第40話 ブラバさんとエっちゃん
※本日は2話投稿します。
ベーコンと目玉焼き、パンと野菜スープを食べさせてもらった後は早かった。
山に向かう事になってから新調した防具に着替えると、俺はその状態でお祈りを済ませてからアイテムボックスの外に出て隣の山へと向かった。マーちゃんは頭の上だ。
スーちゃんについてはそのままだ。別に置き去りになるわけでもなし、好きなだけ寝て取材もして、たくさん記事を書けるような生活を送ってくれたらそれで良いのだ。
「マーちゃん、ちょっとだけ近道を行くぜ。渓谷まで降りるのが面倒なんでな。渓谷の上を渡れば、隣の山まですぐだ」
俺は空歩の術でそのまま渓谷の上を移動する事にした。山で有利なことと言えば、俺は転落しても死なないってところだろう。
「そう言えばな、ケンチ。実は転移の術で一度行った場所に行けるのだ。街まで一瞬で戻れるぞ。ブラバさんのところにでもだ」
マーちゃんの無情な一言には絶望的な思いがした。それでは、何の為に時間を無駄に使っているのか分からないじゃないか。
「マーちゃん、危機的な状況でもねえ限りはな、そんな便利なものに頼っちまうと人間てなぁ不幸になっちまう。道端にデケえダイヤの原石が落ちてた事件があんだろぃ。見落としなんていくらでもあるぜ」
ロボットさんが転送の術を使用している時点で気がついていた。マーちゃん達は転移で移動が可能だ。だがそれは、見直しを大切にするマーちゃんの意向により、今までは便利でも使用されてはこなかったのである。今回もその用心深さを捨ててほしくなかった。主に俺の為に。
「確かにそういうこともあるかもしれんな。ケンチがそれで良いのであれば、地道に移動することについて異論はない。エっちゃんも元気であれば良いが」
うちのトカゲ姉さんは、いつになく熱心な説得に納得してくれたようだ。
昔は外区で配達もやっていた為、3キロメートルほどの空中移動はすぐに終わった。ここからブラバさんのところまではすぐだ。
「なんか随分とモッサリしちまったな。ありゃあブラバさんだよな? 高さも10メートルぐらいだったよな? 何かデカくなったみてえに見えんだが。」
サスライ草とのキメラヒノキとして生まれ変わったブラバさんは、最初に見た時よりも一回りは大きくなっていた。まだ4日ほどしか経過してないはずだ。もう14メートルはあるのではないだろうか。
鑑定で見直したが、やっぱり表示はブラバさんだった。何故か木の種類でもなくブラバさん表記だったのだ。
「変だな。アレはブラバさんらしい。本当にブラバさんだ。見直してもやはりブラバさんだな。少々育ち過ぎではないだろうか。ラモっさんやヤンさんは、私が自分たちに近いと言っていたがこういうことなのか?」
聞く限り、どうやらマーちゃんも同じであるらしい。聞いたことが無い名前も出たが、ここは聞かなかった振り作戦である。多分だがフロアの外の住人のことだろう。
「どるぁぁぁ! マーちゃんとケンチが来とるどるぁ。ハーケンケイムはどうなったんどるぁ?」
「2人ともいつも通りだな。そうなると、遺跡はもうどうにかしたのだな。流石に殴打の者達は違う」
向こうも俺達を見つけたのだろう。銅管を通ったようなアルトボイスと、極めて穏やかな成人男性らしき念話が届いてきた。4日しか経っていないのに不思議と懐かしいのはどうしてだろうか。
「まぁ、エっちゃんじゃないの! しばらく見ない間に大きくなって……良い石をもらったんですって? こちらがブラバさん?」
らしくもない感慨に耽っていると、身体のすぐ横に位置する収納口からスーちゃんが出てきて、エっちゃんと話を始めてしまった。どうやら目が覚めたらしい。
「ドラゴンとは……初めてお目にかかる。ブラバスタという者だ。ただのブラバスタだ。今はエっちゃんのお世話になっている」
「私はスーラネオラというの。スーちゃんで良いわ。今はマーちゃんのところにお世話になってるの。街に連れていってもらうことになったのよ」
おそらく世界初であろう、ひのきモドキとドラゴンライターの会話は、男性と女性という違いはあるが念話で交わされた。言語思考が元になるので両者とも大陸公用語だ。
そこからは俺達も交えて、遺跡で起きたことや今後のことについて情報の交換が行われた。
「私は辿り着けなくて正解だったな。すぐに死ぬ羽目になっただろう。遺跡が既に無いのであれば、誰が来てもどうにもなるまい。後続が来たら私は木になっていれば良いしな」
ブラバさんは染々とそう溢したが、実際に木なので良い方法に聞こえるしそれ以外の正解はなさそうだ。
「あの砦にいた内の30人は、自分のやったことを国に告発するために帰っちまった。トマシーノ閣下のケツに火が着いたら後続は来ねえかもしんねえぜ」
興味が全く無い訳ではないが、この件について俺としてはそう返しておくしかない。
「キテルモントリサール伯爵は恐ろしい女だぞ。やるしかない、となれば即座に実行に移してしまうからな。口封じは早いだろう」
その伯爵を近くで見る機会があったのだろう。ブラバさんの返事には実感がこもっていた。
そんな俺とブラバさんを余所に、いつの間にか頭上を離れたマーちゃんと、スーちゃんやエっちゃんはまた別の話に興じているようだ。
うちのエターナル姉さんは、うちの頑丈ライターさんと一緒に例の緑柱石に関してしきりに首を捻っていた。
────────────────────
●悠久の放置緑柱石
マンマデヒクの元で50億年の歳月を過ごした結晶。その為に非常に強度が高い。
周辺の生命力を活性化させる力を有する。
────────────────────
鑑定で見てみると無難という結果が返って来たので、俺としてはむしろ落ち着いてしまった。既に泉に住んでいるブーラブ姉さんに同じ物を渡してしまったのだ。
「マーちゃん、この辺りも寂しいからよ、多少は賑やかになった方が良いんじゃねえか? もう水のブーラブ姉さんにも似たような物を渡しちまったろぃ」
「言われてみればそうだな。今後もこの手の結晶を取引に使うのもどうかと思ったのだ。だが悪い効果では無さそうだ。成長限界というものもあるしな」
俺が思うに、これ系の結晶はマーちゃんが出してくる物の中でも安全な部類に入る。精霊さんが少し大きくなって強力になり、周囲の植物の成長が早くなって、ダクトテープであるパラサイトコブラが僅かな自由を取り戻すのが関の山な代物なのだ。生物などというものは、他の存在にとっては元から大なり小なり危険なのである。
ここの2人も心配するほどのことも無くて安心した。
俺は改めて、これから掘る鉱床に想いを馳せた。
※お読みいただきましてありがとうございます。




