表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第2章 トカゲさんと街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/80

第13話 孤児院に行かな……

「おめえは若いからまだ分からねえかもしれねえが、このシャツはな……俺の魂でお守りで、そして俺の目標でもある。俺の女房のことは知っているな」


 スハダカンの親方は、俺のあおりを聞いても怒らなかった。むしろ語り始めてしまった。


 悪質な時間稼ぎか何かではないか、という勢いで自分の職人としての夢を語ろうとしていた。

 ちなみにこの山賊オヤジの奥さんは別に亡くなったわけでもなく、今でも元気で病気やひど怪我ケガとも無縁むえんの人だ。美人でもある。


「親方、その話を聞くのは何回目か俺も覚えてねえ。ついでにピタピタのプレートメイルは売れねえと思うぜ。奥さんは裁縫師さいほうしで親方は鎧鍛冶よろいかじだろうがよ。着る方の身にもなってくれや。夜の衣装じゃねえんだぜ」


 スハダカンの親方の語りを俺はさえぎった。


 俺は、商店街のおっさん連中のことをざまに言いたいわけではない。


「軽く、薄く、動きやすく、そして命を守る。俺はそんな鎧をいつか造りてえんだよ。夢が無けりゃ俺たち職人は生きていけねえ」 


 俺にさえぎられても、親方はめげずに話を再開してしまった。


「親方、いつも試作してるアレじゃひじひざも曲がらねえし、転んだだけで穴が開くだろぃ。俺は本当に何も知らねえんだ。デアイパチキのおっさんに聞きゃあ良いだろうが」


 この話はたまたま居合わせた人間に聞くのではなく、本人に聞くべき話ではないかと思う。俺はそんな感じのことを返した。


 世間の目が多い中で、こういうやり取りを続けていては、俺のここでの外聞がいぶんはどんどんひどいことになっていきそうだった。


「デアイパチキの奴にはまだ話を聞けてねえんだ。昨日は半日も妙な霧だか煙におおわれてただろ? それで今朝からあいつは仕入れに出てる。店のもんがほとんど売れちまったんだとよ」


 親方から良いニュースと悪いニュースが出てきた。


 在庫が粗方あらかた売れたのは良いニュースだ。半日も店があの霧に閉じ込められていたことと、しばらくは店が開かないのは悪いニュースだ。


 しかも原因は全部俺たちだった。 


「それにしてもよ、何で親方はおっさんの病気が治った原因が知りてえんだよ」


 仕方がない。話を進めないと俺はここから脱出できそうになかった。


「ケンチ、普通はそれを真っ先に聞くもんだろ。お前ら若い奴らは会話の順序ってものをたまにすっ飛ばしやがる。憎まれ口が最初ってのは損するだけだ」


 このクサれ山賊モドキは、どうして質問に説教で返すのだろうか。会話の順序を完全に粉砕した後で、何故かやれやれといった顔をしていた。


「親方、確かにおっさんの病気が良くなったみてえなのは俺も知ってる。なんか原因を知ってるか聞かれたら、それを知りてえ理由を聞くのが流れなのも分かるぜ。

そんじゃあ改めて、理由を教えてくれよ」


 俺はMPが減った感覚というものを感じた。あと何回『冷静れいせい沈着ちんちゃくの術』が使用可能なのだろうか。スタミナが減らないのがせめてもだった。


「ケンチ、俺の考えではデアイパチキを治したのは神の奇跡だ。出来れば俺もそいつにあやかって、このシャツみてえな鎧の製法を授かりてえんだ」


 スハダカンの親方のぞくな理由については今ので理解した。


 神々は確かに現世利益てんこ盛りなので、願うこと自体は罪にならない。


 たとえ、親方の乳首ちくびけてるシャツがベースでも、神は特に気にされないだろう。


「親方ぁ……そりゃ気持ちは分かるけどよ、神々がくださるのは剣やこん棒を跳ね返す服の方じゃねえかな。そっちの方が便利だろ」


 俺はより強力で便利な奇跡と思われる方を伝えた。奥さんの方が出来た人だ。


「そんな……俺の、俺の鎧だって着やすいと思うぜ。夏にれないような機能を願ったら鎧の方が優れてるんじゃねえのか?」


 親方は、俺の返しに予想以上のショックを受けたようだった。言うことがかなり怪しくなってきた。


「夏に涼しくて冬は暖かで、ついでにすぐに脱げる機能がついてたとしてもだぜ、同じ機能の服で足りるじゃねえか。それから俺はゴーリ教会の正会員だけどよ、雑貨屋で神様は見なかったな。誓ってもいい」


 たとえ親方の夢が今ので壊れたとしても、俺は後悔しないだろうと断言出来る。腕の良い息子さんもいる。跡取りのオトクカンは、俺と同年代で父親よりも固定客が多かった。


「そうか……さすがにおめえじゃあ神もお話にならねえよな。御姿みすがたを見たら嫌味いやみから入りそうだ」


 少なくとも俺は、神に対してクソ珍妙ちんみょうな夢の実現を願うことは絶対にしない。これでも聖職者の端くれだ。


 親方の戯言たわごとは聞き流しておいた。


「ケンチ、邪魔して悪かったな。パン屋に行くなら急いだ方がいい」


 スハダカンの親方は、そう言って肩を落として去っていった。


 もし今日中にパンが買えなかったら、俺はマーちゃんに頼んで『スハダメイル試作38号』をインゴットに戻してもらうことを心に誓った。誰の所為せいだと思ってんだ。

 

 とにかく気を取り直して俺は進むしかなかった。


 神よ、何故にあなたは忠実なる信徒に苦行を課されるのか。


 これは神の試練というより、警告か何かではないだろうか。孤児院へ行くと俺は死ぬのだろうか。


 太陽はじわじわと沈む方向に動いていた。








※お読みいただきましてありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