第26話 殴打の使徒
俺を執務室に誘ったデチャウ司祭様だが、アシッメオ号の上に乗っている元騎士殿の遺体に目を向けると、近くの教会騎士を手で呼び寄せた。
「このご遺体は奥へ運んでくれ。誰か人を呼んでそこで丁重に弔うんだ。ケンチ、この御人の名前はわかるか?」
デチャウ司祭様の話では、どうやらここで丁寧に葬儀をあげてもらえるようで安心した。
「アシッメオ・ブーケタン・ドアーニオ、そう聞きやした。司祭様、ありがとうございます」
俺は名前だけを伝えた。例の姉弟からは恨まれるだろうか。
「ここは教会だ。気にすんな。しかしヨッシュアの奴も運が良かった。あいつも愛されてんだな」
デチャウ司祭様もさすがに耳の早い御人だけのことはある。もうヨッシュアに起きたことをご存知だった。
あの斬撃を見た後なら分かる。ヨッシュアの身体が2つにならなかったのは、ドアーニオの旦那が直前で躊躇でもしたのではないかと思った。もしくは姉か弟の方が止めてくれたのかもしれない。ヨッシュアは先行していたようだし、他の仲間3人が追い付いたのは事が起きた後のことだったそうだ。
「デチャウ司祭様、こちらの御方の弔いについては私がいってまいりましょう」
ドアーニオの旦那の遺体が運び出される際、彼の弔いについてテレーザ助祭様が申し出てくれた。助祭様は、ドアーニオ殿の遺体を運ぶ守衛の教会騎士達を連れて、礼拝堂の奥へと消えた。
「さて、俺たちも行くか。実はな、少し前なんだが例の姉弟と従者殿がここに来たんだよ。別の部屋で待ってもらってんだ。
それから昼間にネーラーニの奴も来たんで、お前さんがこの件を引き継いだことも知ってる」
ネーラーニのおっちゃんに話を聞きに行ったのは今日の早い時間帯のことだ。
つまり俺は、朝からおっちゃんに酒を飲ませてしまったのである。もっとも昔からそんな人だったので気にもしなかった。
モドンニョ氏の動きも俺の予想以上に早かった。抜かされたのは織物屋に寄ったからだろう。
本当に色々な事が起きた1日だった。
アシッメオ号をアイテムボックスの収納口から中へ預け入れると、そのまま首を振って俺を促すデチャウ司祭様に従って歩いた。
その場には他にも、神官や守衛の騎士がちらほらといたため、それを見た周りからどよめきが上がったが特に気にしなかった。組合の一部の人間は知っていることだし、教会には既に報告が来ているはずだ。
「さて……正直言うとな、この件はほとんど終わったみてえなもんだ。あの姉弟は教会で面倒をみることになった。聖職者として生きるか一般人として生きるかは自由だ。俺は信仰に生きることを進めるがね」
執務室に腰を落ち着けたデチャウ司祭様はそう切り出した。
あの姉弟が15歳になって、もし市井の人間として生きるのであれば再度狙われる危険がある。ただし決めるのは本人達だ。
その後については俺たちが口を挟むことではなかった。
「まだ会ったことはねえんですがね、2人は反対はしなかったんですかい?」
モドンニョ氏が何と言って話したか、知らない俺は不安になって聞いてしまった。
「そういうことは無かったな。利発な子だったぜ。2人ともだ。
それよりもな、ケンチ。それはやっぱり殴打の光なんじゃねえかと思う。今日な、こっちに顔を出したデアイパチキに聞こうとしたんだが奴は口を割らなかった。お前さんに何が起きたか聞かせてくれねえか」
デチャウ司祭様からは、隠しておきたいことをとうとう聞かれてしまった。俺を部屋に呼んだ目的はこっちの方だろう。
「マーちゃん、取りあえず姿を見せてくれ」
覚悟を決めて、頭の上に乗っかっているマーちゃんを指で軽く叩いた。
俺の目にもはっきりと分かる光が頭上から差し込んできた。
俺の頭上を見たデチャウ司祭様の顔は呆けたようになった。
「はじめまして、フォルトナウト・デチャウ殿。私はマンマデヒクという。マーちゃんと呼んでほしい」
マーちゃんは、お手本のような都会的な発音の大陸公用語で自己紹介した。
「そんな……御使い様でいらっしゃるのですか。そうだったのか。ケンチからじゃなかったんだな。いつから、いつからなのですか、マンマデヒクよ」
デチャウ司祭様も歳をくったし、俺は一応その辺を心配したが杞憂だったようだ。意外としっかりしていた。
ただし、うちの御使い様は見た目は丸まっちいトカゲだし、光の条と光の粒に取り巻かれていても頭に葉っぱまで生えている。信仰上の問題はないのだろうか。
「今日で8日目になる。そういえばケンチも日記で確認していた。ところで私の扱いはどうなるのだろう? この一件が片付いたら南側の山脈に連れていってもらう予定なのだ」
マーちゃんは相変わらず関心があることしか聞かなかった。神の使いっぽいアルトボイスではあるが、話す内容の方は信徒の関心を完璧に無視しているのではないだろうか。
「あなたの望まれるままに。ケンチのことをよろしくお願いいたします。私も少し寿命が伸びたようだ」
デチャウ司祭様は意外にあっさりと引いてくれた。
寿命云々についてはネーラーニのおっちゃんと同様に、贅沢をしないかわりに酒ばっかり飲んでいる所為ではないかと思われる。胃か肝臓が治りだしたのだろう。
「司祭様、この件は内緒にしていただくわけにゃあいかねえですかい? 山について言やあマーちゃんの使命ってやつでして、俺もちょいと一緒に……」
「ケンチ、俺も聖職者の端くれだ。この件は神の御許まで俺が持っていくぜ。それにな使命ならお前さんは死んでも山へ行かなきゃならねえ」
俺の台詞を遮って、デチャウ司祭様は秘密を守ることを約束してくれた。
前世で言うところの、マフィアのボスのような御人だが本物の聖職者なのだ。神の使命という言葉に弱そうだった。
地質学的サンプルを大量に採りに行くとは思われていないようでホッとした。
あんな所に十戒の石板のようなありがたいアイテムが埋まっているはずもないのだが、その辺りはどう思われているのか少しだけ気にはなった。
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