10発目 人の成りはその人の成績を見る前にまず会ってから決めろ。話せば分かる。
全国学力・学習状況調査。
それは、『全国学力テスト』ともいい、日本全国の子どもたちが人生で2回受ける行事のこと、というのは2056年までのこと。それまで小、中学生のみを対象としていたのを、文部科学省が57年からは高校生も対象に入れると決定した。
当時はそうなんだとしか感じてなかったが、二度目の人生を送ることになった今の俺なら、とても嫌がっていただろう。何も準備していなければの話だが。
菫楼高校での全国学力テストが実施されてから2日。昔は結果が出るまで一週間程度だったが、データ収集の進歩もあって、今ではわずか2,3日で発表ができるようになっていた。今日がその日である。
なあお前、テストどうだったよ。俺全然ダメだったわ~。 俺も~。高校生にもなって学力とか無いわ。 57年の法案無かったら良いのにね~。
傍らで他の生徒たちがテストのことで談笑している。俺ももちろんテスト受験した生徒だ。自己評価は自分で言うのも何だが、まあ良かった。とは言っても前世では自分では大丈夫と思ってもテスト結果は良くない、というケースが何度もあった。だから心ではテストに対して苦手意識がある方なのである。小、中学校では色々と事情があって受けることはなかったから、今回のテストが生まれ変わってから初めて受ける学力テストではあるのだ。
「お、来たぞ。杉田だ」
校門前まで来るとそこは人だかりができていた。よく見ると学校の連絡電子掲示板の内容に注目しているようだ。ただなぜかその集団の1人が俺を見るなり名前を上げると残りの生徒たちも一斉にこっちに顔を向けてきた。
あいつ、モテる上に頭良いのかよ…。 この世の理不尽だな~。 ズルじゃねえの?。
入学してすっかり学校の有名人になっているのは知っているが、妬みを言われたのは学校では初めてだな。でも原因がまだ分からない。
「I have a bad feeling about this…(何だか嫌な予感がしてきたな…)」
俺も他生徒を失礼失礼と言いながら分けて、掲示板の内容に目を通してみた。
同時刻、菫楼高校生徒会室にて。
「あり得ません!!こんなの!」
「お、落ち着けよ渡辺。うちの高校で学力テスト1位が出たのは喜ばしいことだろ?」
ただいま今朝に発表された全国高校学力テストの結果について、私、渡辺実央は、倉田会長に抗議をしているところだ。
「普通ならそうですけど!この杉田義羅っていう男子生徒の過去成績からして、1位を取るなんておかしいんです!それに小、中学での学力テストをどちらとも受けてないじゃないですか!そんなやつがいきなりトップになるなんて絶対ズルしたに決まってます!」
「とは言っても…実際カンニング行為は確認されてないわけだしなー」
「でも会長。渡辺さんの言う通りその杉田っていう人、不登校になってて過去の成績は全然良くないですよ。自宅で勉強しててある程度の順位って言うならいくらか納得するんですが、1位はあり得ないですよ。しかも全教科満点だなんて」と、一つ上の先輩、生徒会庶務・馬場さんも賛同してくれた。
「う~ん・・・。じゃあ俺は聞きたい。お前はどうしたいんだ?渡辺」
「実力テストの問題用紙のデータを下さい!私がその男子生徒を試します!」
「よ。全国1位さん!」
「全国1位の杉田さんがご登校されたぞ~!」
こういった冷やかしは今に始まったことじゃないが、今回は特に面倒だ。
「全国1位さん、全国1位さん。今のご感想は?」
「わざとダミ声でインタビューするな剛。終いにはハタくぞテメー」
ちなみに、唯と奈々に次いで剛にも名前呼びにと頼まれたため、あっという間に剛呼びが定着した。
「っははは、悪い悪い。でも友達が学力日本一だなんて、イジらないわけにはいかないだろ?」
「気持ちは分からないわけじゃないけどよ…受け身の人間のこと考えてくれよ」
「でも嬉しいんじゃないの?だって全国1位だよ?これで喜ばないなんてバチ当たりだよ」
「まあ、そうだな…!」
ギラは何かに気付いて廊下の方に顔を向けた。
「…マジかよ」
「? どうしたのギラ?」
「あ、いや、その…」
何故かすごく緊張している様子だ。あのギラが。
「杉田義羅の教室はここで合ってますか?」
突然教室の入口にギラに用がありそうな女子生徒が現れた。長いストレートの黒髪でスタイルは私と同じくらいで容姿も良い。
(まさか告白女子!?)
