第88話 プチ不幸
――やー!やー!昨日は大変な目にあわされた!でも大丈夫!ここから僕の国までは1日だ!そしたら歓迎の宴をするから心行くまで休むといい!
――はい
ミュリーはそれじゃ休めないと思いつつも同意する。
昨日はメテオのどさくさに紛れツヴァイたちを取り逃がしてしまったが仕方がない。それほどの威力があったのだ。あの後もメテオの衝撃が呼び水になり、2陣、3陣の魔物らが現れ星空になるまで戦闘が続いた。
――きゃん!
柴丸が元気いっぱいに先頭を歩く。
負けじとレオン皇子も歩くが、何もないところでつまづいて転んだり、突風で飛んできた枝に当たったり、水たまりに派手に落ちたりしている。
「それで!コントのつもり!ツッコミがないとボケが成立しないよ!」
子供のころ、喜劇の神と言わる男に握手してもらったことのあるたまは、笑いに厳しい。
『スキルの影響です。激幸運の反動でプチ不幸が1週間は続きます』
「斜面に転がり落ちる前には、押すなよ?押すなよ?が基本だよ!」
――きゃん!
昨日まではふふんという顔で競いあっていたが、今日の柴丸は、レオン皇子が転ぶたびに大丈夫か?大丈夫か?と鼻をこすりつけている。
「柴丸がいい子に育ってるよ・・・」
ウルウルとたまは感動する。
『不幸は呪いの一種ですから、吸い込んでるだけです。それより、カースドラゴンのあの恰好は何ですか?』
「ゴレンラビットのリーダーが乗っているバイク!ラビットゴーだよ!」
柴丸が歩くたびに背中にくっついている小さな人形がフリフリと動く。
『・・・』
「コアもしたいの?する?する?」
『絶対にやめてください』
ドドーン!!
地面が陥没してレオン皇子が落下していく。
――即死回避!!
とっさにミュリーは唱えたが土に埋もれてしまっては、助かるかわからない。
駆け寄って穴を覗くと、ドワーフにお姫様抱っこされているレオン皇子がいた。
――わりぃーわりぃー?どうやら、本道にぶち当たっちまったようだな?
ガスマスクのような物をかぶったドワーフたちのリーダーが適当な謝罪をする。
――そおだぁ。どおりで岩盤が柔らけぇ
――やっぱり、この方位魔導針が完全にいかれてやがる
――僕、言いましたよ!水脈の流れが違うって!
――やっちまったものは仕方がねー、ついでにこの先を掘ってみよーぜ?
5人のドワーフが次々と土や方位に関して意見を言い合い始める。
――やー!やー!ファルフ久しいの!それに相変わらず騒がしいな!
――こりゃ?レオン皇子?国にお帰りで?
――そうだ!それに今回は客もいるぞ!
――今回もだったような?で、どなたです?
上を向いて、マスクを外したドワーフにミュリーが挨拶をする。
――ドラゴンクラッシャーのミュリーです。レオン皇子のお知り合いの方々でしょうか?
――おーっ?!!!
ドワーフたちがざわめきだし、レオン皇子をポイッと捨てて、ドタドタと崩れた斜面を登ってくる。
――ドラゴンクラッシャーか?!本物か?!本物か?!
――ええ。そうよぉ?
ひるんでいるミュリーに代わり、前へ出てヘキシアが答える。
――サァケのドラゴンクラッシャーか!!歓迎するぞ!!今日はサァケじゃ!サァケじゃ!
――サァケ盛りじゃ!サァケ盛りじゃ!
――サァケの功績は、私どもでなくて、ドノフおじさまの・・・
――ええから!ええから!サァケ盛りじゃ!サァケ盛りじゃ!
投げ飛ばされ泥だらけのレオン皇子を放置して、穴の奥へ奥へとドナドナされるのであった。




