第17話 ぐだぐだな背景
昨日は風邪でダウンしておりました。今日は朝から台風で、家に帰ってこれたのがつい先ほどなのであります。そんなわけでもう一話投稿いたします。
アイテムボックス内の不思議フロア内では今日は雨が降っている。
雨が4日に一度というのは芸が細かいとは思うものの、環境の維持には必要な措置なのだろうと思う。何しろ、このドーナツ型フロアの吹き抜けを挟んだ反対側には森もあるのだ。
ここには昼夜の別まである。それは外にある俺が生まれ直した世界と同期し、同じタイミングで陽が暮れ朝が来る。
この上下にも同じようなフロアがあり、俺がいる第10層を含めて全30層もある。ここは円筒形の塔の内部なのだ。他に同じ塔が1200万基もあるという。
この設備全体が、マーちゃんの本体の一部である可能性については俺も考えた。
おそらくそう外れてもいないだろう。なぜなら、うちのトカゲ姉さん自身は有り得ないくらいに巨大だと思われるからである。
どのようにしてなのかは不明だが、超銀河団の質量が彼女という特殊な生命体に摂取されて集中しているのだ。
そしてそんな質量を有していながら、内部に向かって自重で潰れもしない彼女は自身の強大な重力を制御して、俺や樹木が潰れてしまわないようにしているはずだ。
あの丸まっちいトカゲ姉さんも、ロボットのみんなも、超高性能顕微鏡で超高精度作業用アームなのではないかと思う。
巨大過ぎる存在である彼女は、そのままでは惑星上の生物を視認できない可能性がある。だから別に作った身体と機械たちに頼って、観察を行うしかないのではないだろうか。
そんな物質世界に存在していいのかどうか分からない彼女だからこそ、神はその宇宙の物質が偏るよりも相当に早い段階で彼女をここに閉じ込めたのではないのか、というのが俺の予想だ。
また俺が神の慈悲を信じる故に思うことなのだが、神は彼女がこれ以上巨大化した場合に、他の生物に対し完全に興味を失ってしまうことを止めたかったのかもしれない。
そして今日、そんな強大な存在の端末であるマーちゃんと、卑小な人間である俺は金貸しの爺さんに会いに行き、宇宙の深淵らしき場所からこの街の片隅にまで「どんだけ寄せんだよ!」という勢いで観察レンズのピントを合わせ、ややこしくも生々しい人生模様について、克明に記録してこなければならなくなった。
「マーちゃん、今日は大八車が無えから両手が空いてんだが、不思議と何かもの足りねえ気分だ。普段は邪魔クセえこともあるのに、アレがねえと俺は自分が目的から遠ざかってる気がすんだよ」
俺は珍しく大陸公用語で愚痴を言ってしまった。これでは独り言である。
俺はいつもの革の上下に、フェイスマスクとニット帽、ひのきの棒と投げナイフ、ネーラーニのおっちゃんに持っていく酒とツマミの入った肩かけカバンを持って、いつものように商店街を西回りで北上していた。
まことに惜しいことに、ネーラーニのおっちゃんが引退後に、趣味でやっている金貸しの事務所は教会のほんの少し手前にあった。つまり孤児院のほんの少し手前なのだった。
位置的に手前ではあるが、仕事のついでに行くというには時間もかかるし、新しい依頼を抱えてしまった以上、両方同時に何とかするというのは確実性に欠けるのではないかとの判断の元、俺はおっちゃんの方を優先せざるを得なかった。
「街中で軽トラを使えると良いのだがな。ケンチにはアレが似合うと思うのだ。もちろん私なら軽トラぐらいは出せるが、アレを出すと教会に捕まるのだろう? もし逃げる必要が生じたらデコトラでも出せば逃げられるだろうが、サービスエリアが無いのは……」
意外なことに、俺の独り言のような愚痴を聞き取ったマーちゃんは、これまた大陸公用語で、技術的に後進である人間には理解が難しい、トラックが万能であるという話を長々と始めてしまった。
俺は全体の10分の9を聞き流していたため、最終的にトラックでこの惑星を脱出する話になる前に、何が話されたのか全く分からなかった。
「マーちゃん、俺はデコトラよりは後ろに昇降ゲートがついているやつだったら良いからよ、いざとなったらシンプルなトラックで頼むぜ」
俺は大陸公用語でそんなことを言ってお茶を濁しておいた。それで通じた。
このぐだぐだに弛緩しきった空気にはきちんとした理由がある。
今回の依頼を受けるにあたり、債務者がまだ12歳と10歳の姉弟であること、もう一人の頑健そうな、祖父には見えない老人が付き従っていることを知った俺は、心底うんざりしてしまったのだった。
何をどう考えても訳ありの人間で、ついでにネーラーニのおっちゃんは、そこら辺も全部分かった上で金を貸したのではないのか、という疑いが濃厚だった。
問題があるとすれば謎の騎士崩れではあるが、例え相手が世界で十指に入る使い手であろうとも、俺はともかくマーちゃんなら5秒で畳めるだろう。
教会側の人間から言わせてもらえば、若くして人間世界の発展に寄与しなくなった者は死んだのと同じだった。相手が浪人であることがその理由だが、商人や職人や農家などの仕事をもって再出発するのであればもちろん話は別だ。
「ネーラーニのおっちゃんは大商会の元会長でな、野盗どもを自分でブチのめして商会を大きくした後で、50歳ぐれえで跡を息子さんに譲って金貸しになっちまったんだ。
だもんだから教会に相談なんてしねえ御人だったんだがなぁ……」
今回の件は俺にとって初めから違和感があった。ヨッシュアが斬られるような要素もどこにも無いのだ。
「ケンチは変わった人物と面識があると思っていたが、今回の人物も変わってるのだ。ネーラーニ氏はキムルァヤの女将の紹介なのか?」
俺とネーラーニのおっちゃんの出会いについては、マーちゃんでなくとも予想は出来たことだろう。それにしても今日はずっと大陸公用語だ。
「その通りだ。紹介してもらった後も何でか相手にしてもらってたな。俺ぁ金は借りなかったけどよ、おっちゃんの取り立ての話はずいぶん聞かせてもらったよ」
俺は先輩探索者の武勇伝よりも、ネーラーニのおっちゃんの取り立て話の方をたくさん聞いたという変な15歳の小僧だった。
そんなことを話していたら、本日の目的の建物がようやく見えてきた。
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