172.信の後悔
「吾輩はアルベルトぉおエフぅ、」
「ベッケンッッ!!」
シャキーン
「・・・・気は済んだかい、わたしなんかよりもファンとの時間を大切にするんだね」
「はっはっは、さすがの俺もここまでファンにはドン引きだぜ」
ベッケンは信を両手で指差し昭恵に示す。
「うるさいよ!似た者同士、信、この酔っぱらいをなんとかしてくれ」
信は興味深そうにベッケンのボトルグラスを見る。
「・・・あまり飲んでいないようですね。なにかありましたか?」
「酔えてるんだけど、体に染みてる感じがしないんだよなあ」
「ほう、染みる、具体的にその染みるとは」
「体全体が熱くなって内側から広がるような」
「はっは!!なるほどなるほど、ちなみに喉のグビグビ、液体が入っていって喉の奥が動く感じはどうですか?」
「超すごい、飲んでる感じする」
「でしょう!でしょう!なかなか苦労したんですこれ、幸福の数値を上げつつ、体への負担が少しあるようにして、あとはランダムに過去飲んだ近い飲み物の記憶と紐づけをして・・・」
睨みをきかせる昭恵から離れるように信とベッケンは店の外へ退散する。
昭恵はベッケンの飲み残しを流しへ捨てつつ、テーブルを拭く。
「ふふ、なるほどね、次はベッケンか。懐かしいね。5年ぶりか。いや。30日か」
ベッケンは信と白い空間を計画性もなく歩く。とうに見えなくなった占いの館の方を振り返り、信は改めてベッケンに挨拶をする。
「聞きたいことがたくさんあると思います。私からも聞きたいことが」
「そういうときは一問一答、交代交代でいこうぜ」
ベッケンは親指を立てて信に笑顔を見せる。
「ふふ、やはり面白い方だ。この状態を楽しんでいるように見える」
「いえす。刺激は人生において素晴らしいスパイスなのだよ、信くん。ファジースパイスってやつだ。それでは続いては私の質問」
「おやおや。もう一問一答は始まっていたと、それでは質問をどうぞ」
信とベッケンは白い空間に座り込む。
「今はいつだ?」
「ムコウでは30日ほど経ちました。こちらでいうと5年です」
(現実世界では6日でこの世界では1年経過している・・・か)
信は心配そうな顔をしながら、ベッケンに質問する。
「ご自身の意志でこちらに?」
「いんや、気づいたらここにいた」
(信は何も知らされていなかった?)
「なぜその質問を?」
ベッケンは信の顔色をしっかりと見極める。
「私はねえ、昭恵をサポートするプロデューサーとして作られたのです。ゆえに昭恵が飽きられてブームが終息していく中、延命方法を考えながら次に来ているブームも分析していたわけです」
「答えになっていないぜ、信」
信はため息をつく。
「私はベッケンさんに脅威、尊敬、複雑な思いを抱いたわけです。ただそれだけのはずでした。ルーファスへの影響も考えず」
ベッケンは昭恵とした、車の話を思い出す。
「バーチャルギニーピックは様々な意思の集まりで、それが1つのルーファスという人工知能を作り上げていると」
「そのとおりです。先程の車の話がまさにそうです。人間も表面に出ている意識は1つのように見えますが、いくつかの人格の多数決から、または多数決を無視した突発的な・・・・」
「つまりは、ルーファスの意識の一部である、お前が・・・俺への好感度が高かったから」
信は再び深くため息を付く。
「美味しそうに見えて、食した。そういうことでしょう」




