14発目 いざ出掛けようという時に限って支度ができてなくて同行者を待たせてイラつかせてしまう。身支度はいつでもできるようにしよう。
前回までのあらすじぃっ!
学園で喧嘩を売られまくる杉田義羅!ワケありの喧嘩を売ってきた柳田剣と決闘をして勝利し、死んだ彼の祖父との因縁話を交わした!
何やら過去について明かされるのかと思いきや、柳田はふとした拍子にラッキースケベ現象を起こして、杉田義羅のクラスメト、五十嵐克也の正体が男装していた女であることを知ってしまう!
その現場に居合わせた杉田義羅、鈴村剛、細川巴の3人は、その埋め合わせとして彼に五十嵐に対しての面倒を見させることにした!
それからというものの、同じ五十嵐の秘密を共有する者とはいえ、俺の彼女に対しての面倒を何故か仕切るギラ。なんというか、あいつの仕切りはおかしい。
まず早朝。
俺が自宅で起きたところ、窓に張り付いて俺の部屋を覗いてくるギラ。
「さあ起きろ兵士。戦いは既に始まっている!」
勝手に始めんな。つーか怖ーよ。窓からゴゴゴゴゴって漫画的表現が出てきそうな勢いじゃねーか。
続けて俺に身支度を整えさせて、五十嵐が住んでいるアパートにわざわざ迎えに行くよう促した。
「さあ、お前が彼女のオカンになれ!保護者代行という名の戦場を生き延びろ!!」
命を懸ける必要なくね?ていうか“面倒を見る”ってレベルじゃないだろ、それ。
次に昼休みに俺が昼飯を終えると、鈴村と細川が無理やり調理場に連れて行き、俺に料理を教え始めた。
「五十嵐君はいつもコンビニや購買で買った物しか食べていないから、あなたが弁当を作ってあげて!帰る時には自分とあの子の分の弁当の食材を買うこと!」
こいつらマジで俺に五十嵐の保護者にさせるつもりなのか。
そして、当然のように帰りも五十嵐に付き添うように言われ、アパートまで送る。玄関口まで行くとそこへ、
「本日の任務はこれまで!!っと、杉田義羅から言伝を預かった。では、さらば!」
突然、あの映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場したなんとかトルーパーがジェットパックで飛んできて、それだけを言い残して飛び去っていった。
「誰だよ!!」
飛び去っていく誰かに対し、俺は大声で精一杯ツッコんだ。
いつ以来だっけ、こんな気分・・・。
学校から出て、柳田と帰りながら、の五十嵐はそう思っていた。
私は小学校5年生の時まで、普通に女の子として生きていた。なのにそれまで伏せられていた父親の存在を聞かされ、死んでしまった父親の業から逃れるために引っ越し、さらには名前も性別も変えて生きるように母親によって教え込まれた。だがいきなり男として振る舞うなんてこと、当然できるわけがない。だから他の小学校へ転校した時からあまり喋らず、“無口の男の子”であると周りに認識させることでなんとかやり過ごしてきた。
その代償に、友達との関わりができなくなってしまった。中学で男子としての振るまいはそれなりにできるようにはなったが、クラスメイトと深く関わるといつか父親の件で危険な目に遭わせてしまうと考え、恐ろしくなり、そのため自分から望んで孤独になることを選び続けた。
それからなのか、私は“楽しい”という感情を忘れていた。ずっと寂しかった。
でも今は違う。
高校に入っても自分の生活は変わりはしないだろう、そう考えていたが、クラスメイトに金持ちの先輩の使用人を木刀で何十人も病院送りにした杉田義羅、学校へ能力を使って空を飛んで登校している原賀唯などの有名人がいて周りが少し賑やかになっていた。特に杉田に用があって教室に人が来る度、席が後ろ出口に近いこともあってよく声をかけられることも多くなった。
そしてあの日、杉田に挑んだ柳田君に、偶然にも自分の正体がバレてしまったその罪滅ぼしとかなんかのためと、私の面倒を見ることになった彼だが、やらされていると言っている割には付き合いがよく、今では本当に私のために弁当を作るほどにまでなった。
私は今、彼と過ごしている時間がとても“楽しい"のだ。
「ねえギラ。私たちって、今何やってるの?」
今まで言われるがまま柳田に料理を教えていた細川が、俺の家の玄関先で質問してきた。
「柳田剣という男子高校生を主人公とした恋愛ゲームの攻略中」と冗談をお一つ。
「OK。それ以上フザけるんだったら8年前の続きでもしよっか?」
ジャギゴっとウージーの銃口を向けてくる細川。
「俺の記憶が正しければ、8年前のことは終わったはずじゃ・・・お前ホントツッコミがキツいよな」
