第89話 接続提案
国際接続検討委員会。
臨時招集。
会議室は満席だった。
各国代表、中央技術者、政治家。
そして帝国視察団。
空気は、すでに傾いている。
「本日、正式に提案します」
カルディアが立つ。
静かだが、揺らぎのない声。
「国際中央網の構築」
スクリーンに図が映る。
各国の演算網が繋がり、一つの巨大なネットワークになる。
「目的は三つ」
指を三本立てる。
「演算負荷の分散」
「補正速度の向上」
「完全安定の実現」
論理は美しい。
誰もが理解できる。
「単一網では限界があります」
「ですが、接続すれば補完できる」
カルディアの視線が会場を一周する。
「止まらない世界に、最も近い形です」
沈黙。
そして小さなざわめき。
否定ではない。
期待だ。
セドリックが口を開く。
「リスクは?」
カルディアは即答する。
「局所障害が全体に影響する可能性」
「対策は?」
「冗長化と分散処理で最小化します」
迷いがない。
すでに検討済み。
政治家が頷く。
「合理的だ」
別の代表が言う。
「帝国事故はどう説明する」
一瞬だけ、空気が止まる。
カルディアは視線を動かさない。
「単一網の限界です」
断言。
「だからこそ、接続が必要です」
事故すら、論拠に変える。
強い。
エルドは黙っている。
すべてが正しい。
理屈も。
流れも。
世論も。
「意見は?」
議長が問う。
数秒の沈黙。
そして――
「賛成です」
一人。
「我々も」
また一人。
連鎖する。
止まらない。
エルドは拳を握る。
立ち上がる。
「……反対です」
空気が変わる。
視線が集まる。
「理由を」
議長が言う。
エルドは一瞬だけ迷う。
だが言う。
「規模が大きくなれば、揃う範囲も広がる」
ざわめき。
「差が消える」
「均一化が進む」
カルディアは静かに聞いている。
「そして」
エルドは言い切る。
「止まる時も、世界規模になります」
沈黙。
だがそれは長く続かない。
「仮説だな」
誰かが言う。
「証明は?」
エルドは答えられない。
「……ありません」
その一言で、流れが決まる。
カルディアが口を開く。
「現時点で確認されているのは、
接続による安定性の向上です」
事実。
「未知のリスクより、
既知の被害を減らすべきです」
合理。
反論はできない。
議長が頷く。
「採決に移る」
早い。
あまりにも。
手が上がる。
次々と。
過半数。
いや、ほぼ全員。
エルドは立ったまま。
手は上げない。
だがそれは意味を持たない。
「可決」
短い宣言。
それで終わり。
世界は、繋がる。
会議は解散する。
ざわめきは、期待の音だ。
エルドはその場に立ち尽くす。
背後から声。
ノアだった。
「言ったな」
「……はい」
「届いたか」
エルドは首を振る。
「いいや」
届かない。
正しさの前では。
ノアは小さく息を吐く。
「これでいい」
「え?」
「見える」
それだけ言う。
カルディアが近づいてくる。
「決まりましたね」
「……はい」
「これで、揺らぎはさらに減ります」
エルドは頷く。
否定できない。
カルディアは少しだけ間を置いて言う。
「あなたの懸念も理解はします」
初めての言葉。
理解。
「ですが」
続ける。
「止まりません」
やはり、そこは揺らがない。
エルドは答えない。
ただ思う。
(止まらない前提)
それが、世界になった。
窓の外。
街は静かだ。
あまりにも静かに、
すべてが整っている。
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