16発目 信念を貫きたくば、覚悟を払え!
「よし、これで奴らはこっちの行動がわからないだろ」
そう言って俺は、前回宣戦布告をしたカメラに細工を施し終わって、またあった場所に設置した。
「何したんだ?」と奈々が気絶したヤクザをポイっと捨てながら聞いてきた。
「このカメラに繋がれてる回路を通してこのビル内に仕掛けられてるであろう他の同じ監視カメラの映像を全部ハッキングしたんだ。今頃、第4の壁をホイホイ破るお調子者ヒーローの垂れ流し動画でも見させられてるだろうからな」
監視モニター室にて。
『どうも〜、俺ちゃん登場☆ 最近ネットでしか夜のお供ができないゲロゲロなギャングちゃんたち~。
かわいそうだから俺ちゃんが画面越しで相手してやるから。じゃあ俺ちゃんと一緒に作っちゃおう、タコs』
ブツン。
「どうなっているんですか?映像がどれも同じじゃないですか!」
例の青年がカメラに向かって堂々と宣戦布告した後、カメラを外してカチャカチャといじるのを機に、この『俺ちゃんだよ~』な動画が全ての監視カメラのモニターに出るようになってしまった。
「監視カメラの回路を使ってハッキングされたんだと思います。さっき1階のフロアに乱入してきたガキ共の仕業に違いありません」
「そんな馬鹿な。あんなガキにそんなことができるワケが」
「だけどよ組長、あんたの名前を言い当ててたぜ。ありゃ間違いなくサツがらみだ。さっさと殺っちまって拠点を変えようぜ」
「待てイサナ。外にいる火の玉女がまだ片付いてないんですよ。移動は難しい。おいジガ!まだ仕留められないんですか?相手はガキのはずでしょう」
『努力はしてますが、いくら撃ってもすばしっこくて狙いがうまくいきません。当たったとしても弾丸を溶かされて全く意味ないんですよ!それどころか返り討ちにあってBee部隊の3割がやられました!ありゃ相当訓練されてますよ!』
「数に任せて囲みなさい!商品たちを運べなければ意味がありません!最低でもあの"サンプル"一つだけでも持っていかなければ、次の計画は実行できませんよ!」
1階フロア。
「細川。3人を連れて階段を登り続けろ。4階から上はバリアが邪魔して何があるのか感知できない。お前らでアンテナの役割を担ってくれ。これがそのデバイスだ」
デバイス機器を渡されて少しニヤっと笑いながら細川はこう言った。
「昔ながらのやり方、"撃って突き進む"。いつもと変わらないね」
「やり過ぎんなよ?"歩く砲台"。特に奈々。お前のパワーは本当にこのビルを破壊しかねない。被害者もとい人質が大勢いる。絶対に助けろよ」
「もちろんだよギラ。“常に原点を思い出せ”、だろ?」
そう言いながら奈々は、さっきのドンパチで緩くなっていた緑学帽を被り直した。
「その通り。柳田、お前は他のことは気にせず五十嵐を助けることだけを考えろ。他のことはあとの3人に任せるんだ」
柳田は薙刀の扱いにズバ抜けて長けているが、何もこういった騒動に対応できるように訓練されているものでは無いのは、以前の決闘で分かっている。
「了解。それで、ギラはどうするんだ?」
柳田に質問された時には、俺はすでに着替えていた。ところどころにサイコロの4の面をつけた自分のオリジナルのクローン・アーマー・スーツに。
「唯を助けに行く。何かあったら無線で連絡を。例え気づかれなくて何度スルーされても呼び掛けろよ」
ジェット・パックを背中につけ、外に出て飛び立とうとしたが、もう一つ言い残そうと俺は振り向いてこう言った。
「弾丸になれ、4人とも!!」
「「「Sir,Yes sir!!」」」と笑顔で答えるみんな。
「お、おう!!」と遅れて返事をする柳田を除いて。
あ、そういや柳田にはまだこの掛け声教えてなかったな。