「とにかく、途中あなたが“あのアーマースーツ”を着てたってことは、何か調べモノがあったんでしょ?」
「その通り。んでその件で今日はここに呼んだんだ」と言いながらホログラム用のカメラを能力で自分の手の上に出現させた。
「“私”を呼んだってことは、まさか4年半前の事に関係してる?」
「ああ、その“まさか”が関係してたぞ」
ホログラムのディスプレイを起動し、柳田のサポートをしつつ調べ上げたデータをかき分けながら説明を始めた。
「五十嵐が言ってた、5年前の父親であるヤクザの死。この5年前ってのに引っかかってな。ちょっと調べてみたんだ」
「5年前って言えば・・・ギラがアーマースーツを着て、裏社会で支援していた組織を潰し始めた頃よね?」
「ああ、“敵の支援をしていた連中”をな。熊堂会って覚えてるか?」
「確か・・・アディが4年半前に所属してた暴力団よね。あの組織に彼女のお父さんが?」
「いや、だがその熊堂会と抗争して潰れた別の暴力団に所属していたのが五十嵐の親父さん、真鍋康仁だったんだ」
「その暴力団もヤバいことしてたんでしょ?確かテレビのニュースにもなってたし。日本の暴力団抗争があって薬だとか武器とかの密売をしてて、その覇権を巡って負けて、片方の暴力団はみ~んな殺されちゃった、このデータがそうでしょ?」と言いながら、細川はホログラムで出ているページをかき分けて、その事件に関するデータをズームして見せた。
「それは表向きの情報なんだ。昨日おやっさんにも頼んで調べたところ、実際は全くの逆だった」
「え!?逆って何が?」
「熊堂会と抗争した暴力団、五桜組。その実は公安が元警察官達に秘密裏に結成させた組織だったそうだ」と俺は警視庁公安部から引き出したデータを映し出しながら言った。
「言ってみれば、敵地に設置した秘密の砦。これを利用して日本の裏社会の犯罪を上げてたらしいんだ」
「じゃあもしかして5年前の熊堂会との抗争って、あの“敵支援ルートの独占”に関係が?」
「それの情報入手する一歩手前でバレたんだろうな、五桜組。そのせいで報復を受けた」
「あの子は知ってるの?お父さんが実は元警察官だって・・・」
「いや、彼女どころかお袋さんですら知らなかったかも。二人が結婚したのは五桜組が出現してからだった。多分親父さんの方が巻き込ませまいとあえて危険なヤクザの一人だって言って、お袋さんと彼女を引き離したのかもな」
「・・・そこは違うと思う」
「違うって?」
「結婚する前にヤクザだってバラしてたんじゃない?それでも、その人の良い人柄に惚れてたお母さんは離れず、一緒になりたいってプロポーズして、二人は結婚し、子供をもうけた。これならしっくり来ない?」
いや、それはしっくり来るというより…。
「乙女チックだな、お前・・・」
「な、何よ!悪い!?」
「いやいや、お前もやっと年相応な女になったなってホッとしたよ」と、俺は懐かしくもニヤニヤしながら言った。細川はその返答に顔を赤らめながらムっとした。
「さてと、そろそろ入って来いよ、お前ら」
突然、呼ばれてビクッとした四つの影が家の塀から揃って顔を出した。当然、剛、唯、奈々、渡辺の4人だ。
「い、いつから気付いてた?」と唯が恐る恐る質問をしてきた。
「俺が教室を出た頃から」
「最初っからじゃん!」
「言っておくけどよ、俺を尾行してもすぐバレるからな~」
「だから何で分かるんだ?勘がいいとかそういんじゃ絶対無いだろ?前も聞いたけど、創造能力の他に何の能力があるんだ?あとおやっさんとアディって誰?」
奈々にバンバンと質問を投げかけられるが、種を明かしていつ誰かに対策を立てられるか分からなくなってしまうのに、そんな自分の首を絞めるようなことできるわけ無いだろ。あと“あの二人”のことはまだ言えない。
「とにかく、話は中でだ。さあ入って入って」
剛達を家に入れ、大事な話をするための場所にいこうとする。
「あれ?リビングに行かないの?すぐそこなのに」
「いや、この話は規模がかなりデカいから下でする方が良い」
「“下”?」
俺は壁についてる廊下の灯りのスイッチをいじり、パカッと開けて裏に隠されてたレバーを引いて、洗面台と和装部屋の入口との間にある金属の壁が上へと動き出し、エレベーターの扉と地下への階段が露わになった。
「よーし行くぞ~お前ら~」
「お、おう・・・」
螺旋状になってる階段をしばらく降りていき、下に着き部屋の入口を通り抜けみんなを中に入れたら、出入り口の脇の壁に設置してあるレバーを下に下ろして部屋の灯りを付けた。
「杉田宅ってどうなってんの?細川さん」
