第98話 直前
接続から十六日。同期率は、さらに上がっていた。
『同期率:99.97%』
誤差は、ほぼ存在しない。数字としては“理想”。だが管制室の空気は重い。
誰も口を開かない。モニターの波形。完全一致。
時間軸も、強度も、すべて同じ。
まるで一つの波が、世界全体に広がっているようだった。
「……ここまで来るか」
誰かが呟く。感嘆ではない。
確認。エルドは画面を見ている。視線を逸らさない。
(あと少しで100)
その意味は、もう理解している。だが止められない。止める理由が、まだない。
その時。
『揺らぎ検知』
アラート。全員が反応する。だが動かない。数は――十五。
広域。ほぼ全域。発生。――同時。空気が一瞬、止まる。
揺らぎが広がる。だが形は同じ。すべて同じ。エルドの呼吸が浅くなる。
(来る)
その予感。だが。補正が入る。即時。完全。
収束。問題なし。表示。
『全域安定確認』
沈黙。誰も安堵しない。誰も喜ばない。
ただ、何も起きなかったことを確認するだけ。
「……今の」
ミアが呟く。言葉が続かない。カルディアが画面を見ている。動かない。
長い沈黙。そして。
「……問題ありません」
言う。だがその声は、初めて、わずかに揺れている。エルドはそれを聞く。
確信する。
(気づいている)
だが止めない。止められない。なぜなら、何も起きていないから。被害はない。
収束している。すべて正常。その論理が、まだ勝っている。
エルドは言う。
「……次が来たら」
誰も答えない。答えられない。何が起きるのか、言葉にしたくない。
午後。揺らぎは起きない。完全な静寂。動きがない。予兆すらない。
それが逆に、異常だった。夜。屋上。風がない。空気が止まっている。
音もない。ノアが言う。
「どうだ」
エルドは答える。
「……静かすぎます」
「そうだな」
ノアは空を見る。
「揃い切る前は、静かだ」
その言葉。エルドは息を止める。前は。つまり、その後がある。
「止まるか」
ノアが言う。問いではない。
確認。エルドは答えない。答えたくない。だが心の中では、はっきりしている。
(止まる)
その確信。空は動かない。世界は整っている。完璧に近い形で。
『同期率:99.97%』
揃うのを誰も止めようとしていない。それが、いちばん静かな異常だった。
ここまで来ると、あとは待つしかありません。
息を詰めてくださった方は、☆を。




