90.うん
「細菌研究は顕微鏡ができる1590年以前はどうなっていたのか、1300年ごろには黒死病の遺体をモンゴル軍が投石機で攻撃の手段として使用していたよう。更に昔、武器の先に汚物をつけ攻撃の手段に使用したり、楠木正成がダイレクトな使い方をしていて有名ですね」
実は真の足元の本を拾い上げ語る。
「では医療が現代よりも発達していなかった時代でも、菌の存在を理解して使用していた者たちがいたと?」
珍しく南が寝ずに実の話に質問をする。
「妖怪という存在は面白いです。今では原因が分かっている病気さえも生物の形をして登場しています。コレラの虎狼狸などまさにそう」
「妖怪(病)を扱う人間、すなわち妖術。さすがにウイルスと細菌の違いまでは分かっていなかったと思いますが、専門の研究者はいたはずです」
真は床を足でトントンしてみせる。
「この里で大切に扱われていた壺、中身は大体察しが付くと思うが。命と引き換えに強大な力が手に入るなんて言い伝え。皮肉たっぷりだったよ」
静まり返った部屋でふっと実が笑いだす。
「ってことを妄想して本にしてみたわけですが、あまり売れませんでしたね、はは」
松本は本を受け取るため立ち上がり実に近づく。
「忍者が顔を隠しているのは感染を避けたマスク、焼き討ちにあったのも菌を根絶やしにするためってとてもワクワク読ませていただきました!」
急に握手を求める松本。握手に応えつつ真は微笑む。
「正直この妄想も、我々の先祖が生き返ったところで認めなければ事実じゃありませんので。って結局なんの話をしたかったのか完全に忘れてましたよ!!」
いつの間にか興味をなくしていた南が振り返る。
「したかった話??」
プリンをまた食べ始めている南に実は大きな声で言う。
「うんこの話です!!!」
「う・・・うんこ」
プリンを食べていた南の手が止まる。が・・・・ゆっくりと口の中のプリンを飲み込む。
「いや食べるんかい」
松本は反射的につっこむ。
「明恵さんが君たちをここに来るよう諭したのはきっと・・・・」
実は少し悲しそうな顔を見せる。
「うんこですか?」
南はプリンを食べながら実に話しかける。
「うんこに負けないぞってプリン食うのやめろ」
松本はプリンを取り上げる。
「先ほどの疫学、細菌学の話につながるのですが、明子さんがうちにきて熱心に聞いてきた話があります」
実がそういうと南が
「それがうん・・・」
「言わせねーぞ!」
松本が続く。
真は床に胡坐をかいて座り込みケタケタと笑っている。
「いいねえ、この感じ。明子さんがいたときを思い出すねえ」
真は手をパンッと叩くと真面目な顔をする。
「本物の神様、偽物の神様、両方が大切にすること」




