷泉は起動中のパソコンに向かい、キーボードをタップして下の11階から19階にかけて設置されている大量の培養器のコンピュータにアクセスし始めた。
「お待ちを!何をするんです!?」
「残ったウルフルズを全部出動させる。いくらあのガキ共が強くても数には耐えられないだろう・・・ははっ」
「ダメです!完成品以外の洗脳はまだできておらず、今目覚めさせれば暴走は免れません!」
「黙れ!」
冷泉はドクターの忠告を無視するどころか、傍にあった刀を鞘から引き抜いて刃をドクターの喉元に近づけてきた。
「研究ならまたやり直せば良い。だがここを出る前にあのガキがくたばるのをこの目で見るまでは私の気が済まない!!それまでは何も言わず引っ込んでてもらおうか!!」
完全にヤケになっている冷泉だが、この部屋にいる者に今の彼を止められる者は誰一人いない。冷泉は引き下がったドクターの喉から刀を下ろし、再びパソコンに向かって全ての培養器のコンピュータに解錠のコードを一斉送信した。
同時刻。
各階にある大量の培養器からは、中の培養液の水位が減り、目を覚ましたウルフルズたちが培養器を無理矢理こじ開けて出てきた。
時間は少し遡り、ギラが無線で冷泉を煽る少し前。
細川たちは捕まっていた人たちの解放を7階まで済ませていた。
「よし、ヤクザたちもこれであらかた片づいたね。どう?剛君」
「よっしゃ!この人の鎖で最後だ。みなさん下へ行って下さい!警察の人がいますからそこで保護を受けて下さい!次は8階だな・・・」
次の階の人たちも助けるという一心で急ぐ剛だが、細川と北野に制された。
「待つんだ剛。奥の荷物用エレベーターから何かが来る・・・!」
「え・・・・?」
しばらく経つと、牢屋の入口からズンッズンッ!と重い足音を立てながら5体の狼男が入口を無理矢理広げながら入ってきた。
「定番のデカ物の登場だ・・・」
北野が呟くのをよそに、細川はさっそくUZIを狼男たちにフルバーストしたが、カンカカンカンカンッ!と音を立ててひしゃげた弾丸がコロコロと床に転がっていくだけで怪物たちは血を流すどころかのけぞりもしなかった。
「Impossible・・・・・!(そんな馬鹿な・・・・・!)」
うっかり英語を喋った細川が誰かさんと似ていた為、俺と北野は思わず反応して彼女に顔を向けてしまった。
でも怪物たちはそんなことは気にしない。遠慮なしにウオォォォ!!雄叫びを上げながら突っ込んできた。
「剛!その人たちを先に階段で逃がすんだ!コイツらはあたし達がやる!!」
「了解!」
1体の狼男が俺に向かって突進してきたが、衝撃無効化で食い止めそこへ北野一発蹴りをかまして吹き飛ばした。
俺はその間に人びとを階段に誘導していった。
細川は小柄な体型を利用して怪物たちの拳を交わしながら背後に回り、1体の狼男の背中に飛び乗り隠し持っていた手榴弾から安全ピンを外すと、なんと狼男の開いた口の奥に押し込んだのだ。
「よ~く味わいなさい・・・!」
細川は狼男の耳元にそうささやくと後ろに飛んで引き下がった。その瞬間その怪物の頭は中身から弾けて肉片と化し、すぐ近くにいた狼男たちも巻き込んで爆発した。
「細川・・・。それはやり過ぎなんじゃ」と、爆殺を平然とやってのけた細川に話しかけるが、
「奈々!!手加減したらダメ!!こいつらは絶対に殺して!!」
と、細川は真剣な顔で北野に声をかけた。
「・・・・わかった!」
爆発で死んだのは3体だけだった。残りの2体は爆発で倒れていたがまたすぐに起き上がってこっちに向かってきた。北野は学帽を被り直して右目を横に引っ掻くと仮面の一部みたいなモノが現れた。すると彼女の体じゅうに巡っている血管がちょっとだけだが赤く光っているように見えてきた。
狼男が一斉に殴りかかるが、北野は難なく交わし、
「オラァァァッ!!」
と、2体同時に両正拳突きを繰り出した。
怪物たちは後ろへ飛ぶことはなく、上半身は腹のあたりから捻れて肉片へと変わり、下半身だけ残してその場で死んだ。
『ビシャ、そっちの状況はどうだ?バリアはもう壊した。さっきエレベーターで狼男たちが行ったろ?』
怪物たちの退治が終わって、俺も避難誘導が終わって戻ってきたタイミングで突然、無線が入ってきた。ギラからの通信だ。
「今7階でちょうど片付いたところ。後は打倒組長、残りの人質と五十嵐さんの救出で良いはず・・・」
『いや、人質はもうそこまでしかいなかった。それにまだだ。培養器の怪物たちが残ってる。どうやら11階から19階までがそれの保管室になっている。100体はいる』
