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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第1章 トカゲさんと探索

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第4話 探索者組合

 昨日はすっかりマーちゃんにお世話になってしまった。


 風呂の後で散髪(さんぱつ)までしてもらい、ついでに歯科(しか)検診(けんしん)も受けて歯石(しせき)まで取ってもらった。

 この世界でも虫歯(むしば)(こわ)い。甘いものが少なくても酒があるからな。


 それから、俺がパンツで苦労しているらしいと勘違(かんちが)いしたマーちゃんは、新しい下着として伸縮性と通気性に優れたボクサーパンツを何着か用意してくれた。こっちの方が()き心地がいいから、正直にありがたい。


 そんな素敵(すてき)なこともあったが、日は替わり教会暦805年2の月23日は明けた。


 今日の俺は、後ろと両脇を()り込んで2ブロックになった茶髪(ちゃぱつ)に、革のジャケットと革のズボン、綿シャツ、ショートブーツで、探索者組合の事務所に向かっていた。念のために言っておくと茶髪(ちゃぱつ)は生まれつきだ。


 俺だって危ない真似(まね)はしたくないが、折角(せっかく)アイテムボックスという有用な能力(スキル)も授かったのだから、早く役立ててみたいという気持ちもある。

 マーちゃんからは「街の外にある大森林に連れていってほしい」と頼まれてしまっていることもあり、お世話になりっぱなしという俺の立場もあって、探索者組合で依頼を探してみることになったわけだ。







退()け!ゴルァァァ!」


「ファガダァァ!」


 組合事務所の入り口付近、両開きの扉の前で、ふて腐れたような(つら)をして座り込んでいた(ガキ)が蹴り倒された。叫び声だけは何故(なぜ)か個性的だ。


 蹴り倒したのはもちろん俺である。


 茶色い革のズボンをはいた(あし)を思いっきり振り抜いて、これまた茶色いショートブーツの爪先を相手の脇腹(わきばら)にめり込ませたのだ。


 ()り倒された方は、髪と同じ茶色の(ヒゲ)が生えていたが、まだ16とか17歳ってとこだろう。何かに失敗して、誰かに因縁(いんねん)でもつけるつもりだったに違いない。


「ケンチ、アレはあの対応で良いのか?」


 まだ、探索者組合の事務所前だってのにマーちゃんがニュっと出てきてしまった。

 今の質問は念話(ねんわ)だ。相変わらず何でもありだ。他の奴に聞こえないのは助かる。


「マーちゃん、探索者には『負けが込んでて(ろく)でもない奴』だっている。ああいうのは、甘い顔をして相談に乗ってやりゃあつけ上がるだけだ。

 それにどの神様もああいう奴には能力(スキル)をくださらねえ。俺は業界に10年いるけどよ、ああいう奴が違う結果になるのを見たことがねえな」


 ()り倒されたヤツが、よろよろと歩いて逃げていく様子を見ながら、俺はマーちゃんに出来るだけ簡潔(かんけつ)にサラっと説明した。


 マーちゃんは念話が使えるが、俺は聞こえるだけで念話を(はっ)することは出来ない。だからできるだけ小さな声で返した。


 この会話も、(はた)から見たら(ひと)(ごと)にしか聞こえないだろう。しかもこちらでは未知(みち)の言葉でだ。この(まわ)りに人が居なくて良かったと思う。


 探索者になる奴ってのは、孤児院で育った孤児のごく一部、俺みたいな地方出身の次男や三男、そして街の出身者で()められる。

 街の出身者だと、親もいるのにガキの頃から手のつけられない破落戸(ゴロツキ)という奴がほとんどだ。

 探索者として上手くいかない奴は犯罪者になるし、それでしくじったら(のど)を切られて街の外壁から()るされることになる。

 

「とにかくだ、さっさと依頼が()えか聞いてこようぜ。もし依頼が無くても、森には絶対に()れてくから安心してくれ。それから、他のヤツらに見つからないようにしといてくれよ」


 昨日からの相棒(あいぼう)であるマーちゃんに、俺は力強く()()った。


 ここは事務所の入り口の前だ。


 こんな場所でぐずぐずしていたら、どんな(うわさ)が立つか分かったものではない。


 今の俺はマーちゃんと日本語で会話してるから、入り口の前で未知の言語を(つぶや)いてる変な奴だ。


「そこは期待しているのだ、ケンチ」


 こっち側に出てきてしまったマーちゃんはそう言うと姿を消した。流石(さすが)に器用だ。

 