「私も知らない。地下室があることは聞いたことはあるけど。でもギラは地下室のことを“ガレージ”って言ってたけど…」
確かに俺は地下室のことを“ガレージ”と呼んでいる。とは言っても、この床が35m×23mで高さ13mの空間を部屋だなんて呼べるわけ無いが。さらに言えば俺の趣味でレゴブロックで作った様々な映画の巨大なロケーションと、俺が移動に使うためにアメリカ軍が使ってたことで有名なジープ・ウィリスMBと映画『バック・トゥ・ザ・フーチャー』でお馴染みのデロリアンを置くことで部屋の半分を埋め尽くしていた。
「まあくつろいでくれ。適当に」
「「「「「くつろげるかぁ!!」」」」」
そだね~。
五十嵐の自宅前にて。
「ありがとう、毎日送ってくれて」
「良いって、俺も五十嵐との帰り楽しいし。それじゃあ休み明けの学校でまたな」
「うん、じゃ」
しばらく歩いて五十嵐の自宅から離れた俺は。
「それで?あんた誰だ?」
持っていた木製の薙刀の切っ先を曲がり角に潜んでいた人物にビッと向けた。その人物は見たところ俺と歳が近そうだ。
「落ち着け、怪しい者じゃない」
「俺と同い年の男が、夕方こんな時間に住宅街をうろついたりしねえよ」
「待て、確かにまず疑うのはもっともだ。でも言っとくが俺は五十嵐克也と名乗る人物を本人には秘密裏に警護してる者だ。ちなみに、俺はこれだ」
と言いながら男はコートの胸ポケットから桜のマークが入った“あの手帳”を出してきた。
「警視庁:万事係の荒船茂雄だ」
「それ、どっかから怒られない?」
杉田宅の地下室“ガレージ”にて。
「これって、もはやちょっとした展示会だね」
「だな、スターウォーズなんか特に規模がすごいな。デストロイヤーまで作ってやがる・・・」
「あいつ本当に“クローン戦争時代”好きだね~」
唯、奈々、剛の3人はさっそく俺の趣味、レゴエリアを見物していた。
そーらどーぞどーぞ見てらっしゃい。俺はただいま自分の趣味を見られてソワソワ中でありますよ~。
そんなことを考えてる俺のところに、渡辺が俺に後ろから話しかけてきた。
「あの・・・杉田君。さっき細川さんがあなたが昔、アーマースーツを着てたって言ってたけど…」
げげんちょっ。
まずい。渡辺には正体をまだバラしたくないのに聞かれてしまった。
「もしかしてあなた、C・・・」
「それで?話はまだ終わってないんでしょ?続きは?」
何かを言いかけた渡辺を気を利かせてくれた細川が押しのけて間に入ってきた。
「お、おうそうなんだ。聞いてたからにはお前らも参加してもらうぞ、この案件。途中で逃げたりすんなよ」
「「「「へ!?」」」」
細川を除く、4人が首を傾げた。
「逃げる?何でだ?」と質問する剛に対し、俺は再びホログラムデータを表示させながら説明を始めた。
「話は大体把握してるな?5年前に壊滅した五桜組。皆殺しにされたなんて当時物騒な噂が流れたが、実際はそうでもなかった。何人かの生き残りがいて、その後も別の暴力団の潜入捜査をしていた人物がいた」
俺はそう言いながらその人物の顔写真とデータをみんなの前に映し出した。
「ん!?おい、それってこの前五十嵐が言ってた親父さんの腹心っぽい人のことか?」
「正解。須田宗太、五十嵐の自宅周辺を調べたところ、生活費を彼女に渡していたのが須田なのは間違いない。彼もまた元五桜組の構成員でその前は警察官。現在もまた菊上組って言う暴力団に潜入してたらしい」
「待って。“してた”?今はしてないってこと?」と唯が話の途中で聞いてきた。
「探りを入れてたらな。昨日、残念なことが分かったんだ。こいつの顔、覚えてるか?」
そう言いながらまた別の人物の顔写真とデータを映し出した。
「あ、この人!『TEISHOKU』の時の・・・」
「「「「白ジャケット!!」」」」
渡辺に続いて、みんなが気付いた。
「何であの地上げ屋が絡んでくるの?」と質問してくる細川。
「こいつもその菊上組の構成員でな。数日前、その組織がまとめて皆殺しにされてたんだ」
「「「「えぇ!?」」」」
とんでもない事実を聞いて、細川を除く他の4人の表情が凍り付くように固まった。
「そんなの、ニュースに出てないよ!?」となんとか気を取り戻して喋る唯。
「昨日判明したばかりだからな。現場が誰も使われてないと思われていた古い5階建てビルの最上階だったものだから、誰にも気付かれずに数日間放置されてたらしいんだ。随分とたくさんの遺体の腐敗が進んでて後始末が大変だったってよ」
「待て待て待て!おいギラ、事件について詳しすぎないか?お前警察に知り合いでもいるのか?」
「いるぞ」
「さらっと認めた!」
