15発目 裏切って良いのは遊びでだけ、他でやれば人生をダメにしてしまう。
「・・・うぅ・・・・・」
何が起きたのだろう。まだ意識が朦朧として状況判断ができない。私はいつも通り柳田君と一緒に学校から帰って家に着いたはずだ。なのに突然家のリビングに私服の大人の男たちが不法侵入してきて、私は叫ぼうとしたけど先頭切って前に出てきた男が手に何かで濡らした白い布で私の口を塞いできた。すると強い眠気が私を襲ってきた。多分あれは映画とかでよくある睡眠効果がある薬を嗅がされたのだろう。名前は確かクロロホル・・・。
「おや、気が付いたようですね。いやはや、まさか女の子である君が、男装をしてまで正体を隠しながら生活を送っているとはね」
20代あたりの男性の声がする。だがまだボヤけていて何も見えない。なんとか視界をはっきりしようと目を細めるが、視界が戻ると今度は目を見張ることになった。
そして子供の頃に見たホラー映画なんて目じゃないほどの恐怖が私の全身を襲ってきた。
おそらく場所はどこかの施設の会議室か何かなのだろう。だが問題は部屋ではなく、その部屋に鎮座している生き物たちだ。
いや、パンツを履いているし、能力者が存在しているのだから、目の前にいるのはおそらく“変身した人間たち”ということなのだろう。だがどう見ても異様な光景だ。狼の頭に獣毛が生えてる筋肉質な体、そしてパンツから出ている獣の足にしっぽ。さらにそういった存在が部屋中に収まらないくらい何体も居座っているのだ。
「あ…あなたたちは誰?何で僕を攫った?」
「実は君のお父さん、真鍋康仁と私は昔とても親しい間柄だったのでね。娘さんがいることはたまに話してくれてたんですよ」
「父さんと…?あんたヤクザ!?」
そうと分かれば早くここから出なければ。
「おや?私が彼と親しかったと話せばあなたは別の反応すると思っていたんですが」
「え?」
「まさか、父親が元警察官であったことを知らないんですか?」
私は耳を疑った。母からはヤクザだとしか聞かされておらず、ほとんど会うこともできずに死んでしまったその父が、実は元警察官だなんて。
「元警察?父さんが?」
突然の話についていけず、私は思わずヤクザに質問をしてしまった。
「さて、これはどこから説明すれば良いのか・・・。その昔、私と真鍋は多人数の元警察官の同僚と共に、公安からある密命を受けてね。その内容は『闇ルートを暴くために暴力団を結成し、ヤクザのフリをしつつ裏社会の情報を引き出せ』とのことでしたよ。当然大義を志していた我々はその密命通りに暴力団:五桜組を結成し、闇ルートの情報を警視庁公安部に提供し、裏社会犯罪の立証に貢献し続けた。だが私は成長した!5年前のあの時に!」
20代のスーツ男が言うところ、5年前に熊堂会という暴力団の情報を引き出しの任務を自分が担当したそうだ。
「その際に熊堂会の組長:猪熊に話を持ち掛けられたんだよ。当時の私は青二才でねぇ、まさかそのまた"6年前から続いていたとんでもなく大きく真実が入り交じった戦争"を支援するという偉大な使命を負っていたとはね!」
戦争。それはきっと、一つ昔に世間で騒がれていた各地で起きていた紛争に対して人々が第三次世界大戦だと呼んでいることなのだろう。
「世界は!動物や昆虫、人類だけではなかった!地球には進化中の我々以外にも、隠されてきた生物がまだまだ存在している!話を聞かされた時、私は狭かった頭の視野が一気に広がるのを感じましたよ!!私もすぐその世界に入りたいと強く懇願したよ。猪熊と取引して五桜組の壊滅に手を貸すことに何の躊躇いもありませんでしたよ。ただ、君のお父さんに止めを刺した時だけは心が痛みましたけどねぇ」
・・・・・・・・・・。
「・・・今、なんて言ったの・・・・・?」
「いや、彼とは警察学校の頃から苦楽を共にした仲だったから当然ですよ。でもそのためだけに私のせっかく新しく開けた道を捨てるなんてことはできな」
何も考えていなかった。その事実を聞いた途端、頭が真っ白になっていた。だが体は勝手に動き、父を殺したその男に殴りかかっていた。だが振り上げた拳は男に避けられかすりもせず空を切っただけだった。そしてすぐさまそばで待機していた狼男に取り押さえられてしまった。
「全く。人の話はちゃんと最後までおとなしく聞くようにと真鍋は君に教えなかったのですか?」
「あんたが!父さんを殺したのか!!」
怒りで自分が今、どんな顔をしているのかわからない。ただわかっているのはこの男が5年前に裏切らなければ、私と母は父と別れることもなく、一緒に暮らすことができていたかもしれないというのに、
この男が!その可能性を自らの手で壊したのだ。
「絶対に許さない!絶対に!!」
「口だけなら何とでも言えますが、どうせ君はもうこれから商品として新たな人生を歩み始めるのですから。男の慰めとしてね」
ボワァ〜ン!!
