第95話 揃いすぎた世界
接続から十一日。揺らぎは、さらに増えていた。
『本日発生:9件』
だが――
「全部即収束」
「被害ゼロ」
評価は変わらない。問題なし。むしろ、
「処理能力、上がってない?」
そんな声すら出る。エルドはモニターを見ている。発生地点。バラバラ。だが。
発生時刻――完全一致。波形――完全一致。収束時間――完全一致。
(……おかしい)
もう“違和感”ではない。だが“異常”とも言えない。その中間。
「ミア」
「うん?」
「これ、見てくれ」
ログを並べる。過去三日分。すべての揺らぎ。重ねる。
ミアが画面を見て、止まる。
「……同じ」
小さく呟く。
「全部?」
「全部だ」
ミアの顔から笑みが消える。
「これ……」
言葉が続かない。カルディアが近づく。
「何か問題でも?」
いつもの調子。エルドは画面を見せる。
「全部同じです」
カルディアは数秒、沈黙する。初めての“間”。
だがすぐに言う。
「同期率の影響です」
いつも通り。
「揺らぎの発生条件が近似すれば、結果も近似します」
論理的には正しい。だがミアが言う。
「ここまで揃います?」
カルディアは答える。
「揃います」
断言。だがその声は、ほんのわずかに遅れた。エルドは気づく。
だが何も言わない。
「問題はありません」
カルディアは続ける。
「すべて収束しています」
事実。否定できない。会話はそこで終わる。だが空気が少しだけ変わる。
軽さが消える。午後。揺らぎ発生。
『微小揺らぎ:4件』
同時。同形。即収束。誰も声を上げない。だが、誰も笑わない。
エルドはログを追う。発生直前の波形。また予測外。
ノイズ。そして、同時に発生。まるで、
(トリガーがあるみたいだ)
その考えが浮かぶ。だが消す。証明できない。
夜。屋上。風がない。空気が動かない。ノアが言う。
「どうだ」
エルドは答える。
「……揃いすぎてます」
「何が」
「全部です」
少し間。ノアは空を見る。
「そうか」
それだけ。エルドは続ける。
「揺らぎも、補正も、結果も」
「そうか」
同じ返事。だがその後、少しだけ間を置いて言う。
「揃うとどうなる」
問い。エルドは答えない。答えたくない。だが頭の中では、はっきりしている。
(全部が同じなら)
(全部が同時に動く)
つまり――止まるときも。ノアはそれ以上何も言わない。ただ一言。
「静かだな」
その言葉が、今までよりも重い。エルドは空を見る。揺らぎはない。
完全な安定。だがそれは、あまりにも整いすぎている。
『同期率:98.6%』
あと一・四。それが何の余白なのかは、どこにも書かれていない。
違和感を口にしても、返ってくるのは今回もまた同じ一言でした。
拍子抜けするほど変わらない返答の奥で、何かが静かに満ちていく気配があります。
そこに気づいた方は、☆で教えてください。