・・・・あんなのが100体も・・・。
『俺はこれから柳田と一緒に五十嵐の救出、そしてクズ組長との決着を付けてくる。他のみんなはあの怪物たちの始末を頼む』
「始末って言っても・・・・」
いくら相手は怪物でも生きている。ゲームでモンスターを倒すのとはワケが違う。命を奪っているのだ。決して簡単なことではない。
その通り。細川と奈々はともかく、唯、剛には初めての経験だ。命を奪うことがどんなに重いのか。
俺のすぐそばで唯も表情を曇らせていた。ついさっきまで相手を殺さぬよう戦ったばかりなのだから。
「いいか唯、そして剛。この世は理不尽なことばかりな面もあってそうではない面の2つを持ち合わせているんだ。俺達が今立っている場所はその前者だ。あのクズ組長が作り出した怪物たちは確かに生きてはいるが、所詮兵器だ。躊躇はするな、慈悲は無用。やつらは慈悲を持たない敵だ」
「・・・・うん、わかった」
『・・・了解』
厳しい言葉だが、これが二度目の人生16年で俺が得たこの世の現実だ。戦争が起き、人は死んでいく。その度に人類は平和を望むかイカれた行動に向かう。世界はまだ開拓され尽くしていない、まだまだ公になっていないことだってある。冷泉はその一部を覗き見した人間の一人に過ぎない。ただ、それを認識した上での選択を誤ってしまったようだが。
「よし、ビシャ。10階にランチャーと手榴弾を置いていくから上がる途中で拾って使ってくれ」と、MGLリボリング・グレネード・ランチャー1丁とグレネード弾12発入りのホルダーを創造して床に置いた。
『Yes,sir!』
そしてショートカットするため俺はガチャガチャと音を立ててクローン・アーマーに身を包みジェット・パックをまた背中に装着した。
「柳田。つかまれ!ショートカットするぞ!」
「ショートカット?ってうお!?」
「ドクター、メモリは全て持ち出しなさい。そして娘を連れてくように。イサナ、あなたが頼みの綱です。私たちを守りながら包囲網を突破するのです」
「了解」
冷泉はイサナを先頭にして、万が一の為に刀を持ち彼の背後に、ドクター上田は嫌々ながらも五十嵐をトカレフtt3で脅して連れていく。
組長室をあとにしようとした一行だが、窓のついた壁が突然爆発したため足を止めた。原因は柳田を連れて飛んできたギラがこの部屋に入り込むために、ジェット・パックに搭載されているミサイルを使ったからである。
「もうお帰りか?組長さん。ルームサービスがまだですよ」
煙の中から木製薙刀をもった柳田拳とともに姿をあらわしたクローン・ジェット・トルーパーは、やがて軍刀を腰に差した戦闘スーツ姿の杉田義羅へと変わった。
「・・・!五十嵐!!」
柳田は目的の大事な女の子を見つけ、助けようと踏み出すがギラがまだ危険だと察知してそれを制した。
「なるほど、この子を助けに来たんですか?これはまた素晴らしい話ですねぇ!っはっはっはっは!!まさか私の友人の娘を拐っただけなのに、そんなことでおおごとになっていたとは!」
「何が"だけ"だ?何が"そんなこと"だ!!何の関係もない人達をこんな目に逢わせといてよくも!!ましてや女の子まで!!」
各階で見てきた牢屋に入れられていた人達、さらに目の前で捕まっている五十嵐を見せられて、怒りがこみ上げている柳田。
「っは!これだから本当の世界を知らないガキは嫌いなんですよ。5年前の出来事で私は本当の世界を知ったんです!約1年半前まで続いていた戦争は、世界の片鱗であったことを!」
「ただの生物兵器"オーク"のパクりだろうが・・・」
「・・・え?」
「・・・!?」
その場にいる全員がこう考えただろう。なぜこのガキがそんなことを知っているのだ?と。
「・・・・ギラ?」
「クズ組長さんよ。あんたらが作っていたここの狼男たちの培養器の設計図。大きさが違うだけでオークを作っていたあの培養器とそっくり同じだったぜ。オークを作っていたエンジニアたちはもうとっくに死んでいるのは確認済みだが、培養器はまだ裏社会で出回っているのも知っていた。だけどまさかそのオークの生産を支援していた組織の生き残りが真似事をしていたとはな」
「何で・・・お前みたいなガキが、・・・あの兵器のことを知ってるんだ?」
「あ~、そろそろガキガキ言うのは止めにしなよ"小僧"。こちとらあの生物兵器とは何年も戦ったんだからな」
「!?・・・殺せ!イサナ!!」
命令を受けた獅子男:イサナはものすごい勢いで俺に向かう、
と、ばかり考えていたため、俺じゃなく柳田を狙った突進に反応が少し遅れてしまった。
バキッ。ガシャーン!!
