38.葛藤
「はあい!初めまして手品をしている小林と言います!手品に興味はありますか?」
丁寧にお辞儀をする小林。
「おいー?兄ちゃん早く手品やって終わらせてくれよ?コンパニオンが次に控えてるんだからよお」
宴会場の一角で胡坐をかく男。
「あ、はい!すいません!では一枚トランプを引いて選んでもらって・・・」
「ハートの7」
「えっ」
「だからハートの7でいいって」
「いえ、ここから一枚トランプを引いて選んでもらってですね」
「なに?引かないといけないわけ?プロなんだからハートの7出してみてよ」
「いえ、それはですね・・・」
――――
「小林さんお疲れ様です~。お先に失礼します」
広めの控室はコンパニオンや歌手、出演者たちで賑わっている。テーブルにポツンと座る小林。
「コバちゃん?どうしたのよ、落ち込んでるじゃない?」
「あぁ、奥一か。そっちはどうだった?」
トランプで手遊びしている小林の前に奥一が座る。
「ん~。まあまあって感じかしらねぇ。先に帰った子はめちゃくちゃウケたとか言ってたけど」
「俺はボロボロだったわ~。言うこと聞いてくれない客で手品が進みやしない」
「あ~わかるわ~。見る人もある程度マナーを持って見てほしいけどね~。見破ってやるぞ!って気持ちや別に見たくないのに見せられている人って手品を楽しんでもらうには乗り越えなきゃいけないハードル高いもんねぇ」
「お疲れいっす~小林くん」
「ああ?あなたはお笑いの」
「いやぁ~おもっくそ滑ってもーたわ。それに比べたらマジックは羨ましいなぁ。ポンっとするだけでウケがあるから。俺ら一発芸とかやり続けるわけにもいかんし、テレビに出てない一発芸なんて掴み失敗したらおしまいやわ~」
「あぁ・・・でも話を聞いてもらえなかったらウケないのは手品も一緒ですよ。なんなら考案者のやり方を自分流に変えたら途端ウケなくなってしまうし、オリジナルのネタをもっと作っていきたいですね」
「あぁ~手品は落語に似てそうやもんな。伝統的な作品を見たい人、テレビとか向けに見慣れていない用に変えられたもの。マニアやオタク、研究家はテレビ向けに媚び売ってるやろってうだうだ言うやつもおるしなぁ。あっでも新しいデザートやって聞いて食べてみたら見た目だけ派手で不味かったりするもんもあるやんか、そんな数あるうちの1つが定着するかどうかやと思うと全くのオリジナルなんて作るのはめちゃめちゃ大変やで。と思ったらむかぁしのやつうまい具合に引っ張り出してきて外側だけを変えて新しいものです!どうですか!ってうまいやつもおってやな」
奥一が小林に近づいてくる。
「もうコバちゃん、あの人ずっとしゃべりだして帰るタイミングなくなってしまったじゃない~」
「えーいいじゃん楽しいし」
――――
「それテレビで見たことあるー!違うのして!」
「テレビで見たことある!生で見れたすげえ!」
「あんた師匠より上手いな!」
「師匠見習いや~面白くなかったわ」
「マニアックすぎて玄人しか喜ばんもの客にするな」
「色んなマジック見てきたけど初めて見るものばかりだったわ!楽しませてくれてありがとう」
「プロなら打率が高くないと趣味で手品している奴と同じだよ」
「あー君ねえ。他の人と同じネタばかりだから他の人呼ぶことにするわ。その方が安くつくしさ」
「キャラクターつけてみたら?なんかほらヒゲ書いてる外人みたいな恰好してる人いるじゃん?」
「正統派でカッコよく古典を見せたほうがお客さんは喜ぶよ」
――――
「おーい?小林くん?出番お疲れ様」
「・・・あぁ。歌手のお疲れさまでした。盛り上がってましたね!」
「盛り上がってたって言っても幼稚園向けに童謡を何曲も入れたからなぁ。俺らのオリジナル曲なんて園長さんが手拍子催促してくれなかったら全くウケなかっただろうし。不本意だけど歌で食べていくってなったら知名度から上げていかないといけないかなあ」
「で、知名度上げるためにはみんなが喜びそうなものを沢山取り入れて、その中に少し実験的なものを入れて・・・」
「わかるよ小林くん!歌も手品も同じ悩みがあるよね!基礎体力として知識は必要だから色々見たほうがいいよ、例えば最近の映画でノーランのさ・・・」
あのお笑いの人、あの歌手の人、あのダンサーの人・・・元気にしているんだろうか。




