第99話 静止
接続から十七日。揺らぎは――発生しなかった。
『本日発生件数:0』
管制室に表示される。だが誰も喜ばない。誰も何も言わない。完全な静寂。
それが、逆に異常だった。エルドはモニターを見ている。波形。動きがない。
完全に平坦。どの地域も。どの時間も。微細な揺らぎすらない。
(……動いていない)
その感覚。安定ではない。停止に近い。
「……こんなこと、ある?」
ミアが小さく呟く。誰も答えない。カルディアが画面を見ている。長い沈黙。
そのまま、数値を確認する。
『同期率:99.999%』
限界。ほぼ完全一致。カルディアの指が、わずかに止まる。その動き。
誰もが見ている。だが誰も言わない。
「……問題ありません」
言う。だがその声は、これまでで一番、静かだった。
エルドは画面から目を離さない。
(揃い切った)
その言葉が頭に浮かぶ。完全同期。完全一致。差がない。揺らぎがない。
すべて同じ。つまり、
(動く理由がない)
その考え。否定できない。
その日の綴じにも、同じ欄が空いていた。エルドは気に留めず、次の頁をめくる。
午後。何も起きない。警報も鳴らない。予測も変化しない。
ただ、同じ状態が続く。時間だけが進む。
だが、世界は動いていないように見える。夕方。
誰かが言う。
「……これ、逆に怖くないか」
小さな声。だが消えない。カルディアは答えない。答えられない。
理屈では問題ない。だが感覚が拒否する。エルドは立ち上がる。ゆっくりと。
誰も止めない。止める理由がない。屋上。風はない。音もない。
街も静かだ。人は動いている。だが、世界は止まっているように見える。
ノアがいる。
「どうだ」
エルドは答える。
「……動いてません」
「そうか」
短い返事。ノアは空を見る。
「揃い切ったな」
その言葉。エルドは目を閉じる。理解する。完全同期。完全一致。
差がゼロ。その先は。
「次だ」
ノアが言う。静かに。確実に。エルドは空を見る。何も起きない。
何も変わらない。だからこそ、分かる。
(来る)
その確信。逃げ場はない。止める術もない。
『同期率:99.999%』
その数字は、すでに100と同じ意味を持っていた。
警報も鳴らず、揺らぎも起きず——起きたのは「何も起きない」ことだけです。
拍子抜け、いや肩透かしと言うには、あまりに空気が張り詰めています。
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