「・・・・・え・・・?」
一瞬、頭が真っ白になった。五十嵐の家を襲っていたあの獅子男があっという間に俺の目の前に来て殴り飛ばそうと拳を振り上げていた。
反応が遅すぎる。
避けられない。
受け身も取れない。
確実に死ぬ。
そう感じていた。
はずなのに。
ドゥンッ!と鈍い音と共に右方向に吹き飛ばされたのは俺の体じゃなく。
ギラの体だった。
一方、唯たちはギラに言われた通りに生物兵器の狼男:ウルフルズの殲滅に取りかかっていた。
唯は即死レベルのファイアーレイを撃ちまくり、機動力を活かしてビルの外に狼男たちを連れ出して空中で塵にしてまたビル内に戻っての繰り返しだ。
細川はギラから借りたグレネード・ランチャーでグレネード弾を怪物1体ずつに命中させ、時々手榴弾もプレゼント。
剛は1体ずつ狼男たちをタックルと格闘術で吹き飛ばし殴り倒している。
そして奈々は仮面を片目に付けながら、狼男たちを1体1体一撃で肉片に変えている。
さて。北野奈々は何故わざわざ中途半端な仮面を付けているのか。
比叡山:延暦寺の根本中堂近くの森にて。
「お前はまだ、全部を試してないな・・・・」
「"全部を試してない"って・・・・どういうことなんだ?」
北野奈々は泰じいさんと杉田義羅が知り合いだと知って以降、ここを二人だけの訓練場として使っている。
「奈々は八瀬童子の末裔なんだろ?つまり鬼としての本来の力が出せるはずなんだよ」
「・・・・じ、じゃあ、今までのあたしの力は全く本気じゃなかったってことなのか?」
「まあ・・・そうなるな・・・・」
なんてことだ。ということはつまり。
「あたし手を抜いたままギラに決闘を申し込んでただなんて・・・」
「落ち込むとこそこなのか?」
「だって失礼だろ?それにあの時5年前のことを聞き出そうとして必死だったのにそれを本当の力を使わずにいたなんて・・・ギラへの想いが中途半端な証拠じゃねえか・・・」
「・・・・あの時以上に強いパンチ食らってたら間違いなくあの学校の運動場が俺の墓標になってるぞ」
ギラは軽々と言っているが、私にとっては本気を出さないことがとてもショックなのだ。
昔、そのことが原因で友達の心を傷付けてしまったことがあるのだから。
「・・・・なんだかワケありなんだな。あまり触れないでおくけどよ・・・」
「・・・・ありがとう。ところでそもそも何で鬼の本来の力が出せていないってわかるんだ?」
「知り合いに同じ境遇の奴がたくさんいるからな。ある者は角を生やしたり、鱗を肌に浮かび上がらせたり、そしてしっぽを生やしたりして力を覚醒させる人間がな」
「その中にいたりしないか?ギラを好きになっている奴とか・・・」
「いねぇよ!お前、まだそれ気にしてるのかよ!」
「今は訓練より恋が大事だ!」
「俺より強くなって俺を自分に惚れさせるっていう目的はどうした〜?」
「プラン変更!他にもライバルがたくさんいるとわかれば目の前のヒットポイントを上げるのが優先!」
「そのセリフ・・・本来主人公が発するべきものなんだけどな・・・」
「じゃあ発してくれよ。あたしはギラに攻略されたい」
「言ったろ?奈々。今の俺は恋愛シミュレーションゲームに失敗して、コントローラーを投げた負け犬ゲーマーだ。攻略はしない」