突然、何か柔らかい何かにぶつかったような大きな音か鳴り響いた。
「ん?何ですか、バリアに何かぶつかったんですか?」
スーツ男は窓に近付きブラインドを上げて外の様子を覗いた。
「な、何だあの女!」
つられて私も窓の外を見てみると何もないはずの空にエネルギーの波動みたいなのが円状に広がっていき、その中心に人間が壁に張り付くような状態で止まっていた。すると、少し離れて両手両足から何かブーストのようなものを出して空中浮遊をし始めた。そしてよく見るとその人間はポニーテールの髪型をしていた。
それも、毎日通っている学校の教室でよく見慣れた、ポニーテールだった。
なんで、唯が敵の本拠地のバリアにぶつかることになったのか。
ではさかのぼろう!ここから約15分前に!
ウィリスMB。
通称:ジープの名で知られるこの軍用車両は、1942年から1945年にかけて第二次世界大戦のためにアメリカで大量生産された車両である。
今や100年以上も前の軍用車両。車マニアにとっては宝に等しい存在だ。その車を星のマークを消して4つの黒点を記し、中身のエンジンを電自動に変えてまで使っている人物が、
杉田義羅である。
「免許は!?二十歳でもないのに普通に車を運転してて良いのか!?」と体がデカく寄りかかるところが少ない後部座席に座っているため必死に取っ手を掴んでいる剛が聞いてきた。
「俺は国から特別に認められているから平気なのさ!少し前までは警察に引っかかってばっかりだったけどな。でもコイツを見せればなんてことはない」
そう言いながら俺は特別国家許可証をチラチラと見せた。ちなみに助手席に座っているのは細川、剛と一緒に後部座席にいるのは奈々とさっき拾って乗せたばかりの柳田だ。
「そっちはどうなんだ?唯!」
『どうもこうも、まだ練習中だったんだから慣れてないよ!雲の上を飛び続けるなんて!やっぱりまだ寒気があるよ!』
「それはお前を守るはずの[熱波]がまだ完成してないっていう何よりの証拠だ。完成までの最短ルートは一つ、飛んで覚える!」と無線を通して唯に指導しながら俺はジープを運転中だ。
現在の状況はというと、俺を含めたジープに乗っているメンバーは、五十嵐を攫っていった連中の本拠地に地上ルートで向かっているのだ。本来なら空を飛ぶモノで一気に目的地に直行したいところだが、相手は子供一人を攫うのに能力者を送り込むほど用心深い。つまり対空戦も考慮した上での能力者の配備もしている可能性があるということだ。そんなところにヘリなどの撃墜される乗り物になんか乗ってはかえって危険だ。ということで地上戦闘が主体の奈々、剛、細川は俺が連れて地上の正面から行く。そして空中戦で最も機動力に長けている唯は相手に見つからないよう雲の上を飛んで目的地の座標に一足先に向かっている。ちなみに先ほど唯を守っているという[熱波]とは、彼女が飛ぶ際に身体全体に受ける風によって体の温度が下がらないようにするための防護服、つまり“アーマースーツならぬヒートスーツ”といったところだ。
「なあギラ!何でやつらが向かった場所が本拠地だってわかるんだ?」と後部座席の真ん中で振り落とされないようしっかりと車につかまっている柳田が聞いてきた。
「熊堂会の日本列島でのアジトはALIVEが本拠地以外の支部はもう全滅させてるんだ。能力者を送り込むほどの余裕があるのなら、商品を管理している場所から来た可能性が高いということだ!」
『でも妹さん言ってたよね?五十嵐さんを乗せたトラックはビルの地下駐車場に入ったって。そんなしかもそのビル3階建てってデータに書いてあったし、それじゃたくさんの人間を収容するなんてこと・・・』
無線越しで会話を聞いていた唯も疑問に思ったことを聞いてきた。
