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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第3章 トカゲさんと山

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第36話 過去と現在からの一撃

 ダミノルさんの加えた一撃によりハーケンケイムは吹き飛んだ。背負っていたフレームは明後日《あさって》の方向に消え、片方の手はおかしな方向に曲がって使えそうにない。


 ここで今まで姿を隠していた『吸い取るさん』が『(≧▽≦)』な顔で現れた。そつの無いことに、今の場所まで先んじて回り込んでいたのだろう。音も聞こえなかったし、周囲には足跡すら無かった。


「今日のダミノルさんも一味違うけどよ、やるじゃねえか、吸い取るさん」


 斜め後方の岩の陰《かげ》に隠れながらなので、締《し》まらないことこの上無いのだが、ロボットさんたちの作戦《さくせん》遂行(すいこう)能力の高さに俺は思わず唸《うな》ってしまった。


「吸い取るさんは普段と同じ装備だがアレで良いのだ。フリーズドライ食品と一緒に作っておいた物が役に立つようで良かった。天然成分が環境に優しいのはどこも変わらんな」


 今は隣で浮いている、うちの乾物屋姉さんからは、いつも環境に配慮《はいりょ》していますという強い主張と自信が伺《うかが》えた。例の妙なアイテムを作る時も、お願いだから現地の材料のみを使って欲しいと頼みたいところだ。


「ここに来て凄い場面に行き当たったわ! ロボットさん達って強いのね」


 スーちゃんはと言えば、鋼製の写生ボードの上に紙を固定して筆を走らせている最中だった。アレはマーちゃんに用意してもらったボールペンだろう。水中でも書けると聞いて泣いて喜んでいた。


 そんな感じで手に汗を握っていた俺達なのだが、前方の風景が白い煙に覆《おお》い隠されたのを見て焦《あせ》った。


「マーちゃん、吸い取るさんが何かぶっかけたみてえだが、ありゃ何だよ? すげえ煙が上がってるぜ。ついでに寒くなってきやがった」


「うむ。アレはな中央の吹き抜けに吊るしてある加圧コンテナで作った物なのだ。吸い込んだこの世界の空気の72%は窒素でな。それで液体窒素を作っていた。アレで強靭《きょうじん》性が低下してくれれば御《おん》の字だ」


 毎度のことながら俺は意外に思ってしまった。マーちゃんはフリーズドライ食品と一緒に、マイナス270℃の吹き抜けで液体窒素を作っていたのだ。

 紛《まぎ》れもない天然成分のソレを、吸い取るさんは倒れたハーケンケイムにぶちまけたのである。


 白い煙が晴れてきた頃、ハーケンケイムは驚くべきしぶとさを見せてフラつきながら立ち上がった。

 制服のコートと下に着ているタイツは、細かくなりながらほとんど剥落《はくらく》していたし、さらに下の人工皮膚も同じ運命をたどったようだ。彼女と呼んで良いのか不明の警備員は、骸骨のようなフレームと筋肉の代わりであろうパイプだけになっていた。


「しぶてえのは尊敬するぜ。でもお前《めえ》さんはここまでだ」


 俺は強化《バフ》と慣性の術も込みで投げナイフを投げた。ベアグリアスの使っていた物と同じ型の相棒をハーケンケイムの胸に向けて。


 投げナイフはハーケンケイムの胸の中心にある、青い光をわずかに発する石の真横に突き立った。極低温状態で脆《もろ》くなっていただろう胸部から、青い石が地面に落ちるとハーケンケイムも崩れ折れた。


「いつもながら見事な腕前だ、ケンチ。アレを回収してから、遺跡を解体してここも終わりだな。残りの2ヶ月はどこを掘ろうか、スーちゃんに聞いてみよう」


 うちのトカゲ姉さんの感想は素っ気ないのだが、今はそれがありがたい気分だった。美味しいところを持っていってしまったが、こうして俺の仇《かたき》討ちは終わった。







「随分と長い付き合いだったけど、彼女には自由な意志が無かったのね。それなら内部の取材は無理だったんだわ」


 戦いが終わった後で、ドラゴンライターのスーちゃんからはそんな感想が出た。

 うちのトカゲ姉さんとはまた違ったアルトボイスの念話は、長い付き合いのご近所さんの真実を知った後でも寂しい雰囲気を纏《まと》っていた。


「ハーケンケイムの方は解析して、再利用が可能なら新しいボディを作成してみるのも良いかもしれん。遺跡は穴を空《あ》けるが、スーちゃんは中を見てみるか?」


 マーちゃんの意見には待ったをかけようかと思ったが、今までと同じわけでもないだろうと黙ることにした。


 一方のスーちゃんは、マーちゃんの申し出に乗り気なようだ。


「それは両方ともありがたいわね! ここって身分証があれば入り口が開くのよ。ここの入り口って、真ん中から穴が空《あ》くみたいに広がるから面白いの」


 スーちゃんの話では、これ等の遺跡の開閉機構は普通の扉や門ではないらしい。少々、勿体無《もったいな》いことをしたようだ。この件については、組み立て担当であるうちの建築物リビルド姉さんに相談してみようと思う。金の匂《にお》いがするのだ。


「取りあえずぁ、中身を拝見して来ようぜ。地震計はこの界隈《かいわい》じゃ人気が無《ね》えだろうが、他の物《もん》がありゃあ儲《もう》けもんだ」


 警備は予想に反して厳重だが、そもそもここは帝国が繁栄した当時の地震観測所だったのだ。


 俺個人としては、食料生産に関わらなくても良い人間が増えれば、自然と科学も発展して行くのではないかと思っている。それはこういう過去の実例が時折《ときおり》見つかるからだ。地球でも何気にそんな感じだった。ローマの様な国が滅んでしまうと、多くの技術が失われてしまうこともあったのだ。地球と違う点があるとすれば、視点は科学的なのだが、アプローチの方法は魔法に頼っているという所だろうか。


「興味深い開閉機構についても後で調べてみよう。ハーケンケイムは真ん中に立っていたから、脇の壁を切り抜いて入り口を空《あ》けてみるとしよう。残りの警備員が居ないとも限らん。慎重に行こう」


 難関《なんかん》の排除に成功した所為《せい》か気が緩《ゆる》んでいたようだ。


 マーちゃんの助言に従い気を引き締めなおした俺達は、ダミノルさんが例の解体道具で壁を切り出す様子を見守った。


 何を書いているかは後で見せてもらえると思うが、作業を見つめるうちのレッドドラゴンライターさんの方は猛烈な勢いでボールペンを動かしていた。








※お読みいただきましてありがとうございます。

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