第35話 ストームブロウ
※本日は2話投稿します。
「マーちゃん、今日はこれ着んのかよ。何か薄いけどすごいなこれ。スハダカンの親方にゃ絶対に見せらんねえよな……」
今日はいよいよハーケンケイムに挑むわけだが、俺が装備を着込む段になって、うちの新装備あるよ姉さんから待ったがかかった。
マーちゃんが出して来たのは、ウェットスーツの上から薄いプロテクターを装着した鎧だったのだ。
「ケンチ、あの親方に見せられないのは同意だ。実はこれはな、スハダカン氏の願いを参考にして新規に作成した物だ。スハダメイルの先行実戦投入タイプになるな。薄いが地球にあった小銃弾でも防ぐ」
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●先行型スハダメイル2
薄く軽く頑丈で蒸れない。すぐに脱げる。
7.62ミリ口径のアサルトライフルの銃弾を防ぐ性能を有する。
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鑑定で見たところ、確かにマーちゃんの言うような鎧の情報が表示された。
あの親方の望む物は、民間が手にするには何千年も早い技術なのだ。だからこそ防具店の親方は神から警告を受け続けている。
「確かにこんぐれえはあった方が良いのかもしれねえな。遠慮なく使わしてもらうぜ」
ウェットスーツの様な鎧は一体型になっているにもかかわらず、背中の部分から入り込むと身体に密着するように素早く着ることが出来た。人目を気にする必要が無ければ、次以降もこれで通したいぐらいの安心感と動きやすさだった。もちろん中が蒸れることも無い。
「今日は吸い取るさんと、ダミノルさんの2体が先行して相手を止める予定だ。無理なら撤退するが、2体とも新装備を使うからそう簡単には凌がれまい」
うちのトカゲ姉さんの方は、本日の作戦について自信を持っているようだった。
身長180センチ程度の相手をどうにかするのであれば、たとえ相手が大口径砲や荷電粒子砲で武装していてもどうにかなりそうではある。
「マーちゃん、そりゃ俺も手ぇ出していいのかい? ここまで用意してもらって何も出来ねえってのも何だしよ」
「それについてはケンチに任せる。相手を無傷で捕獲するのは無理だろう。なので今回は諦めた。質量投射兵器などは今回も使用しないが、その代わりに少々変わった物を使おうと思う」
マーちゃんから許可がおりた。俺のはアホで余計な考えなのかもしれない。それでもベアグリアスの仇は討ちたいとそう思うのだ。
道案内のスーちゃんに続いて、準備の出来た俺達は山道を静かに下り降りた。
「そこの方々、当観測所は関係者以外の立ち入りが禁止されています。ご用のある場合については正規の身分証の提示をお願いいたします。帝国出身者である場合にはその旨をお伝え下さい」
その警告は大陸公用語とほとんど同じだった。今の公用語の元が旧帝国語なので当然と言えば当然だろう。帝国の版図がそれだけ広大だったのだ。
上から見ると白くて丸いパンケーキの様な建物の前で、その銀色の髪を持った女性型アンドロイドはそんな警告を投げてきた。
身長180センチはあるだろうか。典型的な北部人の風貌であるが、旧帝国人というのは北部に生き残りが多かったらしい。それと関係があるのか相手の目も青かった。
細身のコートの下にタイツを着たハーケンケイムは、リング状のフレームを背負っており、そこに6つの物騒なパーツを付けて待っていたのだ。
「赤い線が地面に引いてあるでしょう? アレを通り過ぎると撃ってくるという訳なの。こっちが何を言っても聞いてくれたことは無いわね。この身分証は昔もらったんだけど駄目だったわ」
俺達はハーケンケイムの視界に完全に入っていたが、視線の先にある地面の赤い線を越えていない為に警告だけで済んでいた。
ちなみにスーちゃんの言う身分証は、まだ帝国がある時代に飲み屋のオヤジからもらった物だそうだ。驚くべきことに、それで詰め所の方には入れたらしい。残念ながら観測所の方は駄目だったとのことだ。
もう相手への対応方法は決めてある。俺達は下がりながら、近くの岩の陰へと近づいて行ってそこへ隠れた。
「スーちゃん、岩から身体がはみ出ちまってるけど良いよな。直撃しても大丈夫だしよ。それじゃあマーちゃん、そろそろ始めてくれや。あいつは同じ毎日を繰り返してる幽霊と同じだ」
ここでようやく、姿を消してついてきていたダミノルさんが動いた。
「ホワァアオォォォ……」
気合い充分というには物悲しい怪鳥音は、姿を現したダミノルさんが『(;TДT)』な顔から発したものだ。
今日のダミノルさんは、素人でも分かる増加装甲を各所に貼り付けた武ダミノルさんだった。
そして手に持った棒を凄まじい勢いで振り回し始めたのだ。
「マーちゃん、あれが『ひのきの棒ストームブロウ』なんだな……鑑定で見ちまったぜ」
武ダミノルさんが振り回しているのは、大きなヌンチャクの様な武器だった。長さ3メートルのひのきの棒が2本、それが特殊鋼製の鎖で繋がれたものらしい。
ダミノルさんの4本の腕が繰り出すヌンチャクワークは、人間の何倍あるのか定かでないパワーの所為で、俺達の居場所まで届く凄まじい風圧を伴っていた。
「そこの方、それは武力による妨害行動であると認めます。今すぐに停止しない場合は、こちらも射撃を含む手段を行使します。全兵装発射準備よし。発射します」
警告から発射までが、やたらと短いような気がするものの、ハーケンケイムの背負う6つの武器はダミノルさんに向かって火を吹いた。射撃を含む手段というか射撃だけだ。
「うぉあ、危ねえ! ダミノルさんが弾いたヤツがこっちに飛んで来たぜ」
ここは素直に驚いておく場面だろう。ダミノルさんの振るう『ひのきの棒ストームブロウ』は相手の実弾をほぼ弾いて逸らしたのだった。
「見たところ徹甲弾の弾数はそんなに無いようだ。口径は10ミリも無い。問題は2門のレーザーと、まだ撃ってないミサイルか。レーザーは完全に当たっているがダメージは無さそうだな」
うちの戦闘観測姉さんからは冷静な解説が返ってきた。
俺の視界の隅では、スーちゃんの頭と首と肩に銃弾が当たりまくっていたが、新人ドラゴン姉さんの方はダメージを受けたように見えなかった。
「アァタァァァ!」
この時ばかりは、ダミノルさんのことを少しだけカッコいいと思ってしまった。
武ダミノルさんが大きく旋回させたストームブロウは、ハーケンケイムのボディに真横からブチ当たると、奴の武装フレームと本体を別々の方向に吹き飛ばした。
予定だと、次は『吸い取るさん』の秘密兵器が見られるはずだ。
俺は久しぶりの緊張の為に手を開いてから握りなおした。
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