第93話 同時発生
接続から七日。揺らぎ発生件数――ゼロではなかった。
『微小揺らぎ:3件』
だが、誰も騒がない。小規模。即時収束。問題なし。それが今の基準だった。
「珍しく増えたな」
「でも全部即収束だし」
管制室の空気は軽い。緊張はない。むしろ、余裕がある。
エルドはモニターを見る。揺らぎの発生地点。
三か所。距離は離れている。通常なら、関連性はない。だが。
「……時間」
エルドが呟く。
「え?」
ミアが振り返る。
「発生時刻」
ログを拡大する。三つの揺らぎ。
発生時刻。――完全に一致。
「同時……?」
ミアが眉をひそめる。その瞬間。
『補正完了』
表示が出る。すでに終わっている。問題はない。だが。エルドはログを追う。
発生。補正。収束。すべて同じ。完全に一致。
数値誤差すらほぼない。
(……あり得るか?)
理論上は。あり得る。同期していれば。だが現場感覚としては、違和感がある。
「偶然でしょ」
ミアが言う。軽く。
「同期してるし」
それで説明できる。それで終わる話。そのはずだ。カルディアがログを見る。
「問題ありません」
即答。いつも通り。
「同期率は?」
「現在、96.7%」
さらに上がっている。
「順調です」
カルディアは頷く。その表情に迷いはない。エルドは画面を見続ける。
三つの波形。重ねる。完全一致。コピーのように。
「……」
言葉が出ない。理屈では問題ない。だが感覚が引っかかる。その時。
『微小揺らぎ:検知』
再び。今度は二件。別地点。距離もバラバラ。発生。
――同時。
「またか」
誰かが言う。だが驚きはない。すぐに補正。収束。問題なし。
エルドはログを開く。波形。確認。同じ。また同じ。
「……エルド?」
ミアが覗き込む。
「顔、怖いよ」
エルドは小さく息を吐く。
「いや」
否定する。問題はない。起きていない。すべて正常。
カルディアが言う。
「同期率の上昇に伴う現象です」
落ち着いた声。
「揺らぎの発生条件が近似すれば、同時発生も起こり得ます」
合理的な説明。反論できない。
「むしろ安定の証です」
いつもの結論。エルドは頷く。
「……そうですね」
言うしかない。現実として、被害はない。すべて収束している。
返ってきた綴じでは、空欄にだけ線が引かれていた。数えた跡のように、規則正しく。
夜。屋上。風はほとんどない。ノアが言う。
「どうだ」
エルドは少し間を置く。
「……増えてます」
「何が」
「同時発生」
ノアは空を見る。
「そうか」
短い返事。エルドは続ける。
「全部、同じなんです」
「何が」
「揺らぎも、補正も」
ノアは少しだけ目を細める。
「揃ってきたな」
またその言葉。エルドは頷く。
「同期率、96%超えました」
ノアは何も言わない。ただ一言。
「静かすぎる」
その言葉が、少しだけ重くなる。空は穏やかだ。揺らぎもない。
だがその静けさは、どこか均一すぎる。
『同期率:96.7%』
この数字が上がって何が困るのかを、誰も説明できないままだ。
偶然で片付けられるはずの一致が、二度、三度と重なっていきます。
説明はいつも正しい。けれど、正しさだけでは埋まらない引っかかりが、静かに積もっていく回でした。