 そんなわけでようやく、俺たちは『オーデン伯領 衛星都市ズットニテル』にある探索者組合の事務所の扉を(くぐ)り抜けた。


 ちなみにマーちゃんは、俺のアイテムボックスとあの空間が(つな)がった所為(せい)で、この世界に対してだけは、こんな感じで出てこれるようになったらしい。

 マーちゃんによれば、あの空間は俺と出会うまで、何処(どこ)に対しても出口というものが無かったそうだ。俺は、神が(ほどこ)した封印(ふういん)に穴を開けてしまったのかもしれない。

 しかし、アイテムボックスの能力(スキル)を与えてくれたのも神であるため、限定的な許可(きょか)を与えてもらったという見方(みかた)もできるだろう。







 探索者組合の事務所内は、昼の時間は閑散(かんさん)としていた。


 フロアの広さは、幅も奥行きも30メートルぐらいあってそれなりに広い。


 この国や他の国もそうなんだが、長さや重さはメートル法が古代から使われてる。転移した同郷(どうきょう)の奴がなにかしたんだろう。それについての詳しい話は民間人のレベルでは伝わってない。


 俺自身が大したこともない人間なものだから、そこら辺は気にしたことがない。


 入り口から入って右側にはカウンターの列が並んでいる。受付窓口ってやつだ。


 中には、顔とスタイルの整った受付嬢(うけつけじょう)がズラリと6人ほど並んでいた。


 こいつらは『(じょう)』を名乗るだけあって、素材で勝負出来るいい女しかいないから化粧(けしょう)(うす)い。

 シャツの胸元(むなもと)は全開で、ついでにスカートは(あし)の付け根までしかないようなタイトな代物(しろもの)だが、それは全部カウンターの向こう側だ。


 それなりの金さえ()めば、どんなことでもやってくれるんだが、正直言って風俗嬢(ふうぞくじょう)の方がマシなんで、探索者になってからの俺は初回以外お世話になったことがない。


 今回のような場合、用があるのは一番奥のカウンターになる。


「おはようございます。アッコワの兄貴」


 一番奥のカウンターに居るのは、酷薄(こくはく)そうで怜悧(れいり)な整った顔をした男だ。ピシッとしたジャケットとオールバックの銀髪(ぎんぱつ)が目に(まぶ)しい。


 このアッコワ・ユシュトルって御人(おひと)は貴族の係累(けいるい)らしいが、俺が最初の頃からお世話になっている兄貴でもある。


「ケンチか。今日は働きに出るみてえだな。神様は失敗についてはお優しいが、怠け者(なまけもん)には容赦(ようしゃ)してくださらねえ。能力(スキル)()がされて()るされる前に(はげ)め。今日は依頼の確認か?」


 そう言うアッコワの兄貴の声は、落ち着いたバリトンだったが迫力があった。まだ30代じゃなかっただろうか。


「へい、久方(ひさかた)ぶりに森に行ってこようと思ってるんですが、何か良い依頼はねえでしょうか? 今回は無くても行ってこようと思ってまして」


 それを聞いたアッコワの兄貴はスッと紙を出してくれた。


弩貝(イシユミガイ)だ。期限は6日。物が大きいが持ってこれるか?」


 運の良いことに依頼があった。しかも中型生物の運搬(うんぱん)だ。俺のアイテムボックスにピッタリの依頼だ。


「それでお願いしやす。実は……大きい声じゃ言えねえんですけど、新しい能力(スキル)を授かりやして……」


 俺はポソポソと答えた。


 ちなみに、言葉づかいが悪いのは俺が田舎出身の所為(せい)もあるが、探索者の(がら)が全体的に悪いからでもある。

 こちらの言語だけならまだしも、日本語の言葉づかいまで悪くなってしまったのはいただけない。引きずられ過ぎだ。


 能力(スキル)のことを聞いたアッコワの兄貴は、目を細めると顔を俺に寄せて(ささや)いた。


「ケンチ。前から思ってたんだがお(めえ)には見所がある。そんならこの件はこっちで手続きしといてやるから、お(めえ)はさっさと森に行ってこい。抜かるんじゃねえぞ」


「アッコワの兄貴、ありぁとうございます」


 そんなわけで、俺はマーちゃんを連れて大森林に入り、弩貝(イシユミガイ)()ってくることになった。








※お読みいただきましてありがとうございます。




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