第96話 同じ揺らぎ
接続から十三日。揺らぎは、もはや珍しくなかった。
『本日発生:12件』
数は増えている。だが評価は変わらない。
「全部収束してるし問題なし」
その一言で終わる。管制室の誰もが、それを受け入れている。
エルドだけが、画面から目を離さない。ログを開く。揺らぎの履歴。
ここ一週間分。並べる。重ねる。
(……同じだ)
完全に。誤差すらほぼない。発生パターン。拡大傾向。収束曲線。
すべて一致。まるで、
(再生しているみたいだ)
その感覚。
「エルド」
ミアが声をかける。
「まだ見てるの?」
「ああ」
エルドは答える。
「これ、見てくれ」
ログを拡大する。特定の揺らぎ。時間軸をずらして、別の揺らぎと重ねる。
ミアが覗き込む。そして止まる。
「……同じ」
「完全に一致してる」
ミアの声が低くなる。
「これ、あり得る?」
エルドは首を振る。
「理論上は」
「でも現場感覚だと?」
「あり得ない」
その言葉に、重みがある。その時。
『揺らぎ検知:複数』
アラート。今度は――七件。同時。
広域。距離は離れている。だが。発生。――同時。
拡大。――同じ形。管制室が静かになる。誰も声を出さない。補正。
即時。収束。問題なし。だが。
「……また同じ」
誰かが呟く。初めて。エルド以外の声。空気が変わる。わずかに。
カルディアがログを見る。数秒。
沈黙。その“数秒”が長く感じる。
「……問題ありません」
言う。いつも通り。だがその声は、ほんのわずかに遅れている。
「同期率は?」
「99.2%」
ついに、そこまで来た。限界に近い。
「順調です」
カルディアは続ける。だが、その言葉に、わずかな“確認”が混じる。
エルドはそれを感じる。
(……気づいてる)
だが彼女は止めない。止める理由がない。事実として、すべて収束している。
被害もない。だから問題にならない。だが。エルドは画面を見続ける。
七つの揺らぎ。完全一致。時間差すらない。
(……これが全部重なったら)
そのイメージが浮かぶ。消す。考えるな。根拠がない。
照会は止まらない。現場が返す答えは、毎回同じだ。――記録上は、誰もいない。
夜。屋上。風がない。完全に止まっている。
ノアが言う。
「どうだ」
エルドは答える。
「……同じです」
「何が」
「全部」
短い返答。ノアは少しだけ目を細める。
「そうか」
エルドは続ける。
「繰り返してるみたいです」
ノアは何も言わない。ただ空を見る。そして一言。
「揃い切るな」
その言葉。エルドは息を止める。揃い切る。それは、
(完全に一致する)
ということ。つまり、
(全部が同じ瞬間に動く)
その先は。考えたくない。空は静かだ。風もない。揺らぎもない。
完璧な安定。だがそれは、止まっているようにも見える。
『同期率:99.2%』
届いたときに何が起きるのかを、まだ誰も見たことがない。
別々の場所で、同じ形に揺れています。
ここで鳥肌が立った方は、評価をひとつ。




