第90話 接続開始
国際中央網。試験接続、開始。その宣言は、世界同時に発信された。
各国の中央演算網が、順次リンクされていく。
光が走る。見えないはずの回線が、都市の空に網のように重なっていく錯覚。
巨大な一つの構造。それが、今この瞬間に組み上がっていく。
『接続率、32%』
管制室の表示が更新される。エルドはモニターを見ている。誰もが見ている。
止める者はいない。止める理由もない。
『接続率、57%』
波形が変わる。滑らかになる。揺らぎの予測値が、目に見えて低下していく。
演算負荷は分散され、各国の網が互いに補完する。
「……すごい」
ミアが呟く。誰も否定しない。事実だからだ。
『接続率、81%』
カルディアは静かに立っている。その表情に変化はない。
だがその目には、確かな確信がある。
「安定します」
短く言う。エルドは何も答えない。ただ見ている。数字を。波形を。
世界が揃っていく様子を。
『接続率、100%』
完了。一瞬の静寂。そして――波形が、整う。今まで見たことがないほどに。
滑らかに。均一に。揺らぎの発生確率が、ほぼゼロに近づく。
『全域安定確認』
表示が出る。誰かが息を吐く。緊張が解ける。そして、拍手。自然に。
止められない。成功だった。完全に。カルディアが言う。
「これが、統合です」
誇示ではない。確認。
「世界は一つの網になった」
エルドはその言葉を聞く。否定できない。
目の前の結果が、すべてを証明している。揺らぎは消えた。
被害もない。遅延もない。人の判断も不要。
完璧。その言葉が、これほど似合う瞬間はない。
記録係は、判断の中身を尋ねてこない。その場に誰がいたか。それだけを、何度も聞く。
夜。街は静かだ。いや、静かすぎる。風もない。
揺らぎもない。均一な安定。エルドは屋上に立つ。下を見る。
人々は安心している。恐れがない。それは、確かに正しい未来だ。背後に気配。
ノアだった。
「どうだ」
エルドは少し考えて、
「……すごいです」
と答える。それしか言えない。ノアは頷く。
「そうだな」
短い肯定。そのあと、少しだけ間を置いて言う。
「揃った」
その一言。エルドは空を見る。どこまでも静かだ。世界は、整っている。
完璧に近い形で。
(これでいいのか)
その問いは、まだ形にならない。ただ一つだけ、確かなことがある。
止まってはいない。今は。まだ。
静かすぎるほどに、すべてがうまくいっている。
うまくいっているうちは、誰も止めません。
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