一方、ビルの半径20m以内の空中では、bee部隊が唯を囲み、追い詰めて・・・はいなかった。
囲んでもすぐ彼女の全方位熱波の放出により、多くの能力者たちが撃墜されている。ただ唯もギラに頼まれたバリアの源探しをする余裕を与えてもらえず、困っている。
(でもこれ・・・もしギラに訓練してもらってなかったらとっくに死んでたかも・・・)
全てはこの、弾丸を貫通させない熱の壁、“熱波”のおかげだ。
「空を飛べるなら、より縦横無尽に移動ができるようになる方が絶対に良いぞ。やれることがたくさんあるからな」
私が飛行能力を覚えて学校に登校した日の放課後。私は自分の能力の正体が"体から炎を出す"ということがわかったことで、ギラに能力を制御できるようにと、能力を再確認した公園で訓練を受けることになった。能力を使って飛べることができたのは良いがギラ曰く、まだ飛ぶ際の動きにまだまだムラがあるとのこと。
「でも一緒に飛べる人がいないとこれ訓練にならないんじゃない?」
「心配すんな、俺がいる」
「え!?」
ギラは確か創造能力だけのはず。他にも能力があるとは聞いていない。
「もしかしてー、能力が実はもう一つあって、それを使うとか?」
「待て待て、俺の能力は“創造”だろ?何でも作れる。ということはつまり――何だと思う?」
「まさかあのスーツを出すとか?」
「止せよ!ロバート・ダウニーJr以外にあのスーツを着させるようなことはしないって!」
「要はアイアンマンスーツじゃないけど、飛べれるようになる何かを作ることができるってこと?」
「そういうこと。で、それがこれよ、これ」
そう言ってギラは、着ている服をクローン・トルーパーのアーマーに変え、背中にはジェットパックを装着させていた。
「どうよ?」
「それ・・・結局ディズニーを怒らせることになるんじゃないの?あとやっぱりスーツだし・・・」
「スーツなのはそうだな。でも怒らせたいとかそういうんじゃない!大体、こういったパロディネタをするのは、大抵皆その元ネタの作品が大好きだからだ!俺だってスター・ウォーズが好きだ。だからこそ!押しに押して、この大好きなクローン・アーマーを着ているところを見せたいんだ!今は文章でしか表現できないけど・・・」
「でも飛び方が下手くそだったら・・・うわっ!」
私の不安を吹き飛ばすかのようにギラはジェットパックを起動させて華麗に飛び上がり、軽々と空中浮遊を披露してみせた。
「この通りだ。練習なら10年前にもう済ませてるよ。そして何度も大空を飛んでる。ほら唯も飛びな」
「う、うん・・・!」
知っている人は知っていると思うが。昨日覚えたばかりの飛行能力とは、あのスーパーヒーローのように両手両足の平と裏から炎のブーストを出して飛ぶというものだ。もちろんアイディアの元は“鉄の男”からだ。
でも私はギラと一緒に飛び始めて高度50kmの空中でふと思いついた。炎の放出を体全体から出し続ければもっと簡単に飛べるのではないかと。そのことをギラに話してみたら、
「それじゃドラゴンボール理論だな。でも唯の能力の性質上そのやり方は危険だ。それだと周囲のことを考えずに炎を放出して、あっという間に“火の七日間”の完成だ。そんなジブリに喧嘩を売るようなことして平気だと思うか?」
「ギラの発言と格好自体がもうある意味爆弾じゃん・・・」と私はギラの恰好を人差し指で回しながらツッコミをした。
「良い返しをありがとう!そういえば唯。お前銃弾とか速いものを避ける自信ってある?」
「あるけど――、待って今銃弾って言った?」
「そう銃弾。これからの時代いついかなる時にも銃を持ったサイコ野郎が現れてお前を撃つなんて展開があってもおかしくない。そんな時、唯が避けられるか能力を正しく使って防げるかにより状況は大きく変わる」
