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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第2章 トカゲさんと街

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第23話 織物屋ワランテ

「マーちゃん、こいつの死体は出来るだけ急いで調べてくれ。こんな人間はこの世界にだっていねえ。隣の国の奴らぁ、何に手ぇ出しやがったんだ……」


 モドンニョ氏が家に引っ込んだ後、俺はマーちゃんにアンタニオ・ラーセディッテと名乗った配達人の遺体の調査をお願いした。もちろんマスクは戻して小声でだ。帽子も被り直した。これが無いと落ち着かない。


「これはあのキューとか鳴きそうな首斬くびきりの特徴だな。鉤爪かぎづめが少し大きいのと、目は別の動物の様に見えるが。色々と混ざっているのやもしれん。開発者に会いたい」


 マーちゃんは観察者らしいことを言い出してしまった。


 こいつはある種の改造人間のようだし、造った奴はもちろんいるだろう。そんな危険人物でも、ひょっとしたらマーちゃんとは意見が合ってしまうかもしれない。


「そいつぁ隣の国に行く機会があって、そいつを捕まえてくるような話があったらな。

 それよっかはええとこ話を片付けてよ、さっさと山に行こうぜマーちゃん。掘りてえって言ってたやつだ」


 俺は山脈行きの予定について、マーちゃんに話を振った。


「あの話を覚えていてくれたのだな。それは楽しみだ。何かの鉱脈が見つかれば良いが、もちろん岩塩がんえんでも良いし何かの希土類きどるいとか放射性物質でもいいかもしれん」


 マーちゃんの危険な興味をらすことは出来たが、地面の下から別のヤツが出てきてしまいそうだった。そなえなければならない。


 そんなやり取りの後で、死の配達人の遺体を回収した俺たちは教会に行くことにした。


 孤児院が目的だったら良いのだが、ドアーニオの旦那だんなとむらいを先にお願いして来なければならない。


 ついでに例の姉弟についても、報告と相談をしておく必要があった。


 刺客については他にいないとも限らないのだが、1人しか来なかったため後続こうぞくはいない可能性が高かった。


 モドンニョ氏の存在を考慮するなら、通常は2人以上が来るはずなのだ。


 そこには、配達人アンタニオに対する高い信頼もうかがうことが出来た。


 もしも、もう1人同じような奴がいた場合には危ないのだが、教会に保護を頼むのを急いだ方がいいだろうと判断した。


 心配なことは色々とあるが、マーちゃんを頭の上に乗せた俺は大八車アシッメオ号を引きながら次の目的地へと向かった。







 街の脇道をしばらく行くと、ネーラーニのおっちゃんの事務所も見える大通りまで出ることが出来た。ここまで来れば教会はすぐである。もう夕方だった。


 モドンニョ氏と別れたのは夕方前だが、ここまで時間がかかってしまったのは大通りに出る前に織物屋おりものやに寄ったからであった。何故、織物屋に寄ったのかというと、マーちゃんから質問が飛んできたからである。


「ケンチ、この遺体の乗ったアシッメオ号を引いて大通りを行ったら、職務質問で止められたりしないのか?」


 マーちゃんからは実に真っ当な質問が来たが、まさしくおっしゃる通りだった。確実に止められるだろう。これが朝なら大丈夫とかいう話でもない。


 たとえ悲しい感じのすさんだ勢いで行こうとも、職質からシオタイオかマルッキ・リアホーを通って牢屋ろうやというコースになるはずだ。解放されるのは明日になってしまうだろう。


「うっかりしてたが、マーちゃんの言う通りだぜ。こっちの事情は世間一般の常識じゃあ一応犯罪だからよぉ……正当防衛が通るたあ思うんだが、こりゃ収監しゅうかんコースだぜ」


 思わずうめいてしまったが、まだ手が無いわけではなかった。


 ドアーニオの旦那だんなも、この世の最後に世界の外側を垣間かいま見ても文句は言わないでくれるだろう。


「マーちゃん、旦那だんなの遺体をそっちにしまって代わりにパンのかごを出してくれ。ついでに織物屋おりものやに寄ってから、孤児院に差し入れに行きますってな顔をして通りゃあいいんじゃねえか」

 

 結果的には、孤児院に顔も出せて一石二鳥という、素晴らしいアイデアを思い付いた俺はそれを早速さっそく実行に移すことにしたのだ。

 

 こうしてやって来た織物屋ワランテも、夕方前の時間は閑散としていた。俺以外に客の姿は無い。最近はどこもこうだ。


「まぁケンチさん。今日は孤児院ですか? 荷車は中に入れていただいても大丈夫ですよ。また、パンをたくさん買ってきたのね」


 表通りでは絶滅したが、脇道を入った裏通りにはまだ生きていてくれるおっとりした女性が俺に挨拶した。

 施療院せりょういんの魔法と薬で近眼や乱視が治るので、この世界の眼鏡めがね普及率は低いのだが、この女性ひとは似合うのではないだろうか。


 緑色のワンピースに作業用エプロン、金髪に青い目のこの女性はこの店の看板職人である『ネミーナ・ワランテ』嬢である。


 服や寝具に使用して、初めて分かる良さのある布をる凄腕の職人だった。


 俺の事は服装で気がついたらしい。


「こりゃネミーナさん。忙しそうなところすまねえ。孤児院に布を持っていこうと思いやしてね。今日は3まきぐらい売ってもらえねえかな。服に使うようなやつで良いんだ」


 マスクを首まで下げながらそう頼んだ。


 布は普通の薄い灰色か、生成色ベージュの物になるだろう。さすがに3まきもあると、それなりの数の服が出来るので高い。


 ちなみにアシッメオ号は広い店内の隅に置かせてもらった。布の巻物が出入りする場所は入り口も内部も広く作ってあるのだ。


「こういうので良いかしら? 今日は午前中にたくさん売れてしまって、こういうのしか無いのよ。3巻で銀貨75枚だけど良い?」


 ネミーナさんがそういって布地を1巻持ってきてくれた。


 幅が2メートルにもなる布地ぬのじまきは重いのだが、この21歳になるお嬢さんは意外と力持ちなのだった。


 前世のノーブランドのTシャツが、10倍以上の値段で売られていると考えれば、布地3巻の値段としては普通なのではないかと思われた。


「ありがてえ。その生成色ベージュのやつが3本で頼まあ。それからここには端切はぎれとか置いてねえかい?」


「裁縫の工房もあるから、端切れもあるけどそんなのも持っていくのね。今持ってくるから待っていてくださる?」


 マーちゃんからのホッペモミモミとこっそり念話により、布地サンプルとして端切れをネミーナさんにお願いすることになった。


 それにしても、ああいった上品な言葉が出てくるのは、他では武器屋のザンダトツ先生の奥方おくがた様ぐらいではないだろうか。


「そんじゃネミーナさん、世話んなったな。金が出来たらまた寄らしてもらうぜ」


 端切れもたくさんの種類をもらい、アシッメオ号に布地3まきを固定した俺は礼を言って大八車の持ち手を握りしめた。


「身体に気をつけてね。あなたはいつも外から帰ってきてくれるけど、みんながそうじゃないから……」


 他では聞けないような言葉をかけてくれる彼女に手を振って、その後の俺たちは夕方の大通りにようやく出てきたというわけだ。










※お読みいただきましてありがとうございます。




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