「じゃあせめてあたしの本来の力をどう引き出すのか、あたしの体を調べてくれよ!・・・・・・ヤらしくなっちゃった・・・」
「言うなよ・・・・」
さっそくあたしは横になって、ギラに体を調べてもらうことにした。
ギラがあたしの体のあちこちを触っていく度にあたし自身が内心興奮しっぱなしで変な気分になっていった。だが、ギラの次の一言でその気分は吹き飛ぶことになる。
「奈々、お前番長を名乗って日本での騒動を抑えてたんだってな・・・・・・ありがとな、本当に」
・・・・・・バレてた。
でもギラのその一言は、嬉しかった。
この十数年間、世界には色んな都市伝説が生まれていた。
正体不明の艦隊、
大昔の戦闘機部隊の出現、
戦場を駆けていく侍、
高層ビルの間をぶらぶら飛ぶ忍者、
戦う背がとても小さい甲冑戦士、
空飛ぶ甲冑騎士、
絶滅したはずの生物の存在確認、
とても強い賞金稼ぎ集団。
言い出したら切りがない。
そしてそれは日本でも例外ではない。
日本には、妖怪が実在する。人間に害する者とそうでない者。前者の妖怪がいたにも関わらず、妖怪は今だ都市伝説程度におさまっている。何故か。
それは抑止力となっていた存在がいたからだ。
その存在こそが、現代の日本の都市伝説上、最も有名なヒーロー。
“番長”。
「オラァッ!!」
この片目にに付いているのは鬼の仮面の目の部分である。奈々が自分の顔を手で掻きむしるような動作をすることで出現する。
ギラとの訓練で、この鬼の仮面を部分的に顔に付けることで力の出力をコントロールできることがわかった。ちなみに目の部分だけということは力は4~5%程度のところである。
それでも怪物たちを一撃で肉片してしまう奈々。完全な仮面を付けた時の彼女の力は底知れない。もしかしたらあのロボッ娘ちゃんみたいに“地球割り”ができてしまうかもしれない。
「コイツら、あと何体いると思う!?」
みんなに聞きつつも、狼男の頭にアイアンクロー+ゼロ距離ファイアーレイを平然とやってのけている唯。
「まだやっと1/3ってところっ!半分もいってない」と、手榴弾を投げてランチャーの弾込めをしていく細川。
「なあ!こう言っちゃなんだが・・・あの二人大丈夫か!?ここの組長、こんな怪物たちを量産しておいて、もっと強い化け物を作ってないとも限らないんじゃないか?」
倒した狼男に跨がって止めのパンチを食らわしながら不安をこぼす剛。
ギラは、俺を庇って吹き飛ばされた。
俺は殺されかけた。だがギラが後ろに倒してくれたおかげで無傷。代わりにギラの体は右方向の壁にめり込み、血だらけになってしまった。
俺は駆け寄らなきゃと頭ではわかっていたのに目の前の獅子男のせいで足が動かなかった。
「っは、ははっ!はっはっはっはっはっはっ!馬鹿が、余計な首に突っ込むとこうなるんですよ。私の最高傑作品であるイサナを敵に回した時点でねぇ!!さて、残るはき」
「はいはいはいはいー。悪役の典型的な慢心はやめときな~」
・・・そのセリフ、軽々とした口調、最近俺が耳にするようになって最初はウザいと感じていたのに・・・今聞くと安心感すら抱いてしまうほどになってしまった。
「「「ギラが負けるなんて絶対にあり得ない!」」」
剛の不安な考えを即否定する3人の女子たち。その理由は彼の行動原理が以前のお泊まりの際に妹達から聞いたあるエピソードから起因していることを知っていたからだ。