「確かにそうだ。やつらの生業は人身売買。そのための商品である人間を保管するとなると、かなりの大きさの施設でないと無理だ。でもな唯。今は"進化の世紀"、何が起きても不思議じゃない時代だ。能力者が存在している時点で。そんなデータや外からの外見なんて、簡単に偽装できる」
「おいギラ、それって・・・」
聞いていた一同全員が察したのか、息を飲んだ。
「そのビルはもっとでかい可能性が高いってこった」
ここは熊堂会の本拠地から3km離れた住宅街。
「さあ皆さん!下がって!慌てずゆっくりと!!」
杉田義羅の助言を受けた荒船刑事からの要請でALIVEと警察が連携して、戦場となるやもしれない警戒区域から人々を避難させている最中だ。人々には詳しい説明は話していないが只事ではないという趣旨は伝わったようで、避難誘導に従っている
『ジェイク!そっちの状況は!?教えてくれ!!』
「はいよ、ギラ。半径3km内全体からとはまだ言い切れないけど、なんとか半径1km内からは全員避難が完了しているぞ」
無線でギラとコンタクトをしている日本語ペラペラな黒人男性の名前はジェイク・クルーガー。ALIVEの一員であり、警視庁で数少ない外国人刑事の一人でもある。ちなみに、ブラッキーと同じ万事係でもある。
『さすが行動早くて助かるよ。自衛隊は呼んでないよな?あいつらが動くとマスコミに嗅ぎつけられて面倒だからな』
「もちろんだ。あの“マスゴミ”には絶対に来させないからよ!」
『おいおいジェイク、いくらお前が外国人だからってその呼び方はNGだぞ。とにかく、今お前の近くを通り過ぎるから道を開けてくれ!ピーピー!!』
「ピーピー?」
すると、人々が慌てて通りの両脇に離れて行くのと同時にクラクションを桁ましく鳴らしながら猛スピードで走ってくるジープが現れ、そのまま警戒区域の中心に向かって走り去っていった。
「通るなら、もう少し先に言ってくれよな、ギラ」
『悪ぃ悪ぃ。熊堂会の組員がそっちに行ったら、いつも通りに頼むぜ』
「そっちも救出活動、絶対成功させろよ」
「それで?今日はどのスタイルでいくの?ギラ」と自分のウージーを準備しながら細川が聞いてきた。
「ヤクザに喧嘩吹っ掛けんのは久しぶりだからな。まずは改めて宣戦布告する。その後は臨機応変に行く」
「・・やる気なの・・・?」
その質問に俺はあるモノを構えながら、
「やるとも」
ニヤリと笑みを浮かべ、左目を閉じながら答えた。
「じゃあ私にもそれ出して。付き合うから」
細川もニヤリと笑いながら濃い緑のベールを頭に巻き、その上にいつもの青いマフラーで口元を隠して巻いた。
「お前もノリノリだな」
『こちら唯。目的地の座標に着いたけどこれから、ぶわっ!?』
「?どうした唯?大丈夫か!?」
『大丈夫~。ただ見えない何かにぶつかったみたい』
「見えない何か?」
窓から顔を出して敵の本拠地がある座標上の空を見てみると、確かにエネルギーバリアようなモノが円状に波を打っている。その中心に唯が飛んでいる。
で、ここである。
「敵さんはかなりの高層ビルを隠してたみたいだな、こりゃ被害者を全員助けるのに一苦労だな。唯、そのエネルギーバリアを攻撃してみてくれ。動力源かバリアを作ってるやつが必ずいるはずだ』
今の今まで俺の感知能力では気づかなかったエネルギーバリアだが、唯がぶつかった拍子に起きた波だけを感知することができたのだ。なら、同じように刺激をバリア全体に与え続ければ発生源を割り出し、そこを攻撃すればビルを囲っているバリアをなくして、五十嵐と敵の親玉を見つけることができるはずだ。
『あー、なんかそんな余裕はまだ無いみたい・・・』
「何が?」
唯は何やらマズいものでも見たような口調で話してきた。
『バリアに穴が開いて、そこからとんでもないのが出てきた!』
車から顔を出して向かっている先の空を見上げてみると、一目瞭然だった。
