171.昭恵とベッケン
「ママさぁん、もう1杯ぃ」
昭恵は素手で氷を掴みグラスに投げ入れる。四角いボトルをテーブルから取り上げ、乱暴にツーフィンガー注ぐ。ボトルは丁寧に斜めにされテーブルに置かれた。
「あんた、飲んでダラダラしてんじゃないよ、うちはスナックじゃないんだ」
「でも実質貸し切りスナックですやん」
「うるさいよ、人が来るときはすごい頻度で来てんだよ」
ベッケンは改めて、屋敷の中を見渡す。タロットカードに黒い衣装、店には得体のしれない乾燥したもの、亀の甲羅、水晶・・・・。
「ふぅーん。確かにただ単にAIが検証結果を述べるよりもだ。いかにもなアイテムを持った、いかいもな占い師が映像で結果を伝えてくるとその効果は計り知れないな」
ベッケンはそういうと腕組みして白々しい頷きを何度か繰り返す。
「分析野郎め、あんたそんなんだと友達できないよ」
「友達はいなくなったからなあ」
グラスに注がれたウィスキーを受け取ると、グラスにわずかに映る自分の顔を見る。
「ただの白い塊、目も鼻も口もない」
ベッケンはグラスに向かい、口を開けたりウィンクしたりする。
「嫌なこというやつだね。反射したもんを映し出して、かつ、自分と同じ動きをしているように、ってなんで説明しなきゃいけないんだ、ともかく、まだ小さい部分に映る反射はうまく再現できねーんだとよ」
昭恵はふてふてしく座りこむと、葉巻を口にくわえる。
「いや、そりゃこんなもんまで再現したら、風呂で鏡や水滴、溜められた湯船で人が複数人いなくてもデータパンクだろうよ」
「あたしらぁにとっては表現が増えてきてるのねえ、ぐらいだが。もともとあった色や光、いつも感じていた感覚がない恐怖は同感できないね」
「脳はあえて体中からの情報を遮断しているとも聞くし、俺等の意識なんて車のドライバーに近いもんなんだろうな」
「いんや、案外あんたの意識は助手席の、なんなら車の後部座席の人物のものかもしれないねえ」
昭恵はにやにやしながらベッケンのほうをみる。
「そのとおりだ、ドライバーに行き先を伝えて指示を促して、景色を見て音楽を聞いて、途中で休憩のためにドライバーが代わったとしても、中にいる人達や車は一緒、ドライブは続く」
昭恵は舌打ちをしながら、屋敷の入口に目をやる。
「ちっ、めんどくさいのが増えたよ」
ベッケンが後ろを見ると、ボサボサの金髪、アロハシャツ、眼鏡だけは高価そうなものを見に付けた男が立っていた。
「昭恵さん、久しぶり。って、あんた・・・・」
男は謎のポーズを始め声高らかに叫ぶ。
「吾輩はアルベルト・F・信ぅうう、よくぞいらっしゃいました、ベッケン様」




