62.出会い
「こんにちわー」
暗い路地の一軒家。2階の階段を登る男が1人。
穴の開いた4段目を器用に避けると、そこには様々な奇術道具が乱雑に置かれた部屋があった。
「松本君、昨日ぶりやな。先客がきとるけど、ゆっくりしていってや」
「先客?」
松本が部屋の端を見ると、コーヒーを飲む小柄な人物が小さく座っていた。
「あ、は、はじめまして」
コーヒーを店主から受け取ると松本は先客の前に座る。
「で、あんた誰?」
松本の強い口調に口ごもりながらも先客は身を乗り出す。
「み、南です。東西南北のみな・・・」
「あー。うんわかった。ありがと、おやじ、俺もコーヒー1杯」
コーヒーメーカーを手に持ちながら、不満そうな顔をした店主が松本を見る。
「うち喫茶店じゃないんじゃけどわかっとる?なんか買ってけよ?」
「トランプください。はい500円」
「たまには違うもの買え!」
店主はコーヒーを注ぎながら南に興味を示す松本にほくそ笑む。
「ここ最近店を開けて一番乗りだった松本君ですが、その連勝記録は今日でストップされてしまいました。また松本君と違い、南君はたくさん商品を買って勉強熱心で礼儀正しくてとても人柄も良く、それはそれは・・・・」
「なんかやってみせてみろよ」
松本はポケットに手を入れるとトランプを取り出す。突き倒す勢いで手渡されたトランプを受け取ると南はすぐさまトランプを突き返す。
「いや!えっえっ!ちょ・・・ちょっと松本君、怖いよ、と、とにかく落ち着いて、店長さーん!助けて!」
「いつも通りやれば大丈夫じゃろ~。ほれカフェラテ砂糖4個、フレッシュ1個な」
目の前のカップに手を付けず、南を凝視する松本。観念したのか南はテーブルにマットを用意し始める。
「店長さんが会わせたいって人がいるから楽しみにしてたのに、ぐすん」
「え?なんだって?」
「・・・なんでもありません」
南はトランプを箱から出し強く握りしめる。トランプを左手に持つとテーブルに配り始めた。
(ディーリングポジションがやや深い。ギャンブラーポジション??)
松本の疑問が解消されるまで時間は必要なかった。時間にして5分ほど。
「・・・あのお。もう終わりでいいですかー」
ハッと我に返る松本。テーブルにあるカフェラテを一気に飲み干す。
「ラリージェニングス、リチャードターナー、レネラバン・・・」
ビール瓶を片手に店主が松本の隣に座る。
「南君がうちにきて購入して短期間で勉強したマジシャンたち。ギャンブラーズテクニックで有名なマジシャンばかり。驚くべきは・・・・」
口元に手を当てながら松本は呟く。
「形態模写」
「そうじゃ。テクニック以外の仕草、独特な癖までも再現しているのう」
「・・・・・・」
松本は無言のまま立ち上がる。
「あ・・・あ・・・」
南が話しかける間もなく、松本の姿は店の中から消えてしまっていた。
「ちょっと~!店長さん!仲良くなれる友達を紹介してくれるんじゃなかったんですか!」
「明日また同じ時間にうちにおいで、大丈夫さ」
店長は少し笑って南の肩を2度叩いた。