16年前、杉田大介とその妻:沙奈江は生まれてくる息子の名前をノートに書いていきながら考えていた。
「愛介はどう?大介の子供なら(介)は絶対必要だと思うし・・・」
「沙奈江、俺は男の子の名前に愛の文字を入れるのはよくないと思うぞ?」
「私は・・・この子に愛を大事にして生きて欲しいって願いを込めたいからなんだけど・・・・」
「わかったわかった!じゃあ次の子供が女の子だったら必ず(愛)の字を入れようか。その代わり、この子にも性格に見合った名前を作ることにしよう。それに、大事なのは"愛"だけじゃないからな。他にも友情とか、絆とか・・・もっとこう・・・全部をひっくるめて守る・・・みたいな?」
「もしその通りの子供に育ったとしたら、私たちの息子はヒーローね」
「・・・かもしれないな。沙奈江はもし自分を助けるヒーローがいるとしたら、どんなヒーローが良いんだ?」
「私のヒーローは目の前にいます」
そう言った彼女の目は、全く曇りが無かった。
「・・・ありがとな。じゃあどう思ってる?」と、笑顔で答える大介。
「私との結婚に反対していた人達が、危険な目にあってても助けた義理堅い男です・・・」
その時、大介は彼女の言葉を聞いて何かが頭の中でしっくりきた。そしてせきが切れたようにアイデアが口から出始めた。
「・・・・そうだ。"義"だ!義を使おう!!これだと色んな大事な言葉が含まれる!正義に仁義、忠義、大義」
「義理、意義、恩義、律儀。たくさんあるわね!」
「これら全ての"義"を網羅する男。俺達の息子の名前は!」
まさに以心伝心の勢いで喋っていく杉田夫婦は、声を揃えて名前を決めた。
「「"杉田義羅"だ!!」」
「「「"義"は絶対に通す!それが義羅という男だから!!!」」」
ギラは、生きていた。
よく見ると獅子男のパンチ一撃で負わされたたくさんの傷が、ゆっくりだがみるみると塞がっていくのがわかった。一瞬銀色に光る"何か"も見えたがそれはすぐなくなった。何故かはわからないがギラには治癒能力もあるようだ。ただ治る際は痛みもあるようで、本人もそれを感じて獣のようなうめき声を上げながら立ち上がっていた。
「今の速さとパンチは、確かに中々だったな。最高傑作品って言うだけのことはある。んん〜」
まだ痛みはあるようで途中唸っているギラ。
「でもまだまだだな、イサナとやら。お前は三下だ。俺は真の“獅子の男”を知っているからな」
「ほざけぇっ!!」
自分のことを"三下"と呼んだギラにムキになったイサナは、ウオォォォ!!と狼男と同じように突進した。それをギラは盾を創造して受け止めた。
「柳田ぁ!俺が隙を作る!その間に五十嵐を助けろ!!」
「い、Yes,sir!!」
「あーそれと!お姫様抱っこもしてやれよ」
下世話な奴・・・。でも俺は笑みを浮かべて答えた。
「あいよ!!」
ギラは盾で受け止めていたイサナの顔に、創造した砂をかけて目潰しをはかった。目をやられたイサナが2、3歩後ろに下がると、今度は身の丈ほどある金属製の大槌を創造し、左手でそれを軽々と持ち、オラァッ!!と声を張り上げながら横に振り回してイサナを冷泉組長たちがいる入口あたりに吹っ飛ばした。
ドッ!ガシャーン!!
