第97話 100%
接続から十五日。同期率は、ついにそこまで来ていた。
『同期率:99.8%』
ほぼ完全。誤差はないに等しい。管制室には静けさがあった。
以前のような緊張ではない。慣れた静けさ。
だがどこか、張り付いたような静けさ。
「もうすぐ100だな」
誰かが言う。軽い声。
「完全安定ってやつか」
笑いも混じる。だが広がらない。空気が重い。エルドはモニターを見ている。
波形。すべて同じ。どの地域も。どの時間も。違いがない。
(……揃いすぎている)
その感覚が消えない。その時。
『揺らぎ検知:複数』
アラート。全員が画面を見る。数は――十。同時。
広域。距離は無関係。発生。――完全同時。
波形。――完全一致。誰も動かない。動く必要がない。補正が入る。
自動。即時。収束。問題なし。だが。
誰も言葉を出さない。静寂。重い沈黙。
「……また同じか」
低い声。誰のものか分からない。だが全員が同じことを思っている。
カルディアが画面を見ている。数秒。動かない。
そして言う。
「問題ありません」
だがその声は、初めて“確認”の色を帯びている。
エルドはその瞬間を逃さない。
「……揃いすぎてます」
静かに言う。誰も止めない。誰も否定しない。カルディアは答えない。
エルドは続ける。
「全部、同じです」
画面を指す。
「揺らぎも、補正も、結果も」
誰もが見ている。分かっている。だが言わないだけだ。
「これ」
エルドは言葉を選ぶ。
「一つの現象です」
空気が変わる。それは、個別の揺らぎではない。全体で一つ。その認識。
カルディアがゆっくりと口を開く。
「……同期が進んだ結果です」
言葉は変わらない。だが間がある。
「問題は?」
誰かが聞く。カルディアは一瞬だけ沈黙する。その一瞬が長い。
そして言う。
「現時点では、ありません」
否定しない。ただ、先送りする。エルドは目を閉じる。確信に近づく。
(これが全部重なったら)
その瞬間。世界は。午後。さらに発生。
『揺らぎ:12件』
同時。同形。即収束。誰も驚かない。だが、誰も安心していない。
夜。屋上。風がない。完全な静止。ノアが言う。
「どうだ」
エルドは答える。
「……一つです」
「何が」
「全部」
短い言葉。ノアは頷く。
「そう見えるか」
エルドは空を見る。星は動かない。時間が止まっているようにすら感じる。
「もし」
エルドは言う。
「これが全部同時に崩れたら」
言葉が止まる。口にしたくない。ノアは静かに言う。
「100になるな」
その意味。エルドは理解する。完全同期。完全一致。そして――
完全停止。空は静かだ。あまりにも。動きがない。
『同期率:99.8%』
この数字を止める手順は、どの規程にも載っていない。
数字は99.8%まで来ました。あと少し、という言葉が、今回だけは不穏に響きます。
言葉にできずにいた違和感が、ようやく輪郭を持った回だったように思います。




