第22話 それぞれの道
思い込みによる初歩的な見落としがあったのではあるが、こういったことはそもそも探索者の仕事でもないので俺は忘れることに決めた。
「そりゃまた恐れ入ったぜ。そんで、あんたらはこれからどうすんだよ」
後は、2つに割れたというこいつらの事を聞いておかなければならない。
俺たちがちゃぶ台で話し込んでいる間に、視界の隅の方ではジャージにエプロンを着た黒子さんが、炭火焼きコンロを用意して肉を焼く準備を始めてくれていた。いつも思うのだが白いヘアバンドが似合いすぎている。
「これはありがたい。では俺も肉をご馳走になるとしよう。さっきも言ったが俺と20人は聖都に行くことに決めた。残りの30人は国に帰るが、貴族たちのやりようについて告発するつもりのようだ」
聞かされた連中の身の振り方については疑っても切りがないことだ。
この件に関して、マーちゃんがそれでもかまわないと判断したことを俺も信じることにした。
「バッティングスタさんよ。あんたについてく奴らは良いんだ。国にこの件を告発するって奴らは消されんじゃねえのか?」
連中の行き先は極端に別れていた。
一方は所属する組織から離れて、別の大きい組織を頼るのだから助かる可能性も大きいだろう。もう一方については消される未来しか見えなかった。連中には身寄りがいないのだろうか。
「俺についてくる奴らの身寄りが無いのだ。後の30人は身寄りは居るが、信仰心というものも充分持っている。それにヨバンサード卿の陣営にだって敵はいるぞ。ところでなケンチ、お前はヤンヌルカナにお会いしたことはあるか?」
隣で肉が焼けるのを待つ間に、俺は連中が別れる理由について聞いてしまった。
マーちゃんを御使いだと信じる奴らなのだ。覚悟はとっくの昔に決まっているだろう。
さらにバッティングスタからは知らない名前が出てきたので、隣にいるうちの『もう終わりだ』姉さんを黙って見つめた。
「どうしても会いたいと言うので、ひのきの棒ファイナルディザスター運用ユニットに引き合わせた。彼らの答えが出たのはその直後だったのだ」
マーちゃんからそれを聞いてしまった俺は、充分に渋い顔になったと思う。
大森林で存在だけが仄めかされたアレについては、ロスナッシが会ったらしいことしか分からない。
その後に気密服を着たロスナッシは塔内にない『ひのきの棒ゴッズジャッジメント』や、その更に向こう側までを見たはずだ。奴の髪はその所為で白くなってしまったのだった。
バッティングスタたちはその手前まで行ったらしい。
「俺たちはあの御方と話をしたのだ。短い話だった。それでも充分だったよ。ウサンクサの種(ゴマ)の様に潰されたくない者は俺についた。故郷をそうされたくない者は告発することにしたのだ」
バッティングスタは染々とそう答えた。
俺から言わせると、そういった存在とは関わらないのが一番だ。マーちゃんと出会ったなら、その背後にあるものを想像しろというのは無理なことなのだろうか。俺がそれらについて、マーちゃんに聞くことをしないのはそういう理由がある。
「そういうことなら、今回の件についちゃあこれ以上は聞かねえよ。あんたらは明日出発すんだろ? じゃあ、肉でも食って、風呂入って寝ちまおうぜ……」
それからはお互いに黙って肉を食い、視線だけを交わしながら塩と醤油のタレをお互いの目の前に出しあって過ごした。
トングとフォークを使っていたバッティングスタが、箸を使う俺を不思議そうに見ていたが、奴は何も聞かずに最後には納得した顔になった。
その晩の日記には現金を大量に得たことを書いて、マーちゃんがかなりの数の文化財を手に入れたことに関し可能な限り詳細なリストを記してから寝た。力作だと思う。
マーちゃんと出会ってから15日目の朝、俺たちは日課を済ませてから朝食を取り、その後でエランダラ達の出発の準備を手伝うことにした。
今日はもう教会暦805年3の月8日だ。
意外なことに、お祈りの時間では51人の野郎共の全員が、マーちゃんの後ろで戦いの神に祈りを捧げていた。
世界が脳筋で満ちることを俺は防がなければならないだろう。どうして魔法の神に祈ろうという理知的で冷静な奴がこうも少ないのだろうか。
朝は陽気にハムのホットサンドを食い、俺とマーちゃん以外の全員が黒子さんに跪いて感謝の言葉を捧げた後で旅の準備は始まった。
「本当に短い間であったが皆は元気に過ごすのだぞ。困ったことがあったらこちらに寄越してほしいのだ……」
エランダラ達はどちらに行くにせよ荷を引く猪車が必要だった。聖都組が4台、帰国組が6台だ。つまり猪達も8頭と12頭に別れるので、ここには1頭も残らないということになる。
うちの触れ合い動物王国姉さんは、この事実に珍しくしょげた。
「マーちゃん、こいつらは何処に行ったって粗末に扱われたりしねえよ。これでも一財産になることもあんだぜ。ただお前ら、結婚式にだけは近づくんじゃねえぞ。あん時だきゃあ食われるかもしれねえからよ」
猪たちも家畜の立場だ。うちのドナドナ姉さんと、猪たちにはそんな声をかける以外に言葉がなかった。
「悪いなケンチ。本来はこの金もお前達の物だ。だがこれはありがたくいただいておく。砦にあった食料と水も全部積めたし、道中で困ることもあるまい」
エランダラ達には銀貨1050枚を旅費として渡すことにした。聖都組が600枚で、帰国組は450枚というところだろう。
聖都までは内海を船で渡ればそれなりに早くつけるはずだ。船賃が高いがこれだけ銀貨を積めば猪車こみでも何とかなる。隣の国まで帰る連中は陸路でも問題無さそうだった。
ちなみにエランダラ達は、更地になった要塞跡については何も言わなかった。全員がそちらに視線をほとんど向けなかったので、俺達も余計なことは言わないようにした。
「ではクルトスワローの方々、あなた方にも殴打の導きのあらんことを……」
「バッティングスタの旦那のこたぁ心配しちゃあいねえが気ぃつけてな。国に帰る奴は上手く立ち回ってくれ。もし危なそうなら教会に頼んで、デチャウ司祭様に渡りをつけてくれや」
マーちゃんと俺からは無難な挨拶をしておいた。
「砦で会った時には分からなかった。本当にお世話になったな使徒どのよ。俺は国に帰るが、この出会いは生涯忘れないだろう」
砦の入り口で出会った兵士さんが俺にそう言ってくれた。昨晩に聞かされた事を考えると、忘れた方が良いこともあるのではないだろうか。
「アンサールの奴には聖都で会えそうだ。あいつはパウディーノ・マレニバズル司教を頼るそうだな。俺も頼らせてもらおう。本当に世話になった。達者でな!」
そんな言葉を交わして、エランダラと他の者たちは俺たちの前から旅立っていった。
昨日のうちに雨も止んだようで空も晴れ上がっている。まだ5刻(10時)にもならないが、出発するには良い時間だと思った。
※お読みいただきましてありがとうございます。