「それはさておいてだ。その皆殺しをやったのが現場の状況から見て、別の集団による襲撃、それもその中には能力者の仕業が極めて高い。それもパワー系ってところまでな」
「能力者・・・」
「この白ジャケットの奴なんか、発見時には四肢がバラバラになってたそうだ」
「・・・ひどい」
「しかもその事件の切っ掛けが・・・」
「この前、私たちが返り討ちにしたことが原因?」と細川が付け加えた。
「皮肉にもそうだったんだ、あの店を手に入れるのに時間をかけすぎて上の組織が業を煮やしたんだろうな。その結果があの事件だ」
「ねえ、それじゃあさっき言ってた須田っていう人も・・・」
「ああ、遺体として発見されたよ」
「つまり、あんたは刑事で、その事件の被害者と関係がある五十嵐を警護していたと」
そう聞きながら俺はこの荒船という刑事のことをメモに書き込んだ。
「これ、立場逆じゃね?」
「まだ確証がないんじゃ、俺はあんたを信用できない。その内は、あんたがなぜか正体まで知っている五十嵐のためにも、俺があんたをここで止める必要がある」
「お前は警察官かよ!」
「ただの男子高校生ですが、何か?」
「ただの男子高校生はそんな木製の薙刀を外で普通持ってねえよ!」
「まあそれを不審人物のあんたとはいえ、人に向けることもないしな」
「お前、自分で言って・・・!」
その時、荒船が五十嵐の家の前に止まった灰色のワゴン車に気付いた。ドアが開き、ワゴン車の中から6、7人が出てきた。
「おい、なんだあいつら?」
「ダメだ!お前は出て行くな!ここに残れ!俺が対処してくる」
「お、おいあんた・・・」
「あ、いやちょっと待て、俺のスマホを持っていてくれ」
「は?何でだ?」
「念のためだ。もし俺がやられて五十嵐ちゃんが連れ去られたら、絶対にその場は手を出すなよ」
「な、何でだ!?俺だって“これ”があるのに」
「聞け。あいつら全員銃を持っている。お前だと撃たれちまう」
となると
「もしもが起きたら、俺のスマホでこいつの連絡先に電話するんだ。絶対に戦おうとするなよ!」
俺は荒船のスマホの画面に出た連絡先の相手の名前を見て少し戸惑った。
「なあ、こいつ本当に信用できるのか?」
「もちろんだ。俺がこの世で唯一信じられる男だからな」
そう言い残して荒船は五十嵐の家へ駆け込んでいった。
だけど、連絡先の人物の名前が“フォース”って、“あの力”に頼れってことか?
どうやらあの組織の奴ら、須藤と関わっていたあの子のことに気付いたらしいな。連れ出される前に俺が片付けなきゃな。上手くいけば奴らの本拠地を割り出せるはずだ。
廊下に入るとリビングへの出入り口で私服姿の男達がぞろぞろと入り込んでいくところだ。
「だ、誰ですか!?あんたたち!」
今まさに連れ出されるところらしい。こうなったら久々の強硬手段で行くしかない。
地球上の能力者は大きく三つに分けられる。
“火を吹く”、“物を浮かす”といった自然現象を操る単純な能力を持っている人は“自然”。
自らの体を動物や何かに変身する能力を持っている人は“変貌”。
そして特定の道具を出現させ使いこなす人を“装備”。
この三つ以外にも、“例外”は存在する。
「んあ?誰だ、てめぇ!」
廊下にいる俺の存在にようやく気付いた男達が、ガチャガチャと隠し持っていた拳銃を構え始めた。
だが心配は無い。奴らが俺に気付く少し前に俺の装備能力で出した俺の武器、2丁のグロック19をすでに両手に出現させている。
男達が拳銃の引き金に指を掛けるよりも前に俺が両手撃ちをし、命中させた。もちろん俺の銃弾はスタンバレットを使用しているから、男達は撃たれてもしびれて気絶するだけで死にはしない。
男達の人数は大体8人。今の銃撃で4人を戦闘不能にしたから残りの男達はリビングの中に逃げこんだ。おそらくあの子もそこにいる。ならやることは一つ、残りの男達も戦闘不能にするだけ。
リビングに入ると部屋のソファーなどの家具の影から弾丸の雨が一気に飛んできた。俺は弾丸の雨を滑り込みながら避け続け、食卓の影に隠れた。
「俺は警察だ。今すぐ子供を解放して投降しろ!さもないと痛い目に遭わせるぞ!」
とりあえず男達に警告してみたものの、返事はやっぱり弾丸だった。銃声が鳴り止むとジリジリと男2人が俺を追い詰めようと銃を構えたまま家具の影から姿を現して、俺が隠れている食卓に近づき始めた。
一瞬でもそいつらの気を逸らすことができれば後は制圧できる。俺は少し前、食卓の上に置いてあったコップを取っておき、今その一瞬を作るために天井に思いっきり投げた。
近づいてた2人は投げられたコップに気を取られ、上を見上げた。今だ!
