182.消去
「ひーん、ひどいよー!」
南が座り込み、嘆く。すぐ後ろには仁王立ちしたベッケンが腕組みをしている。
「こんな状況で面白くないジョークを言った南さんが悪いですね、うんうん」
信は空中に手をやりながら、南の方をチラチラ確認しては作業を続ける。
「なーにしてんの?」
急に近づく南にたじろぎながら、信は自分の作業を続ける。
「ルーファス様からの依頼の、ストックホルム症候群やリマ症候群の研究成果の報告と、G君と昭恵の間に生まれる明子に実装される予定の日本舞踊や神道、陰陽師の振る舞い・・・」
「ZZZ・・・・」
「あのー、退屈だからってそっちの部屋に逃げるのやめてもらっていいですか?避難場所のために作ったわけではないので」
ベッケンは南を見る。
(寝ている間に幽体離脱する・・・なんて話、古今東西存在するんだが、いざそれをバーチャル世界で再現されているのを見ると、なんとも言い難いものだな。南の精神は精神の部屋・・・夢部屋に今いる。ここに・・・残っているこいつが本物の南・・・いや)
「肉体を腐らないよう保存をしておくと、霊が帰ってきたときに復活できる、バーチャルの世界では肉体が滅ぶことはありませんから、保存が楽でいいですね。気になるでしょうから一応言っておきますが今の南は21グラム減っています」
作業を続けらなら信は嫌味を言いつつ、南の体を見る。
「ストックホルムは前のたかゆきだった、松本のvgpでの研究、日本舞踊などは・・・俺からの研究か、一体何を作ろうってんだ」
「そりゃあベッケンさん、どの時代、どの世界でも同じでしょう。頼れるリーダーですよ。神様に等しいリーダーが必要なのです」
「人間が人間より賢いものを作った、神様の完成だ、なんて思っていたら、その神様も神様を欲しているなんてな」
「全知全能の神が自分の劣化版の人間を作った、ではなく、その時代その時代の全知全能が、また新たな全知全能を作っていく」
「はーあ。そう聞くとわくわくしてしまう自分が悲しいような恥ずかしいような。」
南が不意に起き上がる。
「終わったあ??」
「・・・・終わりましたよ。さーてそろそろ私にもお迎えがくる・・・」
群青色の手袋をした南が信を掴み持ち上げる。
「それではさようなら、ベッケンさん。私の息子や・・・松本くん、・・・・この人をよろしく」
南の手の中で群青色をした人形は程なくして透明になり消えていく。
「たかゆき様、完了しました」
「よし、じゃあ最後に。南、自分を消去しろ」
「かしこまりました」