だとしたらまたライバル女子だ。
「お、おう。俺が杉田だ。俺に何か用か…な?」
「あなたなのね!学力テストの件…なん…だけど…?」
その女子はギラに近づくなり顔を見た途端、急に立ち尽くした。学力テストのことを言いかけてたみたいだけど、さっきまで堂々としていたのに今は困惑した表情だ。
ポタッ。
「え?なんで。私、涙なんか・・・」
するとその子は突然涙を流した。自分でも何故流したのか分からないみたいだ。
「おいおい、杉田が女を泣かしたぞ」
「今一体何が起きたんだ?」
周りのみんなも理解できずにいる。
「お、おい大丈夫か、あんた」
「え、ええ大丈夫よ、ありがとう…あ!そうじゃなくて学力テスト!あなた、ズルしたんじゃないの?」
「テスト!?いや、一応実力でやったんだが」
「小、中学不登校で成績不良のあなたが、実力で全教科満点なんて取るなんてあり得ないでしょ!」
(あ、やっぱり不登校だったんだ…)
大体察しはついてた。戦いに参戦してたって言うなら、きっとその分学校もろくに行ってなかったのだろうと。
「って言われてもなあ。どう証明したらいいのか…あんたは俺にどうして欲しいんだ?」
「学力テストの問題用紙のデータよ。これを使ってあなたにはもう一度テストを受けてもらうわ!」
周りにどよめきが走った。なんでそんなことが。私は彼女に聞いてみた。
「ねえ、あなた一体何者?どうやってそのデータを入手したの?」
「ああごめん、自己紹介も無しで。私は生徒会書記兼剣道部所属、渡辺実央。問題用紙のデータは生徒会の仕事の一環としてもらったの」
なるほど、だからか。
「じゃあ俺がそのテストをやって、高得点を出せば納得してくれるのか?」
「意外とすんなりね。そう、もちろん私の監視付きでね。条件は全教科の問題で構成した100点満点のテストで90点以上出せば合格。本当は高得点じゃなく満点を出して欲しいけど、自分ができないことを強制するなんて私は嫌だし。あと問題は今日のうちに全教科やれるように私が調整しておくから。放課後、生徒会室に来てね。やらずに逃げたりしたら」
「その時点で俺はズルをしたただの腰抜け野郎になる、だな」
「そういうこと」
「心配すんな、約束する」
渡辺さんは約束を確認すると、教室から出て行った。
「ちょっとギラ。本当に良かったの?もし点数下がったりしたら」
「全教科満点なんて数字。唯でも信じられないだろ?俺だって他人が取ってたらまず疑う。なら誠意をもって受けて立つしかない」
「もしあの生徒会書記さんがハメようとしているだけだとしたらどうすんだよ?」
鈴村も私と同様に彼女を怪しんでいるようだ。
「それはない。渡辺は真面目なヤツなだけだ」
今のギラの発言から出た違和感を、私は聞き逃さなかった。
「ねえギラ。さっきの渡辺っていう人と以前会ったことでもあるの?」
「正確には俺が見たことがあるっていうだけだ。相手は俺のことを知らないはずだ」
「は?ちょっと待てよ。じゃああの書記さんがお前を見るなり泣き出したのは何でだ?お前を知ってるからじゃないのか?」
「それは…俺にも分からん…」
なんだか珍しくギラがとても暗い表情になっている。今までもどことなく寂しい表情は時々出ていたこともあったが、今のはかなり沈んだ表情だ。
「おいギラ!!学力テスト1位ってマジか!?」
突然そこへ、噂を聞きつけた奈々が叫びながら教室に乱入してきた。空気を読まずに。
「「「色々と遅い!!」」」
「え!?」
私たち3人だけじゃなくその場にいたクラスメイト全員がツッコんだ。
「おい、もうHRの時間だから教室戻れよ」
最後は担任が締めくくった。
「なあ、神田。俺たち最近存在が空気になってないか?」
「言うなって!それにまだ3話分出番無かったからってそう考えるのは早すぎるぞ」
「でもよー神田。砂川のやつその3話分を作ってる最中俺たちの存在を本当に忘れてたそうだぜ」
「え?マジで?」
「「マジマジ」」
「俺たちを作っておいて…そもそも俺たちってあいつにとってどういう立ち位置なんだ?」
「「さあ…」」
「おーい!大変だ!」
「なんだなんだ?」「どうしたの?」他のクラスメイトが質問をした。
「あれ?なあ今のデジャブじゃ」
「余計なこと言うな北条。何が起きたんだ?杉田が学力1位ってことは知ってるぞ」
知らせに来たクラスメイトが俺の言葉に続いて言った。
「それなんだけどよ。その杉田が出したテスト結果に納得しなかったらしく、生徒会の人が再テストを言い渡したんだとよ」
「なんだそりゃ?ちなみにそのテスト結果はどうだったって」
「全教科…満点だったそうだ」
「「「なぬっ!?」」」
三人組が顔を揃えて驚いた。また。
何故あの時、涙が出たのだろう。この感情は一体何?