「日本で銃撃戦なんてあり得ないでしょ?外国じゃあるまいし・・・だよね?」
その時、自分で言ってて少し不安になったのは、ギラの過去のことを思い出してしまったからだ。彼は少なくとも5年前、東シナ海で起きた海戦に参加していたという。しかもその海戦が世間では1つ昔前まで続いていた戦争の一部であると言われている。
戦争は、関連する戦いが多くなければ戦争とは呼ばない。
戦争は、武器が売買されなければ続かない。
売買は、商人がいなければ行われない。
武器は、作る人間がいなければいずれ無くなってしまう。
戦争と呼べる出来事が何年も続いたということは、武器商人がいたということだ。
そんな時代があったにも関わらず、日本が何の影響が無いのはおかしい。
日が沈み、私たちが飛んでいる町が夜景になっていくのをギラは自分のヘルメットのファインダーに写しながら喋り始めた。
「気をつけろよ唯。はっきり言ってこの国は緊張状態なんだ。まだ売られて見つかってない武器はたくさんある。いつ、どこで、どんな人間がその危ないオモチャを手に入れるか分かったもんじゃない。最悪とんでもない能力者集団が日本全域で一度に武装蜂起なんてことが起きたらその時、日本はメチャクチャだ。ALIVEや警察、自衛隊でもとても抑えられない」
ギラの顔はヘルメットで見えないが、その中から聞こえてくる彼の言葉には、いつもからは感じない重みがあるのを私は感じ取った。
「そんな時になっても私が対応できるよう、今この訓練をするってこと?」
「いや、その理由は唯、お前が決めることによる。俺はお前の意思を組んだ上で訓練を施したいんだ。唯はその能力を使って何がしたい?ただ楽に登校したいだけか?それともクズな先輩を試し撃ちに使い続ける?どうだ?」
ギラはきっと、私の原点を知りたがっている。何を想って行動するのかを。
「ー私、初めてこの能力に気づいた時、確かに悪いやつらをやっつけるなんて子供みたいなことを考えてた」
「実際子供だからな。無理もない」
「でもそんな自己満足でできるような問題じゃないってことにもすぐ気づいた。もし目の前にいる悪いことをした人間を自分が懲らしめても、結局はただの暴力沙汰にしかならない。相手がどんなに悪い奴でも考えることはみんな一緒。この前の窃盗犯だってそう、"よくも自分を痛め付けたな"って。そんなことを考えさせるためだけに私は能力を使いたいわけじゃない。
でもこれがあるおかげで、助かる人がいる」
能力に気づいた当時のある夕方、私は学校の帰りの坂道で、誰も乗っていない車が滑り落ちているところを偶然見つけた。坂道の下ではおじいさんがその車に気づかずにゆっくりと散歩をしていた。このままではぶつかってしまう!そう考えた私は慌てて能力を使って車をおじいさんにぶつかる寸前で吹き飛ばした。だおじいさんは助かったが、力を込めすぎてその車は大破し、私は車の持ち主の男性に激怒されてしまった。両親まで呼び出されてもおかしくない事態だったが、そんな中、必死に擁護してくれたのが私が助けたおじいさんだった。
『弁償ならわしがする!今わしが生きているのは、この子のおかげなんだ!だから頼む!もうこの子を責めないで上げてくれ!』
持ち主の男性はおじいさんの説得に応じて引き下がってくれた。
『お嬢ちゃん、次からは周りをもっとよく見て動きなさい。でないとわし以外の誰かが死んでいたかもしれないからね』
とんでもないことをしてしまった。そう考えて落ち込んでいる私を見ておじいさんは別れ際にこう言った。
『でもお嬢ちゃん。この事を悔いたって構わないが、恥じる必要はないよ。助かった命が今ここにあるんだ。
