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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第3章 トカゲさんと山

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第18話 永眠の術

 30人もの正体不明の連中を前にして、俺はこの後どうしようかと悩んだ。


「マーちゃん、どうしたら良いだろうな。あいつらを誤魔化ごまかして先へ進むのはどうも良くねえ気もすんだよ」


 小声でそう相談したのだが、捕まえて色々と聞き出すのも面倒な話だろう。


「ケンチ、それなら連中がこちらに襲いかかってくる可能性もある。無傷で捕獲したいが、私は『眠りの術』の様なものは苦手なのだ。ガスでもいた方が良いだろうか?」


 マーちゃんからは念話で返ってきた。


「いざとなりゃ何でもぶっぱなしてくれ。俺とマーちゃんが何とも無けりゃ後でどうにでもなんだろうよ」


 うちの魔法トカゲ姉さんは、意外にも眠りの術が苦手らしい。人の神経をいじるには相手がもろすぎるからだろうか。


 このまま、もう少し様子を見ていようかという気になった時に状況が動いた。誰かが反対側からやって来てしまったのである。


 その男は1人でやって来た。

 身長は2メートルもあろうかというものだったし、筋肉におおわれた身体は頑丈そのものといったところだが、バランスが取れており鈍重ではなくスピードも兼ね備えている様に見えた。


 顔はワイルドな風貌ふうぼうだが整っており、後ろで無造作に束ねた長く茶色い髪と合わせて不思議な魅力を発している。


 身につけている物は他の連中と同じで茶色い革鎧だが、肩に金属で補強された1.5メートルほどの六角棒をかついでおり、ひたいからは10センチほどの角が生えているのが異様だった。


「お前達、見たところ変わったことは無かったようだな。荷物を持て。ズットニテルに出かけるとしよう。

 ところでそこで隠れてる奴、出てきて挨拶ぐらいはしてくれないか。俺は鼻がよくてな。人の匂いは分かる」


 そのデカい男は、よりにもよってこちらに気がついたらしい。


 俺の気配隠蔽(いんぺい)形無かたなしだ。これでも隠形おんぎょうには自信があったのである。話し声は伝わっていなかったようだが匂いでバレるとは思わなかった。弱い雨が降っているのに異様な鼻の良さだと言わざるを得ない。


「こいつは失礼しやした、領軍の旦那だんな。俺ぁケンチって探索者です。ここにゃ珍しい物が転がってねえかダメ元で来てみただけなんでさぁ」


 バレたのであれば仕方がない。俺は素直に出ていくことにはしたが、相手を領軍の兵士だと思い込んでいることにさせてもらった。


「ハハハハ、嘘が下手だな行き倒れ。お前は有名人だぞ。それに俺のひたいの角が見えないわけないだろう? その様子では連絡の途絶えたアンタニオやアンサールに会ったな?

 俺はエランダラ・バッティングスタだ。もしかすると聞いたことがあるんじゃないか?」


 こいつは、アンサールと同じ第2グループに所属する融合強化兵というやつだろう。

 それならここにいる連中はキテルモントリサール伯爵の兵隊ということになる。

 こいつらは国境を通過した後で、南側からズットニテルに向かおうとしていたのだ。人数は多いが、他人が通らず目撃されにくいという点では良い選択に思えた。


 聞いた感じは、思い込みが激しいのではないかと思うエランダラだが、全部こいつの言った通りなのでこちらも開き直ることにした。


「バレちゃぁ仕方がねえや。あの2人のことならな、アンタニオは新しく暮らせる場所へ行ったし、アンサールは信念のために旅に出たぜ」


 そう返した俺にエランダラは目を大きくして長い息を吐いた。見間違いでなければ、こいつの身体は先ほどより一回り太くなっているのではないだろうか。


 エランダラはかついでいた六角棒を構え直し、後ろの連中は剣を抜いていた。


「戦った相手をそんな風に言ってくれる奴は初めて見たぞ。その礼にお前を向こうへ送ってやらなければならゲクェッ!」


 毎度のごとく台詞せりふの途中だったが、仲間をほうむったかもしれない相手に長々としゃべるのは悪手あくしゅだろう。


 エランダラだけではなく、他の30人全員が地面にいつくばって痙攣けいれんを繰り返していた。


「中々に上手くいかないものだ。私は眠りの術を使用したつもりなのだが、眠るのであれば痙攣けいれんはせんよな。途中から面倒になったので、神経伝達を適当なところで止めることにしたのだ」


 マーちゃんからは失敗したという念話が届いた。


「マーちゃん、死体は情報を吐かねえって昔のえらい人が言ってたぜ。見りゃあ、もう息もしてねえ奴がいるしよ。素直に情報を吐きそうな奴と、このエランダラだけでも蘇生そせい出来ねえかな?」


 俺がそううったえるのと、黒クモさん達が収納口からワラワラと出てきたのは同時だった。


「そうしよう。魔法はやめてガスでもいておけばよかった。もしくは電気ショックを浴びせるとか、弱い電磁波でも当てておけばまだマシだったかもしれん」


 うちの死の波動姉さんからは、無理せずに科学的手法に頼ればよかったという、さらに弱気な答えが返ってきた。


「こういうのぁな、蘇生のついでに原因が分かるかもしんねえぜ。そうすりゃあ次にかせるんじゃねえかな。こいつらは、フロアの吹き抜けにでも吊るしゃあ色々と喋ってくれんだろうよ」


 どうしようかと最初は悩んだが、取りあえずはうちのトカゲ姉さんのお陰で何とかなってしまった。


 空気も重力も無い、フロアの吹き抜けの底を見たアンサールの奴は髪が白くなってしまったが、奴自身は満足そうにしていたし聖都に巡礼の旅に行ってしまったのだ。


 こいつらにもそれぐらいはやっても良いだろうと思う。


 ちなみにアンタニオは死んだので、多分どこかに転生したのではないだろうか。


「それもそうだな。ところで収容は終わったが、中々に酷い結果が出そうだ。彼らはおそらくだが、平衡へいこう感覚の喪失そうしつに呼吸と心臓の停止が同時に起きたらしい。やはり適当にやるものではないな」


 そう言うマーちゃんが、奴らに喰らわしたのは眠りの術ではなく、どうやら永眠の術だったらしい。


 余談だが、こういった即死系の術の方がこの世界では珍しいのだ。

 ひょっとするとマーちゃんは、弱体化デバフや軟化の術なんかも苦手なのではないだろうか。衰弱死も溶解というのも、どちらもろくでもない死に方に違いなかった。










※お読みいただきましてありがとうございます。

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