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ケンチとマーちゃん──転生して25年、やっとアイテムボックスが使えるようになったんだが、中に『変なトカゲ』が住んでいて俺に色々と頼んでくる  作者: お前の水夫
第1章 トカゲさんと探索

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第16話 帰還

 教会暦805年2の月26日のこと。


 今日は探索4日目で、目的も果たした俺たちは街へと帰ることにした。


 3ザイト(朝6時)には起床して、お祈りも済ませた後は朝食だ。オニオンガーリックブレッド8枚にコンソメスープとソーセージ、オリーブのピクルス、トマトジュースが今朝の献立こんだてだった。


 余談だが、この空間の雨は昨日の昼間にんだ。夜は降らないそうだ。


「こんだけ食わしてもらってるしよ、今日は強化バフを使って街まで走って帰ろうかと思ってんだ。コンソメスープうめえな。運動しねえとデブになりそうだ。

 向こうまで20キロとそれプラス数キロメートルだから、走れば半(ザイト)(1時間)もかからねえんじゃねえかな」


 俺はサクサクのガーリックブレッドをかじりながら、マーちゃんに早いところ街に帰りたい旨を伝えた。もうけが待っている。


「そうだな。お祈りの際にまたも妙なものが追加されてしまって落ち着かないが。

 だが正直なところ、帰り道をもう一度見てみたいのだ。あの樹が生えている裏街道だけで良い。『黒子くろこさん』がな、何か見つけるつもりらしいのだ」


 マーちゃんが落ち着かないのは、今朝のお祈りで頭の上に光る輪っかが追加されてしまった所為せいだ。あの8枚の葉っぱのすぐ上に、葉っぱよりも直径の大きい蛍光灯のような輪っかが浮いていた。

 マーちゃんによれば、12畳用の照明器具にパワーアップしたそうだ。ランニングコストはかかっていないとのことだった。


黒子くろこさんがそう言うんじゃ仕方がねえな。そんなら歩いて帰るか。2ザイト半(5時間)はかかるが、昼過ぎには着くだろう。樹は抜かねえんだよな?」


 毎回の食事の用意をしてくれるのは黒子くろこさんだ。俺は犬や猫以下になりたくないので、命の危険があっても可能な限り黒子さんの意向いこうを尊重したいと思った。


 マーちゃんも帰りはこれ以上の樹は抜かないとのことだったので、予定が極端に伸びることもないだろう。


 黒子さんはおそらく、下生したばえの中にある珍しい何かを見つけるつもりではないだろうか。


 トマトジュースを飲み干して、満足した俺は帰る準備をするために立ち上がった。







 帰りの背囊はいのうの中は完全にからだった。無駄な偽装ぎそうするのも面倒になったからだ。


 カネ松明たいまつ祭壇さいだんも着替えも、マーちゃんが用意してくれた虫除け『ゴキブロアーディストラクション』も全部『かまくらハウス』の中に置いてきた。


 森の浅層には蚊なんかはいない。樹木の花の受粉を助ける虫は高さ8メートル以上の領域にいるだけだし、連中はマーちゃんに全く近寄らなかった。近くの俺にもだ。


 裏の街道を歩く、いつもの探索装備の俺の後ろには、黒子さんが3体ついてきていた。


 身長2メートルもある黒いマネキンボディにゴム長靴とオリーブ色のカーゴパンツ、上はオリーブ色のジャージに白いヘアバンドをかぶって、手には棒、腰にはビンと布袋に移植ゴテをげていた。


 黒子さんたちが手に持っている棒は『ひのきの棒デルタエリート』という黒い棒で、サイズは太さ5センチ、長さ80センチというどう見ても普通の棒だった。


 森に向かう途中にも通ったこの裏の街道だが、両脇が浅い森であるこの場所は完全に安全というわけでもない。


 オオカミは絶滅寸前でここには出ないが、追いぎともう一種類の動物に関しては注意が必要だった。


「マーちゃん、可愛い動物にここで出くわしたら注意が必要だ。そいつは毎年のようにうちの新人どもを殺してくれてるから優先駆除(くじょ)対象になってやがる。カワウソとムササビを足したみたいな奴だ。ここじゃ『首斬くびきり』って呼ばれてる。

 武装したおっさんどもの方は、見た目からして可愛くねえから当たりめえだが駆除対象だ」


 裏の街道に入ってから、マーちゃんは黒子さんの頭の上に乗っかって、そこから周囲を観察しているようだった。身体をおおっている光が後光ごこうのようになっているから、目も口も無いはずの『黒子さん』が神々(こうごう)しいことこの上ない。


「カワウソは大好きなのだが仕方がない。

 それにしても同業者と出会う機会が少ないのだな。街の探索者だけでも1500人はいるのだろう? 森が広いと言ってもこの街道ではすれ違うのではないのか? 私はもっと隠れているべきだと思っていたのだ」


 マーちゃんがそう言うのも最もな話であるのだが、今はシーズンオフというやつなのである。


「実はな、他の奴らは商用街道を通って森の北側から入るんだ。今回は俺も考えて東側から入ったから20キロメートル以上は離れてた。

 残りの奴らは商隊の護衛っていう真っ当な仕事をしてんだ。俺はソロだから声がかからねえけどな。街の仕事をしてる奴もいる。

 今はもうすぐ3の月で春だからここにも人が来ねえんだ。ここら辺に人が来るシーズンが秋になる7の月からなんだよ」


「なるほど。実に良いタイミングで出かけられたようだ。ところであそこで顔を出しているカワウソのような動物は知り合いではないよな。ひょっとして例の『首斬り』ではないのか?」


 マーちゃんが「首斬り」と言った時には、俺は投げナイフをそいつに向かって投げていた。


 気配感知もちゃんと仕事をしてくれていたので、シーズンの話の最中に、木々を渡って近づいて来たそいつに仕掛けるタイミングを計っていたところだ。


 そう大した距離があったわけじゃないが、ほんの10メートルを強化バフも込みで投げたナイフは木の裏にいたそいつにかわされた。


 そいつは始めから、異様に光輝いているマーちゃんを狙っていたんだろう。木の裏から飛び出すやいなや『黒子さん』の頭上に乗っていたマーちゃんに襲いかかり、そのまま地面に落ちた。


「俺ならマーちゃんは避けるんだがな。それにしても黒子さんはすげえな。今のは見切れなかったぜ」


 首斬りは、カワウソのような可愛い顔をしていたが、長い手足の間には皮膜があり、手首の外側にカランビットナイフと言ってもいい15センチもある鋭い鉤爪かぎづめが生えていた。体長は1メートルってところだ。


 そいつは口から血を吹き出しながら、地面の上をのたうち回っていたがやがて静かになった。

 そいつが、胸に『ひのきの棒デルタエリート』の突きを食らったと知れたのは地面に落ちてからだ。


「非常に残念だ。エサで釣れば飼えたかもしれん。雑食なのだろうな。きっとキューとか鳴くのではないだろうか」


 マーちゃんは柔らかいアルトボイスで、クソ呑気のんき有閑ゆうかんマダムのようなことを言ってなげいていた。


 そして視界のすみでは、俺が外したナイフの刺さった木の下で、別の黒子さんが地面からひものついた虫のような物をり出して丁寧にビンに入れていた。あれは冬虫夏草とうちゅうかそうじゃないだろうか……。








※お読みいただきましてありがとうございます。

第1章はこれで終わりになります。次の章もお楽しみに。

この作品について★や感想をいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


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