今日起きたことを、君は絶対に忘れちゃダメだよ』
「これから先、とんでもないことが起きてその中で助かるかもしれない命があるのにこれを使わずにいたら一生悔やみ続けると思う。
私、そんな未来は嫌!」
「その言葉を待っていたよ。今言った言葉。それを糧に生きろよ。よし、唯の腹の内はわかった。さっきの続きだが銃撃に炎でどう対応するか。答えは簡単、炎の熱で着弾する前に溶かせば良い」
「でもそれ・・・溶けても銃弾自体は残ったままだよね?」
「あとは熱波で溶けた銃弾を押し出せば良いだけだ。その為には溶かす熱波と押し出す熱波を組み合わせて地上でも、空中でも、周りを巻き込まないようにコントロールすることが大事だ。わかったか?」
「オッケー、わかった。じゃあさっそく下に降りて・・・どうしたの?」
私が答えたあとに、ギラは何やら腑に落ちない様子で腕を組みながらヘルメットの顎の部分を触っている。
「思ったんだがやっぱり返事は統一しよう。これから指示を出すときは"Sir,Yes Sir!!"って答えるように」
「それ、気に入ってるの?」
「メチャメチャ気に入ってる!でもやっぱダメ?」
「良いよ。ギラがそうして欲しいなら私はする。だって私はギラが好きだから」
突然の告白発言に少し戸惑いを見せるギラ。隙あらばいつでもアタックしろとの母さんのアドバイスをすぐ実践していく。でもさすがギラ、向こうもすぐ仕切り直してくる。
「そんなナチュラルに告白されても、今夜も一緒に寝ないぞ?」
「好きな人にフラれても好きって言ってくれる女の子ってどれだけいたの?」
「これネタバレになるけど、・・・・・・・一桁以内」
最後のは小声だったが、ちゃんと聞こえてた。様子からして少なくとも3人以上9人以下はいそうだ。
(この戦いが終わったらその女の人たち、紹介してもらお・・・・)
そして現在、ムシムシな軍団が群がって私を蒸し焼きにしようとしているが、私がそいつら蒸し焼きにしているところだ。
以前、あのクズ先輩を撃った少量の炎を指先から放出して攻撃する"炎の弾丸"だが、今相手にしているのは能力者の軍団だ。試しに最初は撃ちまくっていたが、数が多過ぎるためリパルサーレイみたく手の平から太めの炎のビーム、名付けて"ファイアーレイ"を出して攻撃し続けている。
攻撃する時反動は?って気になるが、そこはギラがスーツと一緒に付けてくれた背中にある二つの通気孔みたいなものが解決してくれている。これを使って背中から出す炎に道を作ってギラのジェットパックのような役割を果たし、空中でも攻撃が可能なわけだ。
『唯!今どこにいる?大丈夫か?』
「今のところ生きてる!!そっちは?」
『みんなは細川に任せてビルの探索に行かせた。俺は・・・お前の後ろだぁ〜!!』
「この状況でふざけちゃダメでしょ・・うわっ!!」
無線を聞いてた私はてっきりギラの冗談かと考えてしまったが、本当は私の後ろに敵が迫っていたことを警告したのだ。攻撃される寸前でギラがDC-15Aブラスターで撃ち落としてくれて事なきを得たが。
「油断しちゃダメだぞ唯。ここは空中でも戦場だ。一瞬の隙でもたちまちあの世行きだ」
「ごめん・・・」
戦うって決めたのに、ここでうかうかしてるなんて・・・。
落ち込んだ私を気遣ってなのか、
「にしても唯。やっぱ良いケツしてるなぁ~」
と、アホな発言をしてきた。
「・・・ギラ、さっきのガレージでもそうだったけど、それセクハラに入るからね?大体お尻のこと褒められても嬉しくないよ・・・」と気恥ずかしながら言うが、ヘルメット越しでもギラがニヤついてるのがわかる。
「良いじゃん、俺は格好いいと思うぞ? 日本のケツ!って感じ!」
「・・・!。私は"キャプテン・ジャパン"なんて名乗るつもり無いよ!?」
