70.気分のいい占い
「カードに仕掛けをする方法はたくさんあってだな」
松本はトランプを1枚取り出す。
「超有名なのだと複雑な裏模様に紛れさせ、マークを付けた本人しかわからない印をつける、その他塩や砂糖、水、唾液、爪。ゲームごとにトランプを丸々交換しない前提ならゲーム中に仕掛けをする場合もある」
「へえ、昔の人も色々考えたんだね」
南は仕掛けが施されたトランプを見つめながら感心する。
「これは爪でカードの真ん中あたりに斜めに傷を入れてるカードだな。言葉にするのは簡単だけど、相手の目を盗んでその場で仕掛けするなんてまあ無理だよ、傷をつけすぎてしまっても駄目だし・・・ってことで」
「・・・このカードにはもう一つ仕掛けがある・・・と」
「お察しの通りで。手で持ってみな」
松本からトランプを受け取ると南はハッとした。
「これ、いつもより厚い」
「そ。こいつぁ1枚のカードにもう一枚のカードを貼り合わせている。もちろん分厚くなりすぎないように工夫されています」
「端っこだけ薄くして貼り合わせてあって、真ん中は2枚の厚さになってる」
「正解でございます、これで側面にも強く、持つとすぐ分かる、糊にもこだわりがあって・・・・」
二人の会話にマスターが割って入る。
「いやあしかしだよ?このカードを1枚加える瞬間なんてタロットカード占いにあったか?」
「あるよ、最初にカードを受け取りシャッフルをする瞬間、ギャンブラーズパームから1枚を加えて・・・理想は表向きにカードを見て1枚隠者のカードを見つけて、そいつをバレないよう抜き出せれば枚数をあわせられるから証拠も残らずいいんだけれど・・・・これは可能ならでいい」
「あとでカード見たらバレちゃうけどいいの?」
松本は腕組みしながら少し考える。
「俺の推測だけど、この仕掛けでは気づかれない、けれど」
「・・・けれど??」
――――――
「いやあーーーん!怖かったよおおおお、松本の馬鹿!!隠者のカード置いてきちゃったし抜き出せなかったし、えーっとまあ、いいや。うん。もう会うこともないだろうし!逃げ切れたし良し!」
南が逃走する中、マスターと老婆は例の占いの館で話し込む。
「このカードを見な」
珈琲を飲みながら黒糖饅頭を頬張るマスター。とぼけた顔を作りつつ観念した声で話始める。
「普通のカードに見えるけどね?普通の」
「ハンッ」
老婆は残りのタロットカードを取り出し裏向きに広げていく。
「付き合いの長いあんたなら薄々感づいてるんだろ?こいつあ、裏から見てわかるよう印をつけたタロットカードなんだよ」
「へえ~。知らなかったなあ。でもカットもシャッフルも観客がするのにわざわざ手間かけて演じる用のタロットカードに印なんてつけなく・・・・」
「ごちゃごちゃうるさいね!わかってる癖にこの糞爺ぃ!」
老婆の占いデモストレーションは単純でいて客に強いインパクトを与えるものだった。
まず最初に老婆は「タロットカードをシャッフルするのはあなた、私は一切関与しない。カットして抜き出すのも貴方、占いを占うのはあなた自身。自分で自分を見通してみなさい。私は方法を教えるだけだ」と念入りに話す。
観客が1枚カードを選ぶと裏向きに置く。ここで些細な仕掛けが効果を表す。
「そういやあんた、わざわざ占いに来ているんだから悩んでいるってことかい?それは心配ないと思うよ、このカードからは自然の力・・・そう太陽が強く・・・・・」
裏向きのカードで選ばれた絵を判断し、良い結果の場合は表を見る前にその絵に関連する単語を交え褒める、悪い結果の場合は忠告をしてカードを表向けさせる。
「あんたの行動次第でこの占い結果は変わる。また近いうちに占いに来な」
そのあと笑顔で店を再訪問した客には更に『他の方法』で気分を高めさせる。落ち込んでいる客はそれらしい説法をして励ましを与える。




