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第5話

翌日、日曜日。


目を覚ましたとき、カーテンの隙間から明るい光が差し込んでいた。


時計を見る。


もう昼前だった。


「……寝すぎたな」


軽く体を伸ばし、キッチンへ向かう。


簡単な朝ごはんを作り、テーブルに座る。


そして、ふと思い出した。


昨日途中で止めた映画。


僕は皿を片付けると、そのままリモコンを手に取った。


テレビの画面に、再生マークが浮かび上がる。


続きを見始めると、時間の感覚がまた少しずつ消えていく。


ストーリー。


カメラの動き。


音楽。


昨日よりも、少しだけ意識して見ている自分がいた。


「……なるほど」


気づけば、そんな言葉が口から出ていた。


どうやら僕は――


映画に、すっかりハマってしまったらしい。


日曜日の午後。


映画を一本見終えたあと、僕はしばらくソファに座ったまま画面をぼんやりと見つめていた。


映画というものは不思議だ。


物語を見ているはずなのに、気づけばカメラの動きや、場面の切り替わりのタイミングが気になっている。


「カット割りって、こういうことか……」


小森ひなたが言っていた言葉が、ふと頭に浮かんだ。


昨日までの僕なら、そんなことを気にして映画を見ることなんてなかったはずだ。


でも今は違う。


人物の表情が切り替わる瞬間。


会話の途中で景色に変わるカット。


音楽が入るタイミング。


そんなものが少しずつ分かる気がしてくる。


「……なるほど」


思わず声が漏れた。


そうか。


こうやって作っているのか。


僕はテーブルの上に置いていたスマートフォンに目をやった。


そこには、まだ開いていないLINEの通知が残っている。


小森ひなた。


彼女から送られてきた動画。


昨日までは、正直言って怖かった。


もし、とんでもなく出来が良かったらどうする。


もし、逆にどう感想を言っていいか分からない作品だったらどうする。


そんなことばかり考えて、再生する勇気が出なかった。


でも――


今は少し違う。


映画を何本も見ているうちに、だんだん興味が湧いてきた。


小説を動画にしている、と言っていた。


僕が知っている動画といえば、せいぜいネットで流れてくる短いものくらいだ。


猫が踊る動画とか。


ロボットが喋る動画とか。


そんなものばかりだった。


でも、小説を動画にする?


それは一体、どんなものなんだろう。


僕はスマートフォンを手に取った。


画面に、小森の名前が表示されている。


指が少しだけ止まる。


しかし、今度は昨日ほどの迷いはなかった。


むしろ――


少し楽しみになっている自分がいる。


「……よし」


僕は小さくつぶやくと、動画の再生ボタンを押した。


「えっ?」


再生された瞬間、思わず声が漏れた。


それは、いきなり映画のような始まりだった。


登場人物。


台詞。


ナレーション。


そして背景の景色。


どれもが自然に動き、まるで一本の映画を見ているようだった。


「……すごい」


僕は思わず画面に顔を近づけた。


AIは、もうこんなことができるようになっているのか。


正直、物語の内容よりもそちらの方に興味が向いていた。


どうやって作っているんだろう。


どんな手順で、これが出来上がるんだろう。


僕はただ、見入っていた。


動画は五分ほどで終わった。


しかし僕はすぐにもう一度再生した。


そしてまた。


さらにもう一度。


見れば見るほど、気になるのは作り方だった。


確かにカット割りは難しそうだ。


BGMの入れ方やタイミングも大変そうだ。


でも――


「これ、小森一人で作ったんだよな……」


僕は小さくつぶやいた。


頭の中では、次々とイメージが広がっていく。


もしこれができるなら。


昨日ネットで見た戦国映画の戦のシーンだって、


SFの世界だって、リアルに作れるんじゃないか。


「これは……すごいな」


興奮が収まらない。


僕はそのまま風呂に入り、頭から冷たい水をかけた。


少しは落ち着くだろうと思ったのだ。


風呂から上がり、冷蔵庫を開ける。


ビールを一本取り出し、ぐっと一気に飲み干した。


それでも胸の高鳴りは消えなかった。


カット割りだの演出だのという前に、


僕は久しぶりに――


感動と興奮で、胸がドキドキしていた。


翌朝。


出社すると、エレベーターの前で小森ひなたとばったり会った。


ドアが閉まり、二人きりになる。


僕はなるべく平然を装いながら言った。


「昨日見たよ、動画」


小森がぱっと顔を上げた。


「えっ? 本当に見てくれたんですか?」


目が輝いている。


「じゃあ感想は、今夜一杯で。今日は私がおごります」


待ってました。


その言葉。


本当は僕の方から言いたかった。


「い、いや……いいよ。後輩におごってもらえないから。……じゃあ、割り勘で」


「決まり!よろしくお願いします!」


小森は上機嫌だった。


けれど――


喜びたい率で言えば、絶対に僕の方が上だった。


今日は一日、頑張れそうだ。


よく考えたら、明日は祝日で休みだ。


タイミングも悪くない。


しかし――


夕方になり、僕は小森に頭を下げていた。


「ごめん」


「え~っ……」


小森は露骨に落胆した。


今日は社員の多くが土曜から四連休を取っていて、


仕事が溜まり、どうしても残業しないと追いつかない。


飲みに行く時間が取れないのだ。


小森もがっかりしていたが――


正直、落胆率は絶対に僕の方が上だった。


そのとき、小森がぽつりと言った。


「私も残業します」


「えっ?」


「ダメだよ。新人を残業させたら僕が怒られちゃうよ」


すると小森は、あっさり言った。


「いいじゃないですか。見つかったら、脇田さんにAIを教えてるって言えば、社長も何も言わないでしょ?」


僕は思わず苦笑した。


見かけによらず大胆だ。


おとなしそうな外見からは想像できない。


AIができるのに、これまで黙っていたことといい――


今の子ってこうなのかな。


……あ、完全にオッサン発言だ。

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