第39話 仮装巡洋艦
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マーちゃんと出会って21日目の朝、前日に聞いた鳥人類のリュッキュイ・グェ氏が、フロアの吹き抜けからこちらにやって来た。普段は他世界の城下町にある役所で所長をしているグェ氏だが、休日になると自宅のどこかがこちらの吹き抜けと繋がるとのことだった。マーちゃんの出してくるカロリーフレンドのポテト味に魅了されたグェ氏は、ソレと引き換えに休日の1日を副業に費やすことに決めたらしいのである。
ちなみにグェ氏のこちらでの出現位置については、不思議なことに常にマーちゃんの居るフロアの近くであるとのことだ。逆にマーちゃんから、グェ氏の世界に行くことは出来ないとのことだった。またグェ氏の持っている気密服は、マーちゃんから貸与された後も彼の自宅内に隠され、作業用ポッドについては新規に製造されてフロア内に保管されていた。
「マーちゃん、グェさんは先進文明の人なのかい? そうでねえと、あの落ち着きぶりは説明がつきそうにねえ。吹き抜けを移動するってこたぁ、1階よりも下や塔の向こう側も見ちまうってこったぜ」
「宇宙や重力については知っていたからそうなのだろう。ヤンヌルカナと会っても大丈夫なので、少なくとも巨大構造物はある世界だと思うぞ。グェ氏は吹き抜けから出ることが無い。心配は無用だ」
どうやらグェ氏は科学的に発展した文明のある世界に住んでいて、この辺りの秘密についても俺よりも詳しく、そして何か不味い物を見てしまうこともないらしい。彼が『ヤンさん』と呼んでいたのは例の存在のことで間違いないだろう。
「ところでよ、一応はここの住民として聞きてえことがあんだよ。吹き抜けに出てくる仮装巡洋艦ってどんな奴なんだい?」
言葉通りなら、商船の振りをして敵国の商船を拿捕したり沈めたりする艦種のことになる。
「アレはな、3本マストの帆船なのだ。連中が吹き抜けに現れる理由は不明だ。仕組みも不明だが船内には空気も重力も働いているらしい。ほとんどは酷い状態で要救助対象なのだ」
不安だったので聞いて見たのだが、件の仮装巡洋艦は思ったよりもローテクで、不思議な上に気の毒を絵に描いたような連中だった。
連中は大砲を隠して装備し、それを敵国の商船に浴びせる任務を帯びているのは名前の通りであるらしい。
返り討ちにあって負傷者が大量に出たり、座礁して動けなくなったり、嵐の所為で大洋で迷子になったり、運悪く船内で疫病が発生したり、色々とあって困る度に吹き抜けに来てしまうのが問題だった。
「彼らを発見し、コミュニケーションをとることに成功したのはグェ氏だった。ポッドが2メートルと小さいのが良かったのだろう。乗員がトカゲから進化した種族だったので私も助かった」
マーちゃんの話によれば、ここのメンバーは連中の言葉を調べながら、多数の負傷者を治療し、50メートルの船底を修理し、水と食糧を与え、疫病の為の薬まで用意し、羅針盤と大砲と個人用武器の改良を行い、帆と船体の改造まで行って連中をどうにか生かし続けた。
そして巡洋艦の連中は、問題が解決すると空気に溶けるように船体ごと消えてしまうというのだ。
「連中は吹き抜け内の真空中を漂っているだけで、目的があってここに来ているのではなかった。今回に限っては、船体にダメージが無く高位の人物らしき者が乗船していたのでヤンさんに出てもらったのだ」
ヤンヌルカナさんも久しぶりの任務で張り切ったのだろう。音速の100倍で下層から現場へ向かったところ、連中は到着よりも前に空気に溶けるように消えてしまったとのことだった。
「そりゃあ全員がビビっただろうぜ。でも敵じゃねえようで安心した。ところでグェさんはいつ頃まで仕事をしてんだい?」
「夕方前までだ。たまに妙な草が壁に取り付いていたり、色々な相手が助けを求めて来たりするが、それが無ければ食事をして報酬を持って帰るだけだ。グェ氏の感覚で10年になるし、こちらではもう100年になるのだな」
うちのトカゲ姉さんの話では、リュッキュイ・グェ氏は世界は違うが、俺と似たような境遇の男であるらしい。きっと世知辛い話を聞かされているのだろう。俺と違ってMPが多そうなのは管理職の人だからだろうか。翌日に響かないコツを教えてもらいたかった。10年間も続けられるのは伊達ではないだろうと思う。
マーちゃんやスーちゃんと話をした後で、健康体操をやって曲剣の型もやり、ついでに筋トレとジョギングをこなして瞑想までやったらグェさんが帰ってきた。今日は問題が起きなかったようで何よりだ。
玉子型で短い脚が4本と、円盤型飛行ユニットが両脇に付いた作業用ポッドは可愛い外観だったが、グェさんには似合っていた。
「ただいま皆さん。ところで地主さんは頭に光る輪が付いたし、翼まで生えたし縮んだんじゃないかい。こちらの神話の龍に近いな」
そう言いながら、ツナギのままで東屋に来たグェさんには、俺から簡単に理由を伝えておいた。
その日は俺とスーちゃんとグェさんで魚をご馳走になり、酒も飲んで酷い目にあったことを自慢し合った後で、マーちゃんも含めてお互いに再会を誓って別れた。
それから一夜明けて、マーちゃんと出会ってから22日目の今日は、エっちゃんとブラバさんの様子を見に行った後で、採掘場所を探してみるという予定になっていた。今日は教会暦805年3の月15日になる。
「マーちゃん、とにかく焦らずのんびりだ。どうせ街に帰ったってな、何の得にもならねえ様な面倒事しか転がってねえ。聖人様が全員をぶん殴ったのぁそっちの方が早えからだと思うぜ」
何が何でも街には帰りたくない俺は、この山脈にやって来た本来の理由について自分の東屋で強調していた。
ちなみにスーちゃんは、こちらも専用の巨大な東屋で昨日の酒の影響なのか気持ち良さそうに寝こけている。うちのドラゴンライターさんは、印刷とトイレと水浴び以外はずっと外の東屋で過ごしていた。寝る時までそうなのだから余程気に入ったらしい。
そんな訳で、今朝は久しぶりにマーちゃんと俺だけで今日の予定について話してるという訳だ。
「地震で大きく崩れた場所を探すのもありだな。そちらの方が楽だし当たる確率が高い。天然資源か何か掘れれば言うこと無しだ。鑑定の能力が仕事をしてくれるかもしれん」
スーちゃんから聞いた情報も総合するならば、うちの露天坑内掘り姉さんの言うような方法が適しているかもしれない。
真のスローライフとは何か。この山脈の中程で、俺はそれを探さなければいけない気がしていた。




