92.恩返し
「あんたたち、ここで何してんの?」
20年ほど前、真と実は小さな集落で暮らしていた。
「兄さん、なんか話しかけられてるよ。なんで無視してるの?」
「そういうお前こそ、俺は嫌なんだよ、ガツガツくるやつ、少しずつ仲良くなりましょうじゃなくて、あんた誰?おいこら、血液型なに?今空いてる?とか最悪ぅー」
ニコニコしながら少女は二人の前に陣取る。
「はい、右のやつ殺しまーす」
―――――
真は右頬っぺたを触りながら回想する。
「え、明子さんってそんな感じの人だったんですか、右ほっぺにいきなりビンタなんて」
真はその言葉を聞くとすぐに左ほっぺにも手を添えた。
「動かないようにまず左頬っぺたを左手で思いっきり握ってきて、そのあと右手でビンタ10回」
―――――
「おひみのりゅなんひゃんで」
「いやぁ・・・男勝りの女性って素敵だなあと」
「おみゃぃ兄貴がびんたされてりゅ」
何かに目を覚ました弟と今にも目を閉じそうな兄が会話する中
「あんたら二人、今日からこの村を出ることになりまーす!」
「?!」
――――――
「それで無理やり村から連れ出された・・・??」
松本は不思議そうに話を聞く。
実はすぐに気づき補足する。
「あぁ、明子さんと明恵さんにはなんの所縁もない場所なのにってことかい?明恵さんがタロットカードをもらった兄さんの故郷に恩返ししたいって僕らの村に来たわけ。あのタロットカードが自分の人生を変えてくれたからって」
――――――
「あんたが村長さんかい、この村見つけるの大変だったよ。まさか定期的に移動しているとはね」
「まあとは言っても移動できる個所は限られていますから、こうやって見つけ出せる人もいるわけなんですよね」
真と実に少し髭を生やした男は明恵を丁寧に家に招き入れた。
「堅太・・・・いや貴方があったその・・・腕の長い、タロットカードの人はなんと名乗っていたかわかりませんが、今は」
「私が入ってそう経たないうちにいなくなってたよ、しょぶ・・・ああ、いや代わりの芸人さんがきたね」
「名目上、彼は出稼ぎとしてこの村を出ましたからね。とは言え、本人も気づいていたのでしょう。自分の身なりが他の人と違うことでいなくなったほうが母のためと」
「馬鹿だねえ、そんなんで喜ぶ母がどこにいるってんだ」
明恵はタッパーに入ったボロボロのタロットカードを手渡した。
「手垢や湿気でもう割れがきててね、新しいのを買う頃にはもう今の状態になっちまったよ。乾燥剤と一緒に入れてたからそこからの劣化はまだマシだけれど」
「これはこれはご丁寧に。もうお母様も亡くなっておられて身内の方もおられないので、神棚に祀らせていただきますね」
ドタバタと元気な足音が近づく。
「お母様!御免なさい、お話のところを!友達が、できました!」
両頬が真っ赤に腫れた真がお辞儀をする。
「はじめましておともだちです」
明恵はすぐに真の近くに寄る。
(なんだ心配してくれるのかいいお母さんじゃないか)
「おい、鼻ったれ!お前に明子はやらんぞボケ」
真は腫れが収まるほど青ざめた顔で頷いた。