バンバンッ。バンッ。
俺は突っ込みながらグロック銃を2丁とも各一発ずつ近づいてた2人に命中させ、さらに援護射撃をしようとしてたソファーの影から顔を出していた男にヘッドショットを決めた。
「残るはお前だけだな・・・」
「刑事さん・・・」
最後の男は五十嵐克也を人質にとっていた。俺はその男を見て少し戸惑ってしまった。
見たところ男はそれ程強そうには見えないのに、そいつは銃を持っていなかったのだ。他の男たちはみんな持っていたのに。
「武器が無いなら抵抗しても無駄だ。その子を今すぐ放してやれ」
「へへ、武器ならちゃんとあるぜ。ここに」
そう言うと男の肌が黒ずんだのを俺は見逃さなかった。
まずい!こいつ“変貌”か!!
焦った俺は早急に男を戦闘不能にさせようとグロック19の引き金を引いた。
バンバンッ!ズンッ!ドカーン!!
五十嵐の家から銃声が響き、止まったと思ったらまた銃声、そして何か大きなものが壁をぶち壊したような音が鳴り響いた。
待機してるよう荒船刑事に言われて路上にいたが、こっそりと壁の角から顔を出すと五十嵐の家の壁と外塀にぼっかりと崩れていて、よく見ると向かいの住宅の外塀に叩き付けられ頭から血を流してぐったりしている人物がいた。
さらによく見るとその人物は俺におとなしくするように言って五十嵐の家に入って行った荒船刑事だった。
その次の瞬間、家の壁に空いた大きな穴から気絶した男4人を両手で担いだ獅子の頭をした大柄な男が出てきた。
獅子男が4人をワゴン車に放り込んで家の中へ戻ると、こんどは男3人と女の子1人を担いで出てきた。
(五十嵐だ・・・!)
すぐに助けたいと思ったが、荒船刑事に釘を刺されたこともあるし、何より自分がわかってしまった。あの獅子男に自分では勝てない。向かえば間違いなく軽くあしらわれ、殺されてしまう。俺はそんな最悪の事態にならないようワゴン車のナンバーを覚えて狼男がこの場からワゴン車で立ち去るのを待つしかない。
途中俺は嫌なことを思い出していた。あの狼男、体が狼の生態に近くなっているのなら、発達した嗅覚で、俺の存在に気付くのではないかと。
そう思ったが狼男にはそんな余裕はなさそうだ。さっきの銃撃戦と壁を壊した音で近所の住民たちが何だと言わんばかりに住宅の窓や玄関から次々に顔を出してきた。獅子男もこれ以上ここには居られないと考え、五十嵐達をワゴン車に放り込んで、能力を解いたようで普通の人間の姿に戻り、ワゴン車に乗り込みそのまま立ち去っていった。
俺はそれを確認した後、荒船刑事のところに駆け寄った。
「おいあんた!大丈夫か!?」
「…ぐ、おぉまだ俺生きてたか…でもこれじゃああいつら追えないな…」
「あ、でも俺あのワゴン車のナンバー覚えてるぞ!」
「お、そいつはラッキーだ…。悪いがそのナンバーをさっき渡した携帯であいつに伝えてくれ…」
「ああ、わかった!」
俺は急いでさっき渡された荒船刑事の携帯をポケットから出して操作し始めた。
「そういやパスワードは?」
「9696」
「9696ね。…これって“くろくろ”ってこと?」
「良いから早く電話かけろよ!」
「でも救急車を先に呼ばないと…」
「それはもう呼んでるから大丈夫、さあ早く!」
「・・・元気だなあんた・・・」
「・・・人身・・・売買・・・・」
「・・・あの地上げ屋よりも上の組織の生業が、それなのか?」
唯、奈々、渡辺が衝撃的な真実を聞いて絶句する中、どうにか正気を保って剛が問いかけた。
「今や“人類の進化の時代”だ。能力者の人口は少なからずも増えている。俺たちの学校だって能力者がいても珍しくもない。肝心なのは」と映し出してるデータを見せながら説明する俺と、
「私たちよりも後に生まれてきてる次の世代の子供達。能力持ちの子供の割合が増えていて、その分誘拐される確率もここ数年で増えてるの」と補足してくれる細川。
「いずれ能力持ちの人間たちが暴れ出す時期がくるかもしれないという説。現在ニュースや政治の場でも議論として取り上げられるほどだ。X-MENシリーズの世界みたいにな」
「最後のは蛇足じゃない?」と余計な補足をする細川。
「Shut up!Mask woman!(黙れ!マスク女!)」と英語で少し怒鳴る俺。
「続けるが、その説を真に受けたズル賢いクズ人間どもはそんな時代でも生き残れるよう、能力者を手に入れて己の安全を守るようしつけるつもりで闇ルートから買い付けようとしてるからな。裏社会の人間にとってそんなおいしい話見逃すわけが無い。ヤクザ者なら尚更だ」
「なあ。もしその人身売買をしているヤクザの組織が白ジャケットの地上げ屋の組織を皆殺しにした暴力団なら、能力者じゃない五十嵐の存在を知っても別にさらったりしないんじゃないか?」と疑問をかける奈々。
「何言ってんだ。人身売買自体は能力者が出現する以前からあるんだぞ。現在も誘拐対象が能力持ちだけじゃないし」
「そ、それって普通の人間もかよ・・・」と剛が少しどもる。
「女性が特にな・・・」と俺も静かに答える。
するとディスプレイに電話コールの画面が出てきた。俺の携帯は家のデータベースとリンクしているため、電話やメール、LUMEも普通に確認できる。
(ブラッキーからか・・・何か動きがあったのか?)
