176.さようならの準備
扉を閉じたあと、扉が消えるのを確認してベッケンが驚きを言葉にする。
「いや、聞いていた話だとヒデはもっと落ち込んでいたりするものかと思っていたが」
初めてベッケンの驚く顔を見たためか、信はニコニコしながら返事をする。
「なにかやることに追われていると悩んでいる時間なんてない、というのは機械も人間も同じということではないでしょうか」
信の笑顔に気づき、ベッケンはしかめっ面をして返す。腕組みをした右手は左腕をトントンと苛立ちを示す。
「まあ・・・それにしても少し前まで、食べ物を衣服を、出版物に住居まで。無駄を省き効率を上げて大量生産して利益を上げていたかと思ったら、葬儀や埋葬・・・とうとう新しく生まれてくる人間も,大量消費社会、資本主義なんて駄目だねーダメダメ」
ベッケンは何かを読まされているような口調でわざとらしく話す。
「とはいえですよベッケンさん。人類の歴史を見れば一部の人間はすでにその禁忌を犯していた、いえ、自分たちが生き残るためによりより子孫のため」
嫌そうに話すベッケンに追撃するよう、信は話す。
「眉唾ものだが、思春期の娘が父親の匂いを嫌うのも、近親交配を避ける機能・・・なんていう話もあるな、それをあえて優秀な遺伝子を残すため各地であえて近親交配をしてきたであろう事例はあるわなあ。んで、今回問題になりそうな、人間に命令されて我々(AI)がやらされた人工授精はほしがったあなた達が悪いし、もともとあなた達が昔からしてきたことだしー?人口孤児をAIだけが悪いとするのはお門違いだと?」
ベッケンは本件への興味の無さを長文と早口でわかりやすく伝える。
「まずはカイコを飛べるよう、犬、猫も野生を取り戻す獰猛な生き物に戻すところから始めないと、本当に反省しているようには見えませんね」
「へいへい。じゃあせいぜいこの世界ではカイコが空を飛び、猫も犬も牛も豚も獰猛化させることにしまっさ」
信は静かにベッケンの演説を聞く。
「・・・おい。急に反論するのをやめるなよ。本気で言ってるみたいじゃねえか」
「本気じゃないので?」
「そりゃあ時と場合によるだろ」
ベッケンは不意に笑い出す。
「あーいえばこういう。お前、俺の嫌なところ研究しすぎだろ。一番のベッケンファンとして称賛するよ」
「ふふ、ライバルの研究はしっかりしておかないといけませんからね。・・・まあ負けてしまいましたが」
悲しそうにする信にベッケンは握手をし、抱擁を交わす。
意外な対応に動揺する信。少しベッケンの離そうとするも、力強く抱き直される。
「完璧なプラン。ブームの予測、シナリオ。残念ながら敗因は『飽き』『わがまま』だっただけだな」
「一生懸命したものも、ランダム発生する気まぐれに負けたと。いいこと言ってくれるだけかと思ったらダメ出しですか」
「俺の嫌なところ好きだろ?んで、ペラペラ喋ってくれたのはひょっとしてだけど・・・」
信はベッケンを真剣な眼差しで見つめる。
「そう遠くないうちに、私は処分されてしまいます」




