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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第2章 トカゲさんと街

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第14話 孤児院に……誰か倒れてる!

 昼過ぎにアパートを出て、途中で防具店スハダカンの親方に止められた俺たちは、それを何とか振り切って先を急いだ。


 パン屋は昼過ぎの販売が一段落すると、客の少ない午後はほとんどの店員が仕込みに入ってしまう。夕方前に店が閉まる時もある。


 俺はいつも、売れ残りのパンを全部購入して孤児院に持っていくことにしていた。


 あまり遅い時間に行くと、店に迷惑がかかってしまうので、本当は昼からの販売が終わった直後ぐらいに行きたかった。


 ところが『ウルトラフィットメイルを造りたい変態オヤジ』のおかげで、かなり遅れてしまっていた。


「ようやくだぜ。マーちゃん、あそこがキムルァヤ製パン店だ。15歳で業界に入った頃にお世話になってな。俺はパン屋の用心棒をやりながら配達をやったり、森の入り口でキノコを採ったりして生きてたんだ」


 ここキムルァヤ製パン店の女将おかみさんには今でも頭が上がらない。


 行き倒れてた目付きの悪いクソガキに、女将おかみさんは仕事をくれて、今後は必要になるであろう店の店長たちに俺を紹介してくれたのだった。


「それでケンチはここに知り合いが多いのだな。出会ったばかりの頃、ケンチは組合と教会以外のしがらみを持っていないのではないかと思っていた。どう生きるかは本人の自由だが、それが無いより良い時もあるのだ」


 がらの悪い俺は、マーちゃんからそんな風に見られていたらしい。顔もその辺の破落戸ごろつきみたいだからだろう。


 ありがたいことに店の入り口はまだ開いていた。店内に客はいないようだ。


「おばちゃんは居るかい? パンをもらいてぇんだ。残ってるやつがあれば全部買いてえんだが」


 カゴの乗った大八車だいはちぐるまを店の前に置いた俺は店内に声をかけた。


 運悪く売り切れていたらこの店は諦めるしかない。


 ここ以外の店で買い足すこともあるので、何とかなるだろうと気楽に考えた。


「ケンチ! 相変わらず元気そうだね。今回は手ブラで帰って来たって聞いたけど、あんた無理してないだろうね。変なマスクまでしてさ、顔も見られたくないのかい?」


 店で俺を出迎えてくれたのはキムルァヤの女将おかみさんだった。これは運が向いてきたかもしれない。


 女将おかみさんはベージュの長いワンピースを着て、大きな白いエプロンをしていた。茶色の髪を白い丸い帽子に押し込んで、緑の瞳で俺を気づかうように見ていた。ちなみに太ってないし若作りなので40代に見えない。


「これでもけっこうかせいでんだ。おばちゃん、パンをあるだけ売ってくれ。150本ぐらいねえかな」


 『ヘヴィけマニア』が気にしなかったのでうっかりしていた。俺はマスクを首まで下げて今日の要件を告げた。


 ここでは、フランスパンに似ている硬めの日持ちのするパンをよく買う。長いやつだ。


「ケンチ、ちょうど良いところに来てくれたよ。昨日は雑貨屋で変なことがあっただろ? それでさ、お客さんが普段使わないような道具を買ってから家に帰っちまったらしくて、パンの売れ行きが良くなかったんだよ」


 マーちゃんの芳香剤ほうこうざいの効果は、この店にまで影響を及ぼしたようだ。あの芳香剤に、多くの人たちが引き寄せられた所為せいで、昨日のパンの売り上げはガタ落ちであったらしい。


 だが今日に限っては都合が良い。日持ちもするパンで助かった。


「そんじゃ結構残ってるな。変な話だが俺にはありがてえ。どんぐれえ残ってる? あるだけ売ってくれ」


「あんたも柄が悪いのは相変わらずだねえ。いつものパンだったら150個ぐらいならあったと思うよ。ちょっと高い方のやつだけど良いのかい?」


 俺にとっては懐かしい80センチもある長いパンだ。


 曲剣を右手に、このパンを左手に持ってムササビのような『首斬り』と死闘を演じたことがある。この上等で硬いパンが無ければ、死んだのは俺の方だっただろう。


 ここで、頭上の丸まっちい手が俺のほおんだ。


「上等な方か。そいつを150本と、店の棚に出てる丸い白パンとこのひねってあるやつと、こっちにある変わった形のももらってくぜ」


 マーちゃんからの指令により、俺は追加で食品サンプル(生)を何種類か購入することになった。


「あんたも変な男だね。孤児院出でもないのにあの子達を気にかけてるし、稼ぎがダメになったらしいのにこんなことまでしてさ。とにかく気をつけてお行き」


 『世紀末半裸(はんら)伝説』の後に出会った女将おかみさんは、女神のように見えた。この人は、噂を聞いても根掘り葉掘り色々と聞いたりしない。


 ちなみにパンの会計は銀貨3枚ですんだ。


「そんじゃおばちゃん、世話んなったな。もうかったらまた来るぜ」


 大八車だいはちぐるまの上にパンがみっちり入ったカゴを10個乗せて、落ちないように紐で固定したあと俺は織物屋へ向かった。


 そこでの買い物が終われば、ようやく孤児院に行ける。







 ズットニテルの街は、領主館や領軍支部、官吏かんりと富裕層の邸宅が建つ内区と、それを囲むドーナツのような幅1キロメートルの外区に分かれている。


 内区の壁は内壁、街を囲む外区の壁は外壁と呼ばれる。


 俺のアパートと探索者組合事務所は、ズットニテルの外区南側にある。


 そして民衆のための教会は外区西側になるので、教会に併設された孤児院に行くためには時計回りで円を描くように移動することになるわけだ。


 商店街はこの途中、外区が描く円のうちの南西部分であり実は意外と長い。


「悪い予感がする。マーちゃん何かが近づいて来てねえか?」


 視線を周囲に飛ばして、マスク越しに小声で聞いた。俺は街中では、マスクの人であることをやめられないかもしれない。


 織物屋へ行くため、俺は大通りから脇道へ折れたのだが何かが起きそうな予感がしたのだ。


 俺は気配感知を発動するより、マーちゃんの全方位センサーを頼ることにした。


「目の前のてい字路じろから誰かが接近中だ」


 マーちゃんに教えられてから少しった。


 姿を表したのは俺の知っている人間だった。同業者で後輩だ。存在自体がものすごく希少な性格がまともな方の探索者である。


「マッカスじゃねえか! 何でこんな所で走ってんだ? 急いでんのか」


「ケンチさん、良かった。ヨッシュアが斬られたんです。俺は人を呼ぼうと思って大通りまで出ようとしてたんです」


 どうやら超希少生物であるもう一人が、何かあって斬られたらしい。


「マッカス、俺が行くからそこまで案内してくれ」


 実は俺の『治癒の術』については他の連中に隠しているわけではない。


 それを知っているマッカスは俺を連れて、斬られたヨッシュアの元まで走った。


 大八車だいはちぐるまは、地面から少し浮いた状態で俺に着いてきていたが、後で何とか誤魔化ごまかすしかない。


 マッカスと共に街の外壁に近い方へ走ること約300メートル。


 そこには鎧も着たヨッシュアが血を流した状態で倒れていた。


 近くには同じパーティの少女2人もいる。

 

 俺はヨッシュアの元へ走り寄った。










※お読みいただきましてありがとうございます。



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