冷泉は避けきれないどころか、イサナの巨体もあって壁にぶつかった衝撃で飛ばされたのだ。五十嵐と白衣姿の男もその衝撃によってコケてしまった。
俺はその瞬間を逃さず、一気に五十嵐のことろに駆け寄り、拾い上げて、ギラの近くへ戻り彼女を縛っていた縄と猿轡を外してあげた。
「もう大丈夫だからな、五十嵐。俺がーーんむ!?」
キスをされた。
五十嵐は俺の顔を見るなり、突然唇を重ねてきたのだった。そして唇を離すと、彼女は涙目で感謝の言葉を告げてきた。
「・・・・ありがとう。柳田君・・・」
そして思いっきり抱きついてきた。
すると、部屋の入口付近でノビていたはずの冷泉とイサナ瓦礫の中からガシャガシャと音を立てながら起き上がってきた。
「が、ガキどもが〜っ」
「あ、生きてた」
けろっとしているギラ。だが相手はもうカンカンだった。冷泉なんかたくさんの血管がもう血を吹き出しかねないほど浮き上がっていた。
「ガキども全員肉片にしてやれぇ!!イサナぁ!!」
「おい小僧。せっかく良いムードだったのに台無しじゃねぇか!!失礼な奴め!!」
「今口にしたお前が一番失礼!!」
恥ずかしながらもギラにツッコミを入れたが、また突進してくるイサナから俺は五十嵐を守るように抱いた。
「・・・もう終幕なんだよ、お前らは」
そう言ったギラは、腰に差してる軍刀の鞘を左手で、柄を右手で握ると、腰を低くして居合いの構えをしていた。
そして、左目を閉じて右目だけを開けて、まるでライフルで標的を狙うかのごとく集中していた。
イサナの拳が当たるか当たらないかわからない程の寸前で、ギラは一歩を踏み出し、軍刀を抜刀し、獅子男をほんの一瞬で大きな右手から肩にかけて、居合い斬りで切り裂いた。
イサナの体は飛び上がった瞬間を斬られた為、その場で大量の血をドクドクと流しながら倒れ、横たわった。
イサナの死体を見て感じた。さっき下の階で倒した狼男たちと同じ剛毛を纏っているのを。いや、硬度はもっと上かもしれない。それを斬ったということは、かなり熟練された剣術をギラは持ち合わせているのだ。
イサナの返り血を浴びたままギラは冷泉の方へ目を向けた。
「・・・ま、まだだ。・・・まだ私がいるぞ・・」
自分の最高傑作であったイサナを、目の前で倒され、すっかりさっきまでの自信も失くした冷泉だったが、最後の虚栄心で持っていた刀を鞘から引き抜き、ギラに斬りかかろうとしていた。
「覚悟しろよ・・・ガキ。お、俺は、警視庁の剣術大会覇者だったんだぞ・・・!」
「よくもまあそんな過去の栄光にすがり付いてまで、その刀を握れたものだな〜。呆れるのを通り越して拍手してやりたいぐらいだ」
冷ややかに喋っているギラだが、俺にはわかっていた。内心かなりキレていたことを。
「黙れ!お前等に全てを失った私の気持ちがわかるも」
バシュッ!!
ギラは目にも止まらない速さで間合いを詰めて!冷泉の両腕を軍刀で切り落とした。
「・・・あ・・・ぎ、ぐああ"あ"あ"あ"あ"っ。あがっ!」
激しい痛みと恐怖の叫びを上げて膝から崩れた冷泉をギラは畳み掛けるように顔を膝蹴りし、そして彼の髪を掴んでお互いの顔を無理矢理近づけさせた。
「お前のようなクズの気持ちを理解しようとは思わないが、失った時の喪失感は俺にだってわかる!!」
憤っていた。その時は俺は気付いた。ギラは過去で誰かを失ったんだ。大切な誰かを。
「この痛みをよーく覚えておけよ。今日女の子を拐っただけじゃない、5年前にお前が裏切った警察官たちにそこから今日まで人身売買で売り捌いた人たち全員の分だ!!そしてあの生物兵器でまた戦争を繰り返して、将来お前が作った兵器でさらに傷つけたであろう人々の気持ちを、刑務所の中で一生をかけてじっくり考えてろ・・・!」
その後、唯たちからの無線で生物兵器"ウルフルズ"の殲滅が完了したことを受け、ジェイクに合図を送ってALIVEを突入させた。
俺達が戦闘不能にした熊堂会のヤクザたちは一斉逮捕。組長の冷泉五司も逮捕されたが、手錠をかけるべき手自体が無いし、まず治療を受ける為、警察病院に連行された。ただ組員が捕まっていく中で、ドクターと呼ばれていた白衣姿の男だけは、俺にありがとうと礼を言って連行されていった。