電話コールの通話ボタンをスライドして接続させると相手が慌てた口調で喋ってきた。
『あ!もしもし、もしもし!あの、すみません。この電話、フォ』
ブツッ!ツーツーツーツー。
「え?何で今の電話切ったんだ、ギラ?」と不思議そうに質問する剛。
「間違い電話だな、絶対。間違いなく間違い電話だ」とごまかす俺。
あぶねー。"あの呼び名"で呼びかけてくるとは思わなんだ。しかも今の声の主はブラッキーじゃない。というか柳田だ。間違いねぇ。じゃあなぜあいつがブラッキーの携帯で俺に電話を?"あの呼び名"は多分ブラッキーの携帯の電話帳にそう書いてあったんだろう。あとで改名させるように言っておこう。
するとまた同じブラッキーの携帯から電話コールが来た。
『悪ぃギラ。さっき・・・のは、柳田に伝えるの忘れてた。ごほっごほっ!』と少し途切れ途切れに喋る声の主。今度はブラッキーのようだが、何か違和感を感じた。
「ブラッキー?おいどうした!?大丈夫か!?」
『ギラ。悪ぃ、任務失敗、あの子を奴らに連れて行かれちまった。今、ワゴン車に取り付けた発信器のデバイスをそっちに送ってる。俺は吹っ飛ばされて戦闘不能状態で追跡ができないんだ』と携帯ごしになんとか喋ってくるブラッキー。
「五十嵐が拐われたのか。やられたな・・・」
「「五十嵐さんが!?」」とどよめくみんな。
「何だか嫌な予感がしてきたね」と細川。
「ブラッキー、相手はどんな奴らだった?」
『8人だ。だけど1人だけトランス系の能力者で最後に俺はそいつに吹っ飛ばされた』
ああ、それは厄介だったろうに。
するとディスプレイに表示されたページの地図に赤く点滅してる印が動いているのが見える。さっきブラッキーが言っていた発信器のデバイスなのだろう。
「でもこれ、途中で乗り捨てるだろうな」
『多分な。だが、どっちにしろ追わないと五十嵐の身が危ない。捜索の援護を頼みたい』
「あいよ了解。よしみんな!スーツを着ろ!」
「スーツ?そんなの持ってな」と聞き返してくる剛を制して、俺は3つのスーツケースを能力で出現させてドンっと置いた。ケースは落ちた拍子に自動で開き、個別のスーツ一式が詰まれている。
「おいギラ、これってまさか...」
「ああ。お前らの戦闘服だ。俺がデザインして作った。学校制服のままじゃ問題になっちまうからな」
そしてもちろん、柳田の分もここに。
「いいか柳田、よく聞け。捜索の際に途中お前も拾うから着替える準備しとけよ」
『え、何で俺も?だって、俺が出たところで足手まといなんじゃ...』
「五十嵐をどこの馬の骨とも知らん連中に勝手に連れて行かれて、お前は何にも感じなかったのか?」
『いや、それは・・・』どもる柳田に少しイラッとくる俺は、ここで活を入れないと柳田は前に進めないだろう。そう考えて柳田に向かってガレージ全体に響くよう大声で叫んだ。
「いいか柳田。確かに人は本能で自分じゃ敵わないと分かる相手が目の前にいれば色んな事を諦めることはある。殺人鬼、テロリスト、熊やライオンとかの危険動物、誰だってそうなんだ。だがそれでも今、やるべきことがあるはずだろ?お前が信じる正しい行動ってのが本当にこのまま何もしないことなのか?男ならそこははっきりしろや!どうなんだ!?」
数秒程沈黙が流れたが、電話の向こうから柳田が声を張ってしゃべり出した。
『そりゃ悔しいさ!あんなとんでもない能力者を見て、自分じゃ立ち向かっても勝てない!殺される!でもそれだけであの子を助けようとしなかった自分に腹が立ってしょうがねぇよ!!』
電話越しに心の底から叫んだ柳田の声が、スピーカーでまた俺のガレージ全体に響いた。
「だったらお前のその愛用の薙刀握りしめて、リベンジに備えてろ!!いいな!!」
『おう!!』
俺は柳田に待機命令を言い残し、電話を切った。次にみんなが着替えができるように男女別の個室をまた能力で出現させる。
「剛、奈々、唯!3人ともこの中でスーツに着替えろ。5分で出る。準備しろ。それから唯!お前は着替え終わったらこれを耳に付けて空を飛んでくれ!後で指示する場所に先に向かってくれ。頼むぞ!」