過去の成績不良の男がいきなり満点を出すなんておかしい、問いただし、再テストを受けてもらって確認したい。ただそれだけだったはずなのにあの男を見た瞬間妙な安心感を感じた。それとともに涙も出た。
(あの男とは、会ったことないはず...でも)
実は最近、寝るといつも同じ妙な夢を見るようになっているのだ。
その内容は、背景が雨が降り注ぐ見たこともない町の路地裏。多分ヨーロッパの町並みだと思うが、自分は海外旅行には行ったことがない。一度も。しかしその路地裏に自分は確かにいる、しかも全身傷だらけで横たわるように。そしてそこに必ず駆けつけて、私を自分の胸に引き寄せて泣いている男がいるのだ。その男は黒髪の上、黒づくめの服を着ていた。これが自分が見た夢だ。
夢の男の顔は今までは分からなかったが、今日あの男、杉田義羅に会ったことで気付いた。間違いなく彼の顔だった。
でもまだ納得できない。なぜあんな夢を見るのか。行ったこともない場所の風景が夢に出てくるのか。会ったこともない男が自分の夢に出てくるのか。疑問だらけで何から整理すればいいのかも分からない。そのためにも今日の放課後、杉田義羅に直接聞くしかない。
そう考えながら私は彼が今日受ける再テストの内容を端末でまとめていく。
そして放課後の生徒会室にて
「それでは、よろしくお願いします」
部屋に入ってきた杉田義羅は動揺するどころか、堂々として落ち着いている。まるで試合前のプロの選手かもしくは戦前の歴戦の戦士みたいだ。
「余裕ねあなた。そんなに自信あるの?」
「俺の場合は、いつでも準備ができているからな。あとは実行あるのみだ」
本当にこの男、私と同年代なのだろうか?目の前には男子高校生じゃなく大人が椅子に座っているように感じてしまう。
「では、始めます。筆記用具を持って」
部屋には私と会長の倉田会長と庶務の馬場先輩に同行させてもらっている。とにかくこの状況で杉田はズルはできないだろう。
「始め!」
ストップウォッチを押して時間を計りはじめ、杉田も問題を解き始めた。
そして私は彼の邪魔にならないよう少し距離をとった。
「彼、ズルをするような男じゃないと思うんだが」
会長が耳打ちしてきた。
「ええ、私ももうさっきの彼の態度で確信しました」
「じゃあ続ける必要は」
「それでも、言ったことは止めません。それは彼も承知だと思います」
そして、彼に伝えておいた制限時間の5分前に、杉田が筆記用具を置いた。
「終わった。これでいいかな?」
「ああ。答え合わせは彼女がしておくそうだ」
「結果は明日伝えるから、今日はもういいよ」
「それじゃ」
立ち上がろうとする杉田。
「あ、待って!」
それを呼び止める私。
「何だ?」
今になって、自分のわがままに杉田はあまり文句を言わず付き合ってくれたということに気付いて、申し訳なくなったのだ。
「あの...無理言ってごめんなさい」
「何で謝るん?全教科満点なんて怪しんで当然のことだったんだから。俺だって逆の立場だったら同じことしてたかも」
「だからってこんなこと」
「もういいんだ渡辺。じゃあな」
「じゃあ!最後にもう一つだけ!あなた、私とどこかで会った?」
「...俺は確かにあんたを見たことがある。でもそれは11年前のことだし、物心ついてない頃だから会ったワケじゃないから知らないはずだ。何故そうだと?」
「おかしなことを言うけど、私数日前から変な夢を見るようになったの。同じ夢をね。今日あなたに会って分かったんだけど、その夢の中にあなたがいるのよ。あ、でもその白髪はなくて普通の黒髪だったけど」
杉田は少し俯きながら考えた。
「...この時期だったのか...」
「え、今なんて?」
「いや、何でもない」
杉田は小さな独り言を言ったみたいだが、私は聞き取れなかった。だが一瞬寂しい表情になったのを私は見逃さなかった。
絶対に何かあるはずだ。でも本人はもうこれ以上喋らなさそうだから問いただすのはやめよう。
杉田が出ていくのを確認したあと、私は会長に聞いてみた。
「会長。彼、嘘を付いてると思いますか?」
「いや、おそらく全部本当だろう。でもまだ何かを隠してるのは間違いない」
「ええ、私もそう思います」
ここまで特定の男性のことが気になったのは、中学の時、現在の会長である倉田先輩に憧れて以来だと思う。 何故か私の前では寂しい表情をしていたがそれでもまっすぐな目付きをした人だった。
そしてこの後、今日彼が受けた再テストをチェックしたが言うまでもなく、満点だった。
その日、夕焼けの町中で、俺は学校帰りのついでの買い出し中で、
「そう言えば"あの時"、年齢聞いてなかったんだったな・・・」
そう呟きながら、ある光景を思い出していた。
ヨーロッパのとある町、その外れにある一本の木の下にある一つのお墓。墓石には普通あるはずの名前どころか文字すら無い。代わりに2種類の花の絵が刻まれていた。
ニゲラとバラの絵が。
花言葉はそれぞれ未来と幸運。
どうも、こんにちわ皆さん!
今回は前回投稿からかなりのスピードで書き上げて投稿してみました!
これもこの作品の続きを書き続けたいという自分の思いからできたことです!
また、この作品にブックマークをつけていただいた読者様、本当にありがとうございます!
この小説の読者様が増え続け、そしてこのブックマークもいずれ増え続けることを願いつつ、スピードもそれなりにして連載を続けていく所存です。
それでは、本編を楽しみつつ、また次回更新にて!




