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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第3章 トカゲさんと山

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第5話 猪車《イノぐるま》



※本日は2話投稿します。

 ロスナッシを見送った俺たちも移動を始めなければならなかった。ここは衛星都市から3キロメートルしか離れていないのだ。


「そんじゃぁマーちゃん、俺たちも山脈へ行こうぜ。のんびりと行きゃあいいんだ。俺ぁしばらくは街に帰りたくねえな」


 俺は今回の一連の事件の所為せいで、人の間に入って仕事をするには精神力(MP)が足りていないということを嫌というほど思い知らされた。


 探索者とは街の外の危険地帯に出かけて行って、大自然や狂暴な生物に挑んでくるのが本来の姿なのだ。


「実はな、いつぞや約束した乗り物を用意したのだ。歩くのよりは速いが自動車ほどではない。その代わり目立たないし疲れることもないぞ」


 マーちゃんの申し出は今の俺にとって実にありがたいものだった。楽で目立たないのが特に良い。


「本当かよ!? 俺ぁデコトラとかじゃなけりゃ何でもいいんだぜ。山まで80キロはあるしよ、楽ができりゃ文句のつけようもねえよ」


 新しい装備を披露ひろうしたがっているのが丸わかりなので、今回はうちのトカゲ姉さんの好意に乗っかっておくことにした。


「そう言われると倉庫から引っ張り出してきた甲斐かいもある。こちらに合わせて調整もしたのだ。未発展地みはってんち箱車(はこしゃ)ベイブレーダを出してくれ」


 マーちゃんの声に答えて収納口から出てきたのは箱の様な馬車だった。馬を調達ちょうたつする手段が無いので猪車イノぐるまと言うべきだろうか。

 長さは4メートル半で、幅も3メートルぐらい。高さの方は車輪もあるので3メートルってところだろう。


 ちなみに、俺のアイテムボックスの出入口は思った以上に拡張かくちょうが可能であるようで、ロボットさんたちのような大きい物でも自由に出し入れが出来るのだ。


「マーちゃん、こりゃぁ猪車かなんかってことだよな。車輪が4つ付いてるけど平安時代の牛車ぎっしゃ感まであるしよ。表面にうるしが塗ってあるように見えんだが」


 うちの未来系みらいけい姉さんが出してくれたのは「のんびり進む」というコンセプトからすれば申し分のない乗り物だった。目的地が決まっているのに、気がついたら別の場所にいた、という旅の持つ醍醐味だいごみのような部分さえ内包ないほうしているように見えた。


「ケンチ、これは猪車イノぐるまなのだ。一般的な乗り物だと聞いていたからな。もちろんこれを引くための猪も用意してあるぞ。シランミッチネルとマヨタディオンを出してくれ」


 マーちゃんの声に答えて現れたのは、立派な角をもった2頭の角猪ツノイノシシだった。それぞれのおでこの角の下に『S』と『M』という焼きいんの様なものがあった。

 こいつらは以前、マーちゃんに突撃して死んだ5頭のうち、組合におろさなかった残りの2頭ではないだろうか。生きていたのは知らなかった。


「マーちゃん、言い忘れてたんだけどよ。猪車を引いてんのは角のえ猪なんだよ。野生のツノがある猪に引かせる場合もあるけどよ、そういう奴はうちの街の街守がいしゅ様ぐれえじゃねえかな。馬が使えんなら馬にしろぃってのが庶民しょみんの意見ってやつなんだ」


 マーちゃんが折角せっかく出してくれた物ではあるのだが、これはこれで少々目立つのではないだろうか。


「そうだったのか。気性の荒い動物はやはり難しいのだな。では角は切り取っておいた方が良いだろうか? サイボーグとして再生してからはれてきたのだがな」


 心なしか、うちのトカゲ姉さんがしょんぼりしてきてしまった様に見えた。

 そしてこの2頭は、サイボーグ角猪ツノイノシシになって生き返ったらしい。


 元々が地に落ちている俺の評判が、あと2センチほど地面にめり込むのを気にしなければ乗ることは出来るだろう。


「マーちゃん、これが普通じゃねえのは言った通りだ。それでも、警戒されるような代物しろもんってわけでもねえ。俺ぁこいつにありがたく乗らさしてもらうぜぃ」


 そう言って俺は箱車の扉を開いた。スライド式だ。後で何か言われそうだな。


「そういうことなら良かった。これはサスペンションも付いているし、擬装ぎそうしたエアレスタイヤも採用しているのだ。トイレにソファーベッドもあるぞ」


 どうやらマーちゃんのやる気をそこねる事態は避けられたようだ。


 ベイブレーダ号には、2頭の猪であるシランミッチネルとマヨタディオンも繋がれた。

 これによりベイブレーダが元々持っていた雰囲気は完璧なものになった気がする。俺は某オランダ人と同じく、マーちゃんと最後の日まで大陸中を彷徨さまようのかもしれなかった。


 馭者台ぎょしゃだいに乗るのは、革のジャケットを着た2体の黒子さんだった。しかも普段の黒いマネキン仕様ではなく完全に人間に化けていた。どこにでもいそうな顔だがどこにもいない人ってやつだ。


「中は快適だぜ。それにトイレがあんのはありがてぇ。用をすのにいちいち止まってもらうのも何だしよ。それにこの画面で前の様子が見えっから道案内も楽にできんだな」


 外装は黒い箱のようなベイブレーダだが、内装は狭くとも快適な空間だった。


 馭者台ぎょしゃだいのすぐ後ろにあたる部分には曲面ディスプレイがあって、前方180度の視界をそのまま車内で見ることができた。


「では出発しよう。ベイブレーダ前進せよ」


 マーちゃんの掛け声と共にベイブレーダは走り始めた。時速は聞いたところ15キロメートルだそうだ。2回聞いたが変わらなかった。街に住んでいる普通の人が歩く速度の3倍も出ていた。


 歩いて行くのであれば2日か3日はかかるのだ。それよりは時間的な余裕が出来る。それなら途中で採取の為に止まっても良いのではないだろうか。


「マーちゃん、実はな……俺ぁ昔から四つ足のサイボーグに乗って旅に出んのに憧れてたんだ。黒い旅人帽も長剣も冷えるような美貌びぼうえけどな」


 昔の俺は、マーちゃんに白状した通りそういう奴だった。


「私は四大元素の力で斬られて死ぬのは避けたい。あの男にあったら露店商の振りをするか、世界との接続が切れるのを願いたいところだ。おのれが質量ばかりなのは頼りないことこの上ないな」


 うちのトカゲ姉さんの観察は、その世界のフィクションにまでおよんでいるようだった。


 そして永い時を生きるあの旦那だんなは、なぞの物質で出来ているマーちゃんにまで恐れられているようで妙にに落ちてしまった。










※お読みいただきましてありがとうございます。

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