「私はキャプテン・ジャパン!ダさっ。でもジャパンはともかくキャプテンはいずれ名乗って欲しいと俺は考えてるぞ」
なぜギラはそういうことを考えられるのだろうか。そんな責任重大なことは引き受けられない。
「キャプテンも名乗れないよ・・・。さっきも油断しててギラに助けてもらったばかりなのに・・・」
「落ち込む暇があるなら、勇気を奮い起こして戦え!俺への愛の告白と同じ勢いで!!」
最後にギラは私に大声で渇を入れてくれた。言い回しは少し微妙だったが。でもそうだ、私も戦わなければ暴力団に逃げられて、五十嵐さんは助からない。そのためにもバリアをなんとかしなければ。
「バリアは俺が調べる!もうしばらく蜂共の相手を頼みたい。唯、持ち堪えられるか?」
「ギラ」
拳を握りしめて、ギラを真っ直ぐ見つめながら答えた。
「望むところだよ!」
そして蜂の軍団に殴り込んでいった。
一方、ビルの中にて。
「なあ細川、聞いても良いか?俺達って今、日本にいるんだよな?」
「全くその通りだけど、それがどうかした!?」
「じゃあさっきの銃乱射といい、このドンパチはなんなんだよ!!」
そう、柳田の言う通り、今あたしたちは2階の事務室でヤクザたちの派手な歓迎を受けているところだ。銃弾の。
今はデスクの影に隠れて銃弾の雨がおさまるのを待っているところだ。
「ようこそ、普通じゃない日本へ・・・」
「ちょっと、投げやりなセリフどうしたの?鈴村君、ツッコミを放棄したらあなたに何が残るの?」とUZIの弾込めをしながら皮肉を言う細川に剛は、いつもならツッコミを返すがこの時は違って、何かを覚悟したかのような顔をしてこっちを見た。
「今にわかる。俺があいつらを黙らせてくるから。穴があいたらみんなも続いてくれ」
そう言うと剛は、"弾"鉢巻を引き締めて意を決したように、ヤクザ達を見据えて、何かを口ずさみながら外へ飛び出したのだった。
「正直、俺から能力をどうコントロールするかを教える必要はないと思う」
「奇遇だな、俺もおんなじことを考えてた」
俺は自分では気づいてなかった能力があることが判明してから2、3日ほど過ぎた後、ギラに夜の学校の運動場に呼び出されていた。さらに言えば防音壁でできたドームの中ですでにギラと一緒にいろんな実験を済ませたところだ。
「お前ならスーパーマンになれる素質があるな。ニューヨークのゴッサムシティにでも行って、コウモリスーパーヒーローと戦えるんじゃねえか?」
「なりすまし詐欺はお断りだぞ。ってかねぇよそんな町!」
「だって○○を無効化って念じるだけでなんのダメージもないんだぞ?無敵じゃん!!衝撃無効化だけでも拳銃、ショットガン、アサルトライフル、グレネードランチャー、ガトリングガン、大砲、全部平気だったじゃん!!次はミサイルでいく?イっちゃう?」
「グレネード弾あたりで埃が舞ってたまらないんだよ、やめてくれ!あとやっても同じに決まってるさ!それにお前だんだんヤケクソになってねぇか?」
「よくわかったな!実は途中からどうやって倒すのか頭ん中で模索してた」
まさかの敵指定だった。俺の能力を検証するどころか俺の弱点探索に変わっていたらしい。
「やめだやめ!調べてる自分も自分が怖くなってきたよ。底が知れねえ」
「怖かったから、ラグビーを続けられず、部活をやめたのか?」
・・・・・・・・・。
「は?な、何だよギラ、突然」
ギラは少し動揺し始めた俺を真っ直ぐ見つめながらも話を続けた。
「お前言ってたよな、中学まではラグビーをやってたって。何で高校ではやらないのか気になってな。少し調べさせてもらった」
ああ、ダメだ。それ以上は言わないで欲しい。言わないでくれ、