「やっべ。どうやらスズメバチの巣を怒らせたみたいだな」
正にスズメバチの如く昆虫の羽を生やしたおびただしい数の能力者たちが銃を手にバリアの穴から出て、唯の後を執拗に追いかけ回している。
『悠長に喋ってないで、どうすれば良いのか教えてよギラ!!』
「とにかくビルがある座標の周りを飛び回るんだ!離れすぎるとまだ避難していない住民に被害が及んじまう!」
『でもいつまでも逃げ切れるとは思えない!』
「こっちはもうビルの下に着いた。5分間だけ粘ってくれ!玄関をノックして奴らの気を逸らしてから俺が援護に行く!」
『え!?待って、"玄関をノック"って何するの?』
唯の最後の質問を無視して、俺はジープを道路の脇に止め、皆に降りるよう促した。
「入口に突っ込んだりするのかと思ったけど、しないんだなお前」と木製の薙刀を握りしめながら柳田は皮肉を言ってきた。
「相手の生死を問わないんだったら、やったけどな」
と俺はそれを笑えないジョークで返してやった。
剛たちを連れてビルの正面入口から堂々と入ると、さっそく銃を持ったヤクザ達の出迎えに囲まれた。
「あの〜すいませ〜ん、銃を下ろしてもらえます?こちらの組長の方にお会いできませんかね〜。我々は商談に来たんです。この通り商品も連れて来てわざわざ関西からやって来たんですよ〜?」
「あの・・・ギラ。何やってるんだ?」
「黙って」
突然、手をニギニギさせて何かのセールスマンのような態度を取っている俺に驚いた柳田が空気を読まずに聞いてきたが、細川がそれを制した。
「僕ちゃ〜ん?空で今あんなことが起きているのに、そんな状況で俺達を騙せると思ってるの〜?お前警察の人間だな、吐けよゴルァ!!」と丁度俺のすぐ目の前にいるヤクザの男がいびってきた。
「いやいや、ご冗談を。もし警察ならまずは令状を出すでしょ?俺が今出せるのは、ゲロだけですが。まあ出さないけど。とにかく、早く組長さんに会わせてくれよ兄ちゃん☆」
「ほう・・・そうかガキ、テメー俺をナメてるだろ」
俺の返しに半ばキレかけているその男はCZモデルCZ83ピストルの安全装置を外して銃口を俺に向けて今にも引き金を引こうという勢いだ。
「ええ!?俺が兄ちゃんを舐めてるって!?気持ち悪い想像させんなよ!俺は女が好きだし、舐めるのはアイス、飴ちゃん、口の周りに付いた食べ物、女の大事なトコあーこれは未経験だった・・・とにかくそれくらいだ!男でそんな長髪でぐにゃぐにゃした髪型したお前なんか舐めたらトラウマモンだよ!!本当にゲロ出したいくらいだよ!!
でも代わりに、コレを出してやるよ」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ。
セリフを言い終えた瞬間、俺は服の裏に隠していたトンプソン機関銃を構え、目の前のヤクザはもちろん、奥に潜んでいたヤクザ達に向けてぶっ放した。そして俺に合わせて細川も車で俺から受け取っていた同じトンプソン機関銃を囲っているヤクザ達に向けて撃ちまくった。ちなみに、剛と奈々は話の途中で俺が何をしようとしているのかを察して、剛は自分の体を能力で"衝撃無効化"にし、奈々は何も察しなかった柳田の頭を掴んで無理矢理一緒に伏せていた。
全弾撃ち終わって最後の薬莢がカランカランと落ち、一階のフロアにいたヤクザ達を全滅させたのを感知能力で確認すると、俺はフロアに仕掛けられているカメラに画面越しに見ているであろう組長に向かって叫んだ。
「冷泉五司!5年間日本でやりたい放題していた罪にウチの同級生を拐った罪!
宣戦布告だぜ!!」
カメラをハッキングした後、俺はトンプソンを掲げて言った。
「やっぱりこの銃に限るな」
「だね」
と細川も賛同してくれた。
「・・・ここ、ニューヨークじゃないぞ?」
剛はいらないツッコミを入れてきた。




