300 遊牧民を追え
遊牧民と接触するべく東へ急ぐ俺は、今帝国東部で一番大きな街にいる。
街の名前をサラクスと言って、サラクス辺境伯領の領都であるらしい。
――そしてその街は、今混乱の最中にある。
話を訊いてみると、東から遊牧民の大規模な侵攻があったらしく。周辺の村から住民が避難してきているそうだ。
図らずも、でっち上げた脅威が具現化している。
キサ父に頼んでハイタル大王に手紙を送り、東部の帝国軍を牽制してくれるようお願いしたので、それが実行されているのなら問題ない。
だけど、普通に帝国の内戦に付け込んで攻めてきている可能性もあるので、そこは確認が必要だ。
とりあえず街に一泊して情報を集め。東部の防衛を担当しているサラクス辺境伯は、街に篭って損害を最小限にする方針であるという情報を得る。
遊牧民相手の対応としては一般的なものだ。
遊牧民は全員が騎兵なので、歩兵で追いかけても捕捉するのは困難だし、個別の村全てに兵士を置いて守るのは不可能だ。
一部の村だけ守っても、遊牧民はその機動力を活かして他の村を襲うだけだし。こちらも騎兵を出しても、遊牧民の騎兵は優秀なので勝てるかどうかは非常に怪しい。
そもそも、騎兵対騎兵でも捕捉は難しいかもしれない。
向こうの目的がこちらと戦う事ならそのうち会敵するだろうけど、食料を奪う事だけなら、遊牧民側は帝国軍との遭遇を避けて動くし、村が襲われたという連絡が入ってから急行しても、到着する頃にはすでにもぬけの殻だろう。
最速の通信手段が早馬の伝令な世界なので、機動力がある相手に逃げ回られたら、わりとどうしようもないんだよね。
なので、街に篭って人的被害を最小限にしてやり過ごすというのは、正しい対応だ。
今までもそうしていたらしいので、慣れた対応なのだろう。
街の様子を見ても、大勢の避難民で騒がしいが、第一印象ほどの混乱状態ではなく。わりと秩序だって行動している。
定期的に来る天災から避難しているといった感じだろうか?
非常事態ではあるけど、慣れた感じがあるのも確かだ。
遊牧民への対処というのは難しく、守るにはそれこそ、元の世界のどこかの国みたいに長い長城を造るとかしかないけど、あれだってどこまで機能していたかは疑問視されるくらいなのだ。
逆にこちらから国境の向こうに攻め込んで、遊牧民の勢力を削るという方法もあるが。キサ父によるとハイタルは王都でさえ移動するらしいし、歩兵の大軍が草原や荒地を進むのは、補給の面から見ても難しい。
宰相は自分の利益に影響ない事は放置だったようだから、東部も放置されていたのだろう。
辺境伯の苦労が偲ばれるね……味方になってくれないかな?
期待値はある気がするので、皇帝の名前で『味方につけ。余は遊牧民との間に関係を持っているので、将来的に遊牧民の脅威を無くす事ができる』と書いた手紙を送ってみる。
効果は未知数だけど、空振りになっても害はないのでやり得だろう。
そんな工作をしつつ。とりあえず今は遊牧民と連絡を取るのが優先なので、翌朝早速街を発って更に東を目指す。
宰相も遊牧民と交渉しようとするかもしれないので、そうなったら早い者勝ちだからね。
――そんな訳で、街で聞いた襲われた村の一つに着いてみると、家などが焼かれている様子はなく。穏便に食料だけを奪っていった感じがする。
遊牧民としては、必要な食料だけ確保できればそれでよく。村を破壊する必要などないのだろう。
もしかしたら、なるべく被害を与えないほうが次奪いに来る時に収量が多いとか思っているかもしれない。
この辺は、恒久的な占領を目指す帝国軍と根本的に違う所だね。
帝国軍のジェルファ王国侵攻を思い出しながらそんな事を思うが、今はそんな事を考えている場合ではない。
「キサ、遊牧民がどっちに行ったか分かる?」
俺の問いに、キサはサッと地面に視線を走らせる。
沢山の馬の足跡らしきものがあるのは俺にも分かるが、沢山過ぎてただの踏み荒らした跡にしか見えず、なにがなにやら分からない。
キサには分かるのだろうか?
「――こちらとこちらに向かったようです。こっちは馬の足取りが重いので、荷物を運んでいますね」
しばらく見ていると、そう言って2つの方向を指差した。
さすが遊牧民として生まれ育っただけあって、馬の足跡を見るだけで色々分かるらしい。
実に頼りになる。
荷物を運んでいるのは食料を国に運ぶ部隊だろうから、もう一つの身軽な部隊の方を追う事にする。
……その日だけで村を4つ回ったが、まだ追いつかない。
だけどキサによると、『足跡が新しいので、すぐ近くにいるはずです』との事だ。
ちなみに、『すごい数です。数千……万に迫るかもしれません』との見立てである。
そんなにいるなら分散して同時に複数の村を襲えばいい気もするが、万一帝国軍と戦う事になった場合を考えると、一塊になっていた方がいいのだろう。
遊牧民も色々考えているのか、あるいは過去の経験か。
ともかく明日には追いつきそうとの事なので、今日は早めに寝て交渉に備える事にする。
出会ったら問答無用で襲ってかかってくるような事は……さすがにないよね?
キサ父や兄の印象で遊牧民に怖いイメージはないけど、一応他国に攻め込んで来ている状態だ。
ピリピリしているだろうし、北部が干ばつで家族の命がかかっているなら、余裕はないかもしれない。
警戒だけは厳重にしようと気を引き締めて。キサの馬に乗せてもらった俺は、遊牧民との接触を求めて農村地帯を進むのだった……。
帝国暦170年 3月20日
現時点での帝国に対する影響度……66.989%
資産
・1億3174万ダルナ(-287万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×10
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
カーミラ(部下 蜂起軍選抜部隊長 元男爵家長女)