生物兵器のデータは警視庁公安部が徹底的にあらい、他にも協力者がいないかを探るつもりらしい。
現場保存のため、熊堂会のビルから半径1kmの住宅地は全て封鎖となった。
「危うく21世紀末と同じ過ちを繰り返す寸前だったんだな・・・。ありがとな、ギラ。お前にはいつも救われてばっかだよ・・・・」
「水臭いこと言うなよ、ジェイク・・・。あんたこそいなかったら今の俺はいないんだから・・・・」
「年上を助けるのが年下の務め、だろ?119歳のじいさん」
「あの時は知らなかったくせに、元ブリテン兵士君」
そして俺はジェイクと、戦友同士のハグを済ませた。
「それじゃあ、五十嵐ちゃんの事情聴取は後日改めて伝えるから、そのつもりで」
「了解、お疲れ」
ジェイクに別れを告げて、ウィリスの周りで待たせていたみんなのところへ戻った。
「「終わった〜?もう疲れた〜」」
「あれれ〜おかしいぞ〜?いつの間にか小学生が二人、俺の車に乗って遊びくたびれてるぞ〜」
反応が小学生みたいな唯と剛はヘトヘトになっていてウィリスの後部座席で横になっていた。まあ無理もない。あの怪物たちを何十体も倒したのだから。デビュー戦にしてはまあまあだ。柳田も初めての戦闘だったか、救出が目的だったし、戦いの場は二人に比べて少なかったから今も平気なのは当然だ。ただ五十嵐が完全にオチてしまって、柳田に抱きついて離れないため、彼の心臓はバクバクして落ち着いていない。良かったなクソ野郎。
「ギラぁ〜!ごくろうさまぁ〜!」
道路の向こう側から軽トラックを運転しながら俺を呼んだのは、狙撃を頼んでおいた、トラたちだった。
絶妙な運転捌きで俺の前に軽トラを止めたトラ。
「ぽっと出のケジメはちゃんとつけたか?」
「・・・そのようだ」
「証拠は?」
「あっちに冷泉の両腕がある」
「両腕切ったのか。それじゃあソイツ当分、下の世話は他人に任せるしかなさそうだな」
「全くだな・・・そうだトラ。せっかくだし」
【ピーピー!こちらアイラ!お兄ちゃんー、そっちはもう終わった?】
しまった。妨害電波を頼んでたの忘れてた。
【あーこちらギラお兄ちゃんですよー。ごめんごめん、事件はもう解決した。妨害電波ありがとう】
ちなみに、今アイラと携帯や無線を使わずに会話ができるているのは、俺が出す電波と彼女が出す電波を交互に受信することによって成り立っているからである。
【それとアイラ。渡辺とシオリを連れて家を出てくれないか?】
【え?良いけど、何で?】
最後にこれからの予定を電波メッセージで妹に送ると、俺はみんなを集めて提案した。
「なあみんな!一緒にカラオケ行ってみよっか!!」
カラオケに行った俺達は、それはそれはもう歌いまくった。一時は唯、奈々、細川、渡辺、さらには妹たちともデュエットで大盛り上がり。
『曇天』『修羅』『さらば碧き日々の面影』『バクチ・ダンサー』『A Whole New World(アニメ吹替版)』『ルパン三世のテーマ』と、言い出したら止まらない! とにかく好きな曲を片っ端から歌いまくっていった。
そんなさなか、ちょうどトラと千恵がデュエットしていた時、細川が隣に話し掛けてきた。ちなみに彼女はもう顔のマスクを外していた。
「いつまで私を名字呼びするつもり?」
「・・・ビシャって呼んで欲しいのか?」
「わかってるくせに・・・」と言いながら細川は俺の頬をつねってきた。
「あーイタイイタイ。わかった!わかったから!」
つねってくる細川の手を振り払うと、俺は彼女と向き合い、名前を呼んだ。
「8年もかかったが、これからもよろしくな、巴」
彼女を知ってから実に8年。紆余曲折もあったが、やっと本当の名前を呼ぶことができた。
そして巴も俺の呼びかけに応えた。
「こちらも8年かかったけど、よろしく、ギラ。
ところでこれも8年だけど、私のことも候補に入れてよね」
「へ!?」
お前、まさか・・・。"認める"気か?
