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第4話

「ほんとですか!」


「まあ……」


「私、最終的にAI映画とか作りたいんです!」


 身を乗り出してくる。


「今、カット割りとか勉強してて、それで少し作ったのがあるんです」


 嫌な予感が確信に変わる。


「見てもらえます?」


 ――えらいことになった。


 映画もそんなに見ないし、AI映画のサイトなんて一度も見たことがない。


 だが、ここまで来て引き返すわけにもいかない。


「まあ……役に立つかどうか分からないけど」


 僕はなるべく平静を装って言った。


「送っといて。帰ったら見とくよ」


「やったー!」


 小森はスマホを取り出した。


「じゃあLINEで送っときますね!」


 僕は笑顔で頷いた。


 だが心の中では叫んでいた。


 ――ああ、まじか。


 適当なことを言ってしまった。


 明日は土曜日。


 そして月曜日。


 確実に感想を聞かれる。


 帰り道、夜風に当たりながら僕は深くため息をついた。


 一気に憂鬱になってしまった。


家に帰っても、LINEを開く気にはなれなかった。


スマートフォンはテーブルの上に置いたまま、僕はソファに沈み込んだ。


画面を見れば、小森から送られてきた動画がそこにある。わかっている。それでも指が動かなかった。


正直、怖かった。


僕に感想なんて書けるはずがない。


あんなふうに真剣に作ったものを見せられて、何をどう言えばいいのか見当もつかない。


「……ま、今日は酔ってるし」


独り言が、やけに部屋に響いた。


頭も働かない。


とにかく今日は寝よう。


明日は完全に休みだ。余程のことがなければ、久しぶりにゆっくりできる。


そう自分に言い聞かせるようにして、ベッドに倒れ込んだ。


そして、土曜日。


目が覚めたのは昼前だった。


カーテンの隙間から、柔らかな光が差し込んでいる。


スマホを確認する気には相変わらずなれなかったが、天気が良いことだけは分かった。


「……ちょっと出るか」


顔を洗い、軽く服を着替える。


外に出ると、空は気持ちのいいほど青かった。


この町は便利だ。


大型の商業施設もあるし、電車に乗れば都心も近い。


それでいて、少し歩けば公園や緑があって、どこか余裕のある空気が流れている。


僕にとっては、なかなか住みやすい町だった。


駅前の通りを歩きながら、ふと考える。


映画か。


「あ……」


どうせなら、小森ひなたを誘って映画でも見に行こうか。


そんな考えが一瞬頭をよぎった。


しかし、すぐに消えた。


断られたらどうしよう。


彼氏がいるとは聞いていない。


でも、そういうのはどうも苦手だ。


僕は何度か痛い目にあっている。


いい感じに話が進んで、


デートにこぎ着けて、


「もしかして付き合えるかも」と思った頃――


実は彼氏がいるんです。


と、あっさり言われる。


まあ、お決まりのパターンだ。


勘違い男の典型というやつだ。


そんなことを考えながら歩いているうちに、気がつけば目の前にセブンシネマの建物があった。


「……一つぐらい見とくか」


そう思い、僕はそのまま中へ入った。


できれば小森の動画に近いジャンルの映画を見たかった。


けれど、まだ送られてきたあの動画を再生する勇気すらない。


でも、所詮は素人が作ったものだ。


適当なことを言えば済むだろう。


そう自分に言い聞かせながら、上映スケジュールのパネルを見上げた。


映画タイトルが並んでいる。


「シークレットファミリー」


アニメ映画らしい。


「……無難かな」


そうつぶやき、チケットを買った。


僕にとって、これが人生初の一人シネマだった。


劇場の暗い座席に腰を下ろすと、妙な緊張が胸に広がる。


小森が言っていた言葉を思い出した。


カット割りがどうのとか、


演出がどうのとか。


「……ちゃんと見なきゃな」


小さくつぶやいた。


そして、二時間後。


映画は終わった。


正直、面白かった。


アニメだったけれど、ストーリーの展開もテンポも良かったし、


ドキドキする場面も、スリルもあった。


「……たまには映画もいいな」


そう思いながら、僕は席を立った。


観客たちはぞろぞろと出口へ向かって歩いている。


その流れに合わせて、僕もロビーへ出た。


そのときだった。


「……小森ひなた」


思わず、名前が口からこぼれた。


少し前を歩いている。


間違いない。


小森ひなただった。


隣には、友達らしき女の子がいる。


声をかけようか――


一瞬、そう思った。


けれど、やめた。


何となく、面倒な気がした。


いや、きっと違う。


怖かったのだ。


僕は逃げるように、横の扉から外へ出た。


外の空気が、やけに冷たく感じた。


「……フゥー」


思わず、大きなため息が出た。


家に帰った僕は、玄関のドアを閉めた途端、また大きなため息をついた。


靴を脱ぎながら、さっきの出来事を思い返す。


小森ひなた。


同じ県内に住んでいることは聞いていた。


だから、いつかどこかで見かけることはあるかもしれないとは思っていた。


でも――


まさか映画館で、あんなふうにばったり会うとは思わなかった。


僕はリビングの椅子に腰を下ろし、ぼんやりと天井を見上げた。


横には、友達らしい女の子がいた。


そうだ、あの子がいるなら、その子に映画の感想でも聞けばいいじゃないか。


ふと、そんなことを思った。


「……なんで僕なんだ?」


思わず小さくつぶやく。


僕は少し首をかしげた。


何か事情があるのだろうか。


それとも、ただの気まぐれなのか。


答えは分からない。


でも――


映画を見に行ったこと自体は、悪くなかった。


僕はスマートフォンを手に取った。


最近はネットでも映画が見られる。


サブスクとかいうやつだ。


映画館の帰り道にも、そんな広告を何度も見た。


「……この際、契約するか」


小さく笑う。


どうせ、最近は特にお金を使うこともない。


それに――


映画の見方を覚えておいたほうがいい。


小森が言っていた。


カット割りとか、演出とか。


そういうものを少しでも理解していれば、あの動画を見たときに、もう少しまともな感想が言えるかもしれない。


そう思いながら、僕はその日のうちに動画配信サービスに登録した。


夜になると、さっそく映画を一本再生した。


気がつけば、もう一本。


さらに、もう一本。


画面の光が部屋を照らす。


時計を見ると、すでに深夜だった。


「……まずいな」


そうつぶやきながらも、次の映画を止める気にはなれなかった。

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