表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第2章 トカゲさんと街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/80

第21話 辛勝《しんしょう》

「ヘヘヘ、こいつぁ1本取られやしたね。でもね旦那だんな、あいつらだって自分の生き方ってもんを決めちまったんだ。それに、みんな元から仲が良いってわけでもねえんでさ」


 凄腕の浪人からの追及にはそう返しておいた。


 カバンを降ろしてから、俺は竿さおについた仕掛けを手前の水路に投げ入れて魚がかかるのを待った。

 

 ドアーニオの旦那だんなの目にあからさまな疑いの色は無かったが、もしヨッシュアを斬ったのがこの御人おひとならば、彼の同業者を警戒するのは当然だろう。


「探索者組合は教会の組織なのだろう? それほどに皆の仲が悪いのか?」


「そりゃもうね、大きい声じゃ言えやせんが、街から出たら相手を背中から殺ってもおとがめなしだ。そういう奴もいるんですよ。もしも、この仕事に興味がお有りでしたら紹介しますぜ」


 俺は、ヨッシュアの件がまだ知られていないような印象を与えたかった。実際には組合内で知れ渡っているだろう。


 大森林に行った時、俺に襲いかかってくる同業者は滅多にいないとマーちゃんに伝えたことがある。あれは相手が減ったからだが、もちろん相手が改心したわけではない。

(*第1章 第5話での台詞セリフ


 旦那だんなには、そんな感じのことまでにおわせてしまった。


「私には合わんようだ。探索者はやめておこう。騎士よりもひどいのだな。婚約者のいる上司の縁者えんじゃの娘になつかかれたことがある。外聞がいぶんが悪いと言われて放り出されたのは私の方だった。だが命までは狙われなかった」


 また世知辛せちがらい話を耳に入れてしまった。


 この御仁ごじんは、以前から周りの者にうとまれていたのだろう。嫉妬か性格が合わなかったのかは分からない。


「そりゃまた、そいつも大きい声じゃ言えねえような話でござんすね。

 それでしたら、ここの領主様に腕前を披露ひろうされちゃあどうです。教会騎士団てぇ所だってありますぜ」


 俺はこの御人おひとがヨッシュアを斬った可能性に気がついていながら、本心ではそれに関しての落とし前をつけたくないらしい。半端者はんぱもんどものことを軽蔑けいべつする資格も無いやつとは俺のことだった。


「気持ちはありがたいがな、これでも領を出た頃に比べればずいぶん汚くなった。

 先日も勘違いで少年を斬ってしまった。刺客しかくではないかと思ったのだ。あんな探索者は見たこともなかったからな。ケンチ、正直に答えてくれ。あの少年は生きているか?」


 一番聞きたくない答えが返ってきた。


 身綺麗みぎれいで礼儀正しい凄腕すごうでというのは、状況によっては一番の危険人物に見えるだろう。だから、ヨッシュアの奴は警戒けいかいされて斬られたのだ。うちの優等生も良いことばかりではない。


旦那だんな、あいつぁ頑丈なのが取りの奴でしてね。知り合いの女の子にちょっかいかけてピンピンしてますよ。

 それよっか今の話は聞かなかったことにさしてもらいてぇ。旦那だんなは例の姉弟きょうだいんとこに仕官しかんなさりてぇんですかい?」


 俺はもう、この話を全部聞かなかったことにしたかった。


 ヨッシュアにだけは、後でこっそり事情を話すことにしたい。嫌われるかもしれない。


「あの姉弟もここでは有名なようだな。どうせ貴公きこうも行くのだろう? 用件は借金の方であろう。貴公きこう刺客しかくに向いた男ではない。

 実は私も勝手に首を突っ込んだのだ。このままあの子達をそっとしておくわけにはいかんか?」


「旦那、それだきゃあ聞けねえ話ですぜ。借金が無しになってもだ。手荒てあら真似マネはしやしませんが、身の振り方ぐれえは出来そうな奴が考えてやらにゃあいけませんぜ。いつまでもこのままってのも無理な話だ」


