第92話 揃いすぎる波形
接続から五日。揺らぎ発生件数は、依然ゼロ。
管制室には、どこか緩んだ空気が流れていた。
「またゼロか」
「記録更新、何日目?」
「五日連続」
軽い会話。以前なら考えられない。だが今は、それが普通になっている。
エルドはモニターを見ている。波形は変わらない。滑らかで、均一。
どの地域も。同じように。
(……同じすぎる)
その感覚が、少しだけ強くなる。
「エルド?」
ミアが声をかける。
「何か気になる?」
エルドは画面を指す。
「この波形」
「うん?」
「全部、似てないか」
ミアは覗き込む。
「そりゃ同期してるし」
当然のように言う。
「同期率も上がってるしね」
モニターに表示。
『同期率:95.8%』
昨日より上がっている。
「問題ある?」
「……いや」
エルドは首を振る。理屈では問題ない。むしろ良い状態だ。
ばらつきが減るほど、安定する。それは事実。だが。
「以前は、地域ごとに癖があった」
エルドは言う。
「癖?」
「揺らぎ方の傾向」
ミアは少し考える。
「ああ、あったね」
「今は?」
ミアはモニターを見る。少しだけ黙る。
「……確かに、似てる」
ほんの少しだけ、トーンが落ちる。その時。
『微小揺らぎ検知』
アラート。久しぶりの音。全員が反応する。だが緊張はない。
小規模。問題ないレベル。モニターに表示される。複数地点。同時に。
「同時?」
誰かが言う。珍しい。だがあり得ないことではない。次の瞬間。補正が入る。
自動。即時。収束。完全に。
「ほら」
ミアが言う。
「問題ない」
その通りだった。数秒で終了。被害ゼロ。遅延ゼロ。完璧な対応。
だがエルドは画面を見ている。記録ログ。波形データ。その揺らぎ。
そして補正。
(……同じだ)
全地点。同じ波形。同じタイミング。同じ収束。まるでコピーのように。
「どうしたの?」
ミアが聞く。エルドは答えない。画面を見続ける。
「……珍しいな」
小さく呟く。
「何が?」
「揺らぎの出方が」
ミアは肩をすくめる。
「同期してるからでしょ」
正しい説明。それで終わる話。そのはずだ。カルディアが近づいてくる。
「ログを確認しました」
エルドを見る。
「問題はありません」
断言。いつも通り。
「同期率の上昇に伴う現象です」
「現象?」
「波形が揃うことで、揺らぎのパターンも近似します」
理屈は通っている。
「むしろ安定の証です」
カルディアは迷わない。その判断は合理的だ。エルドは頷く。
「……そうですね」
反論できない。事実として、問題は起きていない。収束も速い。被害もない。
すべてがうまくいっている。だが。ログの波形が、頭に残る。同じ形。
同じ揺らぎ。同じ収束。夜。屋上。風は弱い。
ノアが言う。
「動いたか」
「……微小です」
「そうか」
エルドは少し迷ってから言う。
「全部、同じでした」
ノアは何も言わない。
「揺らぎも、補正も」
少しだけ間。そして一言。
「揃ってきたな」
エルドは空を見る。静かだ。
だがその静けさの中に、わずかな違和感が混じり始めている。
『同期率:95.8%』
上がったこと自体は、報告書のどの欄にも書けない。
揃うことを、この作品はずっと危険な兆候として扱っています。
数字が気になり始めた方は、☆をひとつ。