「Yes,Sir!」
「あ、あの~杉田君。私はどうすれば良いの?」と状況読んだ上で少しオロオロしている渡辺がそう質問をしてきた。
「渡辺、お前は非戦闘員だ。後で妹達に連絡しておくから俺の家で待機しててくれ。何の特訓もしてないのに危険な場所に一緒には行かせられないしな」
それに元々願わくば、渡辺には能力がない以上あまり戦いは避けて欲しいと思うからな。
「だよね。ものすごく場違い感があったし。でも“特訓”って何のこと?」
「ああ、あの3人には能力者または末裔としての力が備わっているからな。ここ数週間は放課後の時間を使って俺が個別に特訓をしてたんだ」
「個別に・・・まさか、唯さんと奈々さんとはもう!?」と顔を赤らめながら何かどエライを叫びかけた渡辺の口を俺は即抑えた。
「待て。お前今何を想像した?噂かなんかでお前も聞いてるはずだろ?俺はまだ、誰とも付き合わないって」
「でもあんな美少女二人に告白されて断ったとしても、何日か二人だけの時間過ごしてたら・・・一線越えたりして」
「お前、意外と頭ん中エロいな。男の俺が言えたもんじゃないけど」
確かに正直言うと、唯と奈々の個別指導の時は、心の奥で微かにドキドキしていた。でもそれは相手にとっても同じこと。ましてや自分が惚れている相手と二人っきりなんて状況、間違いなく今まで以上の関係を築きたいと思うだろう。でも俺はしない。そしてあの二人もそれを察して何もしなかった。この前のお泊まりの件は除くとして。
想像力豊かな渡辺にツッコミながら俺は空中のホログラムインターフェースを操作して、ブラッキーから送られた発信器のデバイスを調べてワゴン車の場所を割り出そうとしている。
「さ〜てどこかな〜。おっと見つけた。ここから北西の48km地点のところにワゴン車が走ってる」
空中に映し出されたマップに赤い点が点滅しながら移動しているのがわかる。
「割り出せそうなの?奴らの本拠地」と自分で常備していたスーツに着替え終わった細川が操作しているディスプレイを覗いてきた。
「ちょっと待って細川さん。あなた今どこで着替えてた?」
「すぐそこで」
「男子二人もいたのに!?もうちょっと慎みを持ちなさいよ!!」と赤面しながらツッコむ渡辺。
(お前、さっき自分が言いかけたアブない発言はセーフなのか?)
「それよりどうなの?」
「ああ思った通り。さっき乗っていたワゴン車が止まってみたいでそれっきりあの赤い点が動いてない」
「乗り捨てたかもしくは、乗り換えたか」
「だろうな。だとしたら俺の捜索範囲からはもう出てるな。ここはアイラに頼るか」と俺はガレージのディスプレイを使ってアイラの携帯にコールした。
「お兄ちゃんはいつまであの3人をほおっておくつもりなのかな?」
「少なくとも来月までは保留じゃない?ほら、あの行事があるし」
「あそっか」
学校の帰りにお兄ちゃん談義をしている杉田愛羅とその妹・枝折。そこへ愛羅の携帯かバイブ音が響いた。
「あ、噂をすればお兄ちゃんからだ。はいもしもし?可愛い妹が恋しくなった?」
『おふざけはなしだアイラ。今すぐそこから北を移動中の車をガレージのデータベースにアップしてくれ』
「車を?いいけど、知り合いでも乗ってるの?」
『まあそうっちゃそうなんだが・・・とにかく急いでくれ!』
「Yes,sir!」
愛羅はそう答えると、左目から黄色い静電気をバチッと発生させると、その片方の瞳の色が茶色から黄色に変化した。
キュクロープス。
それは、また英語名でサイクロプスとも呼ばれる単眼の巨人の名前である。この巨人は一般にゲームや漫画では中ボスや敵キャラの怪物として登場することが多いが、ギリシャ神話においては天空神ウーラノスと大地母神ガイアの息子であり、卓越した鍛冶技術を持つ神の一人とされている。また、兄弟たちの名前が全て雷に関連しているため、雷を司る神ともいわれている。主神・ゼウスが使う雷霆を彼が作ったということがその説を裏付けている。
そして、その単眼巨人を体現した力を有しているのが、
杉田愛羅である。
「何で妹さんに頼るの?」