ギラ。俺はそれを目で訴えたが、ギラの口は止まらなかった。
「亡くなった弟が原因なんだな」
・・・・・・・・・。
「・・・・ああ、そうだよ」
そう答えるしかなかった。
俺より3歳年下の弟:元は、ラグビーをやっていた俺に憧れていた。いつも一緒にラグビーのボールを投げ合ったり、タックルの練習だってしていた。
『僕もラグビーやって、兄ちゃんと一緒に日本代表になるんだ!』
それが弟の口癖で、今も俺の頭の中で響いている。生きていれば、今頃は俺と同じ中学のラグビー部に入ってるはずだった。
あの事件が起きなければ。
去年の夏だった、元は大会試合に出ていた俺を応援をしに友達と一緒に会場へ向かっている途中で事件に巻き込まれたのだ。人だかりの多いなかでコンビニから万引き犯が逃走するところで偶然遭遇し、突き飛ばされてしまったのだ。その時に受けたダメージが全て元の頭に集中したのが原因で脳内出血を起こし、弟は帰らぬ人となった。
さらに最悪なのが、万引き犯がラグビー経験者で、ラグビー仕込みのタックルで元を突き飛ばしたという事実を聞いてしまったことだ。
元は、自分も大好きなラグビーのタックルのせいで死んだ。
この事実の影響で俺は試合どころか、タックルをしようとすれば発作を起こし、練習すらもままならなかった。他人からしたらこれは、“タックルをした万引き犯が悪いだけでラグビーのせいではないだろう”と考えるだろう。俺もそれは分かっている。
でも、葬式で見た死んだ元の顔がどうしても頭から離れなかった。
「それで、ラグビーをやめたのか・・・」
ギラは俺の話を聞いているうちに防音壁ドームを消して、俺の隣に座り込んできた。
「ああ。もう俺は真っ当にラグビーはできない。嫌いにはなれないがすることができないんだ」
もう二度とラグビーに携わることはない。そう考えて高校は帰宅部にする方針にしたのだ。
「生きてるんだな。弟が」
するとギラはワケのわからないことを言い出した。
「は!?何言ってんだ?お前だってさっき言っただろ。元は死んだって」
「生きてるんだよ。お前の頭の中で。無意識に想像してるんだよ、生きた弟を。そして想像した弟が、ラグビーを嫌いになってるっていう勝手な考えをしているから、お前はまだ無意識下の現実逃避をして、そのタックルを怖がってるって勘違いしてるのさ」
ギラに諭されて、頭にかかっていた霧が少し晴れたような感じがした。確かに想像していたかもしれない。ラグビーを嫌いになっている元を。
そしてギラは俺の胸ぐらをつかんで語りかけてきた。
「ラグビーやタックルが危険、怖い、悪い?そうじゃない!弟がラグビーを嫌いになるのを怖がってたんだよ!!だが今一度聞くぞ。
剛、お前の弟はそんなんでラグビーを嫌いになると思うのか!!!?その子のラグビーに対する本気は、そんなもんだったって言えるのか!!!?」
「・・・・違う。それは違う!元はわかってた!ラグビーをする楽しさってやつを理解してた!!誰でもない俺が教えたんだ!!」
俺はいつの間にか涙を流しながら気持ちを吐露していた。
ずっと胸に詰まってたものをやっと外に出したという感じだ。
「・・・・ありがとうギラ・・」
「それで、お前はどうしたいんだ剛」
「もう二度と、ラグビーには戻らない。信じるのを諦めていたから今更戻れない。でも今思えば、もしかしたら俺の能力は弟がくれたのかも。"これでやり直して"って」
「じゃあどうする?」
「この能力を使って、弟のような子供が死んだりしないような世界を作っていきたい。頼むギラ、俺を弾丸にしてくれ!!」
俺は弾丸。このヤクザ達は俺や五十嵐のような子供をさらって商売をしようと企み、5年間ずっとそれで利益を上げていた。もうそんなことはさせない、このタックルで!!