 俺としては、例の姉弟はもう限界なのではないかと思っている。政治的にも実生活的にも、そろそろ何かが起きそうだった。


 教会かこの国が介入しなければ、この街が何らかの被害をこうむる可能性も出てきていた。


「そうか……まあそうであろうな。いつまでもこのままでいられぬのは私も同じだ。

 ケンチ、私と立ち合ってもらおうか。貴公きこうのように、たまには自由に生きてみるとしよう」


 ドアーニオの旦那は使者を全員死者にしてしまうつもりなのだろうか。彼は腰から直剣を引き抜くと身体の正面で構えてしまった。


「俺は旦那だんなに斬られるのも、斬るのもごめんだぜ。何でそういう話になるのか教えちゃくれませんかね。俺がいなくなっても別の奴がくるだけだぜ」


 俺はジリジリと下がりながら聞いた。この距離は俺の方が圧倒的に不利だ。


「私は私のやり方でこの件に関わることにしたのだ。それだけだ。金貸しのネーラーニは人物じんぶつのようだが、その御仁ごじんも斬らねばならんかもしれん」


 ドアーニオがそう答え終わるのと、彼の眼前が突然にまぶしい光でおおくされたのは同時だった。


 俺の放った『光源の術』だ。こいつはフラッシュのように光らせることも出来る。


 だがドアーニオは一瞬で踏み込んで、すさまじい勢いの斬撃を俺の頭頂部に振り下ろしてきた。目をつぶって踏み込んできたのだ。


 俺が釣具屋ディマンデッセに行っている間に、強化バフとおそらく怪力の術の準備まで済ませていたのだろう。体内系の術なので気配が読みにくいのだ。正確な狙いは気配感知の効果だろうか。


 おかぶうばわれた感じだが、肩から血を噴出ふんしゅつさせて倒れたのは剣士ドアーニオの方だった。


「抜いたのぁ、そっちが先だぜぇ……。俺だってこんなこたぁやりたかねえんだ」


 9日前であれば、斬られていたのは俺の方だっただろう。5日前ならこの浪人の旦那だんなは自分に斬られずに済んだに違いない。


 顔面への斬撃をかろうじて避けた俺だが、代わりに肩に乗っていたマーちゃんの尻尾しっぽが剣を受けてしまった。その結果、反射シールドである殴打オーダの光が相手の斬撃ざんげきを本人へと返したのだ。


 ドアーニオは、右肩から胸までを自身の剣が相手に伝えるはずの力で割られ倒れた。


「や、やはりこうなったな。信徒どのよ。

 あの姉弟の……ことを頼んだぞ。この、この剣をもら、もらってくれ。持って……これたのがこれだ、けなのだ……」


 彼はそれだけ言って最後に長い息を吐いた後で息を引き取った。


 アシッメオ・ブーケタン・ドアーニオはこのズットニテルで故郷のりょうから続いた旅を終えた。


「マーちゃん、蘇生そせいはまだ間に合いそうか」


 俺はダメ元で聞いてみた。何故なぜむなしい気分だった。


「死なんとするものを連れ戻すのはおすすめできないぞ、ケンチ。私は相手の意思を尊重したい」


 うちのトカゲ姉さんのアルトボイスは染々《しみじみ》と響いた。


 俺はその後、マーちゃんに大八車を出してもらいドアーニオの旦那だんなの遺体を乗せてむしろをかぶせ、そのまま引っ張って行くことにした。


 彼の遺品である剣については、さやに戻してからアイテムボックスにて保管してもらうことになった。

 

 俺たちは感傷的かんしょうてきになっていたのだと思う。


 今日で付き合い始めて3日目になるこの大八車に『アシッメオ』という名前を付けて、ドリルで荷台の側面にこれをんだ。








※お読みいただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