「アイラは世界一の感知能力を持っている。まあ、実のところは最強のエレクトロマスターと言うべきかな?」
「それって・・・電気使い?」
「その通り。で、自分から放出する電波を使って、あらゆる建物・乗り物・人物の特定が簡単にできるってワケ。しかもその範囲は地球全体ときた。俺も一応はできるんだがまだ範囲が限られている。だから、今は妹頼りってこと」
『ヒットしたよお兄ちゃん。北へ移動中の車、3台もあるけどどれなの?』
「その中で男8人女の子1人が乗ってるのは?」
『あった!その男女が乗ってるトラックが今3階建てビルの地下駐車場に入ったよ!』
「ビンゴ!その場所を家のデータベースにマッピングするんだ。そしてその情報をALIVEのジェイクにも伝えたあと、シオリと一緒に家に戻って渡辺を保護してくれ、頼むぞ」
『Yes,sir!』
しばらくすると、アイラが送ってきたマップがディスプレイに映し出され、目的の場所が赤い点で記されていた。
「ここだな・・・」
「ギラ、こっちは準備完了・・・だけど、本当にこの格好で行くの?」と着替え終わった唯に続いて個室から剛と奈々も出てきた。
3人が着替えたスーツはというと、
最初に唯。
彼女には空中での活動が主体になることを想定して、上には黒のTシャツに濃い緑の半袖で後身頃が短いデニムジャケット、手にはフィンガーレスのナックルグローブ。下には濃い緑のデニム短パンに半長靴を着用。
そして背中にはちょっとしたある装備を施している。
次に剛。
彼はその気になれば飛ぶこともできるが近接戦闘の方が向いているため、濃い緑の袖なしTシャツに生地が肘まであるフィンガーレスのナックルグローブ、下は迷彩柄のタクティカルパンツに半長靴を着用。
そして頭には“弾”と黒字で書かれた白の鉢巻を巻いている。
最後に奈々。
彼女のスーツは戦闘服ならぬ特攻服・サラシ・そして学帽だ。5年前に一度見た格好がとても印象的だったため、色を濃い緑に変えて用意したのだ。もちろん天狗の下駄も付けといた。
「確かに動きやすいけどよ、色はもっと区別した方が良かったんじゃないか?」
「色は地味な濃い緑が良いんだよ。あまり目立つ色は良くないからな」
「じゃあ聞くけど私の短パン、サイズがキツくてパッツンパツンなんだけど・・・」と履いている短パンを不満そうにいじる唯。
「俺は全然良いと思うぞ?良いケツしてるぅ~」
「わざと作ったでしょ、エッチ・・・!」
(あ~もう可愛いな!)
「あたしのはやっぱり、5年前の時の服装に合わせた感じ?」
「もちろん。いかにも日本の番長って感じ!頼りにしてるぜ」
「俺の鉢巻に書いてある"弾"って・・・やっぱりグループ名の"Bullets"になぞらえてか?」と剛は自分の鉢巻を指差しながら言った。
「そ。剛には鉢巻似合いそうだったし、どうせなら文字を一つ添えてって感じでな」
そして俺も能力を使って自分の服装を学ランからスーツに着替える。能力の併用はこうだ。創造したスーツを"自分が着たときの膨らみの状態で"出現させる。そして学ランの方も元々能力で作った分のため着替える服を出現させると同時に消すことで、いつでも一瞬で服装を自由自在に変えることが可能なのだ。名付けて"簡単コーディネート"である。
ちなみに俺のスーツは次の通りだ。
濃い緑色のロングコートの下に黒の作務衣、灰色のタクティカルパンツに半長靴、そして腰のベルトには刀身がやや長めな俺オリジナルの軍刀:雷龍を差している。
進化の時代に入って、能力者が現れ始めるに連れ、その能力者たちを裏社会で売り捌く傾向が活発化している。
今回の件でその闇ルートの一部を潰すだけに過ぎないが、俺達はそんなことで動こうとしている訳ではない。
「みんな、勝負に出る準備はいいか?五十嵐を助けに行くぞ!」
「「「「Sir,yes,sir!!」」」」
友達の友達が囚われている。その子を助ける。ただそれのために力を振るおうとしている。
戦う理由は単純で構わない。
今も変わらない杉田義羅という人間の原点がそうであるように。
ひとりぼっちの少女を、狂ってしまった国から救ったあの時から。