「うおぉォォォォォ!!」
獣のように雄叫びを上げ
なんだコイツ!? 神風か!? 撃て!撃ちまくれ!!
ヤクザたちが慌ててFNモデルFNX40ピストルにH&KモデルUMP45SMGマシンガンなどを俺に狙いを定めて撃ってくるがそれは無駄だ。すでに衝撃無効化は済ませている。弾丸の一つ一つが俺の体に当たる度に火花と共にカンカンと音を立てながら跳ねていく。あとはギラから教わった柔道・空手・ボクシング・ジークンドー・ムエタイ・カポエラ・プロレス・レスリング、とにかく近接戦闘に必要な格闘術・武術・体術を駆使して相手を叩きのめすだけだ。
まずはタックルでヤクザ集団を突き飛ばしていく。俺の体格もあってヤクザ達が次々と吹っ飛んでいく。大体の人数は突き飛ばしたことで戦闘不能にできたが、何人かは吹き飛ばされても起き上がる奴もいたが、すぐに倒れるだろう。
なぜなら、ここには俺一人じゃないのだから。
ダダダダダダッ。
まずUZIを撃ちながら進んで近くにきたヤクザには蹴りをかます細川に、大柄なヤクザの顔にものすごい勢いで突進しながら重たい鉄拳を喰らわす北野、そして薙刀の長さを利用して残りのヤクザ5人を一回ししてなぎ払う柳田。
2階エリア、制圧完了。
「ナイスガッツだね、重機関車君」と細川が何やらデスクの中を漁りながら言った。
重機関車か・・・。
「・・・良いかも、その呼び名。これから俺は重機関車でいこ」
『Heavy locomotive.』
別の声がしばらく忘れていた耳の無線から、重機関車の英語が聞こえてきた。
これギラだな・・・。
『“重機関車”じゃユニバース感が全く無い。剛、名乗るんなら英語読みの方が良い』
「でもそれじゃ長くないか?」
『良いんだよ!ネガソニック・ティーンエイジなんちゃらかんちゃらって長い名前のヒーローもいるんだから!』
いつでも自分をぶれさせない、これぞ杉田義羅という男だ。
「ところで二人は、なんでデスクを漁ってるんだ?」と、柳田がずっと気になっていた疑問を上げてきた。よく見ると細川だけじゃなく、奈々までもがデスクを漁っているのだ。
「あいつらが今まで人身売買で売りさばいた人たちにこれから攫おうとしてた人たちのデータがタンマリあるはず。ここにその書類があるなら今のうちに回収しておかないと」
「あと熊堂会は5年にも渡って売買をしていたんだ。金に余裕があるとしたら別のしのぎも計画していたかもしれねぇ。それが何なのかを調べて、あたしたちで全部壊してやる!」
『あ~その勢いは良いけどな番長、ビル崩壊だけはやめてくれよ。証拠も何もかも無くなったら、コイツら全員立証すらできなくなるからな。あとこのビルは買収できない』
「最後のは蛇足じゃねえか?」と、俺は一応ツッコミを入れるがキツい返しを受けるのは目に見えていた。
ビル外の空中にて。
「黙れ!ジャガーノート!!俺たちのような存在が人々を助けながら建物を壊して、そのあとの事後処理とかする役人たちの気持ちを考えたことあるのか?」と、俺は迫りくる蜂人間たちを、飛び回って撃ち落としたり、ジェット・パックに搭載されているミサイルを飛ばして電磁波爆破で敵を戦闘不能にしつつ、剛を怒鳴りちらした。
『ここに来てそんなことぶっちゃけられても・・・・』
『それよりギラ!例のバリアの発生源は見つけたのか?』と、話の間に入ってきた柳田。
「今まさに見つけたところなんだ。だけどやっぱり外からはそこをつつくことができない。中に入って直接止めるしかなさそうだ。細川!聞こえるか?発生源は少なくとも10階あたりにある。今から俺と唯もビルに入ってみんなと合流するから一気にそこを制圧・・」