「あなたが好きよ、ギラ・・・」
と、俺に囁きながら巴は、そのまま唇を重ねてきた。
この瞬間を真っ先に気づいたのは唯だった。
「ああー!!細川さんがギラの唇を奪ってる!!」
はっはっはー大声はやめてくれよ。恥ずかしいではないかー。
もちろん唯の一声でみ~んな注目してきた。
「そんな・・・ギラの初めてが細川に取られるなんて・・・」
落ち込むなよ、奈々。それに俺は
「お、ついに嫁候補を選んだか?ギラ」と冷やかす剛。
「黙れ!丸刈りソルジャー!!俺はまだ誰とも」
「は・・・は、ははハレンチな〜!!」と混乱し始めた渡辺。
「落ち着け、風紀委員!!お前は生徒会書記だろが!!そして俺は・・・んむ!?」
事態を収拾しようとしていた俺だが、巴に先を越されてしまったショックが大きかったのか、唯までもが俺に飛びついてキスしてきた。
「また遅れちゃったけど!私も好き!」
顔を真っ赤にして改めて告白してきた唯。そしてまた唇を重ねてくる。
「おいズルいぞ!今回あたしがビリなんだぞ!!」
今度は奈々が唯を剥がして俺に跨がってきた。
こりゃあ・・・止まらないな・・・・。
「あたしも・・・、お前が好きだ!ギラ!!」
奈々も唯同様、顔を赤らめてキスしてきたが、それでは終わらず、さらに舌を入れてきた。これにはさすがにビックリした。
「ぷはっ!どうだギラ!あたしのキスの方が一番だっただろ?」
「おい、いつからそんな話になったっけ!?てか俺の話を」
「あ、一応言っておくけど、"ギラにとってのファーストキス"は別の人がとってるから」
誰かー、この茶髪の爆撃っ子を撃墜してー。
「「それ誰!!?」」
当然、巴の爆弾発言に反応して唯と奈々は真っ先に質問した。
「じゃあ次の勝負が終わったら教えてあげる。今度は誰が先にギラと一緒に大人の階段を登るかを」
「止まれ巴!この小説を連載終了にする気か!?」
「・・・いいね、それぇ・・・乗った!」
「あたしも乗ったぁ!!」
「乗るな!直ちに下車せよ!!」
だが3人の勢いは止まらない。恋する乙女たちの猛攻に耐える俺。
一方、他のメンバーは俺達の騒動を肴に飲み食いしていた。
「さあ〜て皆さん。はたしてギラは今夜こそ、童貞を捨てることができるのか!!」と、マイクを片手に余計なことをするトラ。
「実況すな、アホぉ!!」
「「お兄ちゃ〜ん!!ヤるなら私たちも〜」」と、ニコニコしながらとんでも発言をしてくる妹たち。
「NO MORE!近親相姦!」
さらにはいらない野次までもが飛んで来る始末。
「おうおう!とっととおっ始めろよぅ!ギラ!!」
剛によって。
「仕事しろツッコミ!!」
なんとか、行為には至らず。全員が遊び疲れて寝込むまで俺は耐え抜いた。
「全く・・・・キスの次に大人の階段って。焦りすぎだろ・・・」
「それだけ君のことを愛していて、独り占めしたい想いでいっぱいってことなんだろ」
いつの間にかカラオケボックスのドアが開いて、そこにはセクシーなレザーコートを着てアイパッチをつけたおっさんが立っていた。
「肌黒くしろよおやっさん。それか、どうせやるならサミュエル・L・ジャクソン呼べよ」
「呼べるわけないだろ、こんな未来の世界に」
と、答えつつアイパッチを外して制服の上に着ていたコートを脱いで、顔に何の傷も負っていないこの人は、今までちょくちょく俺が"おやっさん"と呼んでいた人物で、名前は大道為五郎。俺やトラたちにとっての"先輩"である。
そう、この人もまた、"生まれ変わり"の人間である。
彼の前世は、1884年から1943年。
太平洋戦争時代。アメリカとの戦争に反対しつつも、旧日本連合艦隊を指揮していた司令長官。
山本五十六。
みなさん、こんにちわ!!
新型コロナにも負けず、またまた投稿します!
そしてついに!計5枠で繋ぐ“VS熊堂会編”(仮題)が終わりました!
最近の自分にとってすごいと思ったニュースは、スターウォーズのスピンオフ作品CGアニメ『クローン・ウォーズ:ファイナルシーズン』がついに終わりを告げたことです!
自分は某動画で見させてもらいましたが、本当、最っ高に壮大で悲痛な神CGアニメでした!!
どうかこの小説を読んで下さっている読者の皆様方!!お知り合いの方で家で暇を持て余している方がいたら、この『BULLETS』とスターウォーズシリーズの作品のおすすめをお願いします!!
では!自分も新型コロナにも負けず、うがい・手洗いを怠らずに執筆を続けていきます!
世界よ!感染収束に向かってGO!弾丸の如く!!
そして!
“ May the force be with you!”(フォースと共にあらんことを!)




