第15話 乳糖不耐性
本日は休日ですので、連続で投稿いたします。
樹木をそのまま引っこ抜いて採取する、という荒業が終わったその晩のこと。
組合に卸す品物の相談も終わり、風呂に入って一息ついたところで俺の食欲はようやく戻ってきた。
その日の晩飯はご飯、豆腐と油揚げの味噌汁、ベーコンと卵焼き、味海苔、壺漬けのたくあん、筍の煮物、という旅館の朝食のようなものだった。
もちろん量はあって美味い。
俺もようやく、マーちゃんのご馳走してくれる懐かしの食事の味に慣れてきたのだと思う。涙腺の方は大丈夫だった。
「不思議なんだけどな。今まで25年間もパンとかガレットと肉って感じだったのに、米と味噌汁は違和感無しで食えるんだ。もちろんいつも美味いよ。それから牛乳で腹は壊さねえけど、海苔みたいな海藻とか問題ねえかな」
昔どこかの記事で読んで覚えていたことを聞いてみた。
日本人は、海藻を消化するための腸内細菌を持っているから、ワカメや他の海藻でも問題なく食べられる。
ところが今の俺は日本人では無く『シンシャー・デジコルノ五代公国』という公国の『オーデン伯爵領の衛星都市ズットニテル』に住んでいる公国人なのだ。
壺漬けをボリボリやりながら俺は考え込んだ。続いてご飯、味噌汁、最初に戻るだ。
「ケンチ、心配はもっともだがそこは抜かり無い。ケンチの免疫力を上げると共に消化に必要な細菌も体内に送り込んでおいたのだ。
それに生では難しいが、昆布や海苔も加熱しておけば細菌がいなくても食べられる。味覚が以前の肉体と変わらないことについては私にも分からん」
いつの間にとは思ったが、俺はバイオ的な感じで既に改造されていたらしい。助かってるから良いんだが。
それと筍の煮物は土佐煮ではないだろうか。
「それから、例の仲良し6人組の遺体とケンチを検査して判ったことなのだが、こちらの人類は体内でビタミンを合成出来る。生きるのにレモンが必要無いのだ」
マーちゃんから衝撃の報告があったが、そのことについては腑に落ちた。探索者業界の連中は栄養バランスなんかは考えない。ところがそれで壊血病になるような奴もいないのだ。
(※壊血病:ビタミンCの欠乏により、あざができ、歯が悪くなり、毛髪や皮膚の乾燥、貧血が起こります)
例の仲良し6人組の遺体については弩貝の中から出てきた奴らと、角猪に轢かれた奴らの両方を回収した。
装備はズタボロだったので、マーちゃんが原材料に戻して何か作るらしいし、遺体の方は生物学的調査に使用するとのことで丸っと収まった。
鉄級の身分証は俺が届けてやらないとならない。3年ぐらいはやっても、儲けが少なくて実力も身に付かないとこんなもんだ。
俺だっていつか自分も同じになると覚悟はしてる。名前どころか墓標もいらないと思っている。
じっくりと燻製にされたであろうベーコンを噛み噛みしながら、俺はこれがバラ肉ではなく肩かロースなのではと思った。
お祈りも済ませて、後は寝るだけとなったところで、マーちゃんから基本的だが大事な質問が飛んできた。
「例の6人組の遺体からなのだが、貨幣のような物を回収した。こちらの貨幣価値について教えてもらいたい」
そう言ってマーちゃんが出してきたのは、こちらでは一般的な銀貨と銅貨だった。教会が鋳造に関して一枚噛んでる所為で、周辺7か国については共通の硬貨を使用している。これも教会のシノギの一つというわけだ。
俺は硬貨の種類と、およその価値を紙に書いてマーちゃんに渡した。懐かしのボールペンとルーズリーフを用意してもらったのだ。外には持ち出せない。
「各国で使ってるのは銅貨と銀貨と金貨しかねえんだ。それに全部2センチ✕3センチの四角い形だ。丸型コインにはならなかったんだ。紙に書いてあるのは正確な比較ってわけじゃねえ。家賃なんかを基準にするとこれぐらいなんじゃねえかと思う。賃貸料はあまり変動しねえんだ」
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銅貨≒200円
銀貨≒2万円
金貨≒200万円
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
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俺はシンプルに書いた。俺のアパートの家賃は月に銀貨2枚だが、これは探索者に対する優遇措置というやつだ。普通に住居を借りると銀貨5枚はする。
食費は比較的安いが鉄製品や布地は高い。
紙も高いから本も当然のように高い。児童書が比較的に安いのはページ数が少ないからだ。
日記帳も日本と比較して高いが、あれは内容がないためもちろん書籍ほどではない。
「それで、これが今回の組合へ卸売りする物のおよその値段だ」
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弩貝
銀貨60枚✕3匹=銀貨180枚
角猪
銀貨20枚✕3頭=銀貨60枚
波のキノコ
銀貨5枚✕6株=銀貨30枚
合計:銀貨270枚=金貨2枚、銀貨70枚
≒540万円
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「とまあ、こんな感じだ。持って帰れる物が多けりゃこんだけ稼げる。死にそうな目に3回あった値段がこれだ。マーちゃんがいてくれたから何も無かっただけだ。
この業界じゃ8割死んで、1割は途中で引退すんだ。商人とかになるんじゃねえかな。45歳ぐらいまで続くなんてのは1割だけなんだぜ」
「およそは分かった。これは卸売り価格なのだろう? 末端価格は凄そうだな」
マーちゃんが良いところを突いてきた。流石だ。
「弩貝と波のキノコはそうだ。贅沢品だからな。角猪については『天然の』って頭につけて、これも好きな奴に高値で売るんだ。組合の儲けと教会へのアガリはその差額で出してるってわけだ」
こういった既得権益については、教会は横槍を入れられるのを嫌う。もしそういう奴がいれば、狂信者のお兄さん達が押しかけて行って、そいつは次の日から居なくなるというわけだ。
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