『ダメだギラ!!ここから熊堂会の組員を一人も逃がしちゃダメだ!!』
奈々がいきなり焦った口調で俺の提案を遮ってきた。
確か彼女はデスクの書類を調べていたはず。
「奈々?お前、何を見つけたんだ?」
『ギラ。私も北野に賛成。この熊堂会全体を洗う必要がありそう』と、細川まで続いてきた。
一体何の書類を見つけたのだろうか。人物データの中に知り合いがいたという感じでもなければ、とんでもない能力者いるっていう感じでもなさそうだ。
答えは細川が次に口にした言葉でわかった。
「培養器の設計図がある、人一人が入れるくらい大きいのが」
その言葉を聞いた途端、俺の頭には吐き気を催す記憶が飛び交っていた。
世界中のありとあらゆる人種の恐怖の死に顔。
男も女も同じ数ずつある死体の山。
その彼ら彼女らが積まれている血まみれの倉庫。
その近くには摂取された大量の血液が入ったタンク。
奥には何千以上もある培養器。
その一つ一つの中には、戦争の原因となっていた"生き物"が蠢いていた。
暗い。
とても暗い記憶。
「ギラ!!」
「!?」
唯のおかげで現実に引き戻された俺は、たった今蜂人間に首筋にナイフを突き刺される寸前で唯がファイアーレイで助けてくれたところだった。
「"一瞬の隙でもたちまちあの世行き"。そう言ったのギラでしょ!忘れた?」
「・・・ああ悪ぃ、ボヤっとしてた・・・」
頭の中を整理しなければ。とにかく細川が言ったことを聞かなかったことにすることはできない。ここで何もかも阻止しなければいけない。そのためにも、
「唯!実戦デビューで悪いが、もうしばらくここから出てくる奴らの相手をしててくれないか。俺はこれから中に入ってみんなと一緒に発生源を壊しに行ってくる!」
「数が多すぎる!私だけじゃとても無理だよ!」
「できる限りで構わない!半径3km以内から外へ出なければ良いんだ!」
ちなみに俺のヘルメットの中はディスプレイも起動できて、自分の携帯とリンクしてたった今LUMEのあるグループにいくつかのメッセージを送ったところだ。
「あとはあいつらに狙撃させれば大丈夫だ」
ビルの20階、五十嵐が囚われている部屋にて。
熊堂会の組長:冷泉五司はBee部隊が空飛ぶ女の子とクローン・ジェット・トルーパーのたった二人に手こずっている現状をビルの窓から見て苛立っていた。
「これまで積み重ねた研究があともう少しで完成するところまできてるというのに!なぜこんな事態に!」
「だったら使いましょうよ組長。完成品で、ガキ共を始末させるんです!」
「"あいつら"は、最悪の場合に備えてのモノなんですよ!!」
「今がその最悪の事態なんです!!わかってるでしょ!?」
完成品たちはできれば残したい。だが部下の言うとおり今出動させなければこの状況は一転しないだろう。
「わかりましたよ。イサナ!そいつらに下で暴れているガキ共の始末をするように命令しなさい!だがさっき、調子に乗って私に宣戦布告をしたあのガキだけは、半殺しにして連れて来るように。お願いしますよ」
「了解!」
獅子の頭をしたイサナと呼ばれている狼男達よりも屈強な大男が、狼男たちに命令をしに部屋を出ていくのをよそに、両手を体の後ろで縛られ、口には猿ぐつわをつけられて喋ることもままならない状態で部屋の壁に放置されている五十嵐は、窓越しとカメラ越しで原賀唯と杉田義羅が来ていることを確認したことで、"彼"も来ているだろうと心の中でその同級生の名前を呼んでいた。
(・・・柳田君・・